2025年5月19日 (月)

富裕層が気候変動に及ぼす影響は極めて大きい

富裕層が気候変動に極めて大きな影響を及ぼしていることを明らかにした "High-income groups disproportionately contribute to climate extremes worldwide" と題する論文が Nature Climate Change に掲載されています。まず、論文の引用情報は以下の通りです。

続いて、論文のAbstractをNature Climate Changeのサイトから引用すると以下の通りです。

Abstract
Climate injustice persists as those least responsible often bear the greatest impacts, both between and within countries. Here we show how GHG emissions from consumption and investments attributable to the wealthiest population groups have disproportionately influenced present-day climate change. We link emissions inequality over the period 1990-2020 to regional climate extremes using an emulator-based framework. We find that two-thirds (one-fifth) of warming is attributable to the wealthiest 10% (1%), meaning that individual contributions are 6.5 (20) times the average per capita contribution. For extreme events, the top 10% (1%) contributed 7 (26) times the average to increases in monthly 1-in-100-year heat extremes globally and 6 (17) times more to Amazon droughts. Emissions from the wealthiest 10% in the United States and China led to a two- to threefold increase in heat extremes across vulnerable regions. Quantifying the link between wealth disparities and climate impacts can assist in the discourse on climate equity and justice.

要するに、GMT=Global Mean Temperature、すなわち、平均気温で測定した地球温暖化の&frac32;はもっとも裕福な10%に、⅕はもっとも裕福な1%に起因していて、個人の寄与は1人当たりで、富裕な10%は平均の6.5倍、1%では20倍に達しています。ほか、アマゾンの干ばつに富裕な10%は6倍、1%に至っては17倍の寄与があります。

これらをビジュアルに示す論文の Fig. 2 | Attributed 1990-2020 GMT increases by emitter group を引用すると以下の通りです。

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左上のパネル a だけを簡単に取り上げておくと、先のAbstractにあった、個人の寄与は1人当たりで、富裕な10%は平均の6.5倍、1%では20倍に達している、という部分に相当しています。グラフではさらにトップ0.1%が76.5倍の寄与を示している点も明らかにしています。ですから、強力な累進課税によって税を徴収し、気候変動対策に充当することは、十分正当化されると考えるべきです。気候変動は低所得階層にこそ大きな影響を及ぼしますが、だからといって、課税に応益原則を適用したり、逆進的な消費税でもって地球温暖化や気候変動の対策を講じることは何の正当性もありません。炭素税も消費税と同じ逆進的な税であり、低所得層に負担が大きくなる点は忘れるべきではありません。

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2025年5月18日 (日)

広島に連勝して首位がため

  RHE
広  島000100000 141
阪  神00000210x 392

【広】玉村、森浦、島内、中崎 - 坂倉
【神】伊原、湯浅、桐敷、石井 - 坂本

広島に連勝して、首位がためでした。
昨日の試合と同じように、序盤の得点機はことごとく逃しましたが、6回に逆転し、ラッキーセブンにも追加点を上げて逃げ切りました。ドラ1ルーキー伊原投手は3勝目です。ただ、不可解だったのは、6回オモテの広島のホームスチール失敗です。得点圏打率トップの4番打者の打撃に期待するのが、私のような凡人の考えなのですが、あえてホームスチールに挑んだ理由を知りたい気がします。まさか、走者の判断ではありえないでしょうから、監督の指示なんだと思います。

次のジャイアンツ戦も、
がんばれタイガース!

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なぜ自民党は企業献金をやめられないのか?

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先週水曜日の5月14日付け東洋経済オンラインで、政治資金収支の報告書をITやAIを駆使してデータベース化したシンクタンク政策推進機構の資料を基に、政治献金する側のデータを可視化した調査結果が公表されています。上の画像の通りです。東洋経済オンラインのサイトから 「政策推進機構」が解析した企業や団体による献金の流れ を引用しています。
見れば明らかかなのですが、政治献金のほとんどが自民に向かっており、総額に占める割合は自民党向けが96%、総額は47.7億円に上ります。他党への献金より桁違いに多くなっています。この結果は主要5党ですが、おそらく、ここに入っていない日本共産党や社会民主党やれいわ新選組などは、ほぼほぼゼロと推測されますので、これで尽きているわけです。大口献金先の自民党が、企業献金禁止などの政治改革を進めようとするはずもありません。企業献金は明らかに賄賂なわけですが、その賄賂を受け取っているのが政権党である自民党なわけです。

国民の1人として、有権者の1人として、政治資金改革の一環で、私は賄賂である企業献金の禁止を強く求めます。

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2025年5月17日 (土)

今週の読書は新書と文庫をたくさん読んで計9冊

今週の読書感想文は以下の通り、新書と文庫をたくさん読んで計9冊です。
まず、メリッサ S. カーニー『なぜ子どもの将来に両親が重要なのか』(慶應義塾大学出版会)は、2人親世帯は1人親世帯よりも金銭的・非金銭的なリソースを子どもに提供できる能力が高い、という点を統計的に解明するとともに、結婚や10代の妊娠についても論じています。鹿島茂『古本屋の誕生』(草思社)では、江戸期の書店の発生から明治期以降の主として東京における古本屋の地理的・商業的・文化的な発展を、「知と文化の集積地」と本書で呼ぶところの古書街について、歴史的に後づけようと試みています。和田哲郎『バブルの後始末』(ちくま新書)は、1990年代に日銀職員として不良債権の処理やひいては金融機関の破綻処理の実務で携わった著者が、バブル崩壊後の金融機関の後始末について実名を明らかにしつつ歴史的に後づけています。海老原嗣生『静かな退職という働き方』(PHP新書)は、それほど出世を望まず、むしろ、期待される最低限の仕事をこなしておくだけの働き方について、行動指針のアドバイスや収入などのライフプランの情報、また、管理職に向けた対処の方法などについて取りまとめています。勅使川原真衣『学歴社会は誰のため』(PHP新書)では、卒業校の偏差値によるランク付けのようなものは、学歴のバックグラウンドに努力の蓄積があるとの想定の下、能力が高く、お給料をたくさん渡すに適した人材を評価するために会社の方で必要としている、と指摘しています。岩波明『高学歴発達障害』(文春新書)では、中高生、大学生、社会人などの人生のライフステージ別に高学歴や高IQのエリートが発達障害になるケースを実例に基づいて紹介し、再生へのポイントなどを示していますが、私はやや高学歴のエリートに対する偏見やバイアスを感じてしまいました。藤崎翔『お梅は次こそ呪いたい』(祥伝社文庫)は、戦国時代から蘇った呪いの人形であるお梅が前作からパワーアップして、お受験に挑戦する家庭、障害者のいる母子家庭、二世代住宅に暮らす家族、ファミレスのウェイトレスに片思いする男性、などを呪おうとしますが、前作と同じように真逆の結果を招きます。松下龍之介『一次元の挿し木』(宝島社文庫)は、ヒマラヤ山中の湖から発掘された200年前の人骨をDNA鑑定したところ、4年前に失踪して行方不明になった主人公の妹と完全一致したところからストーリーが始まり、巨大宗教団体や製薬会社などが関係する大きな陰謀の謎を解き明かそうと奮闘します。貴戸湊太『図書館に火をつけたら』(宝島社文庫)では、市立図書館の地下書庫が火事になり、焼死体が発見されるところからストーリーが始まり、小学生のころに図書館に居場所を見出していた幼馴染の3人が、殺人と放火の謎解きに挑戦します。
今年の新刊書読書は1~4月に99冊を読んでレビューし、5月に入って先週までの13冊と合わせて112冊、さらに今週の9冊を加えて121冊となります。これらの読書感想文については、Facebookやmixi、mixi2などでシェアしたいと考えています。なお、本日の9冊のほかに、アガサ・クリスティ『検察側の証人』(創元推理文庫)も読んでいます。いくつかのSNSにてブックレビューをポストする予定ですが、新刊書ではないと考えますので、本日の感想文には含めていません。

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まず、メリッサ S. カーニー『なぜ子どもの将来に両親が重要なのか』(慶應義塾大学出版会)を読みました。著者は、米国メリーランド大学のニール・モスコウィッツ経済学教授を務めています。本書の英語の原題は The Two-Parent Privilege であり、2023年の出版です。ありふれた日本人からすれば、本書の主張はあまりにも明らかかもしれません。すなわち、両親がそろっている2人親世帯は、1人親世帯よりも金銭的・非金銭的リソースを子どもに提供できる能力が高い、という点を論じています。重要なのは、2人親世帯であるという点であって、1人親世帯であっても2人親世帯よりも所得が高い世帯はいっぱいありますが、所得だけに要因が還元されるのではなく、時間的な余裕の有無やロールモデルの提供も含めて、2人親世帯である点が重要という主張です。もちろん、2人親の性別がヘテロである必要はありません。すなわち、同性婚であっても2人親世帯である、という点が重要という結論です。そして、この結果、親の世代の家族の衰退が子どもの世代の経済格差を拡大させている、と指摘しています。加えて、さまざまなほかの論点を議論しています。すなわち、まず、学校にできることは限られているという事実です。家庭の重要性を強調しているわけです。ただ、家庭を持てる、すなわち、結婚できるかどうかは、これは日本でも同じように見受けられますが、所得も含めて男性の要因が大きく作用します。したがって、家庭を持てる男性である必要があります。大きな要因のひとつが所得であることはいうまでもありません。加えて、本書ではシングルマザーから貧困に陥って子どもへのリソースが十分でなくなる可能性を減じるために、10代での妊娠出産について分析しています。当時のオバマ大統領夫妻らによるキャンペーンもありましたが、テレビ番組の影響についても論じています。さらに、出生率低下については、米国でも子育てがあまりにたいへんである点を強調しています。日本も同じ、というか、もっと子育て環境が厳しい気もします。最後に、本書では米国のデータを中心に議論が進められていることから、日本における男性の家事や子育てに関する関与の小ささについて私は懸念しています。2人親家庭であっても、かつての高度成長期のように男性が企業で長時間労働を強いられ、女性に一方的に家事育児が押し付けられて、男性の家事や育児への関与がきわめて小さい経済社会であれば、2人親世帯である利点がいくぶんなりとも減じるおそれを私は感じます。もちろん、人類をはじめとして生物は単なる遺伝子の伝達役だけではなく、自分自身の人生について考えるべきであり、子どもがすべてというわけではない、という反論はあり得ると私も思います。逆に、親として子どもの幸福を願うというのはきわめて自然な感情であるこも当然です。一方で、個人としてそれほど子どもを考慮せず、子どもではなく自分の人生のためにリソースを使う、他方で、自分の人生を犠牲にしてでも子どもにリソースを提供する、という両極端の間のどこかに最適解があるのはいうまでもありませんし、それは個々人で異なるのだろうと私は受け止めています。

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次に、鹿島茂『古本屋の誕生』(草思社)を読みました。著者は、明治大学文学部名誉教授であり、フランス文学者、作家でもあります。本書では、まず、江戸期の書店の発生、ちょうどNHK大河ドラマでやっている蔦重の物語のように、書店がどのように成立したのかを概観した後、明治期以降の書店、というよりも古本屋の歴史を後づけようと試みています。まず、本については、出版、取次=流通、新刊書販売と古本販売の4業態を区別しています。ただ、私自身は、確かに日本では見かけないものの、外国では新刊書と古本を同じ店で同時に売っている例はいっぱい見かけています。ニューヨークのストランド書店なんかは完全にそうです。というか、それが世界の本屋さんの標準であって、日本のように新刊書と古本が明らかに別の業態で販売されているのが異例なのかもしれません。例えば、人口に膾炙したお話として、東京で本の街といえば神田神保町になります。でも、新刊書販売をしている書店と古本屋は、確かに別の業態として成立しているように見えます。まあ、それはともかく、明治期に入って徳川宗家の移動にしたがって旗本が大量に江戸から駿河に移ることになり、これまた大量の蔵書が処分され、それらが書籍をもっとも必要とする僧侶がいっぱい住んでいる増上寺周辺で古本街が成立した、と本書では指摘しています。したがって、当時は、芝神明町・日蔭町が東京随一の古本街だったようです。その後、大学の設立に伴って古本街も北に移動した、という見立てです。すなわち、当時は夜学中心でオフィス街の近くに大学が立地する必要があり、大学が集積していた神田・一橋地区に学生相手の古本屋が移動するとともに、新たに出版社が設立された、ということです。現在まで残っている主要な出版社として、有斐閣と三省堂を上げています。その後、大正期の関東大震災で古本需要が高まった、と分析しています。すなわち、新刊書の場合は出版=印刷、取次=流通、そして書店の三者がそろわないと消費者の手に渡らないわけですが、古本の場合は豊富な在庫をそのまま店頭に並べればOKなわけで、関東大震災で新刊書販売のいずれかの段階でダメージを受けたとしても、古本はすぐに消費者の手に届けることができた、とその利点を強調しています。終戦直後もご同様だったかもしれません。ただ、本書でも決して無視しているわけではなく、ある程度の考察を割いてはいますが、街中の書店が大きく減少してネット販売が無視できない割合を占め、加えて、古本に関しても、メルカリやBOOKOFFの果たす役割が大きくなっている点は事実として認めざるを得ません。最後に、本書には豊富に古本街の略図が収録されていて、ある程度の土地勘あれば、そういった地図を眺めているだけでも結構な情報を得られ、また、時間も潰せる気がします。

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次に、和田哲郎『バブルの後始末』(ちくま新書)を読みました。著者は、日銀のご出身であり、日銀退職後は野村総研などにお勤めだったようです。私よりも数歳年上で大雑把に70歳くらいです。1990年代は日銀においてバブル経済崩壊後の金融機関の破綻処理に明け暮れていた、などというご様子です。1990年代の不良債権の処理について、世界的にもほとんど経験のなかった未知の実務を手探りで進めていった経緯がよく理解できます。というよりも、ここまで人名にせよ、企業名にせよ、実名を明らかにしても大丈夫なのだろうか、と心配になるくらいに赤裸々に不良債権処理や金融機関の破綻処理などを歴史的に後づけています。そのあたりは読んでいただくしかありません。そして、最終的に、国民の間で人気の高かった、したがって、政治家の間でも受けのよかった懲罰的な金融機関の破綻処理によるハードランディングから、Too Big To Fail の原則に基づいて、公的資金注入というソフトランディングに方針変更される経緯を実例に基づいて把握することが出来ます。本書についても、全体を通してというよりも部分的ながら、日銀実務担当者として破綻処理というハードランディング処理に向かいながら、結局、当時の大蔵省の不見識によって破綻処理を誤った、と読める部分が少なからずあります。ただ、日本の金融当局の方針として、モラルハザードの防止の重視から国民経済や雇用の観点に立脚する Too Big To Fail の金融機関の救済に転じたことは事実であり、そのあたりが印象的でした。逆に、日銀の実務家による記録ですので、理論的にあるいは実証的に、どのように考えるべきかについてはほとんど分析がありません。カテゴリー分けして分類的な分析はあるとはいえ、エコノミストにはその意味で物足りない可能性もありますが、ここまで歴史的な実例を豊富に持ち出して事実関係を明らかにしていますので、一般的なビジネスパーソンには十分な読みごたえがあるものと推測します。最後に、私は大学院には進学せずに役所に就職して定年まで勤務し、アカデミックなコースを歩んだわけではないので、大学では「実務家教員」と呼ばれて、場面によってはディスられることも少なくありませんが、それでも、ここまで詳細な実務に携わったことはありません。せいぜいが、1980年代末のバブル経済期の金のペーパー商法で摘発された豊田商事事件を見知っているだけです。

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次に、海老原嗣生『静かな退職という働き方』(PHP新書)を読みました。著者は、リクルート系列の企業勤務を中心に、人材コンサルではないかと思います。日本では、その昔の高度成長期にいわゆる「エコノミックアニマル」とか、「モーレツ社員」というのがありましたし、バブル経済期にも「24時間戦えますか」なんて歌が流行ったりもしましたが、最近では、米国の "Quiet Quitting" を和訳した本書のタイトルのような働き方が出始めている、という内容です。すなわち、出世を目指して意欲的に働くのではなく、会議などでも発言を控えたりして、最低限やるべき業務をやるだけ、という働き方です。そして、本書では過剰な会社への奉仕を止めれば、逆に生産性が高まる、と指摘しています。もちろん、そういった背景には最近の「ワーク・ライフ・バランス」の重視や「働き方改革」などが大いに関係しているわけで、そういった経済社会の構造変化の分析もしています。その上で、「静かな退職」の実践についてのアドバイス、すなわち、行動指針や収入などのライフプランの情報に限らず、そういった職員や部下のいる管理職、あるいは、企業に向けた対処の方法などについても言及しています。日本の場合は特に職場での仕事に限らず、いろんなものに対して料金や見返り以上のオーバースペックを期待する場合が少なくありません。ホントは100の必要しかないのに、150や200のスペックを求めるのはムダとしかいいようがないのですが、そういったムダによりコストが高くなっている面もあり、低生産性につながっているとも考えられます。他方で、最近の新入社員の意識調査などによれば、出世を強く望んでいるふうでもなく、そういった仕事面だけでなく人生観や処世術の総体的な呼び方として「草食系」という表現があるのは広く知られている通りです。草食系までいかないとしても、コスパやタイパの重視はそういった方向と一致している動きだと考えるべきです。他方で、肉食系・モーレツ系の管理職なんかが、そういった草食系を扱いかねているのも事実かもしれません。最後に、私自身はキャリアの国家公務員として、役所で平均的なレベルに満たない出世しかできかったのですが、決して出世を望んでいなかったわけではなく、平均的には出世したいものだと常々考えていました。でも、ダメだったわけです。

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次に、勅使川原真衣『学歴社会は誰のため』(PHP新書)を読みました。著者は、組織開発専門家だそうです。はい、私にはよく理解できない種類の活動をされているような気がします。本書での問いは、学歴不要論などが何度か定期的に繰り返し浮上する一方で、学歴社会は一向になくなりそうもありませんし、誰のために、どういった組織のために学歴社会があるのかも不明ですから、そういった学歴を何らかの指標にするのはどういった必要からか、を問いとして考えています。ただ、いつも日本にある言葉の問題で、本書も高卒と大卒といった学歴による区別や差別、あるいは、順位付けを問題にしているのではなく、卒業校の偏差値によるそういったランク付けのようなものを問題にしているわけです。結論は本書で早々に示してあり、能力が高く、お給料をたくさん渡すに適した人材を評価するため、ということになります。そして、そういった学歴のバックグラウンドに努力の蓄積があると考えているわけです。がんばって努力したので、いい大学に入れたのではないか、という推測を成り立たせているわけです。私も大学教員ですので、学生諸君の就活には大いに利害関係があり、さまざまな情報に接していますが、かなり前に日本の超一流メーカー、国際的にも名の知れたメーカーで就活のエントリーシートに大学名を書くセルのないものを用意して、大学名によらない選考をしたところがありました。結果としては、私が確認したわけではなく、世間のウワサ程度の信憑性ながら、みごとに偏差値順による評価と同じだった、と聞き及んだことがあります。ですから、何がいいたいのかというと、就活の選考の結果として、企業の採用部門で評価するのは大学入学の際の偏差値ときわめて強い相関がある、ということです。これはある意味で当然の結果であり、卒業して就職する際に高く評価される大学がいい学生が集まって競争が激しく、偏差値が高い、という因果関係になるわけですから、就活から逆算された偏差値が出るのは不自然ではありません。ただ、規模の大きな企業で働くとすれば、何人かのグループで、あるいは、他の組織と協力して業務を進める必要があるわけで、そういった意味で、コミュ力というのも重要です。本書では、最後の方で学歴社会の弊害防止のために、現在のメンバーシップ型ではなく、業務を職務記述書などで明記するジョブ型の採用を今後の方向として推奨しているようです。私はこれは疑問です。単に採用方法を変えればいいというものではありません。本書のような小手先のお話ではなく、日本の雇用を根底から変更する可能性も視野に入れた本格的な議論が必要です。

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次に、岩波明『高学歴発達障害』(文春新書)を読みました。著者は、昭和大学医学部精神医学講座主任教授です。本書以外にも、発達障害についての著書があり、私も読んだ記憶があります。本書では、中高生、大学生、社会人、さらに、起業家やフリーランスといったライフステージ別に、おそらく、実際の医療行為を施した患者の実例を基にして、症状の例や治療・投薬の実際を紹介しています。終わりの方で、継続的に症状が改善しない例や治療困難な例を示しています。ただ、実例そのものではないにしても、実例に即した治療や投薬ですので、一般化された発達障害の議論ではなく、やや応用性に乏しい気がしました。特に、医者のいうことを聞かない、とか、思い込みが治療を阻害するとか、治療に当たる医者として、治療が長引いたり、難しくなったりする原因としては、ある意味で当然なのかもしれませんが、高学歴エリートだから医者のいうことを聞かない、とか、思い込みが激しい、といったニュアンスを感じさせるのは、私は少しバイアスを感じないでもなかったです。副題が「エリートたちの転落と再生」となっていて、各実例の最後に「再生のポイント」というのがあり、「転落」とか「再生」という言葉遣いがややどぎつい気もしました。加えて、「覗き見趣味」とまではいいませんが、タイトルからしても、ややキワモノっぽくしてありますし、高学歴のエリートであることが治療を難しくしているという明確な記述はそれほどありませんが、タイトルや副題からして誤解を生じさせる可能性が排除できません。その上、明確に断っているとはいえ、高学歴のエリートではないと考えられる例を基にした部分もあり、少し違和感を覚えました。小説であれば、発達障害の中でもADSとかサヴァンのポジな面を強調して、話を盛ることもひとつの手段であるのに対して、医者が症例を基にした新書ですので、話を盛るような逆バイアス的な記述を避けようというい意図は理解しますが、繰り返しになるものの、高学歴、あるいは、エリートだから発達障害が治療しにくい、治りにくい、といった暗示的な記述は避けるべきであり、私の気にかかった部分もあった点は指摘しておきたいと思います。本が売れりゃあいいってものではありません。

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次に、藤崎翔『お梅は次こそ呪いたい』(祥伝社文庫)を読みました。著者は、お笑い芸人から小説家に転身しています。本書は『お梅は呪いたい』の続編であり、戦国時代に作られた呪いの人形であるお梅なのですが、前作ではブランクが長くかったため、人間を呪うどころか、逆に幸福をもたらしてしまった、というコメディでした。続編である本書では、冒頭に解体された家屋にあった次郎丸という同じ呪いの人形から、新しく空中浮遊と胴体分離の能力を教示されます。従来からの瘴気も少しパワーアップされ、ネガな気分を増幅させる能力も駆使して、新たな標的に呪いをかけます。まず、第1に、有名私立小学校のお受験に挑む家族なのですが、両親は離婚寸前までいっていて、崩壊しかねない一家の「間者童を呪いたい」、そして、第2に、その一家のお受験の少女と仲のいい女の子、この少女は障害を持っているのですが、その少女と兄を抱える母子家庭の「母子家庭を呪いたい」と、それぞれの一家を呪うのですが、ことごとく失敗して逆に幸福をもたらしてしまうのは前作と同じ趣向です。そして次の第3に、二世帯住宅に居住する一家なのですが、母親が父と娘から邪険にされ、おばあさんのいる方に入り浸っている一家、となります。この「二世帯住宅で呪いたい」が、単にコミカルなだけではなく、実に劇的な真相解明がなされます。要するに、ミステリ仕立てになっているわけです。第4話の「恋患いで呪いたい」では、ランチによく行くファミレスのウェイトレスの女性に恋する男性の危機を救ってしまいます。これもミステリ仕立てになっています。詳細に、お梅ではなく作者が謎解きを展開します。最後の「しんがあそん某を呪いたい」では、一発だけヒットを飛ばしたシンガーソングライターの男性を呪おうとしますが、結局、というか、やっぱり、成功に導いてしまうわけです。明らかに前作よりも、お梅ではなく作者がパワーアップしています。ミステリ仕立ての謎解きがあったり、各話のリンケージがよくなって、前の短編の一部が次の短編の伏線になっていて回収されたり、あるいは、各話にチラホラ登場するテレビのワイドショーの司会者の沖原が重要な役割を果たしたり、もちろん、前作も十分に面白かったのですが、小説としてのクオリティが爆上がりだと思います。

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次に、松下龍之介『一次元の挿し木』(宝島社文庫)を読みました。著者は、ミステリ作家なのですが、まだ専業作家ではないようで、第23回「このミステリがすごい!」大賞・文庫グランプリを受賞してデビューしています。当然、私は初読の作家さんでした。ということで、800人ほどの遺体が眠るヒマラヤ山中の標高5000メートルにあるループクンド湖で石見埼明彦が採掘した200年前の人骨のDNAが、4年前に失踪して行方不明になっている七瀬悠の妹である七瀬紫陽のDNAが一致したところからストーリーが始まります。古今東西トップテン入りするであろうSF名作『星を継ぐもの』を思わせる出だしです。主人公の七瀬悠は大学院で研究しており、石見埼明彦は指導教授です。遺伝子をキーワードにした科学SFっぽいミステリなので、瀬名秀明の『パラサイト・イブ』も思わせますし、さらに、巨大なカルト宗教教団も登場します。その教団の意を呈して動く怪物、あるいは、死神のような大男も登場します。もちろん、ミステリですから殺人事件が起きます。DNA鑑定結果に不審を持った七瀬悠が指導教授の石見埼明彦を訪ねると、石見崎教授は殺害されています。さらに、ループクンド湖での人骨の発掘に関わった調査員も次々と襲われ、研究室からは問題の人骨が盗まれてしまいます。七瀬悠は、行方不明の妹の生死の謎とDNAが一致する真相を突き止めるため、石見崎教授の姪を名乗る唯とともに調査を開始することになります。しかし、その調査の過程で巨大な宗教団体「樹木の会」や製薬会社が関わる陰謀、想像を絶するような大きな闇に巻き込まれていくことになります。謎解きは鮮やかですが、DNAが完全に一致するのですから、科学的・論理的に一卵性双生児でなければ、その理由はひとつだけですから、DNAの一致に関する謎がこの作品のもっとも重要な謎というわけではありません。ですから、石見崎教授をはじめとする、というか、石見崎教授以外にも死ぬ人が出てくるわけですが、そういった殺人事件の謎の解明が主たる謎解きとなります。でも、それらの背景にある極めて大きな謎については、まあ、読んでみてのお楽しみ、ということになります。繰り返しになりますが、出だしが『星を継ぐもの』みたいな雰囲気を出していますし、『パラサイト・イブ』っぽい部分もあります。加えて、最近の作品の中では、遺伝子関連という意味で『禁忌の子』を連想させる部分もあったりします。ただ、宗教団体の行動原理については、合理性を欠く可能性がありますので、注意が必要です。いい出来のミステリです。大いにオススメです。

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次に、貴戸湊太『図書館に火をつけたら』(宝島社文庫)を読みました。著者はミステリ作家なのですが、第18回「このミステリーがすごい!」大賞U-NEXT・カンテレ賞を受賞し、『そして、ユリコは一人になった』で2020年にデビューしています。宝島社文庫から出ている「認知心理検察官の捜査ファイル」シリーズも人気だそうです。ただ、不勉強にして私には初読の作家さんでした。ということで、千葉県にある七川市立図書館の地下書庫で大規模な火災が発生し、焼け跡から死体が発見されるところからストーリーが始まります。焼死と思われたその死体の頭部には何者かに殴られた痕があり、火災の前に殺人事件が起きていたことが発覚しますが、発見場所である七川市立図書館の地下書庫は事件当時、密室状態にあったことが明らかになります。主人公の瀬沼刑事が真相を探ることになります。実は、冒頭の挿話では小学校に馴染めずに図書館を居場所にしていた3人の小学生のお話が置かれています。小学6年生だった瀬沼貴博は刑事になり、5年生だった島津穂乃果は図書館司書として市立図書館で働いています。4年生だった畠山麟太郎は小説家を志望して調べ物でしょっちゅう図書館に来ます。この3人が協力して事件解決、謎解きに当たるわけです。そして、真相解明の前に「読者への挑戦状」が置かれています。真相解明は、ホームズ的な消去法にしたがってなされます。殺されたのが誰かは真相解明のずっと前に明らかになるものの、地下書庫はいかにして密室状態となったのか、誰が殺人犯なのか、などなど典型的なミステリといえます。図書館を舞台にしたミステリですので、馴染みやすい読者も少なくないだろうと思います。そして、その図書館の人間関係がていねいに記述されている上に、いかにも実際にありそうで親しみが持てます。人間関係の詳細は読んでみてのお楽しみです。ただ、謎解きに関しては、瀬沼刑事が示した犯人に対して、島津司書が異議を唱えたりしますので、少なくとも作中人物は混乱をきたしているように見えたりしなくもなく、読者ももたついた印象を持つかもしれません。ただ、死ぬのはたった1人ですし、しかも、密室殺人です。「読者への挑戦状」もあって、ミステリとしてではなく、別の面で小説としての完成度は高くてオススメです。

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2025年5月16日 (金)

4四半期ぶりにマイナス成長となった1-3月期のGDPをどう見るか?

本日、内閣府から1~3月期GDP統計速報1次QEが公表されています。季節調整済みの系列で前期比▲0.2%減、年率換算で▲0.7%減を記録しています。設備投資は前期比プラスとなったものの、民間消費はほぼゼロ成長です。4四半期ぶりのマイナス成長です。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+3.3%、国内需要デフレータも+2.7%に達し、GDPデフレータは10四半期連続、国内需要デフレータも16四半期連続のプラス、うち、最近14四半期では+2%超となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1-3月GDP年率0.7%減、4四半期ぶりマイナス成長 消費力強さ欠く
内閣府が16日発表した1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.2%減、年率換算で0.7%減だった。2024年1~3月期以来、4四半期ぶりのマイナス成長となった。物価高によって個人消費が力強さに欠けた。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値の年率0.2%減を下回った。
GDPの半分以上を占める個人消費は1~3月期は前期比0.04%増でほぼ横ばいだった。肉や魚などの食料品がマイナスとなった。24年夏ごろに備蓄需要が高まり好調だったパックご飯もマイナスだった。外食は天候に恵まれたこともあり、プラスだった。
輸出は0.6%減と4四半期ぶりにマイナスに転じた。知的財産権の使用料が減ったほか、24年10~12月期に大型の案件があった研究開発サービスの反動減があらわれた。モノの輸出の中では自動車が伸びた。米国の関税措置が発動される前の駆け込み需要が一定程度あったと考えられる。
増えるとGDP成長率にはマイナス寄与となる輸入は2.9%増と大きく増加し、成長率を押し下げた。ウェブサービスの利用料といった広告宣伝料が増えたほか、航空機や半導体関連もプラスだった。
前期比の成長率に対する寄与度をみると、内需がプラス0.7ポイント、外需がマイナス0.8ポイントだった。寄与度については内需のプラスは2四半期ぶり、外需のマイナスも2四半期ぶりだった。
個人消費に次ぐ民需の柱である設備投資は前期比1.4%増だった。研究開発やソフトウエア向けの投資が目立った。デジタルトランスフォーメーション(DX)向けの投資などが含まれるとみられる。公共投資は同0.4%減、政府消費は0.0%減となった。
1~3月期の収入の動きを示す実質の雇用者報酬は前年同期比1.0%増だった。24年10~12月期の3.2%増から縮小した。
赤沢亮正経済財政・再生相は16日、日本経済の先行きについて「米国の通商政策による景気の下振れリスクに十分留意する必要がある」と指摘した。「物価上昇の継続が消費者マインドの下振れなどを通じて個人消費に及ぼす影響も我が国の景気を下押しするリスクとなっている」と言及した。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、雇用者報酬については2種類のデフレータで実質化されていてる計数が公表されていますが、このテーブルでは「家計最終消費支出(除く持ち家の帰属家賃及びFISIM)デフレーターで実質化」されている方を取っています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2024/1-32024/4-62024/7-92024/10-122025/1-3
国内総生産GDP▲0.4+0.9+0.2+0.6▲0.2
民間消費▲0.6+0.8+0.7+0.1+0.0
民間住宅▲3.2+1.2+0.7▲0.2+1.2
民間設備▲1.1+1.4+0.1+0.8+1.4
民間在庫 *(+0.2)(+0.1)(+0.1)(▲0.3)(+0.3)
公的需要▲0.2+1.8▲0.1+0.0+0.0
内需寄与度 *(▲0.5)(+1.2)(+0.5)(▲0.1)(+0.7)
外需(純輸出)寄与度 *(+0.1)(▲0.3)(▲0.3)(+0.7)(▲0.8)
輸出▲3.6+1.5+1.2+1.7▲0.6
輸入▲3.7+2.7+2.2▲1.4+2.8
国内総所得 (GDI)▲0.4+1.3+0.3+0.7▲0.3
国民総所得 (GNI)▲0.5+1.8+0.4+0.3+0.2
名目GDP+0.0+2.4+0.5+1.2+0.8
雇用者報酬 (実質)+0.5+0.8+0.3+1.3▲0.9
GDPデフレータ+3.1+3.1+2.4+2.9+3.3
国内需要デフレータ+2.0+2.6+2.2+2.4+2.7

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された1~3月期の最新データでは、前期比成長率がマイナス成長を示し、内需では灰色の民間在庫や水色の民間設備がプラス寄与している一方で、黒の純輸出大きなマイナス寄与しているのが見て取れます。

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まず、引用した記事にある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前期比年率で△0.2%減のマイナス成長であり、予想レンジの上限が+0.8%ということでしたので、実績の年率▲0.7%減はやや下振れした印象ですが、大きなサプライズはなかったと私は受け止めています。ただし、引用した記事のあるように、内需のうちの消費が停滞しているのはその通りなのですが、年率換算しない季節調整済みの前期比で▲0.2%減の寄与度を見れば、内需寄与度が+0.7%、純輸出=外需寄与度が▲0.8%の和で▲0.2%のマイナス成長となっている点は忘れるべきではありません。すなわち、内需は消費が停滞したものの、設備投資の増加などによりプラス寄与していて、マイナス成長の大きな要因は純輸出にあり、しかも、輸出の停滞よりも輸入の増加に大きな原因がある、ということです。ただ、内需寄与度の+0.7%の半分は+0.3%の在庫の増加が占めていますので、いわゆる売残りが増えていることは事実です。そして、消費の停滞は明らかに物価上昇に起因しています。季節調整していない原系列の前年同期比で見て、GDPデフレータも国内需要デフレータも+3%近傍の上昇を示しており、特に、消費に関してはコメをはじめとする食料の値上がりが大きなダメージを及ぼしていると考えるべきです。ですので、民間消費は物価上昇を含む名目ベースで前期比+1.6%増となっているものの、物価上昇を除いた実質ベースでは+0.0%、すなわち、ほぼほぼ横ばいを示しています。他方、民間設備は前期比+1.4%増、前期比年率+5.8%増ですから、現時点で詳細は不明であるとしても、引用した記事で推測されているように、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連の設備投資が出始めているのであれば、将来の日本経済にとって好材料と考えられます。

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設備投資から、もう一度、消費に目を向けるため、上のグラフは同じ縦軸のスケールで インバウンド消費(非居住者家計の購入)と国内民間消費 をプロットしています。どちらも季節調整済みの系列であり、年率換算してあります。縦軸の単位は兆円です。両者の差を際立たせるために、見た目はよろしくないのですが、意図的に縦長のグラフにしてあります。見れば明らかですが、水色の棒グラフの国内民間消費は約300兆円、赤のインバウンド消費は10兆円に満たない水準です。しかも、この1年の増加分を考えると、2024年1~3月期から本日公表された2025年1~3月期まで、国内民間消費は286,973.6十億円から291,686.4十億円へと+4712.8十億円、すなわち、+5兆円近く増加しています。他方で、インバウンド消費は6,137.7十億円から7,944.0十億円へと+1806.3十億円、すなわち、+2兆円弱の増加です。国内民間消費のボリュームがインバウンド消費を大きく超えていることは明らかであり、国民生活にとって重要なのはインバウンドではなく国内の民間消費であることはもっと明らかであろうと私は考えています。インバウンド消費で潤っている人たちの声が大きくて、サイレント・マジョリティが無視されがちな点は残念ですが、国内の民間消費が停滞している報道に接して、消費税率の引下げや将来の撤廃に向けた議論が進むことを願っています。

最後の最後に、日本経済研究セーターによる最新の5月調査のESPフォーキャスト調査では、1~3月期はマイナス成長に陥るものの、4~6月期には早くもプラス成長に回帰し、その後、緩やかに成長率が高まっていくという見方が示されました。しかし、私は4~6月期も2四半期連続でマイナス成長となる可能性が十分あると考えています。形式的には景気後退=リセッションと見なすエコノミストも出そうな気がします。

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2025年5月15日 (木)

外国人留学院生を連れて葵祭に行く

今日は、午後からカミさんといっしょに夫婦で京都に葵祭に出かけました。外国人留学院生の指導に当たっている先生からのお誘いでした。
下の写真は牛車です。斎王代の輿は撮りそびれてしまいました。

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高い伸びが続く4月の企業物価指数(PPI)

フォローを忘れていたのですが、昨日、日銀から4月の企業物価 (PPI) が公表されています。統計のヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+4.2%の上昇となり、2月統計の+4.1%から上昇率がさらに拡大し、依然として高い伸びが続いています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

国内企業物価4月は前年比+4.0%、伸び率は鈍化=日銀
日銀が14火に発表した4月の企業物価指数(CGPI)速報によると、国内企業物価指数は前年比でプラス4.0%となった。ロイターがまとめた民間調査機関の予測中央値も前年比プラス4.0%だった。前月比ではプラス0.2%で、前年比、前月比とも上昇率は前月を下回った。医薬品などの化学製品や亜鉛めっき鋼板などの鉄鋼が伸び率の鈍化に寄与した。
日銀担当者は、企業物価は落ち着いてきたが伸び率は過去と比較しても依然高いレベルにあると指摘。今後も不確実性の高い国際市況や地政学リスクに注意が必要だとしている。
企業物価指数の水準は126.3と8カ月連続で過去最高を更新。50カ月連続で前年比越えとなった。コメ、鶏卵といった農産物の価格高止まりに加え、再エネ賦課金や原材料コスト等の価格転嫁が上昇要因となっている。
輸出物価は契約通貨ベースで前月比0.3%の下落となった。乗用車や駆動・伝導操縦装置部品などで、移転価格調整や既往の為替円安を反映した。
輸入物価は契約通貨ベースで前月比0.6%の下落となった。石油・石炭・天然ガスはいずれも既往の市況下落を反映して大きく値下がりした。
515品目中、上昇は365、下落は130となり、差し引き235品目となった。3月は差し引き280品目だった。
トランプ関税については、日本企業もまだ情報収集をしている段階で、日銀としても、その直接的影響についてはまだ明確に把握しておらず、引き続き注視している、という。

インフレ動向が注目される中で、やや長くなってしまいましたが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にあるように、企業物価指数(PPI)のヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率について、ロイターでは市場の事前こセンサスは+4.0%でしたが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも高止まりしている要因は、引用した記事にもある通り、コメなどの農林水産物とエネルギーであり、農林水産物は前年同月比で見て3月+39.1%の後、本日公表の4月統計では+42.2%と、猛烈な上昇を見せています。何分、コメなどは生活必需品の食料であって、企業間取引の価格とはいえ小売価格に波及することは当然ですから、国民生活への影響も深刻度を増している可能性が高いと私は受け止めています。ただし、為替相場では2月から4月まで3か月連続で円高が進んだ点は、金融政策当局の目論見通りかもしれません。すなわち、前月比で見て、1月には+1.8%の円安となったものの、2月には△2.9%、3月は▲1.8%、4月も△3.2%の円高が進んでいます。また、私自身が詳しくないので、エネルギー価格の参考として、日本総研「原油市場展望」(2025年5月)を見ておくと、「当面の原油価格は50ドル台半ばに向けて下落する見通し。」と指摘しています。円ベースの輸入物価指数の前年同月比は、今年に入って1月+2.2%の後、2月▲1.9%、3月▲1.5%、4月△2.6と下落を記録しており、国内物価の上昇は明らかにホームメードインフレの様相を呈してきています。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、まず繰り返しになりますが、農林水産物は3月の+39.1%から4月は+42.2%とさらに上昇幅を拡大しています。これに伴って、飲食料品の上昇率も3月の+3.4%から4月は+3.6%と加速しています。電力・都市ガス・水道も3月の+6.5%から、政府の補助金削減により4月は+10.1%と2ケタの高い上昇率が続いています。

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2025年5月14日 (水)

米国家計ではどれくらい大学学費を支払えるのか?

米国の全米経済調査会(NBER)から米国家計の大学学費支払い能力に関するワーキングペーパー "How Much Can Families Afford to Pay for College?" が明らかにされています。引用情報は以下の通りです。

次に、NBERのサイトから論文のABSTRACTを引用すると以下の通りです。

ABSTRACT
This paper studies families’ capacity to pay for college in the United States, focusing on changes over time and differences by race and socioeconomic status. I use data from the National Postsecondary Student Aid Study (NPSAS) to document changes over time in the Expected Family Contribution (EFC) from the Free Application for Federal Student Aid (FAFSA). The results suggest that the EFC has been rising over time, and that this has been driven primarily by families in the upper quartile of the income distribution. I then use data from the Panel Study of Income Dynamics (PSID) to calculate alternative measures of the ability to pay for college. I find that it is possible to alter the distribution of who pays what amount by changing details of the EFC calculation, but the extent of this depends on details of the implementation.

続いて、ワーキングペーパーから4分位別の学費支払い能力のグラフ Figure 1: Mean Expected Family Contribution by Family Income Quartile と Figure 3: Mean Expected Family Contribution by Racial or Ethnic Group を引用すると以下の通りです。

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見れば明らかですが、2010年以降の最近10~15年で4分位別ではもっとも所得の高い上位25%の家計で、また、白人とアジア人の家計で、それぞれの大学学費負担能力が高まっている一方で、所得4分位別の下位75%、あるいは、黒人とヒスパニックの家計では負担能力はまったく高まっていません。とても判りやすい形でハッキリと格差が拡大しているわけです。

日本でも、国立大学が法人化されてから大学の学費値上げが堂々と行われるようになり、昨年2024年3月には、中央教育審議会の高等教育の在り方に関する特別部会の第4回会合において慶應義塾の伊藤公平塾長が「国立大学の学納金を150万円、年程度に設定してもらいたい」と発言して大きな批判を浴びているところです。サンデル教授が『実力も運のうち 能力主義は正義か?』において、能力主義を批判し、特に、大学卒業者による無意識の差別を批判するのは理解できます。でも、他方で、大学教育は貧困から脱する有力な手段のひとつであり、大学の学費を低く抑えたり、無償にしたりすることにより不平等の是正に資することが可能であると私は考えます。まあ、私は大学教員ですので、一定のバイアスは認めますが、それでも、大学教育の利用可能性を広くし、国民経済の生産性を高めることは重要な課題のひとつであると考えるべきです。

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2025年5月13日 (火)

今週金曜日に公表予定の1-3月期GDP統計速報1次QEは小幅なマイナス成長か?

必要な統計がほぼ出そろって、今週金曜日5月16日に、1~3月期GDP統計速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である1~3月期ではなく、足元の4~6月期から先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。基本的に、トランプ関税の経済的な影響などもあって、多くのシンクタンクが先行き経済について言及しています。例外は三菱UFJリサーチ&コンサルティングと農林中金総研くらいで、とくに、大和総研とみずほリサーチ&テクノロジーズのリポートでは詳細に分析していますので、長々と引用してあります。いずれにせよ、1次情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研▲0.1%
(▲0.3%)
4~6月期の実質GDPもマイナス成長を予想。食料品を中心に物価の騰勢が鈍化することで、個人消費は底堅く推移するものの、米国政府の関税引き上げを受けて、米国向けを中心に輸出が大きく減少。1~3月期の反動で機械投資も減少に転じる見込み。
大和総研+0.1%
(+0.5%)
2025年4-6月期の日本経済は、おおむね横ばいで推移すると見込んでいる。設備投資には 1-3月期まで2四半期連続で増加した反動が表れる一方で、所得環境の継続的な改善が個人消費の回復を後押しするとみられる。トランプ関税の発動を受けて財輸出は減少に転じ、輸出は横ばい圏で推移しよう。
個人消費は、増加が続くと予想する。前年に続き2025年春闘でも高水準の賃上げが実施され、その効果が一部表れることなどから、所得環境の改善が進むと見込んでいる。日本労働組合総連合会(連合)が4月17日に公表した第4回回答集計結果では、定期昇給相当込みの賃上げ率(加重平均)が5.37%と、前年同時期(5.20%)を上回った。例年、7月初めに公表される最終回答集計にかけて下方修正される傾向にはあるものの、賃上げ率は前年(5.10%)を上回り、5%台前半で着地する公算が大きい。また、5 月 22 日から実施される物価高対策(10 円/リットルのガソリン・軽油補助金、5 円/リットルの重油・灯油補助金)は物価上昇を抑制し、実質賃金を押し上げよう。
住宅投資は、住宅価格の高騰で需要が下押しされる展開が続く一方、1-3月期に着工が上振れした影響が引き続き反映されるとみられ、横ばい圏で推移しよう。
設備投資は、1-3月期まで2四半期連続で増加した反動や、トランプ関税の発動などによる先行き不透明感の強まりから減少に転じると予想する。
トランプ大統領は2月4日に中国に追加関税を課したのを手始めに、鉄鋼・自動車などへの品目別関税や57カ国・地域に対する相互関税を立て続けに導入してきた。今後も半導体などへの追加関税が予想されるほか、対米交渉の展開次第では、国・地域別の関税率が引き上げられる恐れもある。日本銀行「全国企業短期経済観測調査」(日銀短観)の3月調査で2025年度の設備投資計画(全規模全産業、除く土地、含むソフトウェア・研究開発)が前年度比+2.2%と、前年同月調査(2024 年度計画で同+4.5%)を下回ったのもトランプ関税への警戒感が背景にあるとみられ、企業マインド・収益悪化に伴う設備投資の下振れリスクには注意を要する。
公共投資は、横ばい圏で推移すると予想する。前述した資材価格の高騰や建設業の人手不足が引き続き重しとなりそうだ。政府消費は、高齢化に伴う医療費増などにより増加を続けよう。
輸出は、横ばい圏で推移すると見込んでいる。財輸出はトランプ関税の発動を受けて減少に転じる一方、サービス輸出は、業務サービスが増加基調に復することなどから堅調に推移しよう。
みずほリサーチ&テクノロジーズ▲0.5%
(▲2.1%)
4~6月期の経済活動については、米国のトランプ政権による関税政策が下振れ材料となる。トランプ政権は、4月2日に世界各国からの輸入品に対する「相互関税」を発表し、全ての貿易相手国からの輸入品に対して一律10%、対米貿易黒字額が大きい国に対して20%~50%の追加関税を導入後、90日間の猶予期間を設定し、中国以外の国々の関税率を10%に引き下げた。一方、報復した中国に対しては追加関税を125%に引き上げたほか、一部品目(鉄鋼・アルミニウム、自動車)には個別の関税(25%)を導入している。
25%の追加関税が課せられる自動車関連を中心に当面は対米輸出が減少することは避けられないだろう。一律関税10%が課される品目についても輸出が一定程度下押しされるとみられるほか、一連の関税措置による世界経済の下振れにより、米国・中国を中心に幅広い国・地域への輸出に下押し圧力が生じる可能性が高い(特に、米国では企業マインド関連指標が悪化するなど、スタグフレーションへの懸念が強まっている状況だ)。現時点で、4~6月期は輸出や生産等が下押しされることで2期連続のマイナス成長になる可能性が高いとみている。
今後の日米交渉の動向に注目する必要があるが、日本に対して24%の相互関税が課せられた場合、みずほリサーチ&テクノロジーズによる機械的な試算では、関税率引き上げ・海外経済減速でGDPが▲0.9%Pt程度下押しされることが見込まれる(関税上昇による米国向け輸出の減少を通じた直接的なGDP下押し影響は▲0.64%Pt、海外経済の下振れに伴う間接的なGDP下押し影響は▲0.22%Pt)。主力産業の輸送用機器、設備機械、電気・電子機器、化学製品のほか、輸送需要減に伴う水上輸送に対して大きな負の影響が見込まれる。あくまで機械的な試算であり幅をもってみる必要があるが、2025年度のGDP成長率がゼロ近傍まで低下する可能性も否定できない計算となる。
一方、今後の交渉を経て関税率の引上げ幅が縮小されれば、日本経済は深刻な景気後退を回避できる公算が高まる(足元のトランプ政権の動向を踏まえると、相互関税については一定程度の譲歩が行われる可能性が高まっている印象だ)。その場合、2025年度の企業収益は原油安・円高進展がプラスに働く非製造業を中心に高水準を維持できる公算が大きくなり、2026年の春闘賃上げ率も(2025年対比では鈍化するものの)人手不足が継続する状況も相まって高めの伸びを維持する可能性が高まるだろう。日本銀行も(当面は様子見姿勢とみられるが)2025年度中に追加利上げを実施する可能性も高まると考えられる。引き続き、日米交渉やトランプ政権の政策の動向に注目したい。
ニッセイ基礎研▲0.2%
(▲0.9%)
4-6月期は米国の関税引き上げに伴い輸出、国内生産が大きく下押しされることは不可避と考えられる。国内需要の回復が緩やかにとどまる中で輸出が減少することから、現時点では4-6月期は2四半期連続のマイナス成長になると予想している。
第一生命経済研▲0.3%
(▲1.1%)
4-6月期以降はトランプ関税の悪影響が徐々に顕在化することが予想される。現状、景気腰折れまではメインシナリオとして予想してはいないものの、関税問題による下押し度合い次第では景気後退局面入りとなる可能性も否定できない状況である。
伊藤忠総研+0.1%
(+0.5%)
続く4~6月期も、トランプ関税の影響が本格化し輸出が下押しされるため、低成長が見込まれる。個人消費は高い賃上げの実現と円安・エネルギー高の修正による物価上昇の鈍化で伸びを高めるものの、純輸出(輸出-輸入)のマイナス寄与が続き、設備投資は先行きの不透明感から増勢加速を期待できない。その結果、景気の停滞感がより強まろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.1%
(▲0.2%)
2025年1~3月期の実質GDP成長率(1次速報値)は、前期比-0.1%(前期比年率換算-0.2%)と予想される。
明治安田総研▲0.0%
(▲0.2%)
先行きの日本経済は基本的に緩慢な回復が続くとみているが、トランプ政権の経済政策運営がリスクとなる。現在、相互関税は90日間の猶予期間に入っているが、自動車と鉄鋼・アルミについてはすでに関税が賦課されている。日米交渉の行方次第ではあるものの、今後は自動車を中心に生産や米国向け輸出の低迷が予想される。設備投資に関しては、省力化投資は底堅く推移するとみるが、外需の低迷が抑制要因になると見込まれる。また、住宅投資は、住宅価格の高止まりと住宅ローン金利の先高観が足枷となり、軟調な推移が続くとみる。個人消費は、今年の春闘で高水準の賃上げ率が見込まれるものの、食品を中心とする物価高が下押し要因になることで緩やかな回復にとどまると予想する。

はい。シンクタンクの間でも見方が分かれました。ゼロ近傍であろうという緩やかなコンセンサスはあるようにも見えますが、みずほリサーチ&テクノロジーズのように大きなマイナス成長を見込んでいるシンクタンクもあります。さらに、先行き見通しについても、春闘賃上げ率が高率となることから個人消費を中心にした内需は堅調に推移することが見込まれる一方で、米国の関税政策次第では輸出が停滞する可能性が高く、差し引きで、小幅なマイナス成長が続いて、2四半期連続のマイナス成長を私自身は予測していますし、私の直感に近いシンクタンクも少なくないものと考えています。ただ、あまりにも先行きの不確定要因が多い、というか、不透明なもので、何とも見通しが立てにくいことはいうまでもありません。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから引用しています。

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2025年5月12日 (月)

大きく悪化した4月の景気ウォッチャーと大きな黒字を計上した3月の経常収支

本日、内閣府から4月の景気ウォッチャーが、また、財務省から3月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲2.5ポイント低下の42.6、先行き判断DIも▲2.5ポイント低下の42.7を記録しています。経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+3兆6781億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

街角景気4月は2.5ポイント低下、「このところ回復に弱さみられる」へ下方修正
内閣府が12日に発表した4月の景気ウオッチャー調査で現状判断DIは42.6となり、前月から2.5ポイント低下した。米国の関税措置による悪影響が強く意識されている。4カ月連続で低下し、2022年2月(37.4)以来の低水準となった。ウオッチャーの見方は「このところ回復に弱さがみられる」に下方修正された。
指数を構成する3部門の全てがマイナスとなった。家計動向関連が前月から2.8ポイント、企業動向関連が1.7ポイント、雇用関連が1.9ポイントそれぞれ低下した。
2-3カ月先の景気の先行きに対する判断DIは、前月から2.5ポイント低下の42.7。5カ月連続で低下し、21年4月(41.8)以来の低水準となった。内閣府は先行きについて「賃上げへの期待がある一方、従前からみられる価格上昇の影響に加え、米国の通商政策の影響への懸念が強まっている」と表現を変更した。
調査期間は4月25日から30日。トランプ米政権の一連の関税措置の内容が明らかになった後に行われた。
米国は4月3日、輸入自動車に25%の追加関税を発動した。同5日、貿易相手国に「相互関税」の基本関税10%、同9日に国・地域ごとに設定した上乗せ分をそれぞれ発動した。その後、上乗せ部分については90日間の一時停止を発表した。
経常黒字、3月として過去最大、所得収支・貿易黒字がけん引=財務省
財務省が12日発表した国際収支状況速報によると、3月の経常収支は3兆6781億円の黒字だった。対外投資からの収益と貿易黒字が増加し、3月としては過去最大の黒字。ロイターが民間調査機関に行った事前調査の予測中央値は3兆6780億円程度の黒字だった。
比較可能な1985年以降で過去最大の経常黒字となった2月からはやや縮小したものの、海外保有資産からの収入を示す第1次所得収支に支えられ、前年同月比で黒字幅を拡大した。自動車や半導体等製造装置の輸出増などで貿易収支も5165億円の黒字と黒字幅を拡大し、サービス収支の192億円の赤字を相殺した。貿易・サービス収支は全体で4973億円の黒字だった。
第1次所得収支は前年同月から3129億円増えて3兆9202億円の黒字、第2次所得収支は1209億円減って7394億円の赤字だった。
米国が6日に発表した3月貿易収支は関税政策の駆け込み需要で過去最大の赤字だったが、財務省担当者は日本の貿易黒字が増加した要因について「判然としないためコメントしない」とした。
旅行収支は、堅調なインバウンド(訪日外国人)の伸長に支えられ、5561億円の黒字と、前年同月の4568億円から拡大した。
2024年度の経常収支は30兆3771億円と過去最大の黒字だった。第一次所得収支が41兆7114億円と過去最大の黒字、旅行収支も過去最大の黒字だった。

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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景気ウォッチャーの現状判断DIは、最近では2月統計で前月から大きく▲3.0ポイント低下して45.6となった後、3月統計でも▲0.5ポイント低下の45.1、本日公表の4月統計ではさらに▲2.5ポイント低下して42.6を記録しています。先行き判断DIも同様に大きな低下を見せており、4月統計は前月から▲2.5ポイント低下の42.7となっています。現状判断DIをより詳しく前月差で見ると、家計動向関連のうちの住宅関連が▲3.8ポイント、小売関連が▲3.5ポイント、サービス関連が▲1.7ポイント、それぞれ低下した一方で、飲食関連は+0.5ポイントの上昇と、わずかながら改善を見せています。基本的には物価上昇、特に食料の価格高騰の影響が家計関連のマインドに出ていたのですが、引用した記事にもあるように、調査時期から類推して、米国の関税政策の動向も影響している可能性があります。それにしても、コメ価格の高騰が大きな影響を及ぼしていると私は考えているのですが、1月統計から2月統計にかけて▲4.8ポイントの大きな低下を示した後、3月統計では+0.4ポイント、本日公表の4月統計でも+0.5ポイントの上昇を記録しています。謎です。また、住宅関連が4月統計で大きく低下しており、価格上昇に加えて、どこまで金利上昇が影響しているのか、やや気になるところです。企業動向関連については、現状判断DI、先行き判断DIともに製造業・非製造業どちらも前月差マイナスながら、製造業の先行き判断DIが前月から▲7.1ポイントの大きな低下を見せているのは、明らかに米国の関税政策の影響であると考えるべきです。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる。」から「景気は、このところ回復に弱さがみられる。」と、先月から明確に1ノッチ下方修正しています。国際面での米国の通商政策とともに、国内では価格上昇の懸念は大いに残っていて、今後の動向が懸念されるところです。また、内閣府の調査結果の中から、家計動向関連に着目すると、小売関連では「食品価格などの値上げが続き、買い控えや選択消費の傾向がみられる (近畿=スーパー)。」といったものが目につきました。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。季節調整していない原系列の統計では、引用した記事にもあるように、貿易・サービス収支が+4973億円の黒字を計上したようです。ただし、私が注目している季節調整済みの系列に着目すると、2024年12月に2023年10月以来の黒字を計上した後、今年に入って、2025年1月、2月は赤字に戻っています。直近でデータが利用可能な3月は速報段階で▲5685億円の赤字を計上しています。さらに、引用した記事にもある通り、日本の経常収支は第1次所得収支が巨大な黒字を計上していますので、貿易・サービス収支が赤字であっても経常収支が赤字となることはほぼほぼ考えられません。はい。トランプ関税によって貿易収支の赤字が拡大したとしても、第1次所得収支で十分カバーできると考えるべきです。ですので、経常収支にせよ、貿易収支・サービスにせよ、たとえ赤字であっても何ら悲観する必要はありません。エネルギーや資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常収支や貿易収支が赤字であっても何の問題もない、逆に、経常黒字が大きくても特段めでたいわけでもない、と私は考えています。ただ、米国の関税政策の影響でやたらと変動幅が大きくなるのは避けた方がいいのは事実です。

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