2025年6月12日 (木)

マイナスを記録した4-6月期の法人企業景気予測調査BSI

本日、財務省から4~6月期の法人企業景気予測調査が公表されています。ヘッドラインとなる大企業全産業の景況感判断指数(BSI)は足元の4~6月期は▲1.9とマイナスに転じたものの、先行き7~9月期には+5.2、10~12月期には+6.1と、順調に回復すると見込まれています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

大企業の4-6月景況感、5四半期ぶりにマイナス 米関税が重荷
内閣府と財務省が12日発表した4~6月期の法人企業景気予測調査によると、大企業全産業の景況判断指数(BSI)はマイナス1.9だった。5四半期ぶりにマイナスとなった。製造業がマイナス4.8と押し下げた。米国の関税政策が重荷になったとみられる。
製造業は2四半期連続でマイナスだった。米国が品目別関税をかけている業種で悪化が顕著だった。鉄鋼業は国内外の需要が減少しマイナス29.1、自動車・同付属品製造業がマイナス16.1だった。
非製造業はマイナス0.5と11四半期ぶりにマイナスとなった。卸売業で仕入れ価格が上昇したほか、情報通信業では放送局において広告収入が減少したことが響いた。
BSIは自社の景況が前の四半期より「上昇」と答えた企業の割合から「下降」の割合を引いた数値。前回1~3月期はプラス2.0だった。
大企業BSIの先行きは全産業ベースで7~9月期がプラス5.2、10~12月期がプラス6.1と改善が続く見通しだ。製造業のプラスが目立ち、半導体関連の受注などが見込まれる。
米国の関税政策の影響が大きい自動車・同付属品製造業は7~9月期、10~12月期ともにプラス0.6にとどまり、ほぼ横ばいの予想だ。
大企業と中小企業を含めた全産業の2025年度の設備投資額は前年度と比べ7.3%増える見込み。製造業が14.3%増とけん引する。
自動車・同付属品製造業で生産体制強化のための投資が増える。非製造業は3.6%増える見通しで、金融業や保険業の基幹システムなどへの投資が押し上げる。
25年度の全規模・全産業の売上高は前年度比2.1%の増収を見込む。食料品製造業は原材料価格の上昇分の価格転嫁が進むとみる。減価償却費などの増加が響き経常利益は2.1%の減益と予測する。
財務省の担当者は「米国の通商政策の影響による景気の下振れリスクや物価上昇などの影響を含め、今後とも企業動向について注視したい」と指摘した。

かなり長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIのグラフは下の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は、景気後退期を示しています。

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米国トランプ政権の通商政策が大きく響いて、BSIのヘッドラインとなる大企業全産業で見て4~6月期にマイナスをつけたものの、先行きでは7~9月期には+5.2、10~12月期にも+6.1と、企業マインドは順調に回復する見通しが示されています。足元の4~6月期においては、輸出に依存する割合が高く、それだけに米国の通商政策の影響を受けやすい製造業では△4.8と、非製造業▲0.5よりマイナス幅が大きくなっています。ただし先行きでは反動もあって、製造業は7~9月期+5.7、そして、10~10月期には+8.4と急速に回復する見込みです。いずれも、非製造業の7~9月期+5.0、10~12月期+5.0を上回る回復が見込まれています。また、引用した記事にはありませんが、雇用人員は引き続き大きな「不足気味」超を示しており、大企業全産業で見て6月末時点で+26.9の不足超、9月末で+23.2、12月末でも+22.0と大きな人手不足が継続する見通しです。設備投資計画は今年度2025年度に全規模全産業で+7.3%増が見込まれています。期待していいのではないかと思いますが、まだ、機械受注の統計やGDPに明確に反映されるまで至っていませんので、私自身は計画倒れになる可能性もまだ残っているものと認識しています。

果たして、7月1日公表予定の6月調査の日銀短観やいかに?

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2025年6月11日 (水)

+3.2%に上昇率が鈍化した5月の国内企業物価指数をどう見るか?

本日、日銀から5月の企業物価 (PPI) が公表されています。統計のヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+3.2%の上昇となり、4月統計の+4.1%から上昇率がやや縮小したものの、依然として高い伸びが続いています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数、5月3.2%上昇 コメ価格高騰響く
日銀が11日発表した5月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は126.3と前年同月比で3.2%上昇した。コメ価格高騰の影響は引き続きみられたが、4月(4.1%上昇)から伸び率は鈍化した。3%台となるのは24年11月以来、6カ月ぶり。民間予測の中央値(3.5%上昇)を0.3ポイント下回った。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに消費者物価指数(CPI)に影響を与える。4月分の前年同月比上昇率は発表当初4.0%だったが、遡及修正で4.1%に変更された。
5月分の内訳をみると、コメ価格や鳥インフルエンザの感染拡大による鶏卵価格の上昇を受け、農林水産物は前年同月比42.8%上昇した。4月(43.5%上昇)から若干鈍化した。精米単独でみると82.3%上昇し、4月(81%上昇)から伸び率が拡大した。日銀によると、備蓄米の放出による影響は指数に含まれていない。
石油・石炭製品は前年同月比0.6%上昇と4月(6.3%上昇)から大幅に鈍化した。原油価格の下落を受けたためで、全体の伸び率の押し下げにもつながった。電力・都市ガス・水道は政府による電気ガス料金の補助金の終了や再エネ賦課金の引き上げが影響し、6.5%上昇した。
輸出物価指数の円ベースは前年同月比で6.4%下落と4月(4.3%下落)から下落幅が拡大した。トランプ政権の関税措置を見越した動きが影響したとみられる。日銀によれば、一部の企業が現地の子会社と自動車などの輸送用機器の販売価格を調整したという。
日銀が公表している515品目のうち、価格が上昇したのは364品目、下落したのは130品目だった。

インフレ動向が注目される中で、やや長くなってしまいましたが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にはありませんが、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率について、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.5%でしたし、ロイターでも同じく市場の事前こセンサスは+3.5%でしたので、実績の+3.2%はやや下振れした印象です。ただ、これでも日銀物価目標の+2%を大きく上回っていることが事実であり、高止まりしている要因は、引用した記事にもある通り、コメなどの農林水産物です。引用した記事にもある通り、農林水産物は前年同月比で見て4月+43.5%の後、本日公表の5月統計では+42.8%と、猛烈な上昇を見せています。軽く想像される通り、コメなどは生活必需品の食料のひとつであって、企業間取引の価格とはいえ当然に小売価格にも波及するわけですから、国民生活への影響も深刻度を増している可能性が高いと私は受け止めています。ただし、為替相場では2月から4月まで3か月連続で円高が進んだ後、5月もわずかに円安を記録したとはいえ、+0.2%の円安ですので、一定、物価を抑制する方向での変化であると考えるべきです。また、私自身が詳しくないので、エネルギー価格の参考として、日本総研「原油市場展望」(2025年6月)を見ておくと、「当面の原油価格は50ドル台半ばに向けて下落する見通し」と指摘しています。円ベースの輸入物価指数の前年同月比は、今年に入って、4月▲7.3%、5月△10.3%と下落しており、国内物価の上昇は国内要因による物価上昇であることは明らかです。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、まず繰り返しになりますが、農林水産物は4月の+43.5%から5月は+42.8%と高止まりしています。これに伴って、飲食料品の上昇率も4月の+4.0%から5月は+4.2%と加速しています。電力・都市ガス・水道は4月の+10.1%から、5月は+6.5%と上昇率を縮小させていますが、依然として高い上昇率が続いています。

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2025年6月10日 (火)

男女平等指標の公表は男女間の賃金格差を縮小させるか?

英国における男女間の賃金格差が、2018年からの男女平等指標(gender equality indicators)の公表により、どのように変化したかを分析した論文 "Pay Transparency and Gender Equality" が公表されています。まず、論文の引用情報は以下の通りです。

続いて、論文からAbstractを引用すると下の通りです。

Abstract
Since 2018, UK firms with at least 250 employees have been mandated to publicly disclose gender equality indicators. Exploiting variations in this mandate across firm size and time, we show that pay transparency closes 19 percent of the gender pay gap by reducing men's pay growth. By combining different sources of data, we also provide suggestive evidence that the public availability of the equality indicators enhances public scrutiny. In turn, employers more exposed to public scrutiny seem to reduce their gender pay gap the most.

続いて、論文から Figure 2. Event Studies-log Hourly Pay を引用すると下の通りです。

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見ての通り、女性の賃金上昇率が男性を上回ることによって、もっと詳しくいえば、男性の賃金上昇率が減速することによって、男女間の賃金格差が縮小している点は、まあ、何と申しましょうかで、やや悲しく感じるエコノミストもいそうな気がしますが、いずれにせよ、平たくいえば、企業の賃金原資を男性から女性により多く振り向けた結果であると考えることも出来ます。ですから、論文では p.437 で "As an increasing number of countries introduce pay transparency policies, it is especially important to understand the circumstances in which these laws are effective at reducing gender inequality." と指摘しています。日本でも、2022年7月8日から常時雇用する労働者数が301人以上の事業主は男女賃金の差異を公表することが義務つけられています。詳細は厚生労働省のサイト「男女の賃金の差異の公表について」で明らかにされています。日本でも男女間の賃金格差の縮小が進むことを願っています。

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2025年6月 9日 (月)

1-3月期2次QEの上方修正から景気後退について考える

本日、内閣府から1~3月期GDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの系列で前期比▲0.0%減、年率換算で▲0.2%減を記録しています。マイナス成長は4四半期連続ぶりです。1次QEから上方改定されています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+3.3%、国内需要デフレータも+2.7%に達し、2年8四半期連続のプラスとなっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1-3月GDP改定値、年率0.2%減に上方修正 個人消費が上振れ
内閣府が9日発表した1~3月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.0%減、年率換算で0.2%減だった。5月発表の速報値(前期比0.2%減、年率0.7%減)から上方修正した。最新の経済指標を反映した結果、個人消費や民間在庫が上振れした。
マイナス成長は4四半期ぶり。QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値(前期比0.2%減、年率0.7%減)を上回った。
項目別に見ると、GDPの過半を占める個人消費が速報値の前期比0.0%増から0.1%増に上振れした。サービス関連の最新の統計を反映した結果、外食などサービス、ゲームソフト・玩具の消費が堅調だった。
民間在庫の成長率への寄与度は速報値のプラス0.3ポイントから同0.6ポイントに上方修正した。最新統計を反映した結果、石油・天然ガスなどの原材料在庫が増えていた。
民間住宅は1.2%増から1.4%増となった。リフォーム需要の高まりなどが背景にある。
設備投資は前期比1.1%増と速報値の1.4%増から下方修正した。サービス産業の動態統計でソフトウエア関連の投資が振るわなかったことが影響した。
政府消費は速報値0.0%減を0.5%減に、公共投資は0.4%減を0.6%減にそれぞれ下方修正した。
輸出は速報値0.6%減を0.5%減に、輸入は2.9%増を3.0%増にそれぞれ修正した。海外需要の寄与度は変わらなかった。改定値で成長率のマイナス幅は縮小したものの、個人消費など内需が振るわない状況が続く。
2024年度の実質GDPは前年度比0.8%増で速報段階と同じだった。4年連続のプラス成長となった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2024/1-32024/4-62024/7-92024/10-122025/1-3
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)▲0.3+1.0+0.2+0.6▲0.2▲0.0
民間消費▲0.6+0.8+0.7+0.1+0.0+0.1
民間住宅▲3.2+1.2+0.7▲0.2+1.4+1.1
民間設備▲0.7+1.3+0.1+0.6+1.4+1.1
民間在庫 *(+0.2)(+0.1)(+0.1)(▲0.3)(+0.3)(+0.6)
公的需要▲0.1+1.7▲0.1▲0.0+0.0▲0.4
内需寄与度 *(▲0.4)(+1.2)(+0.5)(▲0.2)(+0.7)(+0.8)
外需寄与度 *(+0.1)(▲0.3)(▲0.3)(+0.7)(▲0.8)(▲0.8)
輸出▲3.6+1.5+1.2+1.7▲0.6▲0.5
輸入▲3.8+2.7+2.2▲1.4+2.9+3.0
国内総所得 (GDI)▲0.4+1.3+0.2+0.7▲0.3▲0.1
国民総所得 (GNI)▲0.5+1.8+0.3+0.3+0.2+0.3
名目GDP+0.1+2.4+0.5+1.1+0.8+0.9
雇用者報酬+0.5+0.8+0.4+1.4▲1.3▲1.2
GDPデフレータ+3.1+3.1+2.4+2.3+3.3+3.3
内需デフレータ+2.0+2.6+2.2+2.4+2.7+2.7

上のテーブルに加えて、需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された1~3月期のGDP統計速報2次QEの最新データでは、前期比成長率が小幅ながらマイナス成長を示し、黒の純輸出が大きなマイナスの寄与度を、水色の設備投資が小幅なプラスの寄与を、灰色の在庫が大きなプラス寄与を、それぞれ示しているのが見て取れます。

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繰り返しになりますが、先月5月16日に公表された1次QEでは季節調整済みの系列で前期比▲0.2%、前期比年率で▲0.7%のマイナス成長でしたが、本日の2次QEではそれぞれ▲0.0%、▲0.2%に上方修正されています。ですので、1次QEから大きな改定はなく、消費と設備投資と住宅投資が小幅に上方修正された一方で、在庫投資が大きく上昇改定されています。プラス寄与の内需に対して、外需のマイナス寄与の方がやや大きく、合わせてGDP成長率とし小幅なマイナス、という結果です。現在の景気認識に大きな変更を加えるべき統計ではない、と考えています。在庫のプラス寄与幅が拡大していますが、成長率を少し押し上げた一方で在庫調整の停滞でもありますので、決してめでたい話ではありません。ただし、ロイターのサイトなどでは在庫増は原油と報じられていますから、いわゆる売残りかどうかはビミョーです。なお、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、1次QEと同じく前期比年率で△0.7%のマイナスでしたので、1次QEから上方修正という方向ながら、原油とはいえ在庫による上振れという点を加味すれば、大きなサプライズなく受け止められているのではないかと思います。
先行きの景気に関して、特に、景気後退の見通しについて簡単に付け加えておきたいと思います。2点あり、私は日本は米国とともに今年2025年終わりか来年2026年早々には景気後退局面に入る可能性が高いと考えています。まず、本日公表の1~3月期の成長率の上方改定が在庫の積増しであり、この在庫が調整されることを考えれば、足元の4~6月期は2四半期連続でマイナス成長を記録する可能性が十分あります。ただし、2四半期連続のマイナス成長というテクニカルな景気後退というだけで、その後はいったん持ち直す可能性も十分あると見ています。しかし、2025年末から2026年年始にかけて、米国経済とともに沈んでいく可能性が大きいと思います。ただし、第2に、景気後退ともなれば急激な景気の悪化が見られるのが通常であり、それ故に景気後退については回避できれるのであれば回避すべきという考えがエコノミストの間では強いのですが、直前のリーマン証券破綻後の金融危機とか、コロナのパンデミックとか、きわめて厳しい景気の悪化に比べれば、今回の景気後退局面はそれほどではない可能性も十分あるのではないか、と私は考えています。要するに、景気後退に陥る可能性は高いが、やたらと深刻な景気後退ではない可能性も十分ある、といったところです。

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また、本日、内閣府から5月の景気ウォッチャーが公表されています。統計のヘッドラインを見ると、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+1.8ポイント上昇の44.4、先行き判断DIも+2.1ポイント上昇の44.8を記録しています。5か月ぶりの上昇であり、米国の関税政策への過度な懸念が和らいだと見られています。コメの備蓄米放出も効果あったような気がします。ただ、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「このところ回復に弱さがみられる」で据え置いています。

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さらに、本日、財務省から4月の経常収支が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、季節調整していない原系列の統計で+2兆2580億円の黒字を計上しています。3か月連続の黒字です。

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2025年6月 8日 (日)

クリンナップのホームラン攻勢でオリックスを3タテ

  RHE
オリックス000100000 161
阪  神00400004x 893

【オ】祖谷、岩嵜、古田島、川瀬 - 福永、若月
【神】伊原、石黒、ネルソン、及川、岩貞 - 坂本

関西ダービーでオリックスを3タテでした。
3回は中野選手の先制タイムリーの後、森下選手のスリーランで一挙4点を取り、8回は真打ち佐藤輝選手のグランドスラムでダメ押しでした。ドラ1ルーキー伊原投手は、安定したピッチングで5勝目です。新人賞が射程に入ってきたように感じます。守備では、エラーもありましたが、坂本捕手や中野内野手がファインプレー連発でした。

ベルーナドームの西武戦も、
がんばれタイガース!

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2025年6月 7日 (土)

今週の読書は経済書なしで計7冊

今週の読書感想文は以下の通り、何と、私の専門分野である経済書なしで計7冊です。
まず、藤川直也『誤解を招いたとしたら申し訳ない』(講談社選書メチエ)では、タイトルのような条件付きで謝罪するかのごとき「謝罪もどき」を批判し、言語を介した人間間でのコミュニケーションについて、表の意味と裏の含意を区別し、学術的に解き明かそうと試みています。トミヤマユキコ『バディ入門』(大和書房)では、少女漫画などのサブカルの分野にも詳しい著者が、小説や映画などのフィクション、また、実在の人物を問わず2人組のバディ、友人とか恋愛よりも上位概念であるバディをを分析しようと試みています。高嶋哲夫『チェーン・ディザスターズ』(集英社)では、南海トラフ地震、首都圏直下型地震、超大型台風による水害、そして、富士山噴火による火山灰といった災害に対して、当選わずか2回にして30代の若き環境大臣である主人公の早乙女美来がどのように対応するかを描き出しています。村山由佳『PRIZE』(文藝春秋)では、ベストセラーを連発する女性小説家の主人公が直木賞受賞を強く願う承認欲求をモチーフに、デビューのきっかけとなったラノベ新人賞主催出版社の女性編集者と協力して、直木賞を獲りに行くストーリーであり、驚愕のラストが待っています。黒田明伸『歴史の中の貨幣』(岩波新書)では、室町時代を中心とする中世の東アジアにおいて、私鋳銭も含めて銅銭が中国と日本、さらに朝鮮やベトナムなどで使われていた歴史をひも解こうとしています。白井俊『世界の教育はどこへ向かうか』(中公新書)では、国連、経済開発協力機構(OECD)、ユネスコなどの国際機関での議論を基に、教育の目指すべきもの、「主体性」とは何か、身につけるべき「能力」とは何か、「探求」の検討、何をどこまで学ぶべきか、について議論しています。岸俊光『内調』(ちくま新書)では、3人のキーパーソン、初代内閣情報部長の横溝光暉、内閣官房調査室元職員からの内部資料を記事にした吉原公一郎、内閣官房情報室の主幹を務めた志垣民郎の3人の残した資料や証言などから、インテリジェンス機関である内調の通史を明らかにしようと試みています。
今年の新刊書読書は1~4月に99冊を読んでレビューし、5月には38冊で計137冊、6月最初の本日の7冊を加えて計144冊となります。これらの読書感想文については、Facebookやmixi、mixi2などでシェアしたいと考えています。

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まず、藤川直也『誤解を招いたとしたら申し訳ない』(講談社選書メチエ)を読みました。著者は、東京大学大学院総合文化研究科准教授であり、ご専門は言語哲学だそうです。私ごときが申し上げるまでもなく、最近に至るまで、政治家の失言や放言はいっぱいありますし、それらに対するいいわけもさまざまです。最近ではSNS上で炎上するような表現も見かけます。本書では、タイトルにあるような条件付きで謝罪するかのごとき「謝罪もどき(pseudo-apology)」を批判し、言語を介した人間間でのコミュニケーションについて学術的に解き明かそうと試みています。まず、表の意味と裏の含意を区別し、言行一致の責任ある振舞いの必要について論じています。例えば、本書では言及ありませんが、表と裏という意味では、「お子さん、ピアノの練習ご熱心ね」というのは、やかましいとか、うるさいという抗議や非難の含意があるのは広く知られている通りです。しかも、暗黙のうちに、幅広い聞き手に向けられた表向きのメッセージとは別の含意を判った人だけに伝えようとする犬笛とか、一定の前置きを付して言質を与えるのを回避するイチジクの葉とかについても、その不誠実な表現を批判しています。また、私なんかは「常識で判断」ということで済ませようとする傾向があるのですが、その常識が時と場合で異なる点も指摘しています。まあ、そうなんでしょう。ただ、2点だけ私の方から本書を読んだ上で疑問があります。第1は、言葉によるコミュニケーションを取ろうというのは、ベストではないかもしれませんが、それなりに人間らしい優れたコミュニケーションだと私は考えています。関西に来てからびっくりするのは、扉が閉まりかけたエレベーターに無言で突進する人が多い点です。それほど急がなくても、一言「エレベーター待って」といえば済むような気がしますが、東京に比べて関西では無言の突進が多いように感じます。第2に、たとえ、間違っていても発言が繰り返されると真実であるかのように受け止められる可能性があります。「うそも100回繰り返せば真実になる」というゲッベルスの言葉は人口に膾炙していると思います。現在の兵庫県知事がそうだと私は受け止めています。

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次に、トミヤマユキコ『バディ入門』(大和書房)を読みました。著者は、東北芸術工科大学芸術学部准教授であり、ご専門は日本近現代文学史だそうです。また、少女漫画などのサブカルの分野にも詳しいようです。本書では小説や映画などのフィクション、また、実在の人物を問わず、2人組のバディを分析しようと試みています。本書冒頭ではTBSドラマ「逃げ恥」の2人から始まります。ですから、バディを組む2人の性別にはこだわりがありません。男男、あるいは、女女の同性の2人でも、男女の組合せでも構わないというスタンスです。そして、友人とか、「逃げ恥」のように関係が進んで結婚までの関係もありです。友人とか恋愛よりもバディは上位概念であると本書では考えられています。フィクションでは「逃げ恥」のほかにも、日曜のアニメでは「サザエさん」の磯野カツオと中島弘、「ちびまる子ちゃん」のまる子とたまちゃん、ほかのアニメでも、「ドラゴンボール」の悟空とベジータ、「ぐりとぐら」の野ねずみ、などが取り上げられています。洋画などで私の知らないバディもいっぱい取り上げられていますが、バディではない上下関係のある2人は含まれていません。ですから、推理小説の古典的名作に登場するホームズとワトソンはバディではない、という判断です。対等平等の2人組で、お互いを高め合っていく過程にあるのがバディ、ということのようです。フィクション以外の実在の人物でも『胃が合うふたり』の千早茜と新井見枝香とか、ホントは血縁関係のない阿佐ヶ谷姉妹などにも言及されています。あるいは、9章では、人と道具、例えば、スポーツ選手とその道具などにも焦点を当てています。11章のライバルのバディも「なるほど、そうか」、と思わせるものがありました。でも、私が特に感激したのは、12章のアイドルグループにおける「シンメ」と「ケミ」です。「シンメ」と「ケミ」が何かは読んでみてのお楽しみですが、そういうふうに、アイドルグループを見ている人がいるとはまったく知りませんでした。AKBやNMB、あるいは、坂道系のアイドルグループを見る機会があれば、私も注目しようと思います。

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次に、高嶋哲夫『チェーン・ディザスターズ』(集英社)を読みました。著者は、エンタメ小説家なのですが、パニック小説を何冊か出版していて、私が読んだ『東京大洪水』、『首都感染』、『富士山噴火』などの作品があります。この作品はそういったパニック小説の延長線上に位置していると私は受け止めています。なお、出版社でも力を入れているようで本書の特設サイトが開設されています。タイトル通り、災害=ディザスターズがチェーンしてやって来るわけですが、出版社のサイトにもあるように、その災害そのものはネタバレではないと思います。災害は順に、南海トラフ巨大地震とそれに伴う津波、首都圏直下型地震、超大型台風による水害、そして、富士山噴火に伴う火山灰となります。その昔の『日本沈没』クラスの大災害なわけで、最後の富士山噴火に伴う火山灰により首都東京は放棄されます。客観的な災害はこういったものですが、こういった災害を乗り越えようとするのは、主観として超々トップの上から目線で捉えられています。主人公は早乙女美来です。代議士だった父親が倒れてニューヨークから帰国し、当選わずか2回にして30代の若き環境大臣に就任しています。そして、最初の南海トラフ地震が発生した直後に名古屋での現地対応に当たります。その名古屋では地元IT企業「ネクスト・アース」がAI技術を駆使して開発したアプリにより、災害対応が画期的に進んでいました。その後、南海トラフ地震で地盤が緩んでいたところに首都圏直下型地震が発生し、さらに、超大型台風により水害が迫り、富士山噴火により東京をはじめとする首都圏が火山灰によって人の住めない状態になってしまいます。主人公の早乙女美来は環境大臣から防災大臣、そして、総理大臣に上り詰め、こういった災害からの避難や災害復興に当たろうとするわけです。まあ、何と申しましょうかで、総理目線での連続災害ですので、一般市民はほぼほぼ登場しません。したがって、小説としては深みに欠ける部分があります。アマゾンのレビューで「ジュブナイルホラー」と表現しているのがありましたが、私もそんな気がします。

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次に、村山由佳『PRIZE』(文藝春秋)を読みました。著者は、小説家であり、本書のテーマのひとつとなっている直木賞は2003年の上半期に『星々の舟』で受賞しています。私は2003年は9月に帰国するまで外国暮らしでしたので、リアルタイムでの受賞のニュースは見ていないような気がします。ということで、主人公は女性小説家の天羽カインです。「無冠の女王」と呼ばれ、ラノベ新人賞でデビューして以来12年間ベストセラーを出し続け、本屋大賞など、いくつかの文学賞は受賞したものの、もっとも権威ある直木賞には届かず、その受賞を渇望しています。そして、なぜか、本書の出版社である文藝春秋は社名や雑誌名はそのまま登場させています。まあ、直木賞がそのままなものですから、そうなんでしょう。そして、天羽カインのデビューのきっかけとなったラノベ新人賞を主催していた南十字書房の女性編集者と協力して、直木賞を獲りに行くストーリーです。といえばそれだけなのですが、もちろん、出版業界のあれやこれやも詰め込まれていますし、作家と編集者のビミョーな関係も盛り沢山です。そして、いつもながらに小説家の想像力の豊かさに驚くのですが、驚くべきラストが用意されています。なるほど、こう来たか、という感じです。そのあたりは読んでみてのお楽しみとしておきます。最後に、本書の心理学的なテーマのひとつになっている承認欲求については、有名なマズローの欲求5段階説のひとつとして知られていることと思います。5段階とは、すなわち、(1) 生理的欲求、(2) 安全欲求、(3) 社会的欲求、(4) 承認欲求、(5) 自己実現欲求、となります。そして、これらについては単に心理学的な面だけではなく、経営学、教育学、あるいは、私の専門分野である経済学などにも応用されています。もう20年近く前に役所勤務から長崎大学に現役出向した際に、修士論文の中間報告会でマズローの欲求5段階説を応用した経営学の修士論文についての報告を聞いた記憶があります。脱線したので元に戻すと、本書での「直木賞がほしい」というのは、5段階のうちの4段階目の承認欲求に当たります。ただし、この承認欲求を飛び越えて自己実現欲求に至るケースもありそうな気がします。他方で、本書のように強く承認欲求が現れるケースも少なくないものと思います。単なる自己満足で終わるのではなく、外形的に明らかなシンボルが欲しい、そして、そういったシンボルがあれば一般的なステータスが高まる、というのも理解できると思います。例えば、単に英語がよくできる、というだけでなく、英検1級を持っている、といった資格に直木賞は相当するんではないかと思います。

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次に、黒田明伸『歴史の中の貨幣』(岩波新書)を読みました。著者は、私と同じ生まれ年なのですが、東京大学の名誉教授であり、現在は台湾師範大学講座教授を務めています。専門は歴史学なのだろうと想像しています。表紙画像に見える通り、副題は「銅銭がつないだ東アジア」となっており、地域的には東アジア、そして、タイトルにある「貨幣」とは、紙幣や高額の金貨などではなく銭=ゼニということになります。銅銭は金貨とともに、いうまでもなく、経済学的にいえば商品貨幣であり、重量により評価されます。金貨であれば、金を何グラム含んでいるか、という観点です。ですから、銅銭は貫単位でやり取りされる場合があります。他方で、銅銭は枚数による評価も存在します。仏教だけかもしれませんが三途の川を渡る料金は銅銭6枚の6文であり、その六文銭を家紋にしていたのが真田幸村だったりするわけです。本書では、その銅銭が中国と日本、さらに朝鮮やベトナムなどで使われていた歴史をひも解いています。おおよそ、10世紀から18世紀くらいを対象にしていますが、中心は日本でいう室町時代になります。例えば、モンゴル民族による元では、紙幣を好んで銅銭流通が衰えたりします。特に、11世紀になって酸化銅よりも埋蔵量の大きな硫化銅の精錬方法が確立して、銅銭が広く流通するようになります。銅を溶解して仏像にしたり、あるいは、銅銭は劣化しますのでびた銭が流通したりするのは私も知っていましたが、私も知らなかったような歴史的な事実がいっぱいありました。例えば、中国の銅銭のうちのいくつかは私鋳されていたものが少なくないとか、なのですが、経済学的に重要なのは2点読み取りました。第1に、古典派経済学の貨幣ヴェール説は誤りであったことが中世史からも明らかである点です。すなわち、著者はそれほど意識的な記述をしていませんが、貨幣が不足すると明らかに経済が停滞するという現実が読み取れます。第2に、租税を賦課する権力の存在なしに貨幣は自生しうるという歴史があります。この点は著者も気づいていて p.212 に明記しています。少し前に話題になった異端の経済学である現代貨幣理論(MMT)では、貨幣発生ではないとしても、貨幣流通の基礎として租税を賦課する権力の存在を置いていますので、歴史的に興味深い事実かもしれません。

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次に、白井俊『世界の教育はどこへ向かうか』(中公新書)を読みました。著者は、現在は内閣府に出向しているようですが、元をただせば文部科学省でキャリアを始めた現役国家公務員です。グローバル化の進展はともかく、デジタル化によって教育が大きく変化しようとしています。そういった流れに従って、先進各国でも教育改革が進められています。私も教員の端くれですので、今後の教育の方向性などについて情報を得るべく、本書を読んでみました。本書では、序章で日本に限定されない世界における教員不足について概観した後、国連、経済開発協力機構(OECD)、あるいは、ユネスコなどの国際機関での議論を基に、1章から5章に渡って、教育の目指すべきもの、「主体性」とは何か、子供達が身につけるべき「能力」は何か、総合的な教育で目標とされる「探求」の検討、そして、金融教育やプログラミングなどの必要性が指摘される中で何をどこまで学ぶことが必要か、について、それぞれ議論しています。日本では、スキルとか能力、特に、学力の向上が教育に関してクローズアップされ、本来の人間としての目標であるウェルビーイングが教育に関しては等閑視されがちになります。すなわち、「若いころの苦労」のひとつとして教育を受ける苦痛を耐え忍ぶ重要性が強調されたりしますが、どういった過ごし方をするのであれ、教育過程がガマンして耐え忍ぶものであっていいはずはありません。ただ、楽しい教育というのも少し違う気がします。私は大学の教員ですので、義務教育とは違って、必要最低限のリテラシーを身につけるのではなく、必要最低限よりもずっと高い目標を置くべき立場にあると考えています。それには、主体性を持ってさまざまな対象を探求し、結果として、高い職業能力を身につけることができるような教育が理想といえます。はい、そうです。教育は教育そのものとして独立しているわけではありません、人生すべてが学習であるというのはいいとしても、私が勤務する大学をはじめとして、学校における教育は然るべき時期に終了し、学校を終えれば何らかの生産的な活動に従事することを、私は学生諸君と接していて想定しています。経済学的にいえば、何らかの付加価値生産に携わることを私は考えており、単にウェルビーイングを重視するだけならば、何の学びもせずにドーパミンやセロトニンやオキシトシンが出るような教育がいいのかもしれませんが、教育はそれだけではないのだろうと考えています。もちろん、繰り返しになりますが、教育過程がガマンして耐え忍ぶものであっていいはずはありませんが、「楽しく学ぶ」の主たる要素は「学ぶ」ことにあり、「楽しむ」ことが教育の目的ではありません。教育は将来に向けた準備の過程なのです。

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次に、岸俊光『内調』(ちくま新書)を読みました。著者は、毎日新聞ご出身のジャーナリストです。日本のインテリジェンス機構の中核である内調こと、内閣情報調査室の実態を解明し通史を明らかにしようと試みています。この内調の創設以来のキーパーソンとして、初代内閣情報部長の横溝光暉、週刊誌のデスクをしていた際に内閣官房調査室元職員から内部資料を受け取って記事にした吉原公一郎、内閣官房情報室の主幹を務めた志垣民郎の3人の残した資料や証言などから、1936年の内閣情報委員会の創設に始まって、大雑把に1970年安保の終焉や当時の米国ニクソン大統領によるドルの交換停止や中国の承認と国連加盟などに至る1970年代半ばまでを射程に収めています。逆に、最近50年間は本書ではまだ追いきれていません。戦前の情報操作、すなわち、国民世論を戦争へと導く工作から始まって、戦後は冷戦下で情報を収集・分析し国家の行動指針まで練り上げるというインテリジェンス機関としての内調を分析しようと試みていますが、何としても読者に物足りない点が2つあります。まず第1に、公開情報に基づく内調の実態解明ですので、公開されていない部分で内調が何かとんでもないことをやっているんではないか、という疑念は残ります。第2に、第1の点に由来して、内調が情報の収集と分析だけに従事しているのか、それとも、何らかの作戦行動=オペレーションも手がけているのか、という点が不明です。例えば、もう30年以上も前のことながら、私は1990年代前半に在チリ大使館の経済アタッシェをしていましたが、1973年当時のアジェンデ大統領に対するピノチェト将軍のクー・デタには米国のインテリジェンス機関である中央情報局(CIA)が深く関わっていたと多くのチリ人は受け止めていました。最近では、テレビドラマながら「VIVANT」なんて、日本の情報機関がオペレーションを実行するかのごときストーリーも見られました。そのあたりに深く関わると、たぶん、何もいいことがないような気がしますが、だからこそ知りたいというのも理解してほしいところです。最後に、新書としては破格の分厚さです。

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2025年6月 6日 (金)

緩やかな減速を見せる5月の米国雇用統計

日本時間の今夜、米国労働省から5月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は、3月統計の+147千人増から5月統計では+139千人増と小幅な減速を見せ、失業率は前月から横ばいの4.2%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事をコンパクトに4パラ引用だけすると以下の通りです。

May jobs report released: Employers added 139K jobs; unemployment held steady
U.S. payroll growth slowed modestly in May as employers added 139,000 jobs amid uncertainty about President Trump's sweeping import tariffs, federal government layoffs and immigration crackdown.
The unemployment rate held steady at 4.2%, the Labor Department said Friday.
Before the report’s release, economists surveyed by Bloomberg estimated 125,000 jobs were added last month.
Job gains for March and April were revised down by a combined 95,000, portraying a weaker labor market than believed in late winter and early spring. March's total was downgraded from 185,000 to 120,000 and April's from 177,000 to 147,000.

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたのですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、3月の+120千人増から4月には147千人増にやや加速したものの、本日公表された5月統計では+139千人増に減速しました。加えて、前の3-4月の統計が下方修正されており、3月の伸びは+185千人増から+120千人増に、4月も+177千人増から+147千人増にそれぞれ改定されています。雇用統計の観点からは雇用の増加にはブレーキがかかり、トランプ政権の高関税政策とも相まって、景気後退懸念が現実化する可能性が出始めています。ただし、引用した記事にもあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスは+125千人増でしたから、この市場予想からは上振れしていることになります。また、政府雇用は4月統計では+1千人増、5月統計ではとうとう△1千人減となっており、連邦政府職員の減少を反映して、公務員が減少しました。
すでに、広く報じられている通り、1~3月期米国GDPはマイナス成長を記録しています。基本的には、関税引上げを前にした輸入の急増が主因ですが、もしも、トランプ政権の関税引上げ政策が政権の目論見通りに実行されれば、消費者マインドが悪化して、年内に景気後退局面に入る可能性が高まると考えられます。ただし、他方で、関税分が価格に上乗せされればインフレが加速することから、米国金融政策当局である連邦準備制度理事会(FED)による金融政策の舵取りが難しくなっています。

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先行指数が大きく下降した4月の景気動向指数

本日、内閣府から4月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から▲4.2ポイント下降の103.4を示し、CI一致指数も▲0.3ポイント下降の115.5を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから報道を引用すると以下の通りです。

景気一致指数 4月0.3ポイント低下、先行指数はコロナ禍以来の低下幅
内閣府が6日公表した4月の景気動向指数(速報値、2020年=100)によると、足元の景気を示す一致指数は前月比0.3ポイント低下の115.5と2カ月連続でマイナスとなった。先行指数は同4.2ポイント低下の103.4。3カ月連続のマイナスで、低下幅は新型コロナ感染が拡大した2020年4月以来の大きさだった。
一致指数から機械的に決める基調判断は、12カ月連続で「下げ止まりを示している」とした。
一致指数を構成する指標のうち、投資財出荷指数や輸出数量指数、生産指数などがマイナスに寄与した。フラットパネルや半導体製造装置の減少が響いた。輸出は欧州連合(EU)向けが悪化した。
先行指数は、トランプ関税の影響で消費者態度指数や日経商品指数、東証株価指数が悪化したのが響いた。新設住宅着工床面積も省エネ基準厳格化による駆け込み需要が3月に発生した反動で悪化した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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3月統計のCI一致指数は2か月連続の悪化となりました。3か月後方移動平均も2か月ぶりの前月比マイナスを記録した一方で、7か月後方移動平均は9か月連続の上昇で、4月統計では+0.16ポイント改善しています。しかし、統計作成官庁である内閣府では基調判断は、今月も「下げ止まり」で据え置いています。引用した記事にもある通り、昨年2024年5月に変更されてから12か月連続で同じ基調判断の据置きです。なお、細かい点ながら、上方や下方への局面変化は7か月後方移動平均という長めのラグを考慮した判断基準なのですが、改善からの足踏み、あるいは、悪化からの下げ止まりは3か月後方移動平均で判断されます。ただ、「局面変化」は当該月に景気の山や谷があったことを示すわけではなく、景気の山や谷が「それ以前の数か月にあった可能性が高い」ことを示しているに過ぎない、という点は注意が必要です。いずれにせよ、私は従来から、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そう簡単には日本経済が景気後退局面に入ることはないと考えていて、それはそれで正しいと今でも変わりありませんが、米国経済に関する前提が崩れつつある印象で、米国経済が年内にリセッションに入る可能性はかなり高まってきており、日本経済も前後して景気後退に陥る可能性が十分あると考えています。理由は、ほかのエコノミストとたぶん同じでトランプ政権が乱発している関税政策です。関税率引上げによって、米国経済においてインフレの加速と消費者心理の悪化の両面から消費を大きく押し下げる効果が強いと考えています。加えて、日本経済はすでに景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありませんし、多くのエコノミストが円高を展望して待ち望んでいる金融引締めの経済へ影響は明らかにネガであり、引き続き、注視する必要があるのは当然です。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、引用したロイターの記事にもあるように投資財出荷や輸出が下押ししており、投資財出荷指数(除輸送機械)が▲0.41ポイント、輸出数量指数が▲0.21ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)が▲0.18ポイント、生産指数(鉱工業)が▲0.16ポイントなどであり、他方、逆に前月差プラスとなったのは、鉱工業用生産財出荷指数が+0.27ポイント、耐久消費財出荷指数が+0.21ポイント、などでした。ついでに、引用した記事にありますので、前月差▲4.2ポイントと大きく下降したCI先行指数の下げ要因も数字を上げておくと、消費者態度指数が▲1.20ポイント、新設住宅着工床面積が▲1.08ポイント、日経商品指数(42種総合)が▲0.89ポイント、東証株価指数が▲0.63ポイントなどとなっています。

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2025年6月 5日 (木)

来週公表予定の1-3月期GDP統計速報2次QEやいかに?

必要な統計がほぼ出そろって、来週月曜日6月9日に、1~3月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である1~3月期ではなく、足元の4~6月期から先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。ただし、いつものことながら、2次QEは法人企業統計のオマケデリポートされる場合も少なくなく、先行き経済について言及しているシンクタンクは多くありません。例外はみずほリサーチ&テクノロジーズと明治安田総研だけであり、特に前者は詳細に分析していますので長々と引用してあります。いずれにせよ、1次情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE▲0.2%
(▲0.7%)
n.a.
日本総研▲0.2%
(▲0.9%)
今般の法人企業統計などを織り込んで改定される2025年1~3月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資・公共投資ともに下方改定される見込み。この結果、成長率は前期比年率▲0.9%(前期比▲0.2%)と、1次QE(前期比年率▲0.7%、前期比▲0.2%)から小幅に下方改定されると予想。
大和総研▲0.2%
(▲0.8%)
2025年1-3月期のGDP2次速報(6月9日公表予定)では実質 GDP 成長率が前期比年率▲0.8%と、小幅ながら1次速報(同▲0.7%)から下方修正されると予想する。
みずほリサーチ&テクノロジーズ▲0.5%
(▲1.9%)
4~6月期以降の日本経済は、米国のトランプ政権による関税政策を受けて、25%の追加関税が課せられる自動車関連を中心に輸出や設備投資が下振れる公算が大きい。後述するように、4月時点では輸出・生産はトランプ関税による落ち込みは回避されているが、5~6月から7~9月期にかけて徐々に下振れ圧力が高まってくるだろう。当面は食料インフレの継続で、個人消費にも景気の牽引役を期待しにくく、4~6月期の実質GDPについては現時点ではゼロ成長近傍を予測しているが、テクニカルリセッション(2四半期連続のマイナス成長)に陥る可能性も否定できない状況だ。4月景気ウォッチャー調査をみても先行き判断DI(合計)は42.7Pt(前月差▲2.5Pt)に悪化しており、家計・企業ともに低下基調が継続している。家計動向関連では、物価高を受けて個人消費の低迷を懸念するコメントが目立つほか、企業動向関連では、トランプ関税の不透明感が設備投資を抑制する可能性を指摘する意見が散見される状況だ。
足元の個人消費の動向を確認すると、4月の実質小売業販売額は前月比+0.5%と一先ず下げ止まったとはいえ、低調な推移が継続している。5月の消費者態度指数をみても、株価が4月の落ち込みから回復するなど先行き不安が緩和したことから前月差+1.6ptと6カ月ぶりに上昇したものの、食料インフレを受けて暮らし向き等が3月の水準を下回り悪化基調が継続しており、4~6月期の個人消費は低調な推移が予想される。5月の東京都区部の消費者物価をみると生鮮除く食料の価格上昇が全体を押し上げる構図が継続しており、特に米類は前年比+93.7%(コアCPIへの寄与度は+0.46%Pt)と高値が続いている。帝国データバンク「「食品主要195社」価格改定動向調査」をみると、物流費や人件費等の価格転嫁を背景に飲食料品の値上げは2024年を大きく上回るペースで進展しており、米類を中心とした生活必需品の価格高騰が家計の節約志向を強める構図が続くだろう。なお、政府備蓄米の販売開始により家計の負担軽減効果が見込まれるものの、消費者物価の対象品目は単一原料米(コシヒカリorコシヒカリ以外)であり備蓄米を活用したブレンド米は対象外であることから消費者物価の押し下げ効果は限定的なものになる可能性が高い。備蓄米を活用したブレンド米が流通しつつある一方で足元の銘柄米の価格はなお高止まっており、需要シフトによる銘柄米の物価抑制効果は不透明である点に注意する必要がある。
一方、外需については、注目された4月の輸出数量指数(みずほリサーチ&テクノロジーズによる季節調整値)は前月比+0.9%と小幅に増加した。地域別にみると、米国向け輸出は数量ベースでは前月比+3.7%と増加した一方、金額ベースでみると減少しており、日本企業の一部では米関税対応の初動として(輸出数量の減少影響を緩和するため)輸出価格を引き下げる動きが出たとみられる。乗用車の輸出物価をみると、北米以外向けがほぼ横ばいである一方、北米向けは大幅に下落している点が目立つ。4月鉱工業生産をみても前月比▲0.9%と減産幅は小さく、現時点では、実需に合わせ日本企業が(現地販売価格が上がることを回避して)関税負担を負って輸出・生産を行っている可能性が高いと考えられる。しかし、輸出価格低下で関税コスト増をカバーすることは困難であることから、日系自動車メーカーでは6月入荷分からの値上げを決定する動きもみられるなど、現地販売価格の上昇は避けられない(5月のロイター企業調査によれば、トランプ関税による業績悪化懸念への対応として顧客への価格転嫁を挙げる日本企業は5割を超えている)。米国の自動車の在庫月数(3月分)は2か月程度であり、消費者が直面する販売価格が徐々に上昇することに伴う需要減により、先行きの対米輸出は弱含む公算が大きいとみている。一連の関税措置による世界経済の下振れに加え、米国市場から締め出された中国製品との第三国市場等における競争激化も輸出の逆風になるだろう。
ニッセイ基礎研▲0.1%
(▲0.5%)
6/9公表予定の25年1-3月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比▲0.1%(前期比年率▲0.5%)となり、1次速報の前期比▲0.2%(前期比年率▲0.7%)から小幅上方修正されると予想する。
第一生命経済研▲0.2%
(▲0.7%)
2025年1-3期実質GDP(2次速報)を前期比年率▲0.7%(前期比▲0.2%)と、1次速報から変化なしと予想する。設備投資が小幅下方修正されるとみられる一方、公共投資が上方修正されることで相殺される可能性が高い。需要項目別で見ても大きな変更はないとみられ、景気認識に修正をもたらす結果にはならないだろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.2%
(▲0.7%)
2025年1~3月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、1次速報値から微妙に下方修正されるが、全体の伸び率自体は前期比-0.2%(前期比年率換算-0.7%)から修正はない見込みである。このため、「景気は緩やかに持ち直している」との景気判断を修正する必要はないであろう。
三菱総研▲0.1%
(▲0.5%)
2025年1-3月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比▲0.1%(年率▲0.5%)と、1次速報値(同▲0.2%(年率▲0.7%))から小幅上方修正と予測する。
明治安田総研▲0.2%
(▲0.9%)
先行きの日本経済は基本的に緩慢な回復が続くというのがメインシナリオだが、あくまでトランプ政権の経済政策運営次第である。5月12日に米中の追加関税が互いに115%引き下げられたのは朗報だが、トランプ大統領は5月30日に鉄鋼・アルミニウムの関税を25%から50%に引き上げることを表明している。4度に及ぶ日本との交渉もまだ合意には至っておらず、依然として不確実性は高い。日米交渉で関税引き下げなどの進展があれば、景気への下押し圧力はある程度緩和される一方、上手くいかなければ、自動車を中心に生産や輸出の低迷が予想される。先行きが見通せないことから設備投資計画を見直す企業が増えることも考えられ、日本が景気後退に追い込まれる可能性も消えていない。

ということで、先月公表された1次QEから大きな変更はないものと予想されています。伸び率でいえば、2機関が1次QEから変更なく、季節調整済みの系列で前期比▲0.2%減、前期比年率▲0.7%減と見込んでいます。それから、上方改定が2機関、下方改定が4機関となります。ただし、下方改定されるとはいえ、マイナス成長で年率▲1.0%を超えると見込んでいるのはみずほリサーチ&テクノロジーズであり、ほかのシンクタンクでは下方改定されるとしても、1次QEの年率▲0.7%から0.1-0.2%ポイントマイナス幅が拡大するだけと予測しているようです。いずれにせよ、明記しているシンクタンクもありますが、景気判断に大きな変更を加える必要はないものと考えるべきです。また、足元の4~6月期から先行き見通しに関しては、何とも不透明としかいいようがありません。トランプ関税の詳細が未だに明らかではなく、したがって、我が国経済への影響についても測りかねるからです。ただ、現状で考える限り、私も含めた多くのエコノミストのコンセンサスは、今年後半から年末ころ、遅くとも来年早々に、日本経済は米国経済とともに景気後退に入る可能性が十分ある、というものだろうと思います。日米間の景気の山のズレはせいぜい1四半期ではないか、と私は見込んでいます。
最後に、下のグラフは明治安田総研のリポートから引用しています。仕上がりの姿が私の予想ともっともよく一致しています。

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2025年6月 4日 (水)

経済協力開発機構「OECD 経済見通し」OECD Economic Outlook やいかに?

日本時間の昨夜、経済開発協力機構(OECD)から 「OECD経済見通し」OECD Economic Outlook, volume 2025 issue 1OECD Economic Outlook が公表されています。副題は Tackling Uncertainty, Reviving Growth とされています。「不確実性に取り組み、成長を回復させる」といったところでしょうか。pdfの全文リポートもアップロードされています。ヘッドラインとなる世界経済の成長率見通しは、今年2025年が+2.9%、来年2026年も同じく+2.9%と見込まれています。今年2025年3月の最新の見通しでは、2025年+3.1%、2026年+3.0%でしたので、小幅に下方修正されたことになります。こういった国際機関のリポートに注目するのはこの私もブログの大きな特徴のひとつですので、プレスリリース資料からいくつか図表を引用知っつつ、簡単に取り上げおきたいと思います。

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まず、上のテーブルはプレスリリース資料から p.5 GDP growth projections - G20 economies を引用しています。繰り返しになりますが、ヘッドラインとなる世界経済の成長率見通しは、今年2025年が+2.9%、来年2026年も同じく+2.9%と見込まれていて、我が日本は2025年+0.7%、2026年+0.4%と予想されています。米国が2025年+1.6%、2026年+1.5%、そして、ユーロ圏欧州が2025年1.0%、2026年+1.2%ですから、先進国の中でも我が国は低い成長率にとどまるとの見立てです。

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続いて、上のテーブルはプレスリリース資料から p.7 Inflation projections を引用しています。2022年の露によるウクライナ侵攻を契機に始まった現在のインフレも、ようやく、来年2026年になると多くの国の中央銀行がインフレ目標としている+2%近傍にアンカーされるとの予想となっています。ただ、米国だけは2026年になっても+3%に近いインフレ率が見込まれていて、米国連邦準備制度理事会(FED)が金利の本格的な引き下げに舵を切るにはもう少し時間がかかりそうです。

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続いて、上のテーブルはプレスリリース資料から p.9 Further trade fragmentation will harm global growth を引用しています。成長率やインフレの見通しに基づいて、将来リスクをいくつか指摘していて、第1に、上のフラフにあるような通商政策による分断化の進行です。関税率の引上げ、関税政策に伴う家計の予備的貯蓄の増加、金融環境の悪化、そして、商品価格の低下をリスクとして指摘しています。ただ、日本のような資源輸入国では最後の商品価格の低下はむしろ成長促進要因となります。この通商政策リスクに加えて、医療・介護・年金などの社会保障への政府支出圧力の上昇による政府債務のサステイナビリティ、さらに、インフレ抑制のための金融引締めが低所得国の対外支払いを増加させる可能性などをリポートでは指摘しています。

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もちろん、こういった見通しやリスクに対して、貿易障壁の低減や財政のサステイナビリティの確保など、上のスライドにあるような政策対応を促しています。

最後に、こういった概括的な見通しに加えて、第2章では Reigniting investment for more resilient growth と題して、成長促進のための投資の重要性を指摘し、特に、the digital and knowledge-based economy に向けた投資促進の必要性を強調しています。下のグラフはプレスリリース資料から p.20 Investment has shifted towards the digital and knowledge-based economy を引用しています。ICT分野における我が国の投資の立遅れが明確に示されています。投資促進のために幅広いポリシーミックスが必要であるとして、競争促進政策、公共投資の増加、人材不足への対応、などを上げています。日本はどこまで遅れを取り戻せるでしょうか?

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