2019年10月19日 (土)

今週の読書はいろんな分野の経済書など計4冊!!!

今週と来週の読書はかなりペースダウンします。今週は短編ミステリのアンソロジーも含めて計4冊。来週は同じくらいか、もっと少なくなるかもしれません。でも、週3~4冊というのは、私の従来ペースからすればやや少ない気がするものの、日本人の平均的な読書ペースからすると、まずまず読んでいる方なのかもしれません。

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まず、アレックス・ローゼンブラット『ウーバーランド』(青土社) です。著者は、テクノロシジー・エスノグラファーであり、データ・アントド・ソサエティ研究所の研究者、とあるんですが、これだけでは何のことやら、私にはサッパリ判りません。英語の原題も Uberland であり、2018年の出版です。少し前のCEOのスキャンダルで揺れたウーバーなんですが、Airbnbなどと並んで、シェアリング・エコノミーとか、ギグ・エコノミーをけん引する大企業であることは間違いありません。そのウーバーについて、本書では主としてサービスを提供するドライバーの立場から企業運営などについて批判的な議論を展開しています。スマ^トフォンのアプリで簡単に予約出来たりするサービスなんですが、逆のサービス提供サイドについては、ある意味で、アルゴリズムによって最適化されたプラットフォームからの情報に基づいてサービス提供をするとはいえ、ウーバー側の情報に踊らされたり、あるいは、締め付けが厳しかったりして、「最適化」されたアルゴリズムの意味が、誰に対する「最適化」なのか、慎重に問われるべき段階に達しているように私も考えています。日本では、白タク規制があって人を運ぶウーバーのビジネスは出来ていませんが、それなら、というわけで、ウーバー・イーツの大きなボックスを背負った自転車をよく見かけます。私の知り合いのジャーナリストは都心3区で共同運用している赤いシェア自転車は、ほとんどウーバー・イーツに思える、といっていたりもしましたが、先日、ウーバー・イーツの自転車が事故で大ケガをした保障の問題の報道なども見かけました。基本は、同じ問題ではないかと私は考えていますが、確かに、一般的な工場勤務やオフィスワークなどと違って、締め付けが個別バラバラの各個撃破になっていますので、さらに激しさの程度が高い気もします。ただ、アルゴリズムによる最適化のギグ・エコノミーの問題ではなく、あくまで、利潤最大化を目指す企業活動の問題と考えるべきです。すなわち、ギグ・エコノミーのウーバーだけではなく、多かれ少なかれ、アナログなタクシー業界でも同じ問題があるんではないか、と私は推測しています。もっとも、こういった新しげなギグ・エコノミーでの問題点を指摘すると話題になりやすいのも事実であり、こういった突破口から雇用や労働について、本来的な問題を考える起点になればいいのではないか、と私は考えています。本来的な視点を忘れるべきではないものの、社会的な注目度の向上にも配慮したいのは理解できます。

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次に、アダム・オルター『僕らはそれに抵抗できない』(ダイヤモンド社) です。著者は、米国ニューヨーク大学の准教授ですから若手研究者なんだろうと思います。専門は、行動経済学やマーケティング論だそうです。上の表紙画像に見える通り、英語の原題は Irresistible であり、2017年の出版です。邦訳タイトルの副題が「依存症ビジネス」のつくらかた、と和っていて、まざに、そのものズバリです。経済学的には、マイクロな経済学の観点から、シカゴ大学のベッカー教授なんかが「合理的な依存症の経済学」A Theory of Rational Addiction なんぞを検討していますが、本書の著者や私なんぞのように依存症ビジネスなんて合理的でもなんでもなく、健全な経済発展のためにはむしろ排除すべき対象のように考えているエコノミストとしては、受け入れられるもんではありません。本書でも、冒頭に、iPadのタブレットを考案してアップルから売り出したジョブズは、むしろ、自分の子供達にはタブレットを使わせなかった、という印象的なエピソードから始めています。インターネットに誰でもが気軽かつ安価にアクセスできるようになり、タブレットやスマートフォンなどの携帯できる端末によって、主として、ゲームとして楽しめるようになり、依存性の症状が広まり始めたと考えられます。第1章では、アルコールやドラッグなどのモノへの依存症から、今では行動嗜癖と呼ばれるアクションへの依存症が広まっていることが明らかにされ、第2章では、新しい依存症が人を操る6つのテクニックとして、数値設定などの目標依存症、SNSの「いいね!」やフォロワーを集めようとするフィードバック、射幸心を煽るガシャポンなどをはじめとする進歩の実感、ゲームだけでなく仕事も含めた難易度のエスカレート、ネットフリックスが生んだビンジ・ウォッチングをはじめとする行動経済学のナッジを悪用したクリフハンガー、インスタが刺激する他人と比較したい欲求を煽る社会的相互作用、の6点を上げています。ただ、これらのビジネス側のテクニックに対して、第3部で展開される3つの解決法はいかにも脆弱というそしりは免れず、さらに、エピローグでは、今後もこういった依存症ビジネスが予期せぬ形で現れる可能性を示唆しているだけに、むしろ、アナログの世界に閉じこもったほうがマシ、とすら考えてしまいます。私は自分自身を、特に意志が強かったり、精神が健全なるがゆえに、こういった依存症からは無縁、と考えているわけではなく、いついかなる場合でも陥る危険があると警戒心を怠らない必要があると考えていますが、個人的な病気という処理ではなく、社会全体としてあるいはシステムとして、こういった依存症から毒室した人格形成を目指すべきであり、そのためには市場万能ではなく、適切に市場の失敗を回避する方法を模索する必要があると考えています。そのためには、社会的な生産様式をさらに進化させる必要があるかもしれません。

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次に、レイ・ダリオ『PRINCIPLES』(日本経済新聞出版社) です。著者はヘッジファンドのウォーターブリッジ・アソシエイツの創業者であり、投資業界の著名人です。英語の原題も PRINCIPLES であり、2017年の出版です。第1部の著者の生い立ちは別にして、第2部の人生の原則と第3部の仕事の原則が中心をなしています。もちろん、年配の成功した実業家の本ですから、上から目線の自慢話ばかりなんですが、まあ、そういった本だと覚悟して読み進めばいいんではないかと思います。私の知り合いで、もともとエンジニアなんだと記憶していますが、業界の常なのかどうか、パナソニック創業者の松下幸之助を大いに尊敬して、その著書も読んでいる人がいます。まあ、そんな感じで軽く考えてヒマ潰しの読書と割り切るのが吉かもしれません。ただ、かなりの大判の本で600ページ近いボリュームです。邦訳がいいのでスラスラと読めますが、大きさで気後れする人がいるかもしれません。内容は人それぞれの受け止めなんだろうと思いますが、私には3点ほど目につきました。まず、人生と仕事の原則に共通して、いろんな局面でオープンであることの重要性は私も大いに同意するところです。政府機関に長らく勤務した経験から、いわゆる「よらしむべし、知らしむべからず」という裏ワザが身についてしまっている気もしますが、私もオープンでありたいと思います。次に、もうひとつ気にかかったのは、これも人生と仕事の両方に共通して苦楽に対する考え方で、とても循環的というか、「苦」がなければ「楽」が来ないような体験が多いのかもしれません。我が国の政権でも、「痛みを伴う改革」を強調する場合がありますが、私は「苦」や「痛み」は否定的です。避けられれば避けた方がいいに決まっています。キリスト教的には自らに苦痛を与える宗派があって、『ダビンチ・コード』でも出てきたように記憶していますが、仏教の浄土真宗の門徒である私としては、楽な方がいいに決まっています。最後に、仕事だけの原則ではなかったかと思いますが、「誰」の方が「何」よりも重要という原則がありました。生産の場ばかりではありませんが、企業活動においては人的資本の方が物的しほにょりも重要であるというのは、多くの経営者が同意しているようですが、なかなか実践している場合は少ないような気がします。モノである資本よりも労働・雇用の方が重要です。いうまでもありません。

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最後に、日本推理作家協会[編]『ザ・ベストミステリーズ 2019』(講談社) です。タイトルから明らかに理解される通り、ミステリの短編を集めたアンソロジーです。収録作品は、澤村伊智「学校は死の匂い」、芦沢央「埋め合わせ」、有栖川有栖「ホームに佇む」、逸木裕「イミテーション・ガールズ」、宇佐美まこと「クレイジーキルト」、大倉崇裕「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」、佐藤究「くぎ」、曽根圭介「母の務め」、長岡弘樹「緋色の残響」の9作であり、もともとの短編の出版元も本書の講談社に限定されていません。上の要旨画像に見られる宣伝文句は「耽読必至! ようこそ、日本最高水準のミステリーの世界へ」ということなんですが、決して大げさではありません。とても水準の高いミステリ短編ばかりです。世の中には長編ミステリを有り難がる人も少なくないですし、私も理解するんですが、こういった水準の高い短編集も見逃せません。

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2019年10月18日 (金)

上昇率が縮小した9月の消費者物価(CPI)について考える!

本日、総務省統計局から9月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIの前年同月比上昇率は前月から少し縮小して+0.3%を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価、9月0.3%上昇 2年5カ月ぶり低水準
総務省が18日発表した9月の全国消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が101.6と前年同月比0.3%上昇した。プラスは33カ月連続だが、上昇率は同じく0.3%上昇だった2017年4月以来、2年5カ月ぶりの低水準だった。菓子類など生鮮を除く食料品の値上げが指数を押し上げた一方、ガソリン価格や携帯電話通信料の下落が物価の下げ圧力となった。
QUICKがまとめた市場予想の中央値は同じく0.3%上昇だった。人件費などが上昇している外食が、物価上昇に寄与した。電気掃除機など家庭用耐久財も上昇した。
伸び率は前月(0.5%上昇)よりも鈍化した。ガソリンや都市ガス代などエネルギー構成品目の下落幅が拡大したことが物価にマイナスに寄与した。携帯電話の通信料も6月に大手各社が値下げした影響が引き続き表れた。
生鮮食品を除く総合では297品目が上昇した。下落は168品目、横ばいは58品目だった。総務省は「2年5カ月ぶりの低水準となったものの、プラスで推移している」と指摘し「緩やかな上昇が続いている」との見方を据え置いた。今後については「10月の消費増税の影響や原油価格の動向を注視したい」(総務省)と話した。
生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は101.7と前年同月比0.5%上昇、生鮮食品を含む総合は101.9と0.2%上昇した。生鮮食品は、天候不順などの影響でぶどうや梨などの生鮮果物が上昇した一方、トマトやネギなどの生鮮野菜は値下がりした。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価(CPI)上昇率のグラフは以下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPIそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。さらに、なぜか、最近時点でコアコアCPIは従来の「食料とエネルギーを除く総合」から「生鮮食品とエネルギーを除く総合」に変更されています。ですから、従来のコアコアCPIには生鮮食品以外の食料が含まれていない欧米流のコアコアCPIだったんですが、現時点では生鮮食品は含まれていないものの、生鮮食品以外の食料は含まれている日本独自のコアコアCPIだということが出来ます。

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ということで、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは+0.2~+0.3%のレンジで中心値が+0.3%でしたので、ジャストミートしたといえます。上のグラフから明らかなように、紺色の折れ線で示したコアCPI上昇率、すなわち、生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は今年2019年上半期の4月の前年同月比上昇率+0.9%をピークに、ジワジワと上昇幅を縮小させ、8月には+0.5%に、そして、9月にはとうとう+0.3%まで縮小したわけですが、生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI上昇率、上のグラフで赤い折れ線については、同じように4月の+0.6%が高いといえば高いんですが、5月から直近統計が利用可能な9月まで+0.5~0.6%の上昇が続いており、コアCPIの▲0.6%ポイントの縮小幅に比較して、ほとんど上昇幅は縮小していません。要するに、9月統計までのコアCPI上昇率の縮小はエネルギー価格の影響が大きい、ということになります。ですから、先々月月7月統計ではエネルギーの前年同月比上昇率は+0.6%とギリギリながらプラスだったんですが、先月の8月統計では▲0.3%の下落と、とうとうマイナスに転じ、本日公表の9月統計では▲1.9%の下落と下落幅を拡大させています。9月統計の品目別の前年同月比で見ても、ガソリンの▲6.9%下落、灯油の▲2.6%下落などが目につきます。エネルギー全体では、繰り返しになりますが、9月統計の前年同月比で▲1.9%の下落、寄与度でも▲0.15%の大きさとなっています。
エネルギー価格の動向については、国際商品市況における石油価格の影響が大きく、私ごとき定年退職した元エコノミストにはまったく予想もつきません。ですから、利用可能な他の分野の専門家のリポートを読んだりするんですが、みずほ証券による10月17日付けのリポート「マーケット・フォーカス 商品: 原油」では、「当面は1バレル=50ドル台での下値固めを想定する」と結論されているようです。何ら、ご参考まで。

先行きの物価上昇については、当然ながら、10月1日からの消費税率引き上げや幼児教育などの無償化の影響が現れ始めます。今年2019年7月の日銀「展望リポート」では、p.4 の脚注6で、消費税率引上げがフルに転嫁されると、コアCPI上昇率を+1.0%ポイント引き上げ、また、教育無償化政策は、2019年度と2020年度のコアCPI上昇率をそれぞれ▲0.3%ポイント、▲0.4%ポイント押し下げる、と試算しています。

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2019年10月17日 (木)

今年2019年のドラフト会議の結果やいかに?

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本日夕刻、プロ野球のドラフト会議が開催され、阪神タイガース公式サイトから引用した上のテーブルの通り、我が阪神タイガースは計8名の選手を選択しました。私は不勉強にしてよく知らないんですが、大きな期待を持って見守りたいと思います。

若虎を迎えて来季は、
がんばれタイガース!

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ニッセイ基礎研「中期経済見通し (2019-2029年度)」を読む!!!

昨日の記事では、IMFが公表した「世界経済見通し」を取り上げましたが、同じ10月15日には、もっと長く10年間を対象としたニッセイ基礎研「中期経済見通し (2019-2029年度)」が明らかにされています。もちろん、ニッセイ基礎研のサイトにはpdfの全文リポートもアップされています。IMFの短期的な来年までの経済見通しとも、また、私の考えるもう少し長い中期的な経済見通しとも、いずれもとてもよくマッチしています。グラフを引用しつつ概観しておきたいと思います。まず、ニッセイ基礎研のサイトからリポートの要旨を5点引用すると以下の通りです。

要旨
  1. 世界経済は製造業を中心に減速している。2019年の世界の実質GDP成長率は3%程度となり、世界金融危機以降では最も低い伸びにとどまることが見込まれる。
  2. 2020年代初頭にかけては製造業サイクルの好転から世界の成長率は3%台半ばまで高まるが、中国をはじめとした新興国の成長率鈍化を反映し、2020年代半ば以降は3%台前半まで低下することが予想される。
  3. 日本は人口減少、高齢化が進む中でも女性、高齢者を中心に労働力人口が大幅に増加しており、中長期的な経済成長を規定する供給力の低下は顕在化していない。一方、需要面では堅調な企業部門に対し、家計部門は低調な推移が続いており、このことが景気回復の実感が乏しい一因となっている。
  4. 2029年度までの10年間の日本の実質GDP成長率は平均1.0%と予想する。高齢者がより長く働くようになれば、高齢者の雇用者所得の拡大を通じて消費の長期低迷に歯止めがかかる可能性もある。
  5. 消費者物価上昇率は10年間の平均で1.1%(消費税の影響を除く)と予想する。デフレに戻る可能性は低いが、賃金の伸び悩みが続くなかでは、日本銀行が「物価安定の目標」としている2%を達成することは難しいだろう。

最初のポイントでは、IMFの「世界経済見通し」とまったく同じ認識で、2019年の世界経済の成長率が+3%とリーマン・ショックに起因する金融危機後の最低水準との現状判断が示されていますし、多くのエコノミストのコンセンサスと考えられる上に、この要旨でほぼほぼ中期見通しの内外の全容を尽くしているような気もしますが、以下では基本的に日本経済に的を絞って、グラフを引用しつつ取り上げておきたいと思います。なお、我が国では2026年4月から消費税率が12%に引き上げられるとの前提を置いています。

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まず、世界主要国の、というか、日米欧の先進国に中国とインドの1人当たりGDPの推移をリポートから引用すると上の通りです。別途、世界のGDP構成比のグラフもあり、日本はGDP規模ですでに2010年に中国に抜かれているわけですが、さらに、インドのGDPは予測期間末に日本を上回る、との結果も示されています。ただ、1人当たりGDPで見れば、中国やインドといった新興国が追い上げ急ピッチではあるものの、見通し最終年の2029年でも日本の1人当たりGDPは中国の2倍以上の水準を維持する、と見込まれています。ただ、米国やユーロ圏欧州との差は縮まりません。

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次に、我が国の潜在成長率の成長会計的な寄与度分解、すなわち、全要素生産性と労働投入と資本投入に潜在成長率を分解した推移を示すグラフをリポートから引用すると上の通りです。高齢者や女性の労働市場参加により、直近2018年くらいまでは労働投入もプラス寄与なんですが、足元の2019年あたりから労働投入はマイナスとなります。基本的には、人口減少の影響ですが、働き方改革に伴う労働時間短縮の影響も見込んでいるようです。しかし、資本投入がこれをカバーして、+1%程度の潜在成長率が見通し期間中はキープされる、と見込まれています。

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次に、需要項目別の寄与度とともにGDP成長率の推移をプロットしたグラフをリポートから引用すると上の通りです。2026年度の成長率が極端に落ち込んでいるのは、繰り返しになりますが、2026年4月から消費税率が12%に引き上げられるとの前提を置いているからです。ということで、成長率は2017年度の+1.9%から2018年度には+0.7%へと減速し、加えて、足元の2019年度から2021年度までは潜在成長率をやや下回るゼロ%台後半の成長が続くと見込んでいる一方で、2022年度に+1.1%と潜在成長率並みの成長へと回帰した後は、2026年度の消費税率引き上げによる落ち込みを別にすれば、おおむね+1%台前半の潜在成長率水準ないしやや上回る成長が続く、と見込んでいます。従って、予測期間(2020~2029年度)を通した平均の成長率は+1.0%になり、直近の過去10年間と大きな差がない水準の成長を続ける、と予想しています。

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最後に、これも各収支別の寄与を分解した経常収支の推移のグラフをリポートから引用すると上の通りです。おそらく、人口減少による高齢化の影響を最も強く受けるのが経常収支であると私は考えています。高齢化、、さらに、その高齢化に伴う貯蓄率の低下がこれを引き起こす要因となります。このニッセイ基礎研の中期見通しでは、経常収支は予測期間終盤に小幅ながら赤字化する、と予想しています。特に、国際商品市況における石油価格の動向にもよりますが、貿易収支は予測期間末には赤字幅が名目GDP比で▲3%程度まで拡大する、と見込んでいます。ただし、だからどうだというわけではなく、経常収支が赤字になる、というか、国内の貯蓄がマイナスになっても、自国通貨の発行権を持つわけですから国債消化には問題なく、ほかにも、大きな問題あるとは私は考えていません。もっと長期にわたって経常赤字を計上し続けている国はいっぱいあります。

グラフなどは引用しませんが、物価については、生鮮食品を除く消費者物価、すなわち、コアCPIの上昇率で見て、日銀の物価目標である+2%に達することはなく、予測期間(2020~2029年度)の平均で+1.1%にとどまるものの、過去10年間の平均である+0.2%よりは上昇幅が拡大する、と見込んでいます。また、財政の見通しについては、基礎的財政収支は見通し最終年の2029年度でもGDP比▲2.6%の赤字を記録し黒字化は実現せず、国と地方の債務残高は2029年度には約1300兆円まで増加する、と見込んでいる一方で、名目成長率が比較的高い伸びとなるため、債務残高の名目GDP比の上昇には歯止めがかかり、▲200%程度で安定する、と予想しています。細部にわたって隅々まで熟読したわけではありませんが、かなりの程度に私の理解や見通しと一致する部分がとても大きいと感じています。多くのビジネスパーソンや学生さんなんかにオススメです

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2019年10月16日 (水)

IMF による「世界経済見通し」World Economic Outlook 見通し編を読む!

IMF・世銀総会が開催されていますが、日本時間の昨日10月15日、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」IMF World Economic Outlook, October 2019 の見通し編が公表されています。副題が Global Manufacturing Downturn, Rising Trade Barriers ということで、かなり下方リスクを意識した内容となっています。まず、IMF Blog のサイトから成長率見通しの総括表を引用すると以下の通りです。なお、いつもの通り、テーブル画像をクリックすると、「世界経済見通し」IMF World Economic Outlook, October 2019 の見通し総括ページである pp.10-11 だけを抜き出したpdfファイルが別タブで開くようにしてあるつもりです。

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米中間の貿易摩擦や関税率引き上げに伴う世界経済の減速の影響がさらに大きく増して、2019年の成長率見通しが下方修正されています。結果として、世界経済の成長率は2019年3.0%、2020年3.4%と、半年前の2019年4月時点の見通しから2019年が▲0.3%ポイント、2020年も▲0.2%ポイントの下方修正となっています。2019年見通しの+3.0%成長というのは、リーマン・ショック後でもっとも低い成長率見通しに仕上がってしまっています。基本は、繰り返しになりますが、米中間の貿易摩擦が世界経済減速の最大の要因なんですが、加えて、ユーロ圏や中国において新排気ガス規制に伴う混乱などにより自動車生産がマイナスの影響を受けたり、また、先進国における生産性の伸び悩みや高齢化といった構造要因によっても、経済成長が下押しされていると指摘しています。2020年には世界経済の成長率は上向くと見込まれていますが、世界経済を牽引するのは新興国や途上国なんですが、そのうちほぼ半分が、アルゼンチン、イランやトルコなど、ストレスを抱えている新興国での景気回復、あるいは、景気後退が軽微であることで説明でき、残りの部分は、2018年と比べて2019年の成長率が大幅に低下した、ブラジルやインド、メキシコ、ロシア、サウジアラビアといった国々のリバウンドという要因ですから、米国、日本、中国といった経済大国が2019年から2020年にかけて成長率が減速するわけですので、不確実性が大きいと指摘しています。さらに、下振れリスクは目白押しで、米中間の貿易摩擦やBREXITの不確実性はいうまでもなく、湾岸地域の地政学要因も不安定です。マインド要因や新興国への資金フローなどがリスクとなる可能性も残されています。このため、金融政策はもちろんなのですが、財政政策も余裕あれば発動すべき、と指摘しています。最後に、世界経済の成長率が+3.0%にとどまるのであれば、まだまだ政策的な下支えが必要、と結論しています。

 【2019年7月判断】前回との比較【2019年10月判断】
北海道緩やかに回復している緩やかに拡大している
東北一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかな回復を続けている一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかな回復を続けている
北陸緩やかに拡大している緩やかに拡大している
関東甲信越輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの、緩やかに拡大している輸出・生産面に海外経済の減速の影響がみられるものの、緩やかに拡大している
東海拡大している拡大している
近畿一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかな拡大を続けている一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかな拡大を続けている
中国緩やかに拡大している一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかに拡大している
四国回復している回復している
九州・沖縄緩やかに拡大している緩やかに拡大している

最後に、昨日10月15日午後、日銀支店長会議にて「さくらリポート」が公表されています。上の通りで、横ばいないし上向きという結果なんですが、下振れリスクも少し意識され始めているような気もします。

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2019年10月15日 (火)

インテージによる消費税増税の駆け込み需要に関する調査結果やいかに?

ちょうど2週間前の10月1日から消費税率が8%から10%に引き上げられています。その後の災害関係のニュースなどで、私もついつい消費税率引き上げの実感がないんですが、もうひとつは、私はほとんど食べる方面の消費が多くを占めていて、軽減税率のために据え置き感があるんだろうと思います。ということで、駆け込み需要も大きくなかったように感じているところ、調査大手のインテージから消費増税の駆け込み需要に関する調査結果が明らかにされています。まず、調査結果のポイントを4点インテージのサイトから引用すると以下の通りです。

[ポイント]
  • 日用消費財全体では、前回増税時ほどの駆け込み需要は起こらず
  • 軽減税率の対象外となるカテゴリーでは、2014年の増税とほぼ同水準で駆け込み需要が起こる
  • 軽減税率対象が多く含まれる食品・飲料では、購入金額の伸びは限定的で、前回比で大幅減
  • 食品・飲料のカテゴリー内でも、対象外のアルコール飲料は2014年とほぼ同じ伸び

ほぼほぼ、これらのポイントに尽きている気がするんですが、2014年の5%から8%に消費税率が引き上げられた時と、今回を対比させたグラフを以下に引用しつつ概観しておきたいと思います。

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見れば明らかなんですが、14年と19年のそれぞれの消費税率引き上げ前後の購入金額前年比です。上から順に、日用消費財、ということで、食品・飲料・日用雑貨品・化粧品・ヘルスケアの合計です。今回も一定の駆け込み需要は見られますが、前回2014年よりもその規模はやや小さかった可能性が示唆されています。ただ、日用消費財のうちでも、2番めのグラフの日用雑貨品、3番目のグラフの化粧品、4番めはのグラフのヘルルスケア、の3品目については、前回と変わらない規模での駆け込み需要が観察されています。インテージでは、軽減税率の適用外である点を指摘しています。逆に、その次の5番目のグラフの食品・飲料については軽減税率適用であり、明確に駆け込み需要が前回から小さくなっています。ただ、最後のアルコール飲料についてはやっぱり、軽減税率の適用外ですので、今回も前回並みの駆け込み需要が生じています。要するに、前回と比較の上では、軽減税率適用品目の駆け込み需要は前回2014年より小さく、適用外の品目は前回並み、ということになります。順当に常識的な結果かという気がします。消費税率引き上げ後の反動減も、そのうちにインテージがリポートすることと私は予想しています。また、取り上げてみたい気がします。

本日10月15日の米国東海岸時刻の午前9時に国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し」IMF World Economic Outlook の見通し編が公表される予定となっています。また、日を改めて取り上げたいと思います。

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2019年10月14日 (月)

ノーベル経済学賞は貧困削減と開発経済学の3氏に授与!!!

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今年のノーベル経済学賞 The Sveriges Riksbank Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel 2019 が本日公表されています。世界的な貧困削減の貢献により、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者と米国ハーバード大学の研究者計3氏に授賞されています。以下の通りです。お名前にリンクを張ってあります。

nameaffiliationmotivation
Abhijit Banerjee
Born: 21 February 1961, Mumbai, India
Massachusetts Institute of Technology (MIT), Cambridge, MA, USAfor their experimental approach to alleviating global poverty
Esther Duflo
Born: 1972, Paris, France
Massachusetts Institute of Technology (MIT), Cambridge, MA, USAfor their experimental approach to alleviating global poverty
Michael Kremer
Born: 1964
Harvard University, Cambridge, MA, USAfor their experimental approach to alleviating global poverty

もうおおむかしなんですが、バナジー教授とデュフロ教授の共著である『貧乏人の経済学』(みすず書房) を読んだ読書感想文がこのブログに2012年7月13日付けでアップしてあります。「ランダム化比較実験」と訳されている Randomized Controlled Trial (RCT) を途上国で実施し、より有効な貧困削減や経済開発の方策を探ったりしています。もう少し最近では、2017年5月6日付けの読書感想文でデュフロ教授の『貧困と闘う知』(みすず書房)を取り上げています。
開発経済学の研究者としては、ルイス卿やセン教授などがノーベル経済学賞を授賞されていますが、その昔の私の専門分野に近い研究者だけに、とても感激しました。私も役所を定年退職しましたが、もう一度何らかの形でエコノミストに復帰したいとの希望が芽生え始めています。

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2019年10月13日 (日)

実力の差はいかんともしがたくファイナル・ステージで敗退!!!

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阪  神010000000 120
読  売00001120x 471

まったく勝負にならず、実力の差を見せつけられてファイナル・ステージで敗退でした。投打に何とも差が大きいと感じてしまいましたが、特に打線はあれだけボールに手を出しては得点できないと強く感じました。私の目から見れば、前の金本監督が残した悪い影響だという気がします。そのひとつの帰結が、選球眼のいい鳥谷選手の起用法に影響した気もします。

来季こそ、
がんばれタイガース!

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2019年10月12日 (土)

昨日金曜日はシェアリング・エコノミーのプレゼンほかで関西に行く!!!

実は、昨日は関西方面に日帰りで行って、昨年12月の『季刊国民経済計算』に公表した私の最新のシェアリング・エコノミーに関する研究成果のプレゼンなどをしてきました。
というのがメインの話題ではなく、やっぱり、先ほど我が家の周辺を通過したらしい台風19号の話題です。というのも、昨日こそ金曜日のウィークデーでしたが、今日から3連休が続きますので、大阪の大学に通っている下の倅のアパートに泊めてもらって、京都か大阪の見物をした上で、明日の日曜日には私のばあさんがちょうど10年前の9月に102歳で亡くなっていますので、本家の叔父に連絡を取って下の倅とともに墓参りでも、と予定していたんですが、台風19号のためにすべてご破産になりました。
台風19号、呼称は「ハギビス」であり、大型で強烈な台風です。夕方に伊豆半島に上陸した後、21時ころには川崎市付近にあり、今ごろは我が家の上空を通過しているんではないかと思います。
昨日は、午後から私の最新の研究成果についてプレゼンなどをする予定となっていて、実は、正午前に新幹線で京都に着いたんですが、木曜日の段階で本日土曜日の新幹線は大幅な間引き運転で運休続出、と報じられていたわけですので、泊なしで日帰りに予定を変更し、正午前に京都に着いた時点で帰りの新幹線のチケットを取ろうとしたところ、6時半過ぎに1席だけ空いている、とのことで、それをしっかりと予約しました。その後、午後のプレゼンなどの用務を終えて、5時半ころに京都駅に着き、6時半よりももう少し早い新幹線はないものかとチケット売り場で聞いたところ、昨日中の新幹線の指定席はすべて売り切れで、たとえ1時間待っても私の手持ちのチケットで東京に帰った方がいい、とのアドバイスでした。極めてごもっともと考えて、京都駅の南口に当たる八条口にあるミスター・ドーナツの近鉄京都駅ショップに入って、ドーナツをつまみながらコーヒーをいただいて、読書しつつ時間をつぶした上で、6時半過ぎの新幹線で東京を目指しました。
しかし、小田原駅手前で停車し、新横浜までノロノロ運転となります。車掌さんのアナウンスが入って、新横浜駅の入線待ちに8台止まっていて、その時点から遅れが目立ち始めます。どうも、名古屋や大阪方面のへ乗客が東京駅の自由席1~3号車の大阪寄りのホームにあふれていて、降車と乗車に時間がかかっているとのことでした。私はJR東海のオススメ通りに品川で降車して山手線に乗り換えましたが、品川駅ですら座り込んだ乗客がいっぱいでしたから、東京駅では人があふれかえっているというのも容易に想像できました。
今日はもう、交通機関は運休で、自動車を持たない貧困家計である我が家では、自転車で移動するわけにも行かず、その上、お店も軒並み閉店しており、クライマックス・シリーズの試合も延期ですし、カミさんと2人でじっと家にこもって、テレビやインターネットで災害情報をチェックする以外に時間の潰しようがありませんでした。かといって、なぜか自宅では読書も進まず、音楽を聞いたり、ひたすら停電だけは避けてほしいと神頼みしたりしていました。

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今週の読書は軽めの経済書と重厚な専門書の組み合わせで計6冊!!!

今日は、台風の影響で外出もままならず、ずっと在宅しています。後で、もう少し書こうかと思うんですが、実は、昨日は関西に行ったものの、今日の新幹線が運休になるとのことで、下の倅の大阪のアパートに宿泊する予定を繰り上げて夜遅くに帰京したりしました。今日は図書館も軒並み閉館で、来週の読書向けの本はまだ集まっていません。ということで、前置きが長くなりましたが、今週の読書は新書も含めて軽めの経済書が3冊、ほかに重厚でボリューム十分な専門的教養書が3冊、以下の計6冊です。

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まず、根井雅弘『ものがたりで学ぶ経済学入門』(中央経済社) です。著者は、我が母校の京都大学で経済学史を専門とする研究者です。マンガで科学や経済などを解説する本がありますが、本書もフィクションを取り入れて、アダム・スミス以来の古典派や限界革命、マルクス主義経済学からケインズ経済学まで幅広く鳥瞰しています。フィクションは、経済学の研究者の倅である中学3年生を家庭教師的に勉強を見ている高校3年生が主人公で、中学3年生の父親の経済学の研究者から指導を受けて、英語の原書を含めて経済学の古典を読破するという、まさに、フィクションならではのドラえもんの道具的な荒唐無稽なストーリーです。でも、そのフィクションの高校3年生が経済学の英語の原書の古典を読破するという部分をガマンして読めば、それなりの中身になっている可能性はあります。私はこのフィクションの構成はともかく、スミスのところでsympathy の邦訳語を「同情」を排するのはいいとして、「同感」を取っているのがムリ筋と考えてしまいました。「共感」ではないでしょうか。その後、まあ、それなりの初歩的な内容でしたが、一応の経済学史が鳥瞰されていて、参考にはなると思います。ただ、クロニカルにはケインズ経済学で終わっていて、我々が現に体験している戦後のブレトン・ウッズ体制下の経済の基となる理論的背景についてはお話が及んでいません。戦後の経済学史で、ケインズ経済学から、ブレトン・ウッズ体制末期のインフレの下でマネタリスト経済学や新自由主義的な経済学が米国のレーガン政権や英国のサッチャー政権下で主流となり、21世紀に入ってから、米国のサブプライム・バブル崩壊後に再びケインズ経済学が見直されている現状などにもう少し目が行き届けば、もっといいような気もします。もっとも、著者の意図としては、決して、現在までに至る経済学シすべてのトピックを取り上げるというよりは、本書のボリュームのほぼ半分をスミスないしミルやリカードなども含めた古典に当てていますし、スミスの経済学が「夜警国家」を推奨し、見えざる手なる市場の調整機能への過信に基づく自由放任経済ではない、という点に重点があると考えるべきなのかもしれません。

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次に、清水洋『野生化するイノベーション』(新潮選書) です。著者は、一橋大学出身で現在は早大の経済史の研究者、特に、イノベーションの歴史を専門にしているようです。本書では、かなり通り一遍なのですが、イノベーション、特に、破壊的で従来の技術を無効化するようなイノベーションについて、歴史と理論を概観した後、現在の経済の停滞の一員たるイノベーションの不活発さについて著者の見方を示しています。従来の技術を無効化するような破壊的なイノベーションとは、例えば、自動車がウマを駆逐したようなものだと指摘し、現在のイノベーションが流動性が高い中で、ついつい手近な、あるいは、低いところにある果実をもぐことに専念し、より高いところにありリターンの大きなイノベーションに手が伸びていない可能性を指摘しています。私の目から見て、歴史的な資本リターンの低下傾向が続く中で、いくら金融政策で低金利を続けても、その低金利すら超えないリターンしかもたらさないイノベーションは採用されないわけであって、さらに、流動性が高まれば、安定した研究体制は構築しにくくなる、というか、ハイリスク・ハイリターンの「冒険主義的」な研究開発を必要とするイノベーションが遠ざかるのは事実です。安定した研究体制を構築して、多少のムダは覚悟の上でハイリスク・ハイリターンのイノベーションを支えるためには流動性が低くて安定した研究体制を必要とします。ただ、大筋で、私は手近な果実は取り尽くされたというのは事実であり、「冒険主義的な」研究開発で大胆なイノベーションが実現されるようなサポート体制が必要になる、という意味で、イノベーションが野生化したというのは事実なんだろうと考えています。

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次に、ヴィルヘルム・フォン-フンボルト『フンボルト 国家活動の限界』(京都大学学術出版会) です。著者は、どういえばいいのか、18世紀末から19世紀初頭にかけて活躍したドイツの行政官、外交官、政治家、政治学者といったところなんですが、ベルリン大学の創設者ですし、「国家は教育に介入するな」という超有名な金言も人口に会社しているものですから、私なんぞの専門外のエコノミストは教育の分野の歴史的人物、と考えていたんですが、本書の解説では、テンポラリーな行政官として大学開設に関わったのであって、教育者でもなければ、教育行政が専門であるわけでもない、と指摘しています。また、本書は検閲やなんやの事情により、著者死後の19世紀なかばに出版されています。ドイツ語の原題は Ideen zu Versuch die Grenzen der Wirksamkeit des zu besitimmen であり、原書は1851年の出版です。英語圏の出版物であるミル『自由論』で高く評価されたことにより世界的な評価を受けるようになったと私は受け止めています。なお、出版社のサイトによれば、本書は「近代社会思想コレクション」のシリーズの一環で第26巻として出版されており、本書に続いて、ヒューム『道徳について』、J.S.ミル『論理学大系4』が出版される運びとなっているようです。前置きが長くなりましたが、タイトル、出版社、そして、何よりも600ページを超えて700ページ近いボリュームなどから、読み始めるにはかなりの覚悟が必要です。でも、おそらく邦訳がいいんだと思いますが、読み始めるとスラスラと読むことが出来ました。ただし、政府機関で活動した人物ですから、ある意味で、私と活動分野が似ていたのかもしれませんから、このあたりは少し割り引いて考えた方がいいかもしれません。ただ、前置きばかりを長くしたのは、古典書ということもありますが、読んだ私がよく理解できなかったわけで、邦訳は判りやすくてスラスラ読めるとしても、内容ば難解であることはいうまでもありません。ただ、私の直感的な受け止めとしては、ドイツの経済学者として有名なリストなどは、ドイツという経済的には後発国において英国やフランスなどに対抗するために保護主義的関税の導入などの国民経済保護の経済学を展開したんですが、本書ではフンボルトは現在でいえばかなりリバタリアンに近い国家の限界に関する考え方、すなわち、国家活動に対するかなり強い懐疑論や、嫌悪感に近い議論が展開されている、と考えています。最初に引用した「国家は教育に介入するな」ではありませんが、教育だけでなく、色んな分野で国家の介入への否定的な議論が見られます。

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次に、テイラー・フレイヴェル『中国の領土紛争』(勁草書房) です。著者は、米国マサチューセッツ工科大学の国際政治学の研究者であり、国際関係論と主として中国に関する比較政治学が専門だそうです。英語の原題は Strong Borders, Secure Nation であり、2008年の出版ですが、その後の尖閣諸島に関する問題などを含めたエピローグが日本語版のために書き下ろされて収録されています。本書も、かなり大判な上に、500ページ近いボリュームがあり、出版社からしてもほぼほぼ専門学術書と考えるべきで、それなりの覚悟を持って読み始める必要を指摘しておきたいと思います。ということで、邦訳タイトルに明らかな通りの内容で、中華人民共和国成立後の1950年以降の歴史的な外観と分類が中心になっていますが、必要に応じて、さらに歴史的にさかのぼって事例がいくつか参照されています。米国の研究者による出版ですが、かなり広範に中国語文献や資料を渉猟しているようで、英語情報だけによる表面的、対外公表な文献の分析だけでなく、かなり内部文書的的な資料の分析も加わっています。ただし、もちろん、米国のような体系的公文書公開の制度が中国にあるわけでもなく、それほど、というか、まったく情報公開には前向きの姿勢がない国家ですので、限界はあるのかもしれません。もちろん、中国は常に武力行使により領土問題を解決してきたわけではない点は、我が国の尖閣諸島問題でも実証されている通りで、領土紛争がエスカレーションして武力行使に至る以外に、どのような場合に引き伸ばしを図り、どのような場合に妥協するか、を極めて多くの歴史的事例に基づいて分析し解説しています。その歴史的事例は、中華人民共和国建国以来のすべてである23例とされています。専門外の私が考えても、本書が出版されて以来の10年間で中国が国力を増したのは紛れもない事実であり、加えてその経済的な発展からして、領土紛争の大きな要因の一つであるエネルギーや資源に対する需要は高まっている点は忘れるべきではありません。加えて、経済学にはウィン-ウィンの関係は広く見られますが、国際政治の場における領土紛争は確実にゼロサムです。ですから、本書が指摘するトーンよりも隣国としては警戒色を高める必要があると考えるのは、私だけではないと思います。

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次に、石橋毅史『本屋がアジアをつなぐ』(ころから) です。著者は、出版業界をホームグラウンドとするジャーナリスト・ライターであり、我が国を含めて、インターナショナルな本屋さんをコンパクトに紹介している、一種の紀行本です。著者が実際に訪問しているんでしょう。なお、本書冒頭では、「書店」はお店というハードウェアであって、「本屋」はその書店を運営管理する経営者、あるいは書店員を指す、と断り書きをしていますが、まったく守られていません。ほとんどの「本屋」は書店というハードウェアとして使われている気がします。私はスペイン語を理解しますので、スペイン語では店を librería、書店員を librero あるいは、女性型なら librera とし表現します。このラインを狙ったんでしょうが、残念ながら失敗しています。本書で取り上げられている書店の中で、私が圧倒的に興味を持ったのが、上海を拠点としていた内山書店です。現地でお尋ね者となってしまった魯迅を匿ったり、書店らしく、いろいろと言論の自由や人権を守るリベラルな活動が歴史に残っています。直接的な政治活動だけでなく、出版や研究といった広く開かれたドメインでより有効性や効率性を増す活動は他にもいっぱいありますし、そういった自由が保証されないとそもそも活動すら出来ない場合も少なくありません。私は割引になるので早大生協で本を買う事が多いんですが、そもそも、買うよりも図書館で借りることのほうが圧倒的に多く、改めて、こういった出版物や印刷物の重要性、そして、それらの流通を担い人々に広める書店の役割をアジアで発見した様な気がします。

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最後に、山口慎太郎『「家族の幸せ」の経済学』(光文社新書) です。著者は、最近カナダから帰国し東大の研究者に就任しています。専門は労働経済学であり、その派生領域として結婚・出産・子育てなどを経済学的な手法で数量分析する家族の経済学に分析を広げています。ということで、本書では、数量分析に基づいて、結婚、出産と乳児の子育て、育児休暇、父親の子育て、保育園の経済分析、そして、最後に、離婚、といった章立てで家族の経済分析をサーベイしています。ご自分の分析結果も含まれていますが、本書で新しい数量分析結果が示されているわけではなく、既存研究のサーベイです。いくつかの例外を除いて、ほぼほぼ常識的な分析結果が取り上げられているんですが、本書でも著者が指摘している通り、こういった常識的な結果を数量分析で跡づけるのは学問的にも、広く常識的にも有益なことである私も考えます。特に、保育園における集団的な子育ての要素は母親の学歴が低いほど、子供にはプラスの影響がある、というのは、直感的に理解していても、なかなかその直感的な理解が主張しにくい場合が多いと思うんですが、それなりのジャーナルに査読付きの論文が掲載されていれば、参照することも抵抗感は低下すると思います。ただ、本書で議論されている常識的ながら、一部に抵抗感が残らないでもない主張ですので、ほぼほぼ海外の数量分析で大きな部分が占められているのは、すでに定年退職した私も含めて、我が国経済学界の一層の奮起を促すものと受け止めるべきなのでしょう。

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