2024年4月17日 (水)

3か月ぶりに貿易黒字を計上した3月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から3月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+7.3%増の9兆4,696億円に対して、輸入額は▲4.9%減の9兆1,031億円、差引き貿易収支は+3,665億円の黒字を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

貿易赤字3年連続、23年度5.8兆円 資源高一服で縮小
財務省が17日発表した2023年度の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は5兆8918億円の赤字だった。赤字は3年連続となる。原油など資源価格の高騰が一服したことなどから金額は73.3%減った。
輸出額は前年度比3.7%増の102兆8982億円で過去最高となった。23年通年でも100兆円を超えていたが、年度でも初めて大台に乗った。半導体不足の解消で供給制約が少なくなり、自動車の輸出額が17兆8771億円と30.2%伸びたことなどが押し上げた。
輸入額は10.3%減の108兆7901億円だった。原油や液化天然ガス(LNG)などの輸入額が減った。これら鉱物性燃料の輸入額は26.4%減の26兆55億円となった。原油及び粗油の輸入量が8.6%減るなど、化石燃料は数量ベースでも輸入が減った。
財務省によると23年度の円の対ドル相場は平均で1ドル=143円79銭だった。22年度の135円05銭からさらに円安・ドル高に振れた。ロシアのウクライナ侵略による資源価格の世界的な高騰が一服した影響によって、円安が進む中でも全体の輸入額は3年ぶりに減少に転じた。
地域別に見ると、米国との貿易収支は9兆1356億円の黒字だった。自動車や建設用・鉱山用機械の輸出がけん引して黒字額は37.8%増えた。中国には5兆9287億円の貿易赤字、欧州連合(EU)向けは7219億円の赤字だった。
足元では23年度の平均を上回る154円台まで円安が進んでいる。イランがイスラエルに報復攻撃を加えるなど中東情勢は緊迫の度合いを増しており、今後原油価格に影響してくる可能性もある。貿易赤字が再び膨らむ懸念が残る。
同時に発表した3月の貿易収支は3664億円の黒字だった。黒字は3カ月ぶりとなる。自動車や半導体など電子部品の輸出が伸びた。

長くなってしまい、かつ、2023年度統計に圧倒的な重点が置かれていますが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、+3000億円を超える貿易黒字が見込まれていましたので、ほぼジャストミートしたといえます。3月の貿易収支は季節調整していない系列で見ると黒字でしたが、季節調整済みの系列で見るとまだ赤字が続いています。ただし注意すべき点は、1月と2月は中華圏の春節次第で我が国の貿易が大きな影響を受けるという事実であり、ひょっとしたら、3月までそういった撹乱要因が継続的に影響している可能性は否定できません。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、私の知る限り、少なくないエコノミストは貿易赤字は縮小、ないし、黒字化に向かうと考えている可能性が十分あります。
3月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が伸び悩んでいます。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲4.5%減ながら、金額ベースでは+2.8%増となっています。数量ベースの減少以上に単価が上昇した結果、輸入額が増加しているわけです。しかし、LNGについては、数量ベースでは▲3.0%減、金額ベースでも▲9.5%減となっています。数量の低下とともに単価が下がっていることがうかがわれます。また、ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では▲8.5%減、金額ベースでも▲22.0%減と大きく減少しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で見て、数量ベースの輸出台数は+14.9%増、金額ベースでも+22.0%増と大きく伸びています。前年同月との比較ですので、どこまでの寄与があるのか不明ながら、ダイハツの品質偽装に端を発する生産停止からの回復が寄与しているのかもしれません。自動車や輸送機械を別にすれば、金額ベースの前年同月比で見て、一般機械は+3.2%増と輸出を伸ばしている一方で、電気機器は▲2.9%減となっています。

最後に、貿易収支だけではなく、サービス収支や所得収支・金融収支なども含めた経常収支に関して財務省で「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」と題する財務官主催の懇談会が3月26日に第1回の会合を開催しています。その事務局提出資料に貿易・サービス収支について考えられる論点として、p.8に以下の3点が上げられています。所得収支・金融収支なども含めた論点が財務省の事務局資料にありますので、ご興味ある向きは原資料をご覧下さい。

  • 近年の貿易赤字傾向の背景としては、自動車に匹敵する黒字の担い手の不在、生産拠点の海外移転、基礎的資源の輸入依存などが挙げられる。
  • サービス収支については、好調なインバウンドを背景に旅行収支は改善する一方、デジタル分野や研究開発関連といった先進的な分野では赤字が拡大している。
  • こうした状況の背景や今後の見通しをどのように分析するか。我が国が、今後、財・サービス両分野で、収支構造を強靱化するとともに、国際競争力を維持・強化するためには、どのような施策が必要か。

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2024年4月16日 (火)

電気製品はいかに家庭や女性労働を変革したか?

全米経済研究所(NBER)から、電気製品がいかに家庭に変革をもたらしたかの歴史的概観を取りまとめたリポートが明らかにされています。主として、米国とドイツの例を取り上げていて、残念ながら、ほとんど日本に対する言及はありませんが、欧米先進国については米独以外にも何か国かレビューされています。まず、引用情報は以下の通りです。

pdfのリポートからグラフをいくつか引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポート p.3 から Figure 2. The decline in weekly hours spent on housework in the United States. を引用すると上の通りです。見ればわかると思いますが、1990年から2020年までの家事に費やされた労働時間の推移です。120年前には1週間で60時間近い家事労働を必要としていましたが、1975年には週当たり18時間まで減少しています。1990年以降はほぼ安定し、10時間余りとなっています。

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続いて、リポート p.4 から Figure 3. The diffusion (upper panel) and the time price (lower panel) of electrical appliances through the U.S. economy. を引用すると上の通りです。上のパネルが家庭における家電製品の普及率を、そして、下のパネルがそういった家電製品の購入に必要な労働時間を、それぞれプロットしています。先ほどの家事労働時間のグラフで明らかなように、1990年でほぼ安定していますので、普及率の方も1990年までをプロットしてあります。基本的な因果関係は下のパネルから上のパネルに向かっています。すなわち、耐久消費財であるこれら家電製品が大量生産されるに従って価格を低下させるとともに、賃金上昇も加わって、大いに家庭に普及し家事労働時間を短縮したわけです。

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最後に、リポート p.14 から Figure 13. Evolution of Female Labor-Force Participation rates in a set of countries. を引用すると上の通りです。NHKの朝ドラ「虎に翼」に見られる日本に限らず、先進各国では家事労働はご婦人によって大きな部分が担われていたわけで、その家事労働時間が短縮されると女性の労働参加率が上昇します。誠に残念ながら、日本はこのグラフに入っていませんが、おそらくは同じ傾向であったと推察されます。各国さまざまな経済社会の条件により結果は異なっていて、北米では今世紀に入って女性の労働参加率はむしろ反転・低下を始めているようですが、欧州に目を転じると、英国とドイツではまだ上昇を続けていて、フランスとスペインでは横ばいの安定した段階に達したのかもしれません。ただし、グラフの引用は省略していますが、同時にこのリポートでは Figure 14. Evolution of Marriage rates in a set of countries. を報告していて、婚姻率は低下しています。婚姻率の低下も女性の労働参加率上昇のひとつの要因になっている可能性は否定できません。

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2024年4月15日 (月)

大きく伸びた2月の機械受注統計をどう見るか?

本日、内閣府から2月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+7.7%増の8,868億円となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

2月の機械受注、前月比7.7%増  製造・非製造ともに伸び
内閣府が15日発表した2月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる民需(船舶・電力を除く、季節調整済み)は前月比7.7%増の8868億円だった。増加は2カ月ぶり。製造業、非製造業ともに発注が大きく伸びた。基調判断は「足元は弱含んでいる」で据え置いた。
製造業は9.4%増の3963億円と2カ月ぶりのプラスだった。17業種中14業種と幅広く前月比で増加した。「電気機械」や「情報通信機械」が特にプラスに寄与した。
ダイハツ工業は2023年12月に品質不正で生産や出荷を全面的に停止した。統計では「自動車・同付属品」からの受注は23年12月、24年1月とマイナスだったものの、2月は9.7%増と3カ月ぶりに増えた。
内閣府の担当者は自動車不正を巡る同統計への影響を聞かれ「生産や出荷ほどダイレクトに効いたかは分からない」と述べるにとどめた。製造業は1月に13.2%と大幅に減少しており、反動による増加との指摘もある。
非製造業は9.1%増の5059億円だった。2カ月連続でプラスを確保した。「通信業」や「建設業」、「農林漁業」からの発注が全体を押し上げた。
内閣府は全体の基調判断を「足元は弱含んでいる」とした。同判断は2カ月連続となる。「単月の動きが大きい指標だ」と指摘したうえで「基調が続くかは来月も見たい」と説明した。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+0.7%増でした。予想レンジの上限は+2.5%増でしたので、実績の+7.7%増はそれなりのサプライズであったと私は受け止めています。しかしながら、引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足元は弱含んでいる」に据え置いています。上のグラフで見ても、太線の移動平均で示されているトレンドで見れば、まだ、トレンドが反転したかどうかは判断ができない、というのは判る気がします。来月以降の統計を見てから基調判断を変更するかどうかを考える、という引用した記事の最後のパラもそういう趣旨だと思います。いずれにせよ、幅広い業種で増加が見られており、製造業と非製造業に分けて季節調整済みの系列の前月比を見ると、製造業が+9.4%、船舶と電力を除く非製造業も+9.1%増と、いずれも高い伸びを示しています。ただし、製造業については1月統計で前月比▲13.2%を記録していますので、このマイナスを穴埋めするには至っていません。また、受注水準としてはまだ何とか月次で8,000億円を上回っており決して低くはありませんし、足元の2024年1~3月期の受注見通しは+4.9%増の2兆6294億円と見込まれています。業種別に少し詳しく見ると、製造業ではパルプ・紙・紙加工品が前月比+129.0%を、非製造業では不動産業が+165.9%、鉱業・採石業・砂利採取業が+121.8%をそれぞれ示しています。
昨年来の謎であったのは、日銀短観などで示される設備投資計画のソフトデータとGDPやGDPの基礎となる法人企業統計、また、それらの先行指標である本日公表の機械受注などのハードデータとの乖離です。3月に公表された法人企業統計やそれを反映した2023年10~12月期のGDP統計2次QEなどを見ていると、この乖離が解消されつつある可能性を感じ始めていて、本日公表の2月の機械受注を見ても同様です。ですので、本格的にこの乖離が縮小する方向にあるのであれば、投資不足の現状にある我が国経済にはデフレ解消・脱却とともに望ましい方向であるといえます。

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2024年4月14日 (日)

大きく打線を組み替えて中日に競り勝つ

  RHE
阪  神001000100 241
中  日010000000 150

打線を大きく組み替えて、中日に競り勝ちました。

  1. SS 木浪
  2. C 梅野
  3. CF 近本
  4. 3B 佐藤輝
  5. 1B 大山
  6. LF 前川
  7. RF 森下
  8. 2B 中野
  9. P 才木

投げる方では、先発の才木投手は2回に先制点は許したものの、7回を4安打1失点ですから十分なQSでした。8回はセットアッパーに岩崎投手、そして、最終回はゲラ投手が三者凡退で締めてくれました。打線を大きく組み替えたものの。攻撃陣は相変わらずです。わずかに4安打で、しかも、クリンナップの3人にはヒットが出ませんでした。ただし、その4安打がことごとく得点に結びつきました。3回はヒットで出た中野選手を梅野保守のタイムリーで返し、ラッキーセブンはツーベースの前川選手を中野選手のタイムリーで本塁に迎え入れました。
確かに、まだまだシーズンは始まったばかりで、順位や何やは気にはならないものの、ハッキリいえるのは、この時期ですら優勝した昨シーズンとは大きく違うということです。

甲子園に戻ってのジャイアンツ戦は、
がんばれタイガース!

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2024年4月13日 (土)

今週の読書は経済学の学術書2冊をはじめとして計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、衣笠智子『少子高齢化と農業および経済発展』(勁草書房)は、世代重複モデルと一般均衡的成長会計モデルを用いたシミュレーションなどによる経済分析結果を集めた学術書です。島浩二『外食における消費者行動の研究』(創成社)は、消費者が外食サービスを選択する際の情報について分析しています。佐藤ゆき乃『ビボう六』(ちいさいミシマ社)は、京都文学賞最優秀賞受賞作であり、長命な怪獣ゴンスはひなた/小日向さんとともに京都の街で活躍します。神野直彦『財政と民主主義』(岩波新書)は、「根源的危機の時代」において新自由主義に代わって経済社会を立て直す公共部門や財政のあり方を論じています。筒井淳也『未婚と少子化』(PHP新書)は、やや的はずれな子育て対策に終止している政府の少子化対策を批判しつつ、さまざまな少子化問題に関する誤解を解消しようと試みています。宮部みゆきほか『江戸に花咲く』(文春文庫)は、江戸の祭りにちなんだ短編5話を収録したアンソロジーです。各短編の出来はいいのですが、アンソロジーとしてはややまとまりがありません。
ということで、今年の新刊書読書は1~3月に77冊の後、4月に入って先週は7冊をレビューし、今週ポストする6冊を合わせて90冊となります。順次、Facebookなどでシェアする予定です。

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まず、衣笠智子『少子高齢化と農業および経済発展』(勁草書房)を読みました。著者は、神戸大学の研究者です。本書の副題は表紙画像にも見られるように「世代重複モデルを用いた理論的計量的研究」となっていて、出版社からも理解できるように、明らかに学術書です。ですので、経済学部で経済学を勉強している、もしくは、勉強していたとはいえ、学部生や一般のビジネスパーソンにはやや難しい内容を含んでいます。大学院修士課程レベルの学術書と考えるべきです。本書は3部構成で各部に3章ずつ配置されています。最初の第Ⅰ部は人口と農業、第Ⅱ部は人口と経済成長、第Ⅲ部は少子高齢化時代の農業と経済、をそれぞれテーマとしています。第Ⅰ部では、私も2021年の紀要論文 "Mathematical Analytics of Lewisian Dual-Economy Model: How Capital Accumulation and Labor Migration Promote Development" で取りまとめたルイス的な開発経済学における二重経済モデル、すなわち、広範に限界生産力がゼロ、もしくは、ゼロに近い余剰労働力を有する農業・農村に対比して、限界生産力に応じて賃金が支払われる近代的な産業部門が発達した都市部の産業を対比し、農業の産業としての特徴を明らかにしようと試みています。特に、二重経済に関しては、私が分析対象とした初歩的なルイス・モデルではなく、非常に精緻な一般均衡的成長会計モデルを用いた分析結果が明らかにされています。また、第Ⅰ部と第Ⅱ部を通じて、経済成長や経済発展と人口の関係についても簡単に取り上げられています。すなわち、学説史的には18世紀的な古典派の世界ではマルサスの『人口論』に基づいて、食料生産は算術級数的にしか増加しないが、人口は幾何級数的に増加するという有名な命題があります。したがって、人口≅経済の伸びが食料生産に制約される、という考え方がある一方で、現在の日本が典型なのですが、人口縮小に伴って経済成長が制約される、という考え方もあります。第Ⅱ部の第5章では、人口や労働の伸び、人口規模、人口密度、平均寿命、年齢構成などに関する都道府県データを用いたシミュレーション分析がなされており、少なくとも、1960年代から90年代にかけての出生率の低下に伴う年少人口の低下や人口の伸び率の低下は経済成長にプラスのインパクトを持ち、いわゆる人口ボーナスが存在したことを確認しています。同じ第Ⅱ部の第6章では世界各国のデータに基づく人口ボーナスの貯蓄率と成長への影響も分析していますが、コチラの方は地域ごとに影響が異なる、という結果が示されています。第Ⅲ部は農業が主たるテーマとなっているようで、私の理解が及ばない部分もありました。特に、第8章の大阪府能勢町における都市と農村の交流に関しては、よく判りません。逆に、第9章では世代重複モデルと一般均衡的成長会計モデルのシミュレーション結果では、寿命が伸びる一方で人口が減少する現在の日本経済では、いずれにせよ資本蓄積の低下がもたらされるものの、農業よりも非農業部門の方にその影響が大きい、すなわち、相対的に農業部門の重要性が高まる、というのは、それなりの説得力を持っていると感じました。いずれにせよ、人口減少はともかく、農業というのは、経済学で正面から取り上げられることの少ない分野であり、こういった本格的な学術書はとても有益だと思います。

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次に、島浩二『外食における消費者行動の研究』(創成社)を読みました。著者は、大阪公立大学の研究者です。本書は、基本的に、マイクロ経済学の視点から取りまとめられています。すなわち、タイトル通りに、外食における消費者の選択をテーマにしています。ですので、経済学とともに、経営学的な要素も大いに含まれています。古典的な経済学では、情報が完全な市場において、生産物の品質(product)と価格(price)により消費者が選択を決定することになります。2pなわけです。しかし、マクロエコノミストの私ですら、今では2pではなく少なくとも4pにまで消費者選択の要素が拡大されていることを知っていたりします。すなわち、生産物と価格に加えて、場所や流通(place)とマーケティング(promote)です。特に、最後の要素のマーケティングが経済学というよりは経営学に近いことは広く認識されていることと思います。携帯デバイスの発達した現在では、こういった消費者が選択に際して必要とする要素がいっぱい増えていて、いったい、いくつのpが上げられるのか、私には理解が及びませんが、本書では消費の最後にあり得る要素として「投稿」(post)まで含めて論じられています。すべての消費に当てはまるわけではないのでしょうが、本書のテーマである外食を考える場合、SNS映えを意識した消費は分析の対象となり得ます。当然です。そこまでいかなくても、マイクロな経済学における選択では情報の果たす役割が大きく、供給サイドと需要サイドで情報が非対称であれば、アカロフ教授らの主張するように古典派的な市場が成立しない可能性もあります。本書では、そういった情報活用に着目した選択理論い基づいて外食について研究した成果を取りまとめています。ですので、まず、古典派経済学的な情報よりも、現代社会では情報過多になっている可能性が指摘されています。もちろん、ネット上にあふれる情報です。他方で、そういった過剰な情報を取捨選択するサイトもいっぱいあります。そして、そういったサイトはブラックボックスになっていて、ひょっとしたら、何らかの不正行為が行われている可能性も消費者サイドからはうかがい知れません。消費者の受け取る情報、本書では「刺激」(stimulus)と呼んでいる情報に、消費者がいかに反応(response)するか、という経済心理学的な分析です。それをいろんなケースに応じて分類しているのがp.35の図2-6で展開されている購買意思決定プロセスモデルです。消費者行動と注意(attention)を引きるけるマーケティングに分けて論じられています。加えて、消費者側には食欲を満たすという生存本能的な欲求だけではなく、マズロー的な意味での承認欲求もあるわけです。本書ではこういったさまざまな消費行動の基を形成する要因についてアンケート調査を実施した結果の分析を行っています。分析は、基本的に、仮想的市場評価法(CVM)により、支払ってもいい額や、放棄して我慢するに際しての補償額などについて調査し、とても有益な分析結果が得られています。プロスペクト理論やフレーミング効果などツベルスキー-カーネマンによる経済心理学の研究成果ともとてもよくマッチしています。また、第8章では、最近時点でのトピックとして、コロナ禍における外食への消費者需要を取り上げており、感染対策の充実を求めつつも、それらのコストを価格にに転嫁することを許容するのはわずかに1/4に過ぎず、デフレ経済ニッポンを象徴しているような気すらしました。

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次に、佐藤ゆき乃『ビボう六』(ちいさいミシマ社)を読みました。著者は、私の勤務校である立命館大学文学部のOGであり、本作品で2021年度の京都文学賞最優秀賞を受賞して作家デビューを果たしています。主人公はひなた/小日向さんという女性とエイザノンチュゴンス(ゴンス)という怪獣です。小日向さんはゴンスといっしょに過ごす時間を持つ一方で、ひなたとしてアルコールを提供するラウンジでアルバイトしながら恋人である達也にやや蔑まれながら同棲する世界とを行ったり来たりします。トイウカ、メタバースなんだろうと思います。小日向さんは、ゴンスといっしょに白いカエルを探して二条城の周辺を夜のお散歩をしたり、木屋町の純喫茶「ソワレ」でゼリーポンチを楽しんだりしますが、ひなたさんとしては、ラウンジのアルバイトでは酔客から嫌な思いをさせられたりします。すなわち、「男の人が、飲み屋の女の子をからかっているときの顔。自分が圧倒的に優位だとわかっているときのみ男性が発揮する、この世で一番しょうもないサディズム。」と表現したりしています。ひなたさんは、同棲している達也から「おまえが天使とか、似合わなさすぎ」とけなされながらも、小日向さんとして背中の羽で空を飛んで事情上近くで白いカエルを探しに出かけます。ということで、ひなた/小日向が入り混じって、小日向さんの方には怪獣のゴンスが登場してと、とても不思議な小説です。私程度の読者のレビューでは、この小説の魅力を伝えきることは出来ないような気すらします。ひなたさんとしては、アルバイト先の酔客はもちろんのこと、同棲している恋人や育ててくれた祖母からさえも、やや見下されて生きてきた主人公なのですが、小日向さんとしては、長命のゴンスはそんな彼女に優しく接して、いっしょに白いカエルを探します。このゴンスという怪獣が不思議な存在です。手足が6本あるといいます。本書では「たいへん長生きの怪獣」とだけ紹介されていて、年数は明記していないように記憶していますが、出版社の宣伝文句などでは「千年を生きる怪獣ゴンス」と言及されていたりします。表紙画像の左側はそうなんだろうと思いますが、出来れば、ビジュアルにもより詳しくどういった怪獣なのかを知りたいと考えるのは私だけではないと思います。京都文学賞に応募しただけあって、京都のいろんな名所が登場します。小日向さんがゴンスと出会ったのは二条城でしたし、木屋町や祇園、そして、北野天満宮の縁日にもゴンスと出かけたりします。私は京都の南の方の出身ですが、本書では衣笠キャンパスに通学していた経験ある作者らしく、京都の北の方の紹介が中心になります。縁日、ということになれば、本書で言及されている北野天満宮の天神さんとともに、京都の南方では当時の弘法さんも有名です。毎月21日が弘法さん、25日が天神さんです。いずれにせよ、京都やファンタジー小説が好きな向きには大いにおすすめします。

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次に、神野直彦『財政と民主主義』(岩波新書)を読みました。著者は、東大名誉教授の研究者であり、ご専門は財政学です。実は、未読ながら Financial Times 紙のジャーナリストが書いたマーティン・ウルフ『民主主義と資本主義の危機』をつい最近勝ったのですが、まさに、本書の問題意識も同じところにあります。すなわち、マルクスの『資本論』ですら資本主義と民主主義は親和性あるものと示唆しているのですが、1980年代からの新自由主義=ネオリベ的な政策の採用により、政治的な民主主義と経済的な資本主義の乖離が目立つようになっています。経済的な格差や貧困が拡大し、環境破壊が進んで気候変動が深刻化しているわけです。すなわち、政治的な民主主義はすべての人の平等な権利や義務に基礎をおいている一方で、格差の大きい経済面ではすべての人は決して平等ではなく、保有する購買力、富または所得によって裏打ちされている経済力によってウェイト付けされているわけです。株式会社の株主総会の決定方式を想像すればいいかと思います。ですから、問題は経済力による支配を政治の面まで拡大しようとする方向性がある一方で、それに対抗して、政治的な平等を経済政策の分野まで拡大して格差の縮小や貧困、さらには、別の観点ながら、気候変動の抑制まで視野を広げようとする方向です。別の見方が提供されていて、前者の方向はコモンを縮小して私的領域を拡大することであり、後者の方向性はコモンの拡大とする見方もあります。たぶん、厳密にはビミョーに異なるのでしょうが、お起きは方向性としてはほぼ同じであり、少なくとも協力共同する可能性は大きいと私は想像しています。その民主主義的な政治的決定を経済、特に、市場に持ち込もうというひとつの手段が財政です。広く知られたように、財政は歳出にせよ、歳入=税収にせよ、議会の多数決により決定される財政法定主義を取っています。国民多数の意見が反映されるシステムといえます。その意味で、本書のテーマとなっているわけです。しかし、実際には、国民の意見が反映されていると感じる人の割合はどれくらいあるのでしょうか。実際には、「誰かエラい人」、あるいは、政治家が国民の意見とはかけ離れたことを決めている、と感じている人は少なくないと思います。パーティー券の売上を裏金にしたりして、どんなにあくどいことをしても政権交代という形で国民の声が反映されう余地は限られています。こういった私の問題意識を本書では、「根源的危機の時代」と呼んでいます。ですので、私も本書の方向性には大いに同意する部分があります。ただ、北欧のシステム礼賛はいいのですが、我が国のロールモデルになるかどうかは、やや怪しいとは思います。

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次に、筒井淳也『未婚と少子化』(PHP新書)を読みました。著者は、立命館大学の研究者ですが、私とは学部もキャンパスも違います。ご専門は家族社会学だそうです。本書でノッケから批判しているのは、政府の少子化対策が子育て対策に終止している点です。私も基本的には同じ考えであり、我が国では婚外子の割合が諸外国と比較してやたらと低いので、子育て対応を考えるず~と前に結婚促進、別の見方をすれば未婚・晩婚対策を重点的な目的のひとつにすべきだと主張しています。諸外国、特にフランスで婚外子の割合が高いのは、我が国でいうシングルマザーの割合が高いというのではなく、法律婚ではないカップルの割合が高いからです。その点も本書では適確に主張しています。その上で、本書では結婚に対する意識についても的確に主張していて、いい条件の結婚相手がいれば、結婚希望は高まるのは当然です。実際に、本書では3000万円の年収などを例示していますが、年収などの経済的な条件が重要な比率を占めるのは当然です。ですので、結婚適齢期という表現はもはやよろしくないのかもしれませんが、結婚を考える年齢において十分な経済的余裕があるかどうかが重要であろうと考えるべきです。もちろん、いわゆる「出会い」がないのが未婚率の上昇につながっている面があるのも確かなので、地方自治体が後援しているような婚活パーティーのようなイベントも決して不要というわけではありませんが、まずは、基礎的な条件として所得の増加を重視すべきです。所得の低下と出生率の低下は連動しているのではないか、と私は考えているのですが、それを計量的に確認した研究成果は今までのところそれほど蓄積されているわけではないように思えます。本書の目的のひとつは、少子化に関する誤解を解くことであろうかとも思いますので、本書にそこまでは望まないのですが、少なくとも結婚生活が送れる所得を政策目標のひとつに組み入れることは意味ないわけではないと思います。ただ、私が知る限りでも、十分安定的で結婚生活を送るにふさわしい所得を得ている人々でも結婚していない人がいっぱいいるわけで、その点については本書でも十分な分析がなされているとは思えません。おそらく、マクロの思考ではそういった個人の選択の問題を解明するのには限界があると思います。本書の冒頭で主張されているように、国家としてのグランドデザインの問題かもしれません。経済的な生産や消費の問題だけではなく、国防や安全保障の観点も動員しつつ、国家としての適正な人口規模を考える必要があるのかもしれません。

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次に、宮部みゆきほか『江戸に花咲く』(文春文庫)を読みました。5人の著者による江戸時代を舞台とする時代小説のアンソロジーです。ただ、私の感触では、タイトルと内容なチグハグです。「江戸の花」といえば、火事と喧嘩であると相場が決まっているのですが、本書ではなぜか祭りを主体においています。その祭りも大きな天下祭2つを中心にしていて、やや重複感があります。天下祭2つとは、すなわち、浅草の三社祭と神田明神の神田祭です。私は60歳の定年まで東京住まいで独身のころは浅草にほど近い三ノ輪橋の下町に住んでいましたので、三社祭の影響圏内でした。少し懐かしく感じます。ただ、どちらも天下祭であって、なぜそう呼ばれるかといえば、江戸城内まで入り込んで将軍のお目もじにかかるからです。ということで、収録作品とあらすじは以下の通りです。まず、西條奈加「祭りぎらい」は狸穴屋お始末日記シリーズの作品で、浅草三社祭を舞台にします。笛職人で祭囃子に使う笛も作っている親方の家から入り婿が離縁されようとしている問題を、離縁を専門とする公事宿「狸穴屋」が解決して復縁を図ります。諸田玲子「天下祭」では、2つの天下祭と並ぶ日枝神社の山王祭を舞台にして、武道の達人だった伊賀者の初老の男の屋敷に、何とお庭番の忍びの娘が押しかけてきて、沸き起こる騒動を描き出しています。三本雅彦「関羽の頭頂」は運び屋円十郎シリーズの作品で、モノや理由を詮索することなく淡々と運ぶハズの円十郎がいろいろと考えを巡らせます。祭の山車の描写がとても巧みで、そういった祭の中の動きや展開がとてもスピーディで楽しめます。高瀬乃一「往来絵巻」は貸本屋おせんのシリーズで、神田祭の豪華な絵巻を名主が注文したのですが、出来上がった絵には10人いるはずの人々の中から1人欠けている人がいて、その時間差からある出来事が推理されます。最後に、宮部みゆき「氏子冥利」は三島屋変調百物語シリーズの作品で、神田祭で小旦那の富次郎が助けた老人から不思議な話を聞き出します。怪談であって、在所での非道な行為が含まれているのですが、「人殺し」として自分自身を責める老人に関しては心温まる結果を引き出しています。収録された短編の中では質量ともに頭ひとつ抜けている気がします。ハッキリいって、繰り返しになりますが、火事でも喧嘩でもないのに「江戸の花」を称するのには疑問が残りますし、祭りを舞台にしているほかは特段のテーマもなく、いろんな有名作家のシリーズからつまみ食いして寄せ集めた印象があるのは確かです。でも、一話一話は完成度が高くて読み応えあります。個別の作品で評価すれば高い評価になりますが、アンソロジーとしてはそれほどではないかもしれません。各作家の作品はいい出来で、編集者は凡庸といえるかもしれません。

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2024年4月12日 (金)

国際通貨基金「IMF世界経済見通し」分析編を読む

今週、3日間に渡って五月雨式に国際通貨基金(IMF)から「IMF世界経済見通し」分析編 IMF World Economic Outlook Analytical Chapters が公表されています。第1章の見通し編は4月16日の公表予定です。すでに公表されている分析編は以下の第2-4章です。前年までは分析編は第2章と第3章の2章だけ、というパターンが多かった気もしますが、以下の通り、今回は分析編が金利上昇の影響、中期的な成長の鈍化、新興国市場からの波及効果、の3点に焦点が当てられています。

分析編だけで3章、各章20ページを超えますので、誠に簡略ながら、以下の IMF Staff Blog も参照しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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広く知られている通り、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックによる供給サイドの問題、あるいは、ロシアによるウクライナ侵攻などにより、エネルギー価格や穀物などの食料価格などの値上がりにより世界経済は大きな物価上昇を生じ、先進国をはじめとして世界の中央銀行は金融引締め=利上げを行っています。長らくゼロ金利が続いた日本ですら、先月3月に日銀が異次元金融緩和を終了し、金融引締めを開始したことは広く報じられている通りです。ただ、これまた、広く認識されているように、米国では従来の金融引締めの高価が発揮されておらず、インフレの収束が遅れている一方で、景気悪化にも至らず、ソフトランディングのパスに乗っている可能性が取り沙汰されています。他方で、未公表ながら、第1章の見通し編で示されるように、金融引締めによる総需要抑制効果が大きく現れて成長率を鈍化させている国もあるようです。こういった金融政策の効果の違いがどういった要因により生じているかを第2章では分析しています。そして、結論としては、住宅投資を通じた景気効果にその差を求めています。すなわち、住宅ローン借入れに固定金利が占める比率が高いと金融政策の効果、金利引上げの効果が小さくなる、逆は逆、ということになります。まあ、誰が考えてもそうなのですが、それをIMFのスタッフが正面から取り組んだところに意義があるのかもしれません。ということで、上に引用したのは p.56 Figure 2.13. Changes in the Share of Fixed-Rate Mortgages です。もちろん、これだけではなく、家計の債務や供給制約も考慮されています。でもって、住宅ローンについて日本を例に考えると、もともと固定金利住宅ローン Fixed-Rate Mortgages の割合が低く、その上、2011:Q1から2022:Q4にかけて固定金利ローンの割合がさらに低下しているのが見て取れます。ですから、日本は政策金利に連動して変動する住宅論の比率が高くて金融引締めの効果が現れやすい、ということになるのですが、ホントですかね、と思うエコノミストは私だけでしょうか。それとも、日本はいつでも世界の例外なんでしょうか。

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続いて、第2章では中期的な成長の鈍化に直面して、生産性向上の重要性を分析しています。中期的に、IMFでは成長率が低下する予想を持っていて、COVID-19パンデミック前の2000~2019年の20年間の平均成長率に対して、2030年までに▲1%ポイントの成長率の低下の可能性があると試算しています。そして、その対策として、いくつかの政策とその政策効果、ほかに現在の経済の流れなどの試算結果を上げています。それが上のグラフであり、p.76 Figure 3.17. Impact of Various Factors on Global Medium-Term Growth を引用しています。政策効果については4つの政策をピンポイントで試算し、経済の今後の方向については3つの潮流をレンジで試算しています。見れば明らかなのですが、政策効果については、労働参加率上昇政策 Policies boosting LFPR、移民促進による先進国での労働供給拡大 Migration boost to AEs' labor supply、人材配置改善政策 Policies improving allocation of talent の3つについては、まあ、なんと申しましょうかで、効果はボチボチといえますが、資源配分是正のための構造改革 Structural reforms reducing misallocation については+1%ポイントを超える成長促進効果を見込んでいます。また、今後の経済の方向性として、公的債務の過重 Public debt overhang と世界経済の分断化 Fragmentation は成長率抑制に作用する一方で、AIの活用 AI adoption はかなり大きな効果が予想されています。AIの活用はもういうまでもありませんから、資源配分是正のための構造改革については、IMFでは商品・サービスの市場や労働市場の柔軟性を向上させ、貿易や投資の開放性を維持し、金融の深化を促す政策を想定しているようです。

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世界経済の主役の変化については、今までも何度も主張されてきた通り、第2次世界大戦直後の米国一強経済と違って、21世紀にはG20レベルの新興国の世界経済への影響力が強まるのは当然です。サイズの点ではいうに及ばず、サプライチェーンに占める新興国の重要性も、この章で波及効果の計測などが分析されています。上のグラフは p.96 Figure 4.9. Firm-Level Spillovers を引用しています。このグラフは、新興国の成長が加速した場合のショックが、サプライチェーンの原材料や部品などの供給サイドからのショックと製品などの供給先として考える需要サイドのショックに分けて試算しています。インドネシアとトルコを例外として、G20新興国のうち多くの国で成長が加速すれば、その国から原材料や部品、あるいは、製品の供給を受けている場合、当然、新興国内での成長加速により輸入できる数量が減少したり、あるいは、輸入価格が上昇したりして、サプライチェーン前方の輸入元からの負の供給ショックを受けます。他方で、輸出先としてサプライチェーンの後方リンケージを考えると、輸出が増加してプラスの需要ショックが生じます。これも当然といえば当然の結果であり、企業レベルでは新興国を輸出先としてサプライチェーンに組み入れるべき時代がやってきた、ということになります。

最後に繰り返しになりますが、「IMF世界経済見通し」の見通し編本編は4月16日の公表予定です。

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2024年4月11日 (木)

大学教員が労働組合を結成すると賃金は上がるか?

全米経済研究所(NBER)から、大学の教員が労働組合を結成すると賃金が上がるのか、雇用はどういった影響を受けるのか、という研究成果が明らかにされています。カナダの大学のデータを基にした分析です。まず、引用情報は以下の通りです。

次に、NBERのサイトから論文のAbstractを引用すると以下の通りです。

Abstract
We study the effects of the unionization of faculty at Canadian universities from 1970-2022 using an event-study design. Using administrative data which covers the full universe of faculty salaries, we find strong evidence that unionization leads to both average salary gains and compression of the distribution of salaries. Our estimates indicate that salaries increase on average by 2 to over 5 percent over the first 6 years post unionization. These effects are driven largely by gains in the bottom half of the wage distribution with little evidence of any impact at the top end. Our evidence indicates that the wage effects are primarily concentrated in the first half of our sample period. We do not find any evidence of an impact on employment.

イベント・スタディという手法を使って、1970年から2022年までのカナダの大学のデータを用いた研究結果です。引用したAbstractにあるように、労働組合結成後の最初の6年間で給与は平均して2~5%超の増加 "salaries increase on average by 2 to over 5 percent over the first 6 years post unionization" を見せた一方で、雇用への影響を示す証拠は見つかっていない "We do not find any evidence of an impact on employment." と結論しています。カナダの大学という限定されたサンプルながら、労働組合を結成するとお給料が上昇し、しかも、お給料の安い下半分の賃金増加がもたらされて "largely by gains in the bottom half of the wage distribution" いて、雇用の減少は生じない、というわけです。下のグラフは、論文 p.24 Figure 1: Effect of Unionization on Salaries と p.27 Figure 4: Employment Effects of Unionization から引用していて、2つのグラフを私の方で結合しています。お給料 Salaries は統計的に有意に上振れしている一方で、雇用 Number of Workers はゼロと統計的に差はありません。

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もう10年以上も前に注目された Jordi Galí の "The Return of the Wage Phillips Curve," Journal of the European Economic Association 9(3) にも賃金の決定で労働組織率が考慮されていたと記憶していますが、労働組合は雇用を減ずることなく賃金アップに有効という結論は変わりない、と考えています。逆にいえば、生産性もさることながら、労働組合組織率の低下により賃金が停滞していた、という可能性も考えることが出来ます。

最後に、誠についでながら、イベンス・スタディの入門的な解説論文が昨年2023年に出ていますので、より深い学習や研究のご参考まで。

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2024年4月10日 (水)

再び上昇幅が拡大した3月の企業物価指数(PPI)をどう見るか?

本日、日銀から3月の企業物価 (PPI) が公表されています。PPIのヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で保合いとなり、上昇率は12か月連続で鈍化しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価、3月0.8%上昇 2カ月連続で伸び率拡大
日銀が10日発表した3月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は120.7と、前年同月比で0.8%上昇した。2月(0.7%上昇)から伸び率が0.1ポイント拡大し、2カ月連続で伸び率が拡大した。政府による電気・ガスの補助制度の一巡が寄与したほか、飲食料品などの幅広い分野で値上げも続いているとみられる。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。企業物価は前年同月比で37カ月連続の上昇で、3月の上昇率は民間予測の中央値(0.8%上昇)と同じだった。
輸入物価は円ベースで前年同月比1.4%上昇した。2月の0.2%上昇を上回り、23年3月(9.4%上昇)以来の水準となった。契約通貨ベースではマイナス6.9%だったが、24年3月の円の対ドル相場が1ドル=149円台と、23年3月(1ドル=133円台)より円安にふれたことが影響した。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率は+0.8%と見込まれていましたので、ジャストミートしました。これも引用した記事にある通り、国内物価指数は2か月連続で上昇率を高めています。すなわち、1月の前年同月比上昇率はその直前の12月と同じ+0.3%だったのですが、2月+0.7%、3月+0.8%となっています。上昇幅が拡大した背景には、政府による「電気・ガス価格激変緩和対策事業」が一巡した影響もあると考えるべきです。輸入物価がジワリと再上昇を始めている背景として、引用した記事にもある円安は決して無視できないのですが、原油価格の上昇も考慮すべきです。すなわち、企業物価指数のうちの輸入物価の原油価格の円建ての前年同月比を見ると、2023年12月に+3.0%と再上昇に転じた後、1月+10.4%、2月+7.9%、3月+7.8%となっています。我が国では、金融政策を通じた需給関係などよりも、原油価格のパススルーが極端に大きいので、国内物価にも無視し得ない影響を及ぼしている可能性があります。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇・下落率で少し詳しく見ると、電力・都市ガス・水道が▲19.1%と前月2月の▲21.5%の低下から下落幅を縮小させています。食料品の原料として重要な農林水産物+▲0.4%は2月の▲0.8%から同じく上昇幅が縮小していますし、飲食料品も+3.7%と高い伸びが続いています。ほかに、窯業・土石製品+9.8%、非鉄金属+5.7%、石油・石炭製品+5.3%、などといった費目で+5%以上の上昇率を示しています。そして、価格上昇がかなり幅広い費目に及んでおり、生産用機器と電気機器がともに+4.4%、繊維製品+4.1%、パルプ・紙・同製品+3.8%、はん用機器と事務用機器がともに+3.7%、などとなっています。ある意味で、企業間で順調な価格転嫁が進んでいると見ることも出来ます。その意味では、悲観する必要はまったくありません。

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『成瀬は天下を取りにいく』本屋大賞おめでとうございます

本日4月10日、明治記念館にて「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本 2024年本屋大賞」の発表会があり、宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』が対象に選ばれています。
まことにおめでとうございます。
滋賀文学として滋賀県民の私は大いに喜んでいます。

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2024年4月 9日 (火)

6か月連続で改善を示す3月の消費者態度指数をどう見るか?

本日、内閣府から3月の消費者態度指数が公表されています。3月統計では、前月から+0.5ポイント上昇し39.5を記録しています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者態度指数3月は39.5、19年5月以来の高水準 物価上昇予想も増
内閣府が9日公表した消費動向調査によると、3月の消費者態度指数(2人以上の世帯・季節調整値)は前月比0.5ポイント改善の39.5だった。指数は6カ月連続で上昇し、2019年5月以来の高水準となった。物価見通しでは、1年後は上昇するとの回答は合わせて92.4%で、3カ月連続で前月から増加した。
消費者態度指数を構成する4つの指標のうち「暮らし向き」は横ばいだったが、「収入の増え方」、「雇用環境」、「耐久消費財の買い時判断」はそれぞれ上昇した。
内閣府は、消費者態度指数の基調判断を「改善している」で据え置いた。
1年後の物価の上昇率については、「5%以上」との回答の割合が2月の37.7%から40.8%に、「2%以上5%未満」が37.5%から38.3%にそれぞれ拡大した。一方、「2%未満」との回答は、16.3%から13.3%に減少した。

的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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消費者態度指数は今後半年間の見通しについて質問するものであり、4項目の消費者意識指標から成っています。3月統計では、引用した記事にある通り、前月から横ばいの37.5だった「暮らし向き」を別にすれば、残りの3項目すべての指標において前月差で見て上昇しており、「耐久消費財の買い時判断」が+0.8ポイント上昇し34.0、「収入の増え方」が+0.7ポイント上昇し41.5、「雇用環境」も+0.7ポイント上昇し45.0となっています。消費者態度指数は、昨年2023年8~9月統計では2か月連続で低下していましたが、2023年10月統計から6か月連続の上昇を記録しています。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「改善している」と、先月から据え置いています。
引用した記事の最後のパラにあるように、高めの物価上昇率を見込む割合が高まっています。すなわち、今年2024年に入ってからの統計を見ると、+2%以上+5%未満の上昇を見込む割合は、1月36.1%、2月37.5%、3月38.3%と、じわじわと増加していますし、+5%以上の物価上昇を予想する割合は1月38.4%、2月37.7%に次いで3月は40.8%に達しました。日本経済研究センターのESPフォーキャストに示されたエコノミストの見方では、先行き、物価上昇率は縮小していくと見込まれているのですが、一般消費者のマインドは必ずしもそうなっていません。それにもかかわらず、6か月連続で消費者態度指数が改善している、というのもやや不思議な気がします。ただ、エコノミストの予想通りに物価上昇率が縮小していけば、消費者マインドもさらに改善に向かうことが期待されます。

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