2022年1月22日 (土)

今週の読書は経済書から仏教思想史まで計4冊!!!

今週の読書感想文は以下の通りです。なぜか、東京大学出版会の学術書が2冊とちくま新書も2冊という計4冊です。小説、特に、ミステリは入っていません。著者・編者は、それなりの知名度の経済学の研究者3人と仏教思想研究の大御所です。深尾京司[編]『サービス産業の生産性と日本経済』(東京大学出版会)では経済産業研究所などで開発されているJIPデータベースについての解説や、このデータを利用した定量分析の結果が示されています。ただ、よく、サービス産業の生産性向上が賃金上昇や日本の成長率の引き上げに必要と主張されますが、短期には疑問があると私は考えています。石見徹『日本経済衰退の構図』(東京大学出版会)では、バブル崩壊後の日本経済の失速について様々な角度から議論されていますが、政策的対応の提示に成功しているかどうかは判断が分かれると思います。原田泰『コロナ政策の費用対効果』(ちくま新書)では、かなり直感的で大雑把ながら一定の利用可能なデータを用いてコロナ対策の費用対効果について定量的な分析場加えられています。最後の木村清孝『教養としての仏教思想史』(ちくま新書)では、タイトル通りに、仏教の思想史が開祖のゴータマから日本近代まで実にわかりやすく、とは言いつつも、それなりの深さを持って展開されています。
今年それから、2022年に入ってからの新刊書読書は、読書感想文ポストのたびに4冊ずつで計12冊となっています。

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まず、深尾京司[編]『サービス産業の生産性と日本経済』(東京大学出版会) です。編者は、一橋大学の研究者です。出版社から見ても、ほぼほぼ完全な学術書と考えるべきです。ということで、2018年に改定されたJIPデータベースの解説をしていて、少しだけ応用研究の成果も収録しています。JIPデータベースとは経済産業研究所(RIETI)で開発されている産業別の基礎データであり、基本的には、産業構造の変化を把握するために雇用者や資本ストックなどの基礎的なデータを収録していますが、かなり詳細かつマニアックと評価する人もいるかもしれません。本書では、データベースそのものや推計方法などを解説しているほか、必ずしもJIPデータベースを使ったものばかりではありませんが、タイトル通りに、サービス産業の生産性分析を中心に議論を展開しています。もっとも、あまり関係のなさそうに見える論文もあります。2010年代以降、我が国ではかなり投資が抑制されていて、原因としては将来成長率の低下などが上げられていますが、JIPデータベースでも投資の伸び悩みは確認されています。他方で、広く論じられているように、我が国では賃金がまったく上昇しなくなってしまっており、賃金にも投資にも企業の資金が向かわず、ひたすら内部留保として溜め込まれている事実が浮き彫りになっっているといえます。サービス産業の生産性に関しては、人工知能(AI)やロボットとと関連する分析も収録されており、もちろん、こういった最先端技術と生産性は正の相関を示しています。医療サービスの質とコストに関しても分析が加えられているほか、物的な資本だけでなく無形資産や時間利用の観点から、家計の余暇活動、また、人的資本という意味では、不妊治療まで含めた議論が本書では展開されています。ただ、いつも感じる点ですが、生産性を論じる場合、今日強雨サイドのみに着目されて、短期の生産性で需要の果たす役割がまったく無視されている気がします。経済学的に重要な意味を持つ全要素生産性(TFP)は残渣でしか計測されませんが、通常の労働生産性であれば需要を雇用者数で割って求められるわけですから、短期に資本ストックが大きな変動なくても需要が動けば変動しますし、事実、日本の労働生産性はほぼ需要とシンクロして変動しています。もちろん、長い目で見れば供給サイドの分析も大いに有用であり、例えば、高度成長期には生産性の高い産業や企業に雇用者が移動することにより、経済全体の生産性が高まるという効果が見られましたが、少なくとも、1990年代初頭のバブル崩壊以降の時期では、雇用者をアウトプットとの比で減少させることにより生産性を高める努力がなされました。典型的には電気産業がそうです。ですから、もう少し本書とは違う視点が必要な気もします。

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次に、石見徹『日本経済衰退の構図』(東京大学出版会) です。著者は、東京大学の名誉教授であり、本来はマルクス主義経済学のエコノミストです。少し前に同じ出版社から荒巻健二『日本経済長期低迷の構造』という本も出ており、私も2019年9月8日付けの読書感想文をポストしています。最後の1文字が少し違うだけで、紛らわしいタイトルであると思いますが、まあ、仕方ないのかもしれません。ということで、マルクス主義経済学のエコノミスト、特に、その主流ですらない宇野派の東大名誉教授のエッセイですので、私には少し難解な部分もありました。基本は、戦後日本経済の発展や成長を支えてきたメカニズムが大いに弱体化している、ということなのだろうと思いますが、労使協調体制なんかは、現在の同盟労働組合のナショナルセンターである連合を見ている限り、労働組合がひどく経営サイドにすり寄っている気がします。その限りでは、労使協調は引き続き堅持されているのですが、労働者にメリットが及ばない形で、別の表現をすれば、労働者の搾取が激化する形で資本主義の延命、というか、日本経済の成長が支えられている気もします。特に、中小企業の淘汰を進めようとしているアトキンソン理論に対して、かなりの程度に同調を感じさせる部分が少なくなく、これでもマルクス主義経済学の立場からの視点といえるのだろうか、と主流派エコノミストの私ですら心配になります。加えて、日本経済の停滞を少子高齢化という人口動態で説明しようとするのは、まあ、流行りですので仕方ない面があるとは思いますが、少子化の原因のひとつに経済的理由による堕胎を合法化した優生保護法の改正に帰着させるのは、何とも私のは言いようのない違和感が残りました。他方で、財政赤字を経済に対するマイナス要因とする見方も、まあ、これ幅広く流布しているので容認するとして、その財政赤字の原因については正確に法人税などの直接税の引き下げと見抜いていたりもします。どこかの大阪のローカル政党のように「身を切る改革」といいつつも、政党交付金や文通費をちゃっかり懐に収めるのとは、さすがに、分析能力が違うと感心しました。日本経済について、いろんな見方を示しているのはいいと思いますが、互いに同じ本の中で矛盾しかねない論点があったりもしますし、必ずしも説得的ではありません。残念ながら、私は本書をそれほど高く評価するのは難しいと感じました。

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次に、原田泰『コロナ政策の費用対効果』(ちくま新書) です。著者は、官庁エコノミスト出身で日銀制作委員も務め、現在は名古屋商科大学の研究者です。というか、私は役所に勤務していたころに何度かこの著者の部下を務めたことがありますが、「日本の実質経済成長率は、なぜ1970年代に屈折したのか」と題する共著論文があるとはいえ、サッパリ評価されていなかったんだろうと思います。ということで、本書では、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染抑制のための措置について5章、経済への悪影響緩和のための措置を2章、計7章に渡ってタイトル通りの費用対効果が可能な範囲で考察されています。ただし、私のしるこの著者の性格と合致して、かなり大雑把な定量評価です。少なくとも確率分布を前提にした数量分析ではありませんから、帰無仮説を検定する形はまったく取られていません。例えば、7.8兆円をかけて3.9万床の病床を確保したのだから1床当たり2億円は高すぎる、といったカンジです。特に、興味深かったのは第3章のPCR検査のシーヤ派とスンナ派というネットスラングを使った対比で、私なども当初から指摘していたように、また、本書でも認めているように、ワクチンや特効薬がない初期の段階では検査を大規模に実施して陽性者を隔離する必要があると考えたのが正しいと結論しています。でも、この著者のひねくれたところで、どうしてそうならなかったのかについて、政治力学的な考察も加えています。コロナ不況を分析した後段では、供給ショックか、需要ショックかについて、かなりあいまいな結論しか導けていません。2020年段階では経済産業省の「通商白書」がかなり早い段階から供給ショック説を取り、内閣府の「経済財政白書」が需要ショックを考慮したのにと対象的でしたが、私は、おそらく、当初は供給ショックだったものが、需要ショックも一部に現れ、つい最近時点での自動車の半導体部品供給不足やマクドナルドのポテトSサイズ限定に見られるような供給ショックでも明らかな通り、基本的には供給ショックがドミナントで、一部に需要ショックも見られる、ということなのだろうと理解しています。ですから、本書でもGoToキャンペーンが否定されているように、需要喚起策は費用対効果が悪い、というか、実施すべきではない、と考えています。まあ、政治力学的にはどこかに利権があるのかもしれませんが、私は首都東京から遠く離れた関西に住んでいて、本書の著者ほどには、そのあたりの情報は持ち合わせません。最後に、本書のp.209に費用対効果を取りまとめた表があります。立ち読みで十分と考える向きには、この一表でかなりの程度に理解が進むものと期待されます。

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最後に、木村清孝『教養としての仏教思想史』(ちくま新書) です。著者は、東京大学名誉教授にして、鶴見大学学長なども務めた仏教研究の大御所です。新書ながら、巻末の略年表や索引まで含めると軽く400ページを超える大作です。もっとも、本書のタイトルである仏教思想史を論じるとすれば、学術書であれば10冊あっても足りないでしょうから、これくらいのコンパクトな新書で大雑把な仏教思想史を概観できるのは有り難いと思います。私自身は仏教とは心理の体型であると考えているのですが、何分、本書のテーマはその思想の歴史です。ですから、開祖のゴータマによる仏教の成立から始まって、私のようなシロートには中国に伝来するまでのチベットや東南アジアでとどまっているところまでの思想史はとても難しかったです。中国に伝来して、例の有名な玄奘三蔵法師あたりから少しずつ実感を持って接することが出来るようになり、そして、何と言っても浄土教系の思想が成立する頃からは、さらに身近な仏教を感じることができました。中国に入った仏教は、「陰陽説の影響を受けてまず業と輪廻の思想一定の変質を遂げ」(p.180)、その後の新仏教の時代が始まります。日本では鎌倉時代の仏教であり、圧倒的に浄土宗と禅宗が重要と私は考えています。もちろん、本書で強調するように、同じ禅宗でしかも時期的にも同じころに日本に伝来された栄西の臨済宗と道元の曹洞宗では大きな違いがあります。国家鎮護的な前者と個人の修行を重視する後者の姿には目を開かされます。浄土宗では、少なくとも法然の浄土宗と親鸞の浄土真宗には、私は大きな違いはないものと考えています。少なくとも在野の檀家にはほぼほぼ差はなく、むしろ、戎を受けるかどうかという点で僧侶の方に違いがあると私は認識しています。とても浩瀚な研究を下敷きにしたであろう本書は、私のような熱心な仏教徒からすればとても勉強になるのですが、唯一物足りなかったのは近代日本の明治期における廃仏毀釈の動きです。ほぼほぼ何も本書は語ってくれません。他の国でも廃仏の動きをした国は少なくなく、現在でもアフガニスタンでは偶像崇拝の一言で人類共通の重要な文化遺産が破壊されたりしています。明治期の日本における廃仏運動について、現在の仏教徒も関係がないわけではありませんから、もう少し言及が欲しかった気がします。

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2022年1月21日 (金)

4か月連続でプラスを記録した消費者物価指数(CPI)上昇率の先行きやいかに?

本日、総務省統計局から昨年2021年12月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+0.5%を記録しています。4か月連続のプラスです。ただし、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は▲0.7%と下落しています。コチラは、2021年4月から9か月連続のマイナスです。逆に、エネルギーを含めたヘッドラインCPIは+0.8%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

21年12月の全国消費者物価、0.5%上昇 上昇は4カ月連続
総務省が21日発表した2021年12月の全国消費者物価指数(CPI、2020年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が100.0と前年同月比0.5%上昇した。上昇は4カ月連続。QUICKがまとめた市場予想の中央値は0.6%上昇だった。
生鮮食品とエネルギーを除く総合のCPIは99.1と、0.7%下落した。生鮮食品を含む総合は0.8%上昇した。
あわせて発表した21年平均のCPIは、生鮮食品を除く総合が99.8となり、20年に比べ0.2%下落した。

いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも+0.6%の予想でしたので、やや下振れたとはいえ、まずまず、予想の範囲内といえます。基本的に、国際商品市況における石油価格の上昇に伴って、ガソリン・灯油などのエネルギー価格が前年同月比で+16.4%の上昇を記録して、ヘッドライン上昇率に対して+1.12%の寄与を示していますので、逆に、マイナス寄与の項目を見ると、通信料(携帯電話)が前年同月比▲53.6%の下落で、▲1.48%の寄与となっています。エネルギー価格の上昇と政策要因に近い携帯電話通信料の下落のバランスで、寄与度だけを見ると携帯電話通信料の方が絶対値で大きいのですが、エネルギー価格の上昇が経済全体に波及して、さらに、人手不足の影響などもあって、プラスという結果となったと私は受け止めています。ただ、別の政策要因というか、何というか、昨年のGoToトラベルによる値引きの反動で、宿泊料が前年同月比+44.0%の上昇を見せ、寄与度も+0.29%あります。
先行きの物価動向を考えると、国際商品市況における石油価格の上昇に加えて、人手不足の影響もあり、国内外の景気回復とともに、物価は緩やかに上昇幅を拡大していくものと私は考えています。例えば、日銀から公表されている企業物価指数の国内物価も、10~12月統計では前年同月比上昇率で+8~9%台に達しています。物価は上昇基調にあると考えるべきです。

我が国のデフレの初期に「悪い物価下落」と「いい物価下落」という二分法が幅を利かせた時期があります。今回も石油価格上昇に伴うコストプッシュのインフレですので、同じような二分法の議論も聞かれます。しかし、適切に賃上げが進めば、我が国にとってはデフレ脱却のチャンスとなる可能性もあることから、決して悲観的に考える必要はないと私は受け止めています。

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2022年1月20日 (木)

5か月連続で貿易赤字を記録した貿易統計から何を読み取るべきか?

本日、財務省から昨年2021年12月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列で見て、輸出額が前年同月比+17.5%増の7兆8814億円、輸入額も+41.1%増の8兆4638億円、差引き貿易収支は▲5824億円となり、5か月連続で貿易赤字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインについて報じた記事を手短に引用すると以下の通りです。

21年12月の貿易収支、5824億円の赤字
財務省が20日発表した2021年12月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は5824億円の赤字だった。赤字は5カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は7840億円の赤字だった。
輸出額は前年同月比17.5%増の7兆8814億円、輸入額は41.1%増の8兆4638億円だった。中国向け輸出額は10.8%増、輸入額は20.5%増だった。

いつもながら、コンパクトかつ包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、貿易黒字が+8000億円弱でしたので、実績の▲5824億円の赤字は、予想レンジの上限である▲6229億円を超えて、貿易赤字は赤字ながら小幅にとどまった、という印象です。季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は5か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列の貿易赤字は今年2021年5月から始まっていて、したがって、8か月連続となります。輸出入に分けて見ると、季節調整していない原系列のデータでも、季節調整済みの系列でも、輸出入とも増加のトレンドにあり、いずれも2020年初頭の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミック前の水準を超える勢いです。足元では、半導体などの部品の供給制約から脱しつつある自動車生産の回復に伴って輸出が増加する一方で、輸入では国際商品市況における石油をはじめとする資源価格の上昇が我が国輸入額の押上げに寄与していることは明らかです。
12月の貿易統計を輸出入別に少し詳しく見ると、輸出については輸出全体では前年同月比で+17.5%増と回復を示しています。我が国の主力輸出品である自動車が半導体などの部品供給の制約から出しつつあり、1兆1030億円、+17.5%増と伸びを高めています。自動車以外にも、我が国の主要輸出品である一般機械が1兆5654億円、+17.6%増、電気機器も1兆4629億円、+14.9%増を記録しています。現在のオミクロン型の変異株によるCOVID-19パンデミックの影響は何とも計り知れませんが、足元では我が国のリーディング・インダストリーは輸出を伸ばしているといえそうです。輸出を全体としてみれば、主として先進国の景気回復に従って我が国の輸出は今後とも増加基調を続けるものと私は予想しています。ただし、先進国ではなく中国向け輸出についてはやや注意が必要かもしれません。すなわち、1月に公表されたOECD先行指標(CLI)では、"China: Growth losing momentum" と指摘されており、私の計算でも、中国の国別の先行指標が前年同月比で見て昨年2021年10月からマイナスを示していて、少しずつながらそのマイナス幅が拡大しています。まったくタイミングを同じくして、我が国の輸出数量指数の前年同月比も昨年2021年10月から12月までマイナスを続けています。中国経済については、先行きの動向が注目されるところです。輸入については、原油及び粗油の12月の輸入額は8675億円と前年同月比で+116.6%の大きな増加を記録しています。ただし、数量ベースでは+7.1%増にとどまっていますので、増加の圧倒的な要因は価格ということになります。繰り返しになりますが、国際商品市況で石油価格が大きく上昇していますから、それほど価格弾力性が大きくないとはいえ、我が国の輸入額を大きく押し上げています。我が国の輸入合計の前年同月比伸び率は12月の貿易統計で+41.1%増でしたが、原油及び粗油以外の液化天然ガスなども含めて、鉱物性燃料の寄与度がほぼ半分の+20.1%を占めています。ただ、従来から主張しているように、私は必要な財貨・サービスは輸入をケチるべきではないと考えています。5か月連続の貿易赤字を批判するオピニオンリーダーがいるかも知れませんが、私はエコノミストとして貿易赤字を「悪いこと」だとは考えていません。例えば、12月統計の輸入では半導体等電子部品の輸入額が3569億円、+70.5%増となっていますが、これは自動車の生産、ひいては輸出に必要な部品の輸入ですから、輸入すべきは輸入すればいいと考えています。

繰り返しになりますが、貿易、特に、輸出の先行きについては、世界経済の回復とともに緩やかに回復するものと見込んでいます。ただし、オミクロン型の変異株をはじめとする新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大がどこまで広がるのか、また、パンデミックの経済的な影響も含めて、それほどの見識を有しているわけではありません。このあたりはエコノミストの守備範囲を超えていると諦めています。マクドナルドのポテトの大きなサイズはいつになったら提供できるのでしょうか?

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2022年1月19日 (水)

グレート・ギャッツビー曲線と日本の親ガチャの現状やいかに?

グレート・ギャッツビー曲線というのがあります。横軸に不平等をジニ係数で取って、縦軸に世代間の所得の移動可能性の低さを取ってプロットします。カナダのオタワ大学のCorak教授が最初に提唱したのだと思いますが、そのCorak教授が開設している Economics for public policy のサイトから引用すると以下のグラフです。

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博士前期課程の大学院生を対象にした今学期の経済政策の授業で、私は教育政策を取り上げて、その参考としてこのグレート・ギャッツビー曲線についても簡単に解説しておきました。こういった所得格差、あるいは、貧困を世代間で継承してしまわないために教育が重要です、というわけです。その際には、このCorak教授のグラフではなく、まあ、何と言いましょうかで、より広く知れ渡っている米国大統領経済諮問委員会による「大統領経済報告2012」の p.177 Figure 6-7 The Great Gatsby Curve: Inequality and Intergenerational Mobility を示しておきました。国のカバレッジが少し違いますし、ベース年が違うかもしれませんが、基本的に同じです。すなわち、ジニ係数で代理した所得の不平等の度合いの高さと、世代をまたいだ不平等や貧困の継承のされにくさ、の間には正の相関がある、という結論です。どちらが原因で、どちらが結果かについては問いませんが、通常の高校で習う関数型である y=f(x) の即していえば、横軸の所得の不平等が縦軸の世代間の移動性を決めている、と暗黙裡に考えられています。上のグラフでいえば、左下にある日本は、ドイツや北欧諸国などとともに、所得の不平等の度合いが低くて、同時に、世代間での移動性も高い、といえます。そして、赤いラインに沿って右上に行くほど、所得が不平等で、それが世代をまたいで継承=「相続」されてしまう、ということになります。
振り返って、ホントに日本はそうか、というと、昨年2021年の新語・流行語大賞のトップテンに「親ガチャ」が入っています。「ガチャガチャで出てくるアイテムのように親を自分で選べないことで、親が当たりだったりはずれだったりすることをひと言で表現したことば」と説明されています。誰かがツイッタでつぶやいていたのですが、中央教育審議会初等中等教育分科会(第134回)会議資料の中で、資料3 東京大学大学院教授 中村先生・早稲田大学准教授 松岡先生・オックスフォード大学教授 苅谷先生発表資料がまさに、親ガチャでいっぱいです。資料のタイトルは「臨時休業時における児童生徒・保護者の対応 -家庭・学校間の格差に注目して-」となっていて、家庭を「両親とも大卒」、「両親いずれか大卒」、「両親とも非大卒」、「シングルマザー大卒」、「シングルマザー非大卒」、「シングルファーザー」と「その他」の7つのカテゴリーに分類し、休校期間中の学習状況や休校期間中の学習形態などが分析されています。結論として最終ページの分析結果のまとめでは、「宿題や何をすべきか明確な枠付けをしているプリント学習では、相対的に差は目立たなくなる」一方で、「非大卒層の子供が特に家庭学習上の課題を抱えている傾向」があり、「休校期間中の家庭学習にも家庭間格差が連動」している、と指摘されています。諸外国と比較すれば、日本はグレート・ギャッツビー曲線の左下に位置するのかもしれませんが、それでも、家庭間格差は教育にも反映されることから、世代をまたいで継承されてしまう面が決して小さくない、と私は受止めました。

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2022年1月18日 (火)

日銀「展望リポート」の物価に関するリスクは上下にバランスと評価!!!

昨日から開催されていた日銀金融政策決定会合が終了し、「展望リポート」が公表されています。報道などでは、気候変動対応の新制度が注目されていますが、金融政策決定会合の本旨である金融政策では、短期金利を▲0.1%、長期金利の指標になる10年物国債利回りを0%程度に誘導する長短金利操作=イールドカーブ・コントロールの維持を決定しています。加えて、私は経済見通しにより興味があります。ということで、2021~2023年度の政策委員の大勢見通しのテーブルを引用すると以下の通りです。なお、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で、引用元である日銀の「展望リポート」からお願いします。

  実質GDP消費者物価指数
(除く生鮮食品)
 2021年度+2.7 ~ +2.9
<+2.8>
0.0 ~ +0.1
< 0.0>
 10月時点の見通し+3.0 ~ +3.6
<+3.4>
0.0 ~ +0.2
< 0.0>
 2022年度+3.3 ~ +4.1
<+3.8>
+1.0 ~ +1.2
<+1.1>
 10月時点の見通し+2.7 ~ +3.0
<+2.9>
+0.8 ~ +1.0
<+0.9>
 2023年度+1.0 ~ +1.4
<+1.1>
+1.0 ~ +1.3
<+1.1>
 10月時点の見通し+1.2 ~ +1.4
<+1.3>
+0.9 ~ +1.2
<+1.0>

見れば明らかな通り、足元の2021年度については成長率見通しも、物価見通しも、小幅ながら引き下げられています。この背景には、足元での新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン変異株の感染拡大の経済的な負の効果がある一方で、海外、というか、国際商品市況における石油などの資源価格の上昇があります。日銀が公表している企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価上昇率が2021年11~12月の統計では+10%近い上昇を記録していることは広く報じられている通りです。来年度2022年度になれば、消費者物価指数(CPI)への波及も起こることから、生鮮食品を除くコアCPIも一定の上昇率に達すると見込まれています。いつも、このブログで指摘してるように、金融政策よりも資源価格の方が国内物価への影響が大きいわけですから、金融政策当局の舵取りもタイヘンです。また、政策委員の経済・物価見通しとリスク評価のグラフを引用すると以下の通りであり、少し前までリスクは下方にあったように記憶していますが、昨年半ばからは、ほぼほぼリスクはニュートラルといえます。「展望リポート」でも、物価見通しについて、これまで「下振れリスクの方が大きい」としていたのですが、本日公表のリポートから「概ね上下にバランスしている」と修正しています。ついつい、見通しに注意を向けがちなのですが、こういったリスク評価も私は重要だと考えています。

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私自身も、先行き経済や物価の見通しについては、基本的に、日銀と同じ方向感覚を共有しており、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響が終息すれば、所得と需要の好循環が復活する可能性が十分あると考えています。しかし、最大のリスクは政府要因です。すなわち、大前提となるコロナ終息なんですが、コロナ終息の意思も能力もまったくなかった前政権よりは、現在の岸田内閣は少しマシではないかと期待するものの、3回目のブースター接種が先進各国の中で大幅に遅れているわけですし、すべからく、いろんな経済見通しがCOVID-19次第となっているので、何とも不透明です。

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2022年1月17日 (月)

基調判断が上方修正された12月統計の機械受注の先行きをどう見るか?

本日、内閣府から昨年2021年11月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+3.4%増の9003億円となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインについて報じた記事を手短に引用すると以下の通りです。

21年11月の機械受注、前月比3.4%増 市場予想は1.4%増
内閣府が17日発表した2021年11月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比3.4%増の9003億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1.4%増だった。
製造業は12.9%増、非製造業は0.8%減だった。前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は11.6%増だった。内閣府は基調判断を「持ち直しの動きがみられる」とした。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入されて設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。

コンパクトながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事には「QUICKがまとめた民間予測の中央値は1.4%増だった」とありますが、私の確認したところでは、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て、前月比で+1.3%の増加の見通しでした。従って、実績の+3.4%増は、レンジの上限の+6.8%増の範囲内とはいえ、かなり上振れた印象があります。それもあって、また、季節調整済みの前月比増減で見て、昨年2021年8月統計では▲2.4%減、9月▲0.0%減から、10月統計で+3.8%増、そして本日公表の11月統計で+3.4%増ですから、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を昨年2021年10月の「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から、11月統計では「持ち直しの動きがみられる」に半ノッチ上方改定しています。伸び率だけではなく、コア機械受注の水準も9003億円と、2019年11月の9102億円以来の受注額であり、2年ぶりにコロナ以前の受注水準に戻ったといえます。ただし、多少なりとも、海外からの外需の受注のある製造業と国内景気に依存する割合の高い非製造業で違いが際立っており、製造業が前月比+12.9%増であるのに対して、非製造業は▲0.8%減を記録しています。もっとも、これは10月統計の製造業▲15.4%減、非製造業+16.5%増の反動という面もあります。特に、非製造業のうちの運輸業・郵便業が10月統計で+170.1%の大きな増加を示した後、11月統計ではその反動もあって▲58.6%減となった影響が大きく現れています。

すべての経済の先行きは新型コロナウィルス感染症(COVID-19)、特にオミクロン変異株の動向次第なのですが、先行指標である機械受注に現れる設備投資の動向については、私は世界経済や日本経済の拡大に従って、緩やかな回復基調に向かうものと考えています。ただ、繰り返しになりますが、コロナ次第である点は注意が必要です。

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2022年1月16日 (日)

大学入学共通テストが取りあえず終わる!!!

大学入学共通テストが、取りあえず、終わりました。
昨日、東大の近くで受験生などを切りつける殺人未遂事件が発生し、広く報じられたところです。私も入試の関係で、今日はキャンパスに出勤しましたが、昨日を知らないので何とも言えないながら、我が大学でも、それなりの警備強化がなされていたのかもしれません。
大学入学共通テストに関しては、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の関係で追試なども予定されており、追試も受けられなかった受験生のためには幅広い救済策が用意されているようで、すべての大学入学共通テストが終わったわけではありませんが、ひとまず一段落といった受験生も少なくないものと思います。

まだ、個別大学の入試があるとはいえ、
がんばれ受験生!

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2022年1月15日 (土)

今週の読書は経済書を中心にミステリも入れて計4冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、ハンナ・フライ『アルゴリズムの時代』(文藝春秋)、竹信三恵子『賃金破壊』(旬報社)、グイド・キャラブレイジ『法と経済学の未来』(弘文堂)、M.W.クレイヴン『ブラックサマーの殺人』(ハヤカワ・ミステリ文庫) の計4冊です。『アルゴリズムの時代』はアマゾンのリコメンデーションなどで我々も広く接するようになったアルゴリズムについて、数学者としてかなり客観的な議論を展開しています。『賃金破壊』は賃金を支える組合運動の重要性に焦点を当てていますが、特に、警察や検察による関西生コンの労働組合弾圧の実情が詳しく紹介されています。衝撃的です。M.W.クレイヴン『ブラックサマーの殺人』(ハヤカワ・ミステリ文庫)はワシントン・ポーのシリーズ第2弾で、とても複雑なサイコパスによる犯罪偽装を主人公のチームが謎解きします。なお、今年に入って、これまでのところ、新刊書読書はわずかに8冊にとどまっています。大学の授業がそろそろ終わって、リポートなどの採点はあるものの、時間的な余裕が出来ればもう少しピッチを上げて読書したいと考えています。

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まず、ハンナ・フライ『アルゴリズムの時代』(文藝春秋) です。著者は、英国の数学の研究者です。英語の原題は Hello World であり、2018年の出版です。タイトル通りに、データ処理のアルゴリズムについて豊富な実例を上げつつ論じています。章構成が奮っていて、影響力、データ、正義、医療、クルマ、犯罪、芸術の7章構成です。特に、驚いたのは、米国では裁判の量刑判断にアルゴリズムを使う場合があるようで、そこまで出来るのか、というのは初めて知りました。実際の実用可能性もさることながら、社会的な許容度も日本とは違うのだろうという気がします。なお、厳密に言えば、AIとアルゴリズムは違うのかもしれませんが、本書を読んだ印象では、かなり近いという気がします。すなわち、AIにせよ、アルゴリズムにせよ、私は確率計算であって、もっとも確率のいい方法を選ぶ、ということなんだろうと思います。ですから、本書でも指摘されているように、エラーは2通りあって、偽を真と間違う場合と、真を偽と間違う場合です。コロナ検査を例に持ち出すと、陽性なのに陰性と判定してしまうエラー1と陰性なのに陽性と判定してしまうエラー2です。医療などでは、このコロナの検査のケースなどでは、エラー1の方が潜在的なリスクが大きく、エラー2の方が許容範囲が大きいといえます。ですから、医療では、末期ガンの患者には残りの人生を短めに告知するバイアスがあると広く考えられていたりするわけです。ただし、そういったバイアスはヒトが主体的に行っているわけで、アルゴリズムが確率的に中立な回答をすれば、かなり世の中の受止めも変化する可能性があります。さらに、こういった社会的な許容度に関しては分野も大いに関係します。戦略の選択、例えば、野球で強硬策かバントで手堅く送るか、といった判断にアルゴリズムを使うことに対しては、ほとんど社会的な批判は生じないと考えられて許容度が高いのに対して、先ほどの例のように、刑事裁判の量刑や民事裁判の賠償額にアルゴリズムを適用することに対しては慎重な意見が多く出そうな気もします。ただ、そうはいいつつも、人間、というか、医師や裁判官といった専門家が判断するよりも、アルゴリズムに判断を委ねる比率が上昇する傾向にあることは確かでしょうし、本書のような観点から、そのアルゴリズムの特徴や欠陥や利点を知っておく必要はますます大きくなりそうです。

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次に、竹信三恵子『賃金破壊』(旬報社) です。著者は、ジャーナリスト出身の研究者ですが、本書の立ち位置はジャーナリストと考えていいのではないでしょうか。ですから、タイトルに見られるように研究者として賃金を主に論じているわけではなく、賃金を支える基盤としての労働組合をジャーナリストの視点から議論しています。そして、インタビュー先の労働組合とは産別の関西生コンです。私も東京にいる間はまったく知識が乏しかったのですが、関西に来て私大の教員となった後、同僚教員にも支援している人がいると知り、それなりに知識が蓄えられてきましたが、本書が指摘するように、まだまだ間違った見方も少なくないのではないかと思います。しかも、そういった謬見に基づいて警察や検察が、意図的かどうかは別にして、労働組合に対して敵対するような捜査活動をしている点は、本書で積極的に明らかにされています。そして、私の読後感でも、警察や検察は、おそらく、意図的に労働組合運動に対して敵対している可能性が高い、という気がしています。私の研究者としての見方からすれば、労働組合は賃金上昇の強力なテコであり、我が国で賃金が下がり続けているひとつの要因としての組織率の低下や労働組合の右傾化があります。組織率の低下は今さら論ずるまでもありませんし、最近、連合がナショナルセンターとして立憲民主党に対して昨年の総選挙結果に照らして共産党との決別を迫るなど、労働組合とは思えない、まるでどこかの与党別働隊の大阪ローカル政党のような方向性を打ち出した点など、ひどい有様です。もう10年ほど前の学術論文ですが、Galí, Jorge (2011) "The Return of the Wage Phillips Curve," Journal of the European Economic Association 9(3), June 2011, pp.436-61 においても、賃金への説明変数として労働組合の要因が正の相関関係を持って関数に入っていたりします。本書で指摘するように、公権力が労働組合運動を弾圧する日本というのは、私には信じられませんでしたが、こんな国では賃金が上がらないわけだと納得させられるものがありました。多くの人が本書を手に取って読むことを願っています。

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次に、グイド・キャラブレイジ『法と経済学の未来』(弘文堂) です。著者は、もうすでに引退した年齢ながら米国イェール大学ロースクールの研究者であり、法と経済学の学祭分野の大御所です。英語の原題は The Future of Law and Economics であり、2016年の出版です。本書ではマスグレイブ教授などの指摘するメリット財を中心に議論しています。ただ、我が国経済学界ではメリット財よりも「価値財」と呼ぶ方が一般的な気もします。もっとも、法学界は違うのかもしれません。マスグレイブ教授は著名な財政学や公共経済学の研究者でしたが、いわゆる消費の非競合性や非排除性を有する公共財と少し違って、価値財=メリット財はある個人が消費すれば、社会的な利益が他の人にも及ぶ財のことです。本書では徴兵や兵役を例に上げています。現時点での日本にはコロナのワクチン接種がある程度当てはまると考えます。ある個人がワクチンを摂取すれば、コロナに感染しにくくなって社会的な利益につながるからです。こういった価値財=メリット財は通常の市場において個々人の購買力に応じた資源配分をすることが適当ではないと考えられます。例えば、ゲームソフトであれば、お金持ちがいっぱい持っていても許容されるのでしょうが、お金持ちだけが何度もワクチン接種を受けられる一方で、経済的な余裕ない人はワクチン接種も十分に受けられない、というのは、社会的に許容されないだろうと考えられます。本書の例では、徴兵、というか、お金持ちがその経済力でもって兵役を逃れるのは社会的に疑問であるとしています。こういった価値財は、通常の財と同じで、基本的に多ければ多いほどいいのですが、その天井が通常の財よりもかなり低いと考えるべきです。まあ、ビールを何十リットルも飲めるわけではありませんが、ビールであれば「多々益々弁ず」の世界ですが、ワクチンでは回数を多く打てば青天井にそれだけ有効性が高まる、というものでもなく、上限値はそれほど高くないと考えられます。ですから、他方で、分配というものが重要になります。通常、エコノミストは一般財であれ、価値財=メリット財であれ、多ければ多いほど好ましく、他方で、分配が平等に近いほど好ましい、と考えます。ただ、それは、特に価値財=メリット財の場合は市場において達成されないわけですから、法律による強制を含めて考慮する必要がある、というわけです。経済学的には、私の専門とするマクロ経済学ではなく、もろにミクロ経済学的な分野なので、私も十分に理解できたわけではないかもしれませんが、新自由主義的な経済政策の下で格差が大きく拡大した日本でも、本書で展開されているような議論が必要となるような気がします。

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最後に、M.W.クレイヴン『ブラックサマーの殺人』(ハヤカワ・ミステリ文庫) です。著者は、英国のミステリ作家です。刑事ワシントン・ポーのシリーズ第2作であり、英語の原題は Black Summer であり、これは地名です。原作は2019年の出版です。私はシリーズ第1作の『ストーンサークルの殺人』も読んでいて、昨年2021年9月25日付けの読書感想文で取り上げています。本日着目するシリーズ第2作も、第2作と同じでとっても手が込んでいます。相変わらず、主人公のポーを分析巻のティリー・ブラッドショーとポーの上司のステファニー・フリン警部がサポートする、という作品です。さらに、本作品から病理医のエステル・ドイル医師も加わって、ポーの援護陣が手厚くなっています。それというのも、主人公のポーの危機が前作よりもさらに深刻化して、とうとう殺人犯として指名手配されてしまったからです。事件は、数年前にポーが解決に努力した殺人事件、ミシュランで3ツ星を取った英国のカリスマ・シェフがじつの娘を殺害したとされる事件で、その被害者が警察に出頭した、というか、正確には図書館に駐在している警察官のところに来た、ということから始まります。裁判でも殺人者と断定されたカリスマ・シェフはポーから見れば明らかなサイコパスなんですが、そのサイコパスは当然のように冤罪を主張しますし、加えて、地元警察のエリート警察官からも冤罪の原因を作った犯罪者のようにみなされて、ポーが地元警察から必要な捜査支援も得られず、それどころか、指名手配されて身動きができなくなりながらも、キチンと事件を解決する、というストーリーです。極めて複雑なプロットで、実際にはありえないタイプの犯罪だろうとは思いますが、それもまたミステリ小説の楽しみです。

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2022年1月14日 (金)

企業物価指数(PPI)の上昇はいつまで続くのか?

本日、日銀から昨年2021年12月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は+8.5%まで上昇幅が拡大しました。まず、日経新聞のサイトから記事をやや長めに引用すると以下の通りです。

12月の企業物価、8.5%上昇 1980年以来の高水準続く
日銀が14日発表した2021年12月の企業物価指数は前年同月比で8.5%上昇した。伸び率は11月の9.2%から小幅に鈍化したものの、オイルショックの影響があった1980年12月(10.4%)以来の歴史的な高水準で推移している。原油など資源価格の高騰や円安で原材料にかかる輸入品の値上がりが顕著だ。新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」の影響で供給制約が長引けば、物価上昇圧力をさらに強める可能性もある。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。QUICKがまとめた市場予測の中心値(8.8%)を下回った。21年春以降は物価上昇のペースが加速し、前年を上回るのは10カ月連続だ。11月の伸び率は速報値の9.0%から9.2%に上方修正された。21年(暦年)の企業物価指数は前年比4.8%上昇し、日銀の長期データによると80年(15.0%)以来の高水準となった。
21年12月の指数を品目別にみると、ガソリンや灯油などの石油・石炭製品、木材・木製品、鉄鋼の上昇が目立った。特に木材・木製品の上昇率は前年同月比で61.3%、石油・石炭製品は36.6%と2桁台の大幅な伸びが続いた。原油先物相場は12月に一服したものの高水準で推移しており、鉄鋼や電力・都市ガスなどでも資源価格の上昇を転嫁する動きが広がる。
円安の影響も大きい。輸入物価の上昇率は円ベースで41.9%と2カ月連続で40%を超え、80年6月(46.6%)以来の高い水準が続く。ドルなどの契約通貨ベースでは33.3%の上昇で、円換算した輸入品の値上がりが顕著になっている。輸出物価は円ベースで13.5%の上昇だった。
日銀が公表している744品目のうち、前年同月比で上昇したのは487品目と全体の65%を占めた。下落の179品目を大幅に上回った。物価上昇の波は家計への影響が大きい飲食料品など幅広い分野に広がってきている。
自動車産業などではコロナ禍で強まっていた部品調達の供給制約が次第に解消されつつある。ただ、足元では新たな変異型「オミクロン型」の流行が国内外に広がり、再び供給制約の影響が強まる恐れもある。国内経済のけん引役である輸出や生産の回復に水を差しかねず、原材料コストの上昇だけが先行すれば企業収益を圧迫する懸念もある。

とてもコンパクトに取りまとめられています。続いて、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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このところ、欧米をはじめとして世界的にはインフレが高まっています。米国では昨年2021年12月の消費者物価上昇率が+7.0%に達した、と昨日の日経新聞の記事で見たばかりだったりしますし、日本ではまだまだ本格的にデフレから脱却した、とまでは言い切れない物価状況ながら、消費者物価指数(CPI)で見ても、本日公表の企業物価指数(PPI)で見ても、いずれも、足元で物価が下げ止まり、ないし、上昇しつつあると私は評価しています。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスではPPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比で+8.8%の上昇と予想されていましたから、実績の+8.5%にほぼジャストミートしています。要因は主として2点あり、いずれもコストプッシュです。すなわち、国際商品市況の石油価格をはじめとする資源価格の上昇、さらに、オミクロン型の変異株を含む新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による供給制約です。とはいえ、あくまで我が国に限った考えかもしれませんが、物価の上昇そのものは本格的なデフレ脱却には好条件を提供している可能性があります。コストプッシュなのですから、粛々と製品価格に転嫁する企業行動がデフレ脱却につながる可能性です。もっとも、日本では企業規模格差に伴って、下請中小企業が大企業に対して価格引上げを要求しにくいという面は無視できませんし、合わせて、国際商品市況における資源価格の動きが一巡すれば上昇率で計測した物価も元に戻ることは覚悟せねばなりません。
ということで、国内物価について品目別で前年同月比を少し詳しく見ると、木材・木製品が+61.3%、石油・石炭製品が+36.6%、非鉄金属が+26.9%、鉄鋼+25.5%、化学製品+13.5%までが2ケタ上昇となっています。ただし、これら品目の価格上昇の背景にある原油価格について、企業物価指数(PPI)の中の輸入物価の円建て指数で見ると、昨年2021年11月の143.0をピークに、12月には141.7に小幅ながら低下しています。前年同月比上昇率で見ても、11月+116.0%、12月+100.4%と上昇率がホンの少しながら落ちているのも事実です。私はこの方面に詳しくないものですから、いつものように、日本総研のリポート「原油市場展望」とか、みずほ証券のリポート「マーケット・フォーカス」とかを見ているんですが、石油価格は高値圏での推移が見込まれているようです。もちろん、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のオミクロン型変異株の感染拡大次第ではありますが、前年同月比上昇率で見ればピークアウトに向かっている動きに大きな変わりはない可能性が大きい、と私は楽観しています。ただ、石油価格は伝統的に米ドル建ての取引であり、石油価格の上昇が米国のインフレ、すなわち、米ドルの貨幣価値の低下を招けば、それがまた、石油価格の上昇につながる、という形でインフレ・スパイラルを生じる可能性には注意が必要かもしれません。

問題は今日発表された企業物価指数(PPI)の上昇が消費者物価(CPI)に波及した場合の対応です。例えば、ということで、国民生活が苦しくなるのを無視して、政府や労働組合が企業のコストアップに対応するために賃金抑制に協力するがごとき対応をするなら、日本では本格的なデフレ脱却が遠のくことになります。企業がコストアップを製品価格に転嫁するのであれば、労働者の側でもそれに見合う賃金上昇を要求すべきです。そして、国民の中の物価に対する期待を変化させることができれば、日本経済はさらに本格的なデフレ脱却に近づくと私は考えています。

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2022年1月13日 (木)

クラウドファンディングで購入したオフィスチェアが届く!!!

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先日、クラウドファンディングで購入したオフィスチェアが届いて組立てを終え、本格的に使い始めています。上の写真の通りです。
何ら宣伝をするような意図はありませんが、客観的な事実として、Makuakeのサイトで募集されていたCOFO Chairです。500,000円の目標金額に対して、3,337人がサポートして233,192,600円を集めたようです。私も昨秋に応援購入し、新年早々に届きました。グレードが2段階あって、私はお安い方のProですから、高級な方のPremiumとは機能的に見劣りしますが、まあ、高級品が10万円弱、私の買った普及品が5万円弱の定価ですから、こんなもんだという気はします。割合と早くに目をつけていたので、それなりのディスカウント率で購入できました。
前の長崎大学ではイスやソファを研究費で買えたのですが、現在勤務する大学では、イスや机については支給品扱いとなっています。すなわち、研究費で購入することは認められていません。特に、私が買ったのは「リラクゼーション分野のテクノロジーを追求する」と自称する企業の製品ですので、作業効率よりはお昼寝に適しているようにすら見受けられ、研究費で購入するのは少しははばかられるかもしれません。ただし、パソコンほどではないとしても、オフィスチェアは大学教員にとって極めて重要な「商売道具」であることは明らかです。机よりはイスの方が重要性高いのは多くの教員が同意するものと思います。ですから、同僚教員の中にも何人か自費でイスを購入している人もいます。私が今回購入したイスの5倍を越える高級品を自慢する教員もいました。

イスの場合は耐久性が問題ですので、現時点で評価するのはややリスクが高い気もしますが、たしかに「リラクゼーション分野のテクノロジーを追求する」雰囲気は理解できます。来週で本年度下期の授業は終了です。来年度が明けるまで、しばらく、リフレッシュとリラクゼーションしたいと思います。

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