2022年9月24日 (土)

今週の読書は経済所や歴史書をはじめとして計5冊!!!

今週の読書感想文は以下の通り、経済書、歴史書、教養書と新書の計4冊です。ややボリュームのある本が多かった気がします。ただし、いわゆるシルバー・ウィークでお休みが多かったので、新刊書読書だけでなく文庫本も何冊か読んでいて、葉室麟「いのちなりけり」のシリーズ、すなわち、『いのちなりけり』、『花や散るらん』、『影ぞ恋しき』上下を再読していたりします。
なお、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、7~8月で45冊、先週までの9月で16冊、今週が5冊ですので、今年に入ってから172冊となりました。

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まず、河野龍太郎『成長の臨界』(慶應義塾大学出版会)です。著者は、BNPパリバ証券のチーフエコノミストです。とても包括的に金融と経済について論じています。出版社から受ける印象ほど学術書ではありません。一般のビジネスパーソンでも十分読みこなせると思います。著者は、日銀の異次元緩和をはじめとする金融緩和の継続に疑問を呈したり、あるいは、財政では赤字財政を批判して財政再建を目指すべき議論を提起したりと、アベノミクスにはかなり批判的な意見を持っていたエコノミストであり、本書でも同様の議論が展開されています。特に、星・カシャップのラインに沿って、緩和的な金融制作や財政政策が日本のように長期にわたって継続されると、というか、正確には完全雇用を超えて緩和策が継続されると、本来は市場から淘汰されるべき企業がゾンビのように生き残ってしまったり、あるいは、企業単位でなくても本来は採算性の高くない設備投資が実行されたりして、逆に、生産性に悪影響を及ぼして不況が長引く可能性を指摘しています。ですから、日本経済の現状を人で手不足で完全雇用を達成している状態と考えていて、この状態ではむしろ構造政策により生産性を引き上げるべき、との見方が示されています。完全雇用なのに賃金が上がらない理由についてはやや根拠薄弱です。また、利子所得のために金利引上げなども志向しています。私も判らなくもないのですが、明らかにバックグラウンドとなるモデルに混乱を生じている気がします。例えば、自然利子率と潜在成長率の議論が少し判りにくかったりします。加えて、というか、何というか、政策提言がややアサッテの方向になってしまっています。すなわち、3年ごとに社会保障負担を減らすのと同時に消費税を+0.5%ポイントずつ引き上げる、というのが目を引く政策となっています。ゾンビ仮説に立つのであれば金利引上げも選択肢になりそうな気がするのですが、さすがに、日本経済の現状を考慮すれば現実的ではない、ということなのでしょう。そして、経済が停滞しているのは企業の成長期待が低いからであり、企業の成長期待が低いのは消費が伸び悩んでいるからであり、と、ここまでは私も著者に賛成します。そして、何人かの論者は、消費が伸び悩んでいるのは年金が少ないために老後に備えて貯蓄に励んでいるためである、という議論がある一方で、さすがに、著者はこの年金増額論は却下、というか、触れてもいません。私は消費が伸び悩んでいるひとつの要因は非正規雇用という不安定かつ低賃金な雇用にあると考えています。そして、この論点も著者は無視しているように見えます。いずれにせよ、経済に関する流行の議論が網羅されている一方で、日本経済のバックグラウンドにある構造、あるいは、モデルについての理解が少し私と違うと感じました。

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次に、アダム・トゥーズ『世界はコロナとどう闘ったのか?』(東洋経済)です。著者は、ロンドン生まれで、現在は米国のコロンビア大学の歴史学の研究者です。英語の原題は Shutdown であり、2021年の出版です。出版年からも理解できるように、それほど新しい情報が盛り込まれているわけではなく、むしろ、2020年のパンデミック当初の時期に、ワクチンはなく、特効薬もない段階で、隔離を含むソーシャル・ディスタンスを取るしか感染拡大防止の決め手がない段階で、外出禁止といったロックダウンだったり、対人接触の多いセクターごとシャットダウンしたりといった措置と経済活動との間のトレードオフについて、歴史研究者らしくたんねんにコロナ危機に見舞われた世界を経済の面に焦点を当てつつ俯瞰しています。その差異、どうしても国別とか、地域別の記述になっていて、トランプ政権下の米国、さまざまなアプローチを取った欧州、そして、何よりもパンデミックの発祥の地となった中国、加えて、インドやロシアなども加えられています。米国では、何といっても、科学的な見方に対して根拠なく独自路線を取るトランプ政権に対応が危機を拡大させていたと考えるべきです。欧州についてはスウェーデンのように社会的な集団免疫の獲得を目指しつつも、結局、通常対応にせざるを得なかった例もあれば、イタリアのように感染拡大に歯止めが効かなかった国もあります。そして、何よりも、経済活動との関係が焦点とされています。本書では、コロナ危機における経済問題を供給面からのショックと捉えており、対人接触の多いセクターが本書のタイトル通りに「シャットダウン」されることによる経済停滞、と考えています。ですから、日本の例を上げると飲食店とかとなりますが、感染拡大を防止するためにシャットダウンされたセクターの産業としての活動が停止し、経済的な活動が停滞する、というのをどのように解決するか、の観点からの記述が多くなっています。逆に、米国やブラジルのように、感染拡大防止を軽視して経済活動を継続し、危機を深めた例もあったりするわけですから、トレードオフの関係にある感染拡大防止と経済活動の両立が、米国、欧州、中国をはじめとするアジアで、どのように進んだか、に着目されています。そして、アジアについては、中国にもっとも大きな紙幅が割かれており、次いでインド、韓国についても初期段階ではコロナ封じ込めに成功した例として取り上げられていますが、我が日本は経済規模ほど言及がありません。日本国内では日本は感染者も死者も世界的な標準からすれば少なく、何か、xファクターがあるのではないか、という議論を見かけましたが、世界的な視野ではほとんど注目されていなかった、という事実が明らかになった気がします。まあ、そうなのかしれません。

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次に、平野啓一郎『死刑について』(岩波書店)です。著者は、我が母校の京都大学在学中に『日蝕』で芥川賞を受賞した小説家です。本書は、弁護士会での講演録をもとに加筆修正されて単行本として出版されています。そして、著者の基本的な立場は死刑反対、というか、死刑廃止論です。もちろん、被害者感情から死刑存置論にも十分配慮しながら、死刑に反対し廃止する議論を展開しています。その論拠は基本的に3点あります。私なりの言葉で表現すれば、第1に、冤罪があり得るからです。人間が裁判で判断する限り、事実の誤任はあり得ます。第2に、犯罪の結果について自己責任だけを問うことにムリがある可能性です。すなわち、死刑になる犯罪は、少なくとも日本では殺人だけであり、殺人といった重大犯罪に至る経緯については、加害者の生育環境などの考慮すべき事情があり、こういった事情を含めて犯罪の結果をすべて自己責任として負わせることに対する疑問です。第3に、基本的人権との関係で、自然人を殺すということの是非です。著者の主張によれば、人間としての存在を否定されることは絶対的にあるべきではなく、「xxの犯罪を犯した場合」といった相対的な基準で人間存在を抹消されることは許容できない、ということです。私は、ほぼほぼ、この著者の見方に賛成であり、死刑は廃止されるべきであると考えています。ただ、経験はありませんし、あまり考えたくもないですが、もしも、私の身近で大切に考えている人が、殺人事件の被害者として殺された場合、すなわち、私が被害者の遺族となった場合、いかなる心情に達するか、という点では、この死刑反対論を変更しない、という万全の自信があるわけではありません。その点はビミョーなところです。そして、講演録という観点からはムリあるものの、巻末の資料として世界各国での死刑制度の導入につて取りまとめてあります。どうして、世界の多くの国では死刑制度がないのか、についても私は知りたい気がします。最後に、さらに外れた感想で、本書からは完全にスコープ外となりますが、人が死ぬ、ないし、殺されるケース、しかも大量に死者が出るケースとしては戦争があります。戦争については、死刑以上に、というか、死刑と比較するのが論外であるくらいに、絶対に反対と私は考えています。おそらく、死刑存置論者でも、戦争だけは反対、という人が多いのではないか、と私は考えています。日本国憲法第9条はこれを体現している、と考えるべきです。

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次に、ミチオ・カク『神の方程式』(NHK出版)です。著者は、米国の物理学研究者であり、統一理論の有力候補であるひも理論の専門家であるとともに、ポピュラー・サイエンス・ライターとしても何冊かの科学書を出版しています。英語の原題は The God Equation であり、2021年の出版です。ということで、タイトル通りに、物理学の統一理論を物理学史もひも解きながら一般向けに判りやすく解説しています。ただ、統一理論だけでなく、その基礎をなす系の対称性にも焦点が当てられています。西洋の古典古代であるギリシア・ローマから始まる物理学史ですが、もちろん、主としてニュートンの古典力学から始まり、マクスウェルの電磁気学、アインシュタインの相対性理論、さらに量子力学などなど、専門外の私でも名前を聞いたことがある理論が並びます。そして、それらを統一する理論の筆頭としてあげられているのが10次元のひも理論です。宇宙の始まりとされるビッグバン、素粒子やブラックホールとワームホール、あるいは、未だに正体不明なダークエネルギーやダークマター、さらには、宇宙の始まりのビッグバンと最後の姿はどうなるのか、などなど、興味は尽きませんが、ともかく難解です。本書でも前半部分はニュートンやアインシュタインなど、知っている名前が並んで理解が進みますが、おそらく、私だけではなく、量子力学あたりから難解さが増します。ここが経済学とは違うところです。経済や経済学の場合、通常のビジネスパーソンであれば、経済活動に常時接していますし、そうでなくても、お金を払って買い物をするのは小学生でも体験します。しかし、物理学については日常の生活では意識することはありません。ただ、それだけにこういった専門書や教養書で読書する意義はあります。最後に、本書で指摘されている重要ポイントのひとつは、物理学の発展と経済活動が密接に関係しているということです。ニュートン力学の完成とともに産業革命の基礎が築かれ、ファラデーとマクスウェルによって電気力と磁気力をの研究が進むと電気の革命が幕を開け、アインシュタインの相対性理論や量子力学の発展から現在進行中のパソコンをはじめとするコンピュータや通信技術の革新が始まった、などが示されていて、ひょっとしたら、本書でいうところの「神の方程式」によって統一理論が解明されれば、またまた経済活動も新たな段階に進むのかもしれません。

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最後に、週刊文春[編]『少女漫画家「家」の履歴書』(文春新書)です。『週刊文春』に「新・家の履歴書」という連載があるらしいのですが、2004年から2021年までに掲載された連載の中から、少女漫画の黄金期である1970年代までにデビューした漫画家の「家」に関する記事を取りまとめています。もちろん、タイトル通りに「家」の履歴書をメインにしつつも、幼いころからの半生を振り返り、家とともに執筆していた漫画を振り返る形になっています。収録されているのは12人であり、掲載順に、水野英子、青池保子、一条ゆかり、美内すずえ、庄司陽子、山岸凉子、木原敏江、有吉京子、くらもちふさこ、魔夜峰央、池野恋、いくえみ綾となっています。ついつ、敬称略にしてしまいましたが、私なんかからすれば、それぞれに「先生」をつけたくなるような大御所ばかりです。魔夜峰央先生を除いてすべて女性であり、それなりのご年配の方々です。スポットを当てている「家」については、漫画家になる前に家族と暮らしていた家の場合もありますし、漫画家として油が乗り切っていて名作をモノにしていた時期の家、あるいは、現在住んでいる家、といったいくつかのバリエーションがあり、一定していません。しかし、漫画家ですので、間取りや何やをイラストで間取り図として、とても判りやすく美しく示してくれていて、その当時の生活や作品執筆作業などについて想像力をかき立てられます。少女漫画家に限らず、漫画家の「家」で有名なのは、何といっても、手塚治虫先生をはじめとするキラ星のような漫画家が住んでいた「トキワ荘」でしょうが、少女漫画家に限定しても萩尾望都先生と竹宮惠子先生が暮らしていた「大泉サロン」も有名です。収録された12人の中では水野英子先生が「トキワ荘」に住んでいたことがあるそうで、「トキワ荘にいるだけで絵が月ごとに上達しました」ということだそうです。そうかもしれません。単なる住まいとしてだけではなく、漫画執筆の作業、集合住宅での同業漫画家との切磋琢磨、あるいは、アシスタントたちとの共同作業などについても、とてもいきいきと活写されています。私自身はそれほどではありませんが、少女漫画ファンには大いに訴えかけるものがありそうな気がします。

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2022年9月23日 (金)

大学院修了式・学位授与式に出席する!!!

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今日は、大学院博士前期課程、すなわち、大学院修士課程の修了式・学位授与式に出席してきました。秋終了ですから、多くは留学生の諸君で、式の進行やスピーチなどの公用語は英語となります。私が修士論文指導した院生は、実は東京での就職が決まっており、今日のところはオンラインでの出席でした。
本学恒例で出席教員からはなむけのスピーチをします。私以外の先生方はキチンと何をしゃべるかについて準備しておられるようなのですが、私はいつも準備不足で適当なことをしゃべっています。今年は私の順番は3番めで、直前の先生が若者へのはなむけらしく「世界を征服しようぜ (conquer the world)」でスピーチを締めくくりましたので、"I do not believe you have to conquer the world." でお話を始めて、今日終了の学年は2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの年に大学院に入学しタイヘンだったろうから、学業を終えてとってもエライ、とか、私の指導院生が東京で就職することを念頭に、チャンスが有れば東京に行って仕事をしたり、勉強を進めたり出来ればいいし、私のように人生の晩年に差しかかっているわけではなく、君たちは rising sun なのだから、積極的にリスクがあってもチャレンジしなさい、なんてことを、エラそうにしゃべったりしました。
彼らの人生は前途洋々です。幸多かれと願っています。

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2022年9月22日 (木)

リクルートによる8月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

来週9月30日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる7月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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まず、いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの時給の方は、前年同月比で見て、今年2022年4月+1.5%増、5月+2.8%増、6月+1.8%増、7月+1.2%増の後、8月も+2.3%増となっています。5月の+2.8%増がやや外れ値なのか、と考えないでもなかったのですが、8月も+2%超を記録しています。ただし、2020年1~4月のコロナ直前ないし初期には+3%を超える伸びを示したこともありましたので、この面からももう一弾の伸びを期待してしまいます。でも、時給の水準を見れば、昨年2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、かなり堅調な動きを示しています。最低賃金が時給当たりで約30円ほど上昇しますので、その影響がどのように出るか見極めたいと思います。他方、派遣スタッフの方は今年2022年4月+1.3%増、5月は横ばい、6月+0.8%増、7月+1.5%増の後、8月は+3.4%増と、足元で伸びを高めています。
まず、アルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、7月には+2.3%、+26円増加の1,134円を記録しています。職種別では、「営業系」(+82円、+6.7%)、「事務系」(+57円、+4.7%)、「フード系」(+46円、+4.5%)、、「専門職系」(+48円、+3.7%)、「製造・物流・清掃系」(+30円、+2.7%)、「販売・サービス系」(+2円、+0.2%)、とすべて職種で増加を示しています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての地域でプラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、7月には+1.5%、+23円増加の1,591円になりました。職種別では、「クリエイティブ系」(+62円、+3.4%)、「製造・物流・清掃系」(+35円、+2.7%)、「営業・販売・サービス系」(+34円、+2.4%)、「オフィスワーク系」(+28円、+1.8%)、「医療介護・教育系」(+21円、+1.5%)、とすべてプラスとなっています。派遣スタッフの6つのカテゴリを詳しく見ると、「IT・技術系」の時給だけが2,000円を超えていて、段違いに高くなっていて、全体と比べて伸びが小さくなっています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての地域でプラスとなっています。

基本的に、アルバイト・パートも派遣スタッフもお給料は堅調であり、足元では新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の新規感染者数や死者数が増加しているものの、最近までの順調な景気回復に伴う人手不足の広がりを感じさせる内容となっています。ただ、日本以外の多くの先進国ではインフレ率の高まりに対応して金利引上げなどの引締め政策に転じていることから、世界経済が景気後退の瀬戸際にあることは確実であり、また、国内でのCOVID-19の感染拡大も高止まりしており、今後の日本国内の雇用の先行きについては不透明であり、まだ下振れ懸念が残ります。

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2022年9月21日 (水)

帝国データバンク「企業の価格転嫁の動向アンケート」の結果やいかに?

先週木曜日の9月15日に帝国データバンクから「企業の価格転嫁の動向アンケート」の結果が明らかにされています。100円のコストアップに対して36.6円しか価格転嫁できていない、との結果が示されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の要旨3点を引用すると以下の通りです。
調査結果
  1. 自社の主な商品・サービスにおいて、コストの上昇分を販売価格やサービス料金に『多少なりとも転嫁できている』企業は70.6%となった。一方で、『全く価格転嫁できていない』企業は18.1%だった
  2. 「価格転嫁率 」は36.6%と4割未満にとどまった。これはコストが100円上昇した場合に36.6円しか販売価格に反映できていないことを示している。なかでも、「ソフト受託開発」などを含む「情報サービス」や「一般貨物自動車運送」などを含む「運輸・倉庫」の価格転嫁率が低水準にとどまっている
  3. これまでの政府の物価高騰対策について、「大いに効果を実感している」が0.7%、「ある程度効果を実感している」が11.1%となった。一方で、「あまり効果を実感していない」は38.9%、「ほとんど効果を実感していない」は34.3%だった
ということで、リポートからいくつか図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。
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まず、リポートから 価格転嫁の状況 のグラフを引用すると上の通りです。見れば判るように、「多少なりとも価格転嫁できている」企業は70%であった一方で、「全く価格転嫁できていない」企業は18%となっています。ただし、価格転嫁率が36.6%であることに現れているように、「多少なりとも価格転嫁できている」企業70%のうち、5割未満がほぼ40%に達しています。また、価格転嫁率が高い業種として、建材・家具、窯業・土石製品卸売、機械・器具卸売が50%を超えている一方で、運輸・倉庫(一般貨物自動車運送など)や情報サービス(ソフト受託開発などと情報サービス(ソフト受託開発など)では20%を下回っていたりします。
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続いて、リポートから 政府の物価高騰対策の効果 を引用すると上の通りです。これも見れば判る通り、「大いに効果を実感している」が0.7%、「ある程度効果を実感している」が11.1%にとどまっている一方で、「あまり効果を実感していない」が38.9%、「ほとんど効果を実感していない」も34.3%に上っています。企業の73.2%で「(あまり/ほとんど)効果を実感していない」という結果が示されています。 価格転嫁については、単純に独占とかマークアップとか、と考えるのは適当ではないと私は考えていますが、逆から見れば、日本経済は独占度が高くない、という見方もできなくはない、という気もします。そして、市場の価格メカニズムに応じた資源配分が、もしも効率的であるのであれば、現在のインフレに対応して、政府が企業に対していかなる経済政策を取るべきかは、補助金による価格操作ではなく、コストアップや価格転嫁できない部分に対する支援であろうと私は考えています。
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最後に、それほど注目はしていないのですが、アジア開発銀行(ADB)は「アジア開発見通し改定」Asian Development Outlook (ADO) 2022 Updateを本日9月21日に公表しています。プレスリリースのプレゼン資料から成長率見通しの総括表を引用すると上の通りです。今年2022年のアジア新興国・途上国の4月時点の+5.2%から+4.3%に下方修正されています。主因は中国であり、4月時点の+5.0%から+3.3%と大きく下方修正しています。他方、東南アジアではインドネシアやフィリピンについては今年の成長率を上方改定していたりします。国際機関の経済見通しについては、10月10日に予定されているIMF世銀総会に合わせてIMFから「世界経済見通し」が明らかにされると思いますので、改めて注目したいと思います。

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2022年9月20日 (火)

30年ぶりの上昇率を記録した消費者物価指数(CPI)をどう見るか?

本日、総務省統計局から8月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+2.8%を記録しています。報道によれば、30年ぶりの高さの上昇率だそうです。ただし、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+1.6%にとどまっています。なお、ヘッドライン上昇率は+3.0%に達しています。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価8月2.8%上昇 30年11カ月ぶりの上昇率
総務省が20日発表した8月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が102.5となり、前年同月比2.8%上昇した。消費増税の影響を除くと1991年9月(2.8%)以来、30年11カ月ぶりの上昇率だった。5カ月連続で2%台となった。資源高や円安が、エネルギー関連、食料品の価格を押し上げた。
生鮮食品を含む総合指数は3.0%の上昇率で91年11月以来、30年9カ月ぶりの水準となった。海外との比較では米国やユーロ圏の総合指数は8~9%の上昇率で日本より高い水準にある。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は1.6%上昇した。
生鮮を除く総合指数はQUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(2.7%)を上回った。上昇は12カ月連続となった。522品目のうち、上昇した品目は372、変化なしが40、低下が110だった。上昇品目数は前月の376から微減だった。
エネルギー関連が16.9%上がり、2桁の伸びが続いた。発電所の燃料費の高騰を受けて電気代は21.5%と7月の19.6%を上回って上昇した。都市ガスは26.4%と、1981年3月(38.4%)以来、41年5カ月ぶりの上昇率となった。
政府の補助金による抑制効果があり、ガソリンは7月の8.3%から縮小し6.9%の伸びだった。エネルギー関連だけで指数を1.27ポイント押し上げた。
食料は4.7%上昇し、7月の4.4%を上回った。生鮮食品は8.1%(7月は8.3%)、生鮮食品を除いた食料は4.1%(同3.7%)の上昇で、いずれも高い上昇率が続く。
食パンは15.0%、チョコレートは9.3%上昇した。メーカーの値上げが相次ぐ食用油は39.3%伸びた。ウクライナ危機で輸送ルートの変更を余儀なくされているさけは28.0%、輸入品の牛肉は10.7%、梨は10.4%と購入頻度の高い商品で上昇が続く。
原材料高などの影響は外食にも波及し、ハンバーガー(11.2%)などの品目も上がった。
2021年8月に一部の事業者で値下げがあった影響で、携帯電話の通信料は下げ幅が縮んだ。7月のマイナス21.7%から、8月はマイナス14.4%になった。宿泊料の押し上げもあり、財・サービス別で、サービスが19年12月以来のプラスとなった。
日本経済研究センターが14日にまとめた民間エコノミスト36人の予測平均では、消費者物価指数上昇率は、四半期ベースの前年同期比で22年7~9月期が2.49%、10~12月期が2.64%と2%台の上昇が続く。23年は1~3月期まで2%台で推移し、4~6月期に1%台になるとみている。
他の主要国の総合指数は米国は8月に前年同月比8.3%の上昇と、8.5%だった7月より低下したものの高水準にある。ユーロ圏は8月に9.1%と、7月(8.9%)からインフレが加速した。英国は8月に9.9%の上昇で、10.1%だった7月から下がった。11カ月ぶりに伸び率が縮んだ。

やたらと長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.7%の予想でしたので、ホンの少しだけ上振れた印象です。もちろん、物価上昇の大きな要因は、基本的に、ロシアによるウクライナ侵攻などによる資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀による緩和的な金融政策による需要面からのディマンドぷるによる物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、8月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は16.9%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.27%あります。このエネルギーの寄与度+1.27%のうち、電気代が半分超の+0.74%ともっとも大きく、次いで、都市ガス代の+0.24%、ガソリン代の+0.15%などとなっています。ただし、エネルギー価格の上昇率は3月には20.8%であったものが、4月統計では+19.1%、5月統計では+17.1%、6月統計では+16.5%、7月統計では+16.2%、そして、直近で利用可能な8月統計では+16.9%と、高止まりしつつも、ビミョーに落ち着いてきているように見えます。他方で、生鮮食品を除く食料の上昇率も4月統計+2.6%、5月統計+2.7%、6月統計+3.2%、7月統計+3.7%に続いて、8月も+4.1%の上昇を示しており、+0.92%の寄与となっています。ヘッドライン上昇率とコアCPI上昇率は8月統計で、それぞれ、+3.0%と+2.8%ですから、ほぼほぼ+2.0%を超える部分はエネルギーと生鮮食品を除く食料による寄与と考えるべきです。そして、現状ではまだまだエネルギーの寄与度が大きいのですが、毎月の寄与度の差を考えれば、寄与度差という観点ではインフレの主因はエネルギーから食料に移りつつあるように見えます。

9月末までと予定されていたガソリン補助金は12月末まで延長されましたが、従来から私が主張しているように、化石燃料に補助金を出して消費を促すのは気候変動=地球温暖化に逆行しかねません。しかし、食料についてはもっとも基礎的な生活必需品と考えるべきです。経済政策で然るべき対応が求められます。

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2022年9月19日 (月)

台風14号の影響やいかに?

昨日9月18日の午後に九州に上陸した台風14号が東寄りに進路を変え、今朝の時点では九州北部にあります。現時点では、関西には雨も降っておらず、風も殆ど吹いていませんが、夕方から明日にかけて日本海側が直撃されそうな雰囲気です。どうも、三連休のお天気は思わしくありません。実は、明日の9月20日午後、まさに、台風14号が関西を通過し終えたころのタイミングで教授会が開催される予定となっています。日本気象協会のサイトの情報に従えば、明日午後は関西では雨も暴風もピークを超えているとのことですが、他方で、「西日本は影響が長引くおそれ」とも指摘しています。台風一過となっているでしょうか。下の画像はウェザーニュースのサイトから台風の進路予想を引用しています。

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今年度が明けて4月から教授会は、会議室に集まって原則対面で開催される回と、対面ではなくオンラインが原則あるいは可能とされる回に分かれているのですが、何と、明日の教授会は原則対面の回となっているようです。基礎疾患あったりする教員などはオンライン出席を認められるそうですが、私は該当しません。三連休は週後半にもう1回あるのでいいとしても、少なくとも私のようなヒラ教授には、教授会の日程は動かしようがありません。

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2022年9月18日 (日)

ウェザーニュースの「紅葉見頃予想」やいかに?

台風14号がタイヘンなことになっているのに、ナンですが、先週木曜日の9月15日に、ウェザーニュースから「紅葉見頃予想」が明らかにされています。そのサイトにある見頃予想マップは以下の通りです。

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見れば明らかなのですが、関西の代表として京都の嵐山が上げられており11月下旬からが見頃、との予想となっています。そのほぼ1か月前の10月22日に京都で時代祭が3年ぶりに行列が執り行われます。可能であれば、見に行きたいと予定しています。

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2022年9月17日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計6冊!!!

今週の読書感想文は、大学の同僚教員からご恵投いただいた経済書、デジタル社会やAIに関する社会学の教養書、ミステり小説、宗教に関する新書など、以下の通り計6冊です。
なお、今年の新刊書読書は、1~3月期に50冊、4~6月期に56冊、従って、今年前半の1~6月に106冊、そして、7~8月で45冊、先週までの9月で10冊、今週が6冊ですので、今年に入ってから167冊となりました。ほかに、新刊書ならざる読書も何冊かありますので、可能な範囲でFacebookでシェアしたいと予定しています。

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まず、松尾匡『コロナショック・ドクトリン』(論創社)です。著者は、私の勤務する大学の同僚教員であり、早くにご恵投いただいていたのですが、研究室に埋もれて発掘に時間がかかってしまいました。本書のタイトルはナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を踏まえており、いわゆる惨事便乗型資本主義という意味で、それに「コロナ」という形容詞が付け加わっているわけです。岸田政権前の菅政権下で押し進められた新自由主義的な政策を批判し、資本主義の最終段階である帝国主義と位置づけています。それにコロナが乗っかった惨事便乗型なわけです。ですから、それまでの円安誘導で「輸出で稼ぐ」から、円高誘導で「海外で稼ぐ」にビジネスモデルを転換し、雇用者はヘクシャー-オリーン定理に従って低賃金の海外労働者と競わせる「底辺への競争」を仕向け、安価な輸入品が国民生活を支える、という方向を志向すると指摘しています。この方向をコロナという惨事に便乗して一気に進める、というのが日本の支配層の意図であるわけです。私もかなりの程度には同意します。しかし、現在の岸田内閣の評価については、現状ではまだ時間が足りずに決定的な結論は得ていないようです。私は基本的に同様の新自由主義的な政策が志向されるものと考えていますが、ある程度の弥縫策、主として分配政策の適用などは考えられると想像しています。本書の分析で、人口減少社会で必然的に景気が停滞する、という前提が置かれているような気がしますが、それを別にしても、ひとつだけ疑問があるのは、雇用の非正規化をどのように位置づけるのが適当か、という点です。すなわち、自然人ベースでは多くの人数を雇用しつつ、各個人の労働時間は短時間雇用=パートだったり、あるいは未熟練労働に限定して低賃金で多くの国民を雇用する、というのは、新自由主義的な経済政策のような気もしますが、そうでない気もします。資本主義経済でいかなる意味があるのか、という点がもう少し深く分析されているとさらに良かった気がします。

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次に、アンソニー・エリオット『デジタル革命の社会学』(明石書店)です。著者は、オーストラリア出身の社会学研究者です。英語の原題は The Culture of AI であり、2019年の出版です。英語の原題から理解できるように、主としてAIに関する社会的な方向性を論じていますが、同時に幅広くデジタル化の文化についても展開しています。しかしながら、単なるオートメーションについても同様に当てはまる部分が少なくないような印象です。この点は著者も意識しているようで、デジタル化、AIやロボットの実用化、あるいは、そういった全般的な動向が今までのオートメーション化に対して、かなり根本的な変革をもたらすという意味で、変容的であるとの指摘を紹介する一方で、他方には変容に対する懐疑的な見方も両論併記的に示しています。この議論は、実は雇用に対して向けられるべき疑問であると私は考えています。すなわち、産業革命やラッダイト運動のころから始まって、21世紀初頭の現在くらいまで、各種の技術革新、オートメーションに限らない機械化は雇用を破壊するわけではなく、新たな高付加価値な雇用を生み出してきたのが歴史的な事実として認識されるべきです。しかし、AI活用やデジタル経済化が変容的であるとすれば、雇用が破壊され、人的労働がAIやロボットに従属する方向で「変容」する可能性が考慮されるべきです。私は、何人かの悲観論者はシンギュラリティでマシンの能力が人間を超えると、まさにその意味で、変容的に社会がすべて変わって、人間は現在のウマやウシのようにAIの家畜になる可能性がある、と考えています。本書はその根本的な問いに対しては、唯一の回答を用意しているわけではありません。経済学書ではないので、生産や消費ではなくついつい生活面での変化を追いがちなのですが、セックス・ロボットがそれほど重要とは私は思わないのですが...

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次に、未須本有生『天空の密室』(南雲堂)です。著者は、東京大学工学部航空学科卒で、大手メーカーで航空機の設計に携わり、本書のような航空機に関するミステリなどを書いている作家です。本書では、近未来の時代背景をもって、「空飛ぶクルマ」の開発を進めている自動車部品メーカーが、試作段階になったにもかかわらず、国土交通省航空局からテストのための飛行計画の許可が下りず、開発計画が頓挫しかけます。役所の表向きの理屈としては安全確保が不十分ということなのですが、さまざまな要因が絡んでどうしようもなくなった折に、その航空局の担当官が殺されて東京湾岸のヘリポートに死体が遺棄されます。千葉県警の刑事が捜査に当たるのですが、殺人犯も死体の運搬も一向に謎が解明されません。ということで、実は、読めば犯人が誰かはそれなりに想像がつきます。死体運送方法については私くらいの雑な頭では判りませんでしたが、ミステリファンであれば理解できるラインではないかという気がします。ただ、私が本書をミステリと呼ぶかどうか迷う点があります。というのは、名探偵が事件をさかのぼって謎を解明するのではなく、犯人自身が警察に自首して真相を明らかにするからです。倒叙ミステリというジャンルがあるのはよく知られたところですが、本書はそれでもないようです。何か、少し違和感を感じる読後感でした。もっとも、気にならない読者も多いかもしれません。

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次に、未須本有生『ミステリーは非日常とともに!』(南雲堂)です。同じ著者です。ただし、本書は前の『天空の密室』の前作となります。航空機に関するミステリではなく、別の乗り物、すなわち、クルーズ船とクラシックカーに関する短編、というよりはやや長い中編の2章を収録しています。登場人物はビミョーに重なっているので、連作中編集とみなす読者もいそうですが、私は独立した2編と考えています。少なくとも、最初の中編はタイトル通りの非日常なのですが、2編目はそれほどの非日常ではない気がします。ということで、最初のクルーズ船の方は、ミステリ作家の友人が主人公となり、ミステリ作家のファン80名ほどと数日の交流会を豪華クルーズ船で行う企画が舞台となります。完成されたミステリではなく、2社から依頼を受けた原稿のテーマを探すクルーズ旅行であり、ファンに対してミステリの謎を提供し、粗っぽく謎解きを解説する、という趣向です。ですから、本格的なミステリ小説の完成は本作の後段階になる、ということのようです。2編目は、映像作家が主人公で、30年くらい前のBMWのクラシックカーを入手し、頻度高い故障を修理してもらいつつ、友人の警察官僚から持ち込まれる車に関する謎を修理業者とともに解明する、というストーリです。私自身は、クルーズ船に乗ったこともなく、クラシックカーどころか、自動車の工学的な特性などもサッパリ理解できず、その意味でなかなかに難解なミステリでした。

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次に、松長有慶『空海』(岩波新書)です。著者は、高野山大学の学長や高野山真言宗管長を務めた経験ある碩学です。岩波新書から、1991年に『密教』、2014年に『高野山』をそれぞれ出版しており、三部作の完成かもしれません。ということで、空海=弘法大師から密教や、あるいは、さらに仏教全般の教義についても幅広く解説がなされています。いくつか対立的な存在、すなわち、無限と有限、対立と融合、自と他などのいわゆる不二に付いての簡単な解説があり、加えて、自然観について明らかにされた後、ズバリ、空海のいう仏性についての独自性が議論されます。すなわち、いわゆる「成仏」とは、人間が修行の上で、人間ではない仏になると考えられていたのに対して、自分が本来持っている仏性、自分が仏であるということに気づくことである、と定義し直されます。即身成仏なわけです。加えて、綜芸種智院式と呼ばれる教育理念、生死観、さらには、空海はまだ死んでいないとする入定信仰などまで含めて、かなり具体的で判りやすい解説が続いています。しかし、空海の教義そのものがもともとかなり難解であったわけですから、平易な解説といっても限界があります。そのあたりはそれなりの覚悟を持って、仏教や空海に深い関心ある向きにオススメする読書ではないか、と思います。

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最後に、道尾秀介『いけない』(文春文庫)です。著者は、売れっ子のミステリ作家であり、本書の短酵母は2019年に出版されています。実は、このブログでも2019年9月に読書感想文を取り上げています。文庫本で出版されましたので、まあ、2度読みなわけです。ということで、タイトル通りに「xxしてはいけない」という章が3章あり、ほかに最終章が置かれています。舞台はすべて蝦蟇倉市という設定なのですが、第1章だけは蝦蟇倉市のシリーズとして、他の作家の短編作品とともにアンソロジーに収録されています。第1章から第3章までは数年のタイムラグがあります。全体として、ややホラーがかった短編ミステリ、あるいは、連作短編集ですが、キチンとした論理的な推理、説明がなされています。その意味で、エドワード D. ホックの「サイモン・アーク」シリーズの短編と共通点があります。ホラーがかっているひとつの理由は、事件の裏側に十王還命会なる新興宗教団体が関係しているからです。ただ、もちろん、この作者の作風がもともと少しホラー気味なのも広く知られている通りです。第1章からして、読者をミスリードする仕掛けが随所に盛り込まれていて、短編ながら、すべてが殺人事件ではないとはいえ、各章で人が死にます。そして、最終章で、新興宗教団体の浸透ぶりが明らかにされます。(旧)統一協会みたいなものかもしれません。単純明快な謎解きではありませんが、私のようにこの作者のファンであれば、読んでおくべき作品だと思います。

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2022年9月16日 (金)

我が国の戦略物資の輸入は特定国に依存しているのか?

2022年度「通商白書」の解説ということで、経済産業研究所のサイトで「わが国の輸入はどの程度特定国に依存しているのか」というタイトルにより、「通商白書2022」の主として第Ⅱ部第2章第2節の解説がなされています。下のグラフは、「通商白書2022」p.283にある第Ⅱ-1-2-26図 輸入相手国・地域 そのままなのですが、経済産業研究所のサイトにある 図1: 重要品目等の輸入相手国・地域 を引用しています。

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私は、こういった地政学的な観点はトンと専門外な能天気なエコノミストなので、よく理解できない点がいくつかあります。第1に、上のグラフでは半導体関連品目に着目していて、「経済安全保障と密接に関連した戦略物資であり、幅広い産業で欠かせない」点を理由にあげています。しかし、エネルギーはどうなのでしょうか。昨日このブログで取り上げた8月の貿易統計では、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額の増加に従って貿易赤字が膨らんでいる実態がありました。エネルギーは「戦略物資」とは呼ばないのかもしれませんが、カロリーベースで40%を下回っている食料自給率とともに、考えるべき点はないのでしょうか。第2に、「通商白書2022」ではサプライチェーンの脆弱性の中で取り上げられていて、生産拠点の集中の問題と認識されているようです。ただし、経済学は伝統的に比較優位を重視し、素朴な比較優位説では生産の特化が生じます。例えば、リカードが示した英国とポルトガルの綿織物とぶどう酒の例では英国が綿織物に特化し、ポルトガルがぶどう酒に特化する可能性が示唆されています。調達先の多様化を図ることは、場合によっては、非効率を招きかねません。第3に、生産拠点の集中は量的な観点なのですが、「通商白書2022」p.285にある第Ⅱ-1-2-28図 主要な製造業のグローバルサプライチェーンのリスクポジション では、質的な脆弱性の観点として「中国の産業を経由する頻度」がリスクとして示されています。判らないでもないのですが、米国のような同盟国と何らかの価値観の相違を有する国とをどのように識別するのかは、私の理解は及びません。こういった3点以外にも、細かな点はいくつか疑問としてあるのですが、経済安全保障という名で経済活動に対する制約がどこまで許容されるのかは、その時々の国民の判断にもよりますし、私も少し勉強したいと思います。

その昔のトーマス・フリードマン『レクサスとオリーブの木』で人口に膾炙したフレーズとして「マクドナルドがチェーンを展開している国同士は戦争をしない」というのがありました。しかし、現実には、「戦争を始めた国からマクドナルドは撤退する」というのがロシアにおいて明らかになってしまいました。地政学だけではなく、地経学も応用分野を広げつつあるように見受けられます。可能な範囲で勉強を進めたく思います。

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2022年9月15日 (木)

過去最大の貿易赤字を記録した8月の貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から8月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列で見て、輸出額が+22.1%増の8兆619億円、輸入額は+49.9%増の10兆8792億円、差引き貿易収支は▲2兆8173億円の赤字となり、13か月連続で貿易赤字を計上しています。しかも、統計として比較可能な1979年以降で単月の過去最大の貿易赤字です。まず、やたらと長くなりますが、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易赤字が過去最大2兆8173億円 8月、資源高・円安で
財務省が15日発表した8月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2兆8173億円の赤字だった。エネルギー価格の高騰や円安で輸入額が前年同月比49.9%増の10兆8792億円に膨らみ、輸出額の伸びを上回った。赤字額は東日本大震災の影響が大きかった2014年1月を上回り、比較可能な1979年以降で単月の過去最大となった。
14年1月は2兆7951億円の赤字だった。震災後の原子力発電所停止により火力発電所用の燃料輸入が増えていたほか、同年4月の消費増税を控えた駆け込み需要も輸入額を押し上げていた。22年8月は8年7カ月ぶりに当時を上回った。
貿易赤字は13カ月連続。15年2月までの32カ月に次ぐ過去2番目の長さとなっている。
22年8月の貿易赤字額はQUICKがまとめた民間エコノミスト予測の中心値(2兆3981億円)を上回った。
輸入額が前年同月を上回るのは19カ月連続だ。アラブ首長国連邦(UAE)からを中心に原油を含む原粗油が90.3%増えた。オーストラリアからを中心とする液化天然ガス(LNG)は2.4倍となり、石炭は3.4倍に増えた。
原粗油の輸入は金額ベースで17カ月連続で増加し、数量ベースでも10カ月連続で増えた。通関での円建て輸入単価は1キロリットルあたり9万5608円で、前年同月から87.5%上昇した。ロシアのウクライナ侵攻で原油価格が上昇したほか、急速な円安が輸入額を押し上げた。
輸出額は22.1%増の8兆619億円だった。18カ月連続で前年同月を上回った。数量ベースでは1.2%減と6カ月連続の減少で、円安局面でも低迷する。部品などの供給制約が緩和されてきた自動車の輸出額は39.3%増え、中国向けなどの半導体等製造装置も22.4%増となった。
地域別では、対米国の黒字が20.7%増の4715億円と、2カ月ぶりの増加となった。自動車や自動車部品などが伸び、8月の輸出額としては過去最高となった。輸入額は単月で過去最大で、医薬品や原粗油が伸びた。
対アジアの輸入、輸出額はともに8月としては最高だった。このうち対中国もともに最高となった。中国からの輸入は衣類や通信機が増え、中国への輸出はハイブリッド車などが伸びた。対中国の貿易収支は5769億円の赤字だった。赤字は17カ月連続で、赤字額は2.7倍に増えた。
対ロシアの貿易収支は1091億円の赤字だった。日本政府の輸出禁止措置などにより輸出額は21.5%減の549億円だったが、輸入額は67.4%増の1641億円となった。原粗油の輸入額が103億円だった。主要7カ国(G7)は輸入禁止で合意しているが、通関手続きの関係で過去に到着したものが計上されたとみられる。
貿易統計上の8月の為替レートは1ドル=135円08銭で、前年同月に比べ22.9%の円安だった。足元の為替レートは143円前後まで円安が進んでいる。ロシアのウクライナ侵攻で拍車がかかった原油や小麦などの資源・食料価格の高騰は一服しているが、前年に比べれば高水準だ。貿易赤字の拡大傾向は続く可能性がある。

とてつもなく長くなりましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲.4兆円近い貿易赤字が見込まれていて、実績の▲2兆8173億円の貿易赤字はほぼほぼ予想レンジの下限といえます。加えて、季節調整していない原系列の統計で見て、貿易赤字は昨年2021年8月から今年2022年8月までの13か月連続なんですが、上のグラフに見られるように、季節調整済みの系列の貿易赤字は昨年2021年4月から始まっていて、従って、1年を超えて17か月連続となります。しかも、貿易赤字額がだんだんと拡大しているのが見て取れます。繰り返しになりますが、統計として比較可能な1979年以降で単月の貿易赤字としては過去最大だそうです。グラフから明らかな通り、輸出額もそこそこ伸びているのですが、輸入が輸出を上回って拡大しているのが貿易赤字の原因です。もっとも、私の主張は従来から変わりありません。すなわち、エネルギーや資源価格の上昇に伴う輸入額の増加に起因する貿易赤字であり、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易赤字や経常赤字は悲観する必要はない、と考えています。8月の貿易統計を品目別に少し詳しく輸入についてだけ見ると、まず、国際商品市況での石油価格の上昇から原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく増加しています。前年同月比で見て、原油及び粗油は数量ベースで+1.5%増に過ぎませんが、金額ベースでは+90.3%増と大きく水増しされます。LNGも同じで数量ベースでは▲0.4%減と減少しているにもかかわらず、金額ベースでは+140.1%増となっています。加えて、ワクチンを含む医薬品も増加しています。すなわち、前年同月比で見て数量ベースで+30.0%増、金額ベースでも+7.6%増を記録しています。でも、当然ながら、貿易赤字を抑制するために、ワクチン輸入を制限しようという意見は少数派ではないか、と私は考えています。

何度も繰り返しになりますが、輸出は世界経済の回復に従ってそこそこ伸びています。それ以上に資源高や円安で輸入額が増加しているのが貿易赤字の大きな要因です。私はエコノミストとして、そもそも、貿易赤字や経常赤字は経済政策による何らかの是正の対象ではないと考えていますし、輸出が伸びている現状は評価すべきと考えています。貿易赤字「是正」のための歪んだ経済政策の導入には反対の立場です。

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