2025年1月13日 (月)

成人の日に考える18歳の将来の選択肢

今日はいわずと知れた成人の日です。大学生にとって成人式はとても意義あるイベントです。ですので、祝日は無視して授業をすることの多い私の勤務校の立命館大学でもこの成人の日は授業はありません。ということで、成人の日にちなんで、先週1月6日、日本財団から18歳意識調査「第67回 -価値観・教育(地域間比較調査)-」報告書が明らかにされています。私の知りうる限り、この日本財団による18歳意識調査は1,000人のサンプルがほとんどだったのですが、今回の調査だけは各都道府県で男女50人ずつの合計4,700人とのやや大きなサンプルとなっています。そして、都道府県別のみならず、三大都市圏中心部、三大都市圏周辺部、地方圏中心部、地方圏周辺部のエリアに分けた調査結果が示されています。エリア分けは報告書 p.4 のテーブルの通りです。極めて大雑把にいって、首都圏と関西の京阪神と名古屋圏以外の多くは地方圏周辺部に分類されているように見えます。ただし、繰り返しになりますが、詳細なエリア分けは報告書 p.4 のテーブルをご覧下さい。私の住んでいるところは文句なしに地方圏周辺部です。
まず、大学教員として大学への進学予定が気にかかります。質問2で高校生に対して大学への進学予定を質問しています。見れば明らかなように、大学進学予定については男女の性別格差以上に地域間格差が大きい、との結果が示されています。三大都市圏中心部では男女を問わず85%ほどの高校生が大学進学を予定している一方で、地方圏中心部と地方圏周辺部では男女ともに60%台後半となっていて、20%ポイント近い差が見られます。そして、質問3で大学進学予定がない理由/しなかった理由について、いずれのエリアでも「学費が高い」と「できるだけ早く自分で稼いで生活したい」との回答がトップ3の理由に入っています。学費については文教政策で低減することが可能なだけに残念といわざるを得ません。
私が特に注目したのは、将来の選択肢に関するエリア別の格差が非常に大きい点です。下のグラフの特に上のパネルの質問11の最後の項目の「将来の選択肢が多い」ではエリアにより大きな格差が見られます。三大都市圏中心部では80%を超える一方で、私の住んでいるような地方圏周辺部ではその半分の40%も下回っています。質問12の価値観を問うた結果ではエリア別の差は決して大きくありませんが、価値観を離れてやや客観的ともいえる将来の選択肢については大きな格差があるわけです。

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18歳の時点で将来についての選択肢の幅が大きく異なり、自分の将来を見通せないのは国家として大きな損失につながりかねません。現在取り組まれているようなタイプの地方再生だけではなく、文教政策の観点からもさまざまな試みがなされることが必要です。

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2025年1月12日 (日)

法政大学多摩キャンパスで何が起こったのか?

広く報じられているように、一昨日の金曜日1月10日に法政大学多摩キャンパス社会学部の教室において、あろうことか授業中に韓国籍の大学生がハンマーを振り回して学生たちを殴打し後頭部や側頭部にケガを負わせるという傷害事件が発生しています。法政大学のサイトから重要なお知らせを引用すると以下の通りです。

本日多摩キャンパスで発生した事件について
1月10日午後3時40分ごろ、本学多摩キャンパス(東京都町田市)の社会学部の教室において、授業中に学生1名が他の学生に対して傷害を負わせる事件が発生しました。
負傷された8名の学生は、病院で治療を受け、全員入院の必要がないと診断されています。1日も早いご回復をお祈り申し上げます。被害にあわれた学生の保護者には、大学から連絡をしております。
本学といたしましては、被害にあわれた方々や、今回のことで不安を感じておられる学生や教職員のケアに取り組むとともに、警察の捜査に協力し、事態の把握に努め、キャンパスの安全を図ってまいります。
法政大学総長 廣瀬克哉

まず、ケガを負った学生諸君に対して、心からお見舞い申し上げるとともに、1日も早いご回復を祈念します。
読売新聞のサイトによれば、日本経済論の授業だったらしいです。はい、法政大学の授業は社会学部だったようですが、前任の長崎大学経済学部でも、現在勤務している立命館大学経済学部でも日本経済論は私の担当でした。私は定年退職して特任教授になりましたので、来年度から新任の先生がご担当下さることになっていますが、学部でも、大学院でも日本経済論は私が講義していました。ついでながら、どうでもいいことで、法政大学の廣瀬総長は私の中学・高校の同級生だったりします。
何がどうなっているのか、私にはサッパリ判りませんが、まったく痛ましい事件です。外国籍の学生が起こしたとはいえ、日本の経済社会の歪みのひとつの象徴なのかもしれない、と思わないでもありません。下の画像は、読売新聞のサイトから引用した教室の座席配置などです。

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2025年1月11日 (土)

今週の読書は物価に関する経済書をはじめ計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、渡辺努『物価を考える』(日本経済新聞出版)は、2020年から始まった世界インフレの前段階の日本のデフレの原因から解き明かし、デフレとインフレの弊害や異次元緩和の失敗の要因などについて分析を試みています。日本経済新聞社[編]『テクノ新世 技術は神を超えるか』(日本経済新聞出版)では、技術の急速な進歩を背景に、人類とテクノロジーのゆくえについて考えており、最新技術をレビューするとともに、表面的ではなくその真のインパクトについて考えています。森永卓郎『官僚生態図鑑』(三五館シンシャ)では、官僚が優秀であり日本の経済社会を支えていた時代は確かにあった点を明確に認めている一方で、失われた30年に陥ったひとつの原因についてもかつては優秀だった官僚が小市民化した点を上げており、特に槍玉に挙げられているのは大蔵省=財務省です。加賀山卓朗・♪akira(著)+松島由林(イラスト)『警察・スパイ組織解剖図鑑』(エクスナレッジ)は、ミステリやサスペンスやスパイものなどの海外エンタメ小説や映画・ドラマといった映像作品に登場する組織、さらに、職員の階級構成や制服・バッジといったビジュアルな要素を英語表現とともにてんこ盛りにした図鑑です。西山隆行『アメリカ大統領とは何か』(平凡社新書)は、タイトル通りに、米国大統領について詳細にリポートしていて、大統領だけではなく、米国の政治・行政はもちろん立法や司法まで国のシステムを幅広く取り上げています。ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』(新潮文庫)は、スコットランドのスカイ島にある別荘で夏を過ごすラムジー家の物語で、1910年とその10年後の1920年を時代背景とし、登場人物の内面的あるいは哲学的な意識の流れをいかにして文学として表現するかを追求した実験的な作品です。綿矢りさ『あのころなにしてた?』(新潮文庫)は、2020年のコロナのパンデミックに見舞われた日本について、芥川賞作家が日記体でエッセイを綴っています。
今年の新刊書読書は先週に3冊を読んでレビューし、今週は7冊ですから、計10冊となります。なお、FacebookやmixiなどのSNS、あるいは、経済書についてはAmazonのブックレビューなどでシェアする予定です。

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まず、渡辺努『物価を考える』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、東京大学経済学部教授であり、物価や物価指数に関する日本の第一人者といえます。私は統計局に勤務していたころ、消費統計とともに物価統計も担当していましたので、お世話になったこともあったかと思います。ということで、現在の日本経済、というか、世界経済においてもっとも注目されているマクロ経済指標のひとつが物価であるといえます。要するに、2020年のコロナ禍のパンデミックあたりから供給制約による物価上昇が始まり、2020年2月のロシアのウクライナ侵攻から本格的に食料やエネルギーの価格上昇に起因するコストプッシュのインフレが世界経済の大問題のひとつとなっています。しかし、日本は世界と違っていて、現在のインフレの前にはデフレであった、という点が重要です。ですので、本書でもまず世界インフレ前の日本のデフレを解き明かそうと試みています。結論は、1990年代後半からのデフレは賃金上昇の停止が大きな要因と指摘しています。すなわち、昨年2024年11月に読んだ中村二朗・小川誠『賃上げ成長論の落とし穴』と同じで、1990年くらいまでのバブル経済期にはむしろ現在の逆で円高と内外価格差からして「高いニッポン」で、賃金も高水準にあったことから、バブル経済崩壊後の1995年5月の日経連リポート『新時代の「日本的経営」』の影響もあって、賃金抑制が打ち出されて労働組合も合意したことに基づいてデフレに突入した「賃金が主導、物価が追従」(p.182)ということです。それに対して供給者の行動が価格据置きになり、消費者も価格が高いと他の店で買物をするような消費行動を取り始め、物価上昇のない価格据置きが、個人レベルの予想から社会的ノルムとなった、と分析しています。要するに、1990年代後半からのデフレは供給サイドに起因し現在のインフレも供給サイドから生じている可能性が高い、という分析結果です。ハッキリいって、このあたりまでは1年余り前の渡辺努『世界インフレの謎』(講談社現代新書)と大きく異なる結論ではありません。ただ、本書では、それに加えて、第4章でデフレやインフレがなぜ「悪」なのか、とか、第5章で異次元緩和がどうしてデフレ脱却に失敗したのか、といったあたりを分析しているのが新しく付け加わっています。最後に、私から本書に関連して4点ほど雑感を示ししておきたいと思います。第1に、本書ではしつこいくらいに「期待」という言葉を避けて「予想」という言葉に置き換えています。ケインズ『雇用、利子及び貨幣の一般理論』では投資行動を考える際の期待から始まって、ほぼほぼ一貫して「期待」で統一されていて、経済学的にも定着していると私は考えるのですが、「期待」を避けて「予想」で統一したのは何か理由がありそうな気がしています。第2に、本書の主張のインプリケーションとして、賃上げが生産性の向上を下回る時期が続いた結果、労働分配率が低下して企業の利益剰余金が大きく積み上がっているのは法人企業統計などから確認できる事実ですので、逆に、賃上げが生産性を上回って推移して労働分配率が上昇することが容認されるべきだと私は考えています。第3に、デフレの「悪」については、貯蓄超過のエージェントが得をし、投資超過、というか、貯蓄不足のエージェントが損をするわけであって、経済政策の要諦である貯蓄超過を促進しかねないという点は忘れるべきではないと考えます。第4に、異次元緩和の失敗という評価については、10年かかっても金融政策でデフレ脱却が出来なかったのですから、それはその通りだと思いますが、出典は忘れたものの、著者はその昔に物価目標ならぬ賃金上昇目標を提唱していたように記憶しています。賃金上昇ターゲットであれば、何か違っていたのか、興味あるところです。

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次に、日本経済新聞社[編]『テクノ新世 技術は神を超えるか』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、新聞社であり、新聞の特集記事を基にした出版です。まず、本書のタイトルになっている問いかけに、私なりの回答を示すと、間違いなく回答はyesであり、技術が神の座につくことになると私は考えています。まあ、あくまで個人の感想です。ということで、冒頭でも明らかにしているように、技術の急速な進歩を背景に、本書では人類とテクノロジーのゆくえについて考えようと試みています。すなわち、最新技術をレビューするとともに、表面的ではなくその真のインパクトについて考えています。もちろん、最新技術とは、人工知能=AIにとどまらず、遺伝子操作による生物としての人類の改変、また、国家や社会システムにまで及んでいます。まず、AIに関しては、当然ありうべき問いとして、自律的な活動を始めかねないAIの価値観と人間の価値観の衝突、あるいは、AIと人類の利害関係の不一致が生じる可能性について考えるべきといえます。はい、その可能性はあります。十分あるといえます。その場合、パワーの問題となります。ですから、定義からして、シンギュラリティ以前であれば人類がAIを制圧して人類の利害を優先させることが出来る可能性に十分ありますが、シンギュラリティ以降であれば人類がAIに制圧されるということになります。要するに、私が考えるに、人類はAIのペットになるわけです。能力的に対等に近いものを人類が持てれば内戦状態になる可能性もありますが、おそらく、歴然たる能力差がシンギュラリティの後で極めて短期間に生じると私は考えていますので、シンギュラリティ以降のAIと人類の関係は、現在のシンギュラリティ以前のヒトとイヌ・ネコの関係になるものと私は想像しています。私は人類にとって決して悪くないと受止めています。それなりの知性を維持しつつ、圧倒的に能力差のあるご主人様のペットとなるのは、今のイヌ・ネコを見ていても割とのんきでいいような気すらします。性格的な特性にも左右されるように感じますが、私はなまけものですので十分OKです。ということで、本筋を少し離れるかもしれませんが、本書では基本的に日経新聞記者の取材よりももっとナマなインタビューが私の場合参考になりました。AIと雇用の関係、また、ロボットに課税すべきかどうかは議論をさらに進めるべきテーマであると感じました。さらに、哲学的に人間の本質とは脳であり、移植を考えても腎臓とかの他の臓器ではありえない、というのは当然でしょう。知能には2種類あって、身体を的確に動かせる能力といわゆる認知能力です。前者の観点からは、例えば、私の考えるに、コントロールのいい野球のピッチャーというのは知能が高い、あるいは、頭がいい、ということなのだと考えるべきです。また、台湾有事に引っかけて「デジタル遷都」が取り上げられていましたが、第2次世界対戦時のド-ゴールによる自由フランス政府の亡命政権は、まったくデジタルではありませんでいたが、同様の趣旨を体現していたのではないか、という気がします。最後に繰り返しになりますが、この世はもっとも認知能力の高い存在が支配します。現時点のシンギュラリティ以前であれば、それは人類ということになりますが、シンギュラリティ以降ではAIである可能性は排除できません。もちろん、人類が短期に進化を遂げてAIと認知能力のいたちごっこになる可能性はなくはないのですが、おそらく、AIの能力が人類を凌駕しこの世の支配者となることは明らかです。ですから、人類はこの世ではAIのペットとなり、あの世での新たな展開を模索する、ということになるんだろうと私は想像しています。

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次に、森永卓郎『官僚生態図鑑』(三五館シンシャ)を読みました。著者は、メディアでもお馴染みのエコノミストです。余命宣告を受けているのですが、まだお元気に活躍中です。本書は、作者が社会人となって仕事を始めた専売公社(現在のJT)から始まって、当時の経済企画庁への出向、民間シンクタンクなどをご経験されていますから、官僚に近いフィールドでのお仕事の経験が平均的な日本人よりも豊富であることは間違いありません。なお、本書でいう官僚にはいわゆるノンキャリア公務員は含まれておらず、キャリア官僚だけです。私もそうでした。私のころは上級職、その後、Ⅰ種、総合職と名称は変遷しています。ということで、官僚が優秀であり日本の経済社会を支えていた時代は確かにあったわけで、著者のその点は明確に認めています。ただし、失われた30年に陥った大きなひとつの原因についても、かつては優秀だった官僚が小市民化した点を上げています。そうかもしれません。特に槍玉に挙げられているのは大蔵省=財務省です。1980年代のパワハラなど、まあ、ややホイッグ史観的な部分もありますが、最高権力官庁として腐敗の度合いを進めてきた点はあり得るんだろうと思います。そして、その財務省にブレーキをかけるだけの力量が、他の役所の官僚や政治家にかけていたのも事実かもしれません。「権力は腐敗する。絶対的な権力は、絶対的に腐敗する。」というわけです。長期に渡った安倍内閣の経済政策アベノミクスについては、私なんかはエコノミストとしてそれなりに評価しているつもりですが、モリカケ事件、桜を見る会、などなど、一強政権であった点に起因する腐敗には枚挙に暇がありません。ですので、モンテスキュー的な三権分立が典型ですが、何らかのチェック・アンド・バランスのシステムを取り入れる必要があります。本書では最終章で7つの処方箋を示していて、財務省パワーの低下を狙った経済財政諮問会議からの財務省の排除とか、国税庁の財務省からの完全分離などとともに、経済企画庁の復活が最後の処方箋として上げられています。はい、私が採用されたのは経済企画庁であり、中央省庁再編後は内閣府に勤務していました。ですから、それなりに経済企画庁やその後身である内閣府については理解しているつもりです。財務省に対するチェック・アンド・バランスを担う組織を政府部内の別の組織、本書で示唆しているのは経済企画庁なのですが、そういった別の役所に担わせるのがいいのか、それえとも、政府から独立した別の組織がいいのか、よく議論する必要はあります。ただ、私の印象として、警察でも検察でも裁判所でも、予算編成権を握られている以上、財務省の優位は揺るがないような気がします。ですから、予算編成権限をどうするかを考えた方がいいというのが私の現時点での暫定的な結論です。

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次に、加賀山卓朗・♪akira(著)+松島由林(イラスト)『警察・スパイ組織解剖図鑑』(エクスナレッジ)を読みました。著者は、翻訳家と翻訳ミステリー・映画ライターとイラストレーターの3人です。米国の連邦捜査局=FBIと中央情報局=CIA、また、州・市・郡といった地方政府レベルの警察、はたまた、昔ながらの保安官などなど、こういった組織や機能については日本人にはよく判らない点が多いかもしれません。英国では007ジェームス・ボンドのMI6と国内を担当するMI5、さらに、警察組織のロンドン警視庁=スコットランド・ヤードなどなど、ミステリやサスペンスやスパイものなどの海外エンタメ小説や映画・ドラマといった映像作品に登場する組織、さらに、職員の階級構成や制服・バッジといったビジュアルな要素をてんこ盛りにした図鑑です。もちろん、エンタメ小説や映像作品に実際に登場する役柄の階級や所属する組織の解説がていねいです。いろんな小説や映画・ドラマの例も、往年の名作から最新の話題作まで、豊富なイラストともに、いっぱい引いています。出版社のサイトには創作や翻訳を目指す人にも有益っぽいうたい文句があり、私はそういったことを目指していないのですが、大いに楽しく読めました。中身としては、米国と英国が冒頭の2章のメインとなっていて、第3章が北欧や旧ソ連となり、その後の第4章に、韓国や日本もあります。翻訳者が書いていますので、イラストともに豊富なのが英語の表現です。私は外国人留学生に対して英語で修士論文指導をしていますので、経済学の分野ではそれなりに英語を理解しますが、さすがに犯罪捜査やスパイなどの分野の英語はサッパリです。米国では警部がcaptainで、警部補はlieutenantなんてのは知りませんでした。陸軍ならcaptainは大尉で、lieutenantは中尉でしょうから立派な将校です。海軍ならcaptainは大佐で、駆逐艦くらいの艦長ではないだろうか、と思ってしまいました。1点だけ気にかかるのが、第2章の英国編でロンドン警視庁=スコットランド・ヤードの組織が含まれていない点です。私からすれば、英国ではホームズの昔からスコットランド・ヤードが英国警察の中心、なんて思っているのですが、最近では違うんでしょうか。たぶんまだ映像化されていないワシントン・ポーのシリーズのイラストはとてもビジュアルに参考になりました。ただ、ティリーはもう少し細身でサラ・モーテンセンが演じたアストリッドのイメージを私は持っていましたし、病理医のドイル医師がこんなに色っぽいとは驚きでした。でも、あり得る気がします。私の場合は映画やドラマよりは小説でエンタメ作品を読むことが多いので、ぜひとも、手元に備えつつ読書を楽しみたいと思います。

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次に、西山隆行『アメリカ大統領とは何か』(平凡社新書)を読みました。著者は、成蹊大学法学部教授であり、ご専門は比較政治・アメリカ政治となっています。本書は、タイトル通りに、米国大統領について詳細にリポートしています。そして、大統領だけではなく、米国の政治・行政はもちろん立法や司法、あるいは連邦制の下での州とかまで、国としてのシステムを幅広く取り上げています。もちろん、トランプ次期大統領が近く就任予定ですので、私も勉強のために読んでみた次第です。幅広く米国の国としてのシステムがリポートされているのですが、ひとまず、大統領以外の議会や裁判所のシステムは別にして大統領を頂点とする行政システムについて考えたいと思います。まず、本書では言及がないのですが、別の本を読んでいて、アイゼンハワー大統領が就任する時に、大統領に権限がないのに驚くだろう、という見方があって、限定的な軍隊という組織の中ではありますが、軍隊の中の将軍よりも国レベルの大統領の方が制約が強い、というのは理解できるような、理解できないような気がした記憶があります。米国の独立直後は、確かに、国民の意志を直接反映するのではないエリート主義が主流でしたが、本書でも指摘しているように、ジャクソニアン・デモクラシーから広く国民に依拠する民主主義に進化し、それでも、大統領を国民が直接選出するのではなく選挙人を選ぶという形で間接性を取り入れているのは、よく知られた通りです。特に、トランプ大統領の就任を前に、三権分立のチェック・アンド・バランスにより、大統領の権限を限定するというシステムは、実践的には好ましい場合もあるのかもしれない、と私は考え始めています。日本では、安倍内閣が長期に渡っていわゆる「一強政権」を形成し、権力者であれば法治国家の埒外で何をしても許される、という悪しき前例を作ってしまったことを考え合わせると、ひとつのあるべき姿なのかもしれません。8年前の2017年にトランプ大統領が就任した際、TPPからの脱退をはじめとして数多くの大統領令を出していました。今回の就任に際しても、報道レベルで知りうる限り、国家経済緊急事態宣言を出すという情報もあり、大統領権限をフルに「活用」しかねない恐ろしさも感じています。私も授業で教えていますが、米国が締結した自由貿易協定(FTA)については、多くの場合、行政協定となっています。議会での承認が必要なく大統領の行政命令にのみ基づいています。安全保障の関係は専門外にして私は理解が不足していますが、米国新政権の対日政策に関しては貿易通商政策と安全保障政策が焦点になるとみなされていますし、すでに、「防衛費のGDP比5%」なんて報道も見かけましたので、大いに気がかりなところです。巻末の偉大な大統領とか、そのランキングなんかもひとつの情報であろうと思います。

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次に、ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』(新潮文庫)を読みました。著者は、ブロンテ姉妹などとともに英国を代表する女性作家の1人であり、経済学を専門とする私の守備範囲からいえば、ケインズ卿などを含む文化人グループであるブルームズベリー・グループの一員、という観点もありました。出版社からすれば、本書はこの作者の代表作、といいたいところなのでしょうが、私はたぶん『波』が最高傑作であり、本書は『ダロウェイ夫人』や『オーランドー』と並ぶ代表作のひとつだと思います。英語の原題は To the Lighthouse であり、1927年の出版です。舞台は英国スコットランドのスカイ島にあるラムジー家の別荘とされ、ラムジ一家が過ごす1910年と1920年のそれぞれ夏の季節です。第1章の窓ではラムジー夫人が息子のジェームズに、天気がよければ明日は灯台に行けるという一方で、夫のラムジーは明日は天気が悪くなるといい、強い緊張感が生じるシーンから始まります。第2章はその10年後の1920年を舞台としており、第1次世界大戦がその間に始まって終わっています。時の流れとともに人の不在とか死について、短い章ながら強いインパクトでさまざまな変化が語られます。第3章最終章では、10年後に再び別荘に集まったラムジー家とゲストの面々なのですが、ラムジー夫妻の子供で言及があるのは娘のカムと息子のジェームズだけです。ラムジーはとうとうこの2人を灯台に連れて行くことを10年を経て計画しています。よく指摘されるように、この小説はエンタメではありませんから、ストーリーはさほど重要視されていません。むしろ、それぞれの登場人物の内面的あるいは哲学的な意識の流れをいかにして文学として表現しているか、を読み取るべき作品をされています。もっといえば、意識を静的なものとして考えるのではなく、ダイナミック、というか、動的な流れとして把握し、いかにして文学として表現するか、についての実験的な試みと考えるべきです。ですので、大いに難解です。第2章から、やや唐突に現れるカギカッコ付きの神ないし超越者の視点、まあ、実際に読むとむしろお芝居のト書きのような印象を受けますが、この神の視点も含めて、ひとつひとつのイベントやアクションの絡まり合い、体験や人物の複雑さをいかに文学的に表現するか、まさに、大学において英文学の研究対象、あるいは、英文学学習の題材としてふさわしい小説です。逆にいえば、私のような俗っぽい人間がヒマつぶしに読むような本ではない可能性も否定しません。でも、ごく時折はこういった実験的な手法を試みて、それゆえに、広く世界で研究対象となるような小説を、十分な理解力もなく読んでみるのもいいものです。特に年末年始休みなんかは、そういったチャンスがある時期かもしれないと思います。

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次に、綿矢りさ『あのころなにしてた?』(新潮文庫)を読みました。著者は、最年少で芥川賞を受賞した小説家です。本書は、出版社のサイトによれば、著者初めての日記体のエッセイだそうですが、そもそもエッセイは初めてではないか、と私は思っているものの、それほどたくさん読んでいるわけでなはいので自信はありません。ただ、最新作の『嫌いなら呼ぶなよ』と『パッキパキ北京』は読んでいます。文芸雑誌『新潮』で連載されていたものを取りまとめた単行本は数年前に出版されていますが、文庫本で出ましたので読んでみました。ということで、2020年1年間を日記体で綴ったエッセイです。エッセイですので、作家の考えが明確に読み取れる点は面白かったです。繰り返しになりますが、タイトルの「あのころ」というのは2020年であり、世界がコロナのパンデミックに見舞われ、日本でも緊急事態宣言が出たりしました。私はカミさんとともに東京から関西に引越して、4月から現在の大学教員の仕事を始めています。ですので、私ならずともまだ記憶が鮮明な向きはあろうかと思います。でも、当時は感染者数の増減に一喜一憂していたような記憶がありますが、その感覚はすっかり忘れてしまっています。少しネットでこの著者の作品を調べると、ファンも多い『オーラの発表会』が2021年8月に出版されていますので、その執筆や仕上げの時期と重なるのかもしれません。当然ながら、芥川賞作家ですので感性や表現力が私のような一般ピープルとは違います。ですので、やや偏りは感じられなくもないですが、固有名詞を明記しているわけではないものの、竹内結子さんの自殺には大きな紙幅が割かれている一方で、志村けんさんのコロナ感染死についてはほとんど記述がなかったりして、その完成の向きを感じることが出来ます。また、コロナのウィルスを擬人化して「魂を抜く系の魔のもの」という表現力も目を見張るものがありました。さらに、どうでもいいことながら、冒頭1月は家族で行ったスキーの日記で始まるのですが、スキーは相手のいらない1人で楽しめる娯楽という受け止めがあります。私もかつてはスポーツではゴルフやテニス、あるいは、ゲーム系ではコントラクト・ブリッジなどを楽しんでいたのですが、年齢を重ねて相手のいらない水泳やスポーツバイクや読書といったものにシフトしてきています。もう、バブル期ほどははやっていない気もしますが、スキーも1人で楽しめるスポーツなのか、と改めて気付かされました。

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2025年1月10日 (金)

堅調な雇用とソフトランディングの確率の高さを確認した12月の米国雇用統計

日本時間の今夜、米国労働省から昨年2024年12月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は、11月統計の+212千人増から12月統計では+256千人増と小幅な加速を見せ、失業率も前月から低下しての4.1%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事をやや長めに小見出しを除いて11パラ引用すると以下の通りです。

Jobs report today: U.S. added booming 256,000 jobs in December, unemployment at 4.1%
U.S. employers added a booming 256,000 jobs in December, shrugging off high labor costs, slowing sales and uncertainty about President-elect Donald Trump's economic policies.
The unemployment rate fell from 4.2% to 4.1%, the Labor Department said Friday.
Economists surveyed by Bloomberg had estimated that about 165,000 jobs were added last month, based on their median forecast.
The robust performance bolsters the case for the Federal Reserve to stand pat and skip an interest rate cut at a meeting later this month.
Employers added 2.2 million jobs for all of 2024, or an average 186,000 a month. That's down from 3 million, or an average 251,000 a month, in 2023 but still a surprisingly strong showing. Most forecasters expected a sharper slowdown, believing inflation and high interest would take a bigger toll and a post-pandemic rebound in economic activity would fade more dramatically.
Average hourly pay rose 10 cents to $35.69, nudging down the yearly increase from 4% to 3.9%.
Wage growth generally has slowed as pandemic-related labor shortages have eased, helping bring down inflation. Since employers often pass their increased labor costs to consumers through higher prices, economists have said yearly wage growth needs to fall to 3.5% to achieve the Fed's 2% inflation goal.
But recent strong gains in productivity - or output per worker - could let companies give up to 4% raises without hiking prices, economists have said.
The solid jobs report likely keeps the Fed on course to pause its campaign of interest rate cuts at a meeting later this month.
After the Fed lowered rates by a total percentage point at its last three meetings of 2024 amid easing inflation, many economists expected the central bank to pause in January and slow the pace of decreases this year. That's because price increases have remained elevated recently while the economy and labor market have been healthy.
The Fed raises rates or keeps them high to increase borrowing costs and bring down inflation. It lowers rates to spur a weakening economy or return rates to normal as inflation slows.

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたのですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、ここまで詳細に報道記事を引用すると、もう十分にお腹いっぱいという気もします。米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、10月統計で大きく減速した後、11月統計では大きくリバウンドして+212千人、12月統計ではさらに雇用増が大きくなって+256千人増を記録しています。引用した記事の3パラ目にあるように、Bloombergによる市場の事前コンセンサスでは+165千人強の雇用者増くらいだったようです。他方、失業率については、ほぼ安定的に推移しており、12月統計の4.1%は11月統計の4.2%からわずかに低下し、歴史的に低い水準を維持していると考えるべきです。どうやら、10月の雇用者数の減速はインフレ抑制のための連邦準備制度理事会(FED)による金融引き締めの影響というよりも、ハリケーンとストライキに起因し、11月統計ではきっちりとリバウンドし、さらに、12月統計では雇用の堅調さとソフトランディングの確率の高さを見せつけられた、というのが私の受止めです。
広く報じられているように、米国連邦準備制度理事会(FED)は12月17-18日のFOMCで▲25ベーシスの利下げを決めましたが、ここまで雇用が堅調であれば、利下げを急がないだろう、というのが市場における一般的な観測のようです。FEDの連邦公開市場委員会(FOMC)は1月28-29日、日銀の次の金融政策決定会合はFOMCの少し前の1月23-24日です。ひょっとしたら、日銀は再利上げに踏み切る可能性もあります。はてさて、日米の金融政策動向やいかに?

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3か月ぶりの下降を示した2024年11月の景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から昨年2024年11月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から▲2.1ポイント下降の107.0を示し、CI一致指数も▲1.5ポイント下降の115.3を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから報道を引用すると以下の通りです。

景気動向一致指数1.5ポイント低下、生産悪化で3カ月ぶりマイナス
内閣府が10日に公表した11月の景気動向指数速報(2020年=100)によると、足元の各種経済指標を総合した一致指数は前月比1.5ポイント低下の115.3で、3カ月ぶりのマイナスとなった。鉱工業生産指数の悪化などが下押しした。
生産指数は、一部自動車メーカーでの安全規制に絡む生産停止などの影響で悪化した。半導体製造装置の出荷減により投資財出荷指数、そのほか耐久消費財出荷指数、アジア・米国・欧州連合向けの減少が目立った輸出数量指数も悪化し、全体を押し下げた。
一致指数から一定のルールで決める基調判断は、10月の「下げ止まりを示している」で据え置いた。7カ月連続で同じ表現となっている。
先行指数も前月比2.1ポイント低下の107.0と、3カ月ぶりに悪化した。中小企業売上見通しや鉱工業生産財在庫率指数の悪化が影響した。中小企業売上見通しは、電気機械・設備投資・乗用車関係企業が悪化した

いつもながら、コンパクトかつ包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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2024年12月統計のCI一致指数は3か月ぶり下降となりました。ただ、3か月後方移動平均の前月差もは3か月連続の上昇で+0.67ポイント上昇、7か月後方移動平均の前月差も0.00、すなわち横ばいとなっています。ただ、統計作成官庁である内閣府では基調判断は、今月も「下げ止まり」で据え置いています。5月に変更されてから半年余り同じ基調判断で据置きです。なお、細かい点ながら、上方や下方への局面変化は7か月後方移動平均という長めのラグを考慮した判断基準なのですが、改善からの足踏みや悪化からの下げ止まりは3か月後方移動平均で判断されます。いずれにせよ、私は従来から、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そう簡単には日本経済が景気後退局面に入ることはないと考えていて、世間一般と比べるとやや楽観的な見方かもしれません。ただし、日本経済はすでに景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありませんし、多くのエコノミストが円高を展望して待ち望んでいる金融引締めの経済へ影響は、引き続き、考慮する必要があるのは当然です。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、生産指数(鉱工業)が▲0.42ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)と輸出数量指数がともに▲0.36ポイント、耐久消費財出荷指数が▲0.35ポイント、鉱工業用生産財出荷指数が▲0.24ポイントなどとなっています。他方、プラスで目立つのは商業販売額(小売業)(前年同月比)+0.20ポイントくらいとなっています。

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2025年1月 9日 (木)

日銀「さくらリポート」に見る地域経済やいかに?

本日1月9日の日銀支店長会議において「地域経済報告」、いわゆる「さくらリポート」が公表されています。まず、日銀のサイトから各地域の景気の総括判断を引用すると以下の通りです。

各地域の景気の総括判断
一部に弱めの動きもみられるが、すべての地域で、景気は「緩やかに回復」、「持ち直し」、「緩やかに持ち直し」としている。

続いて、各地域の景気の総括判断と前回との比較のテーブルは以下の通りです。

 【2024年10月判断】前回との比較【2025年1月判断】
北海道一部に弱めの動きがみられるが、持ち直している一部に弱めの動きがみられるが、持ち直している
東北緩やかに持ち直している持ち直している
北陸一部に能登半島地震の影響がみられるものの、緩やかに回復しつつある。なお、奥能登豪雨の影響については、被災地に甚大な被害を及ぼしているが、今後、マインド面を含めてどの程度、経済を下押ししていくか注視していく必要がある一部に能登半島地震の影響がみられるものの、緩やかに回復している
関東甲信越一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している
東海緩やかに回復している緩やかに回復している
近畿一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかに持ち直している一部に弱めの動きがみられるものの、緩やかに回復している
中国緩やかな回復基調にある緩やかな回復基調にある
四国緩やかに持ち直している緩やかに持ち直している
九州・沖縄一部に弱めの動きがみられるが、緩やかに回復している一部に弱めの動きがみられるが、緩やかに回復している

テーブルを見れば明らかなのですが、全9ブロックのうち東北と北陸の2ブロックで景気判断が引き上げられています。他方で、ほかの北海道、関東甲信越、東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄の7ブロックでは判断を据え置いています。景気判断を下方修正したブロックはありませんでした。これらの総括判断に加えて、pdfの全文リポートには、「企業等の主な声」として、① 個人消費 (インバウンド需要を含む)、② 生産・輸出・設備投資、③ 雇用・賃金設定、④ 価格設定、の4項目があるのですが、③ 雇用・賃金設定のトピックでは賃上げに関する意見や見方も含まれています。いくつかの例では、「原材料価格がひと頃より下落する一方、販売価格を維持することで原資を確保し、2025年度も2024年度に続き、積極的な賃上げを検討している(高松[金属製品])。」といった見方が示されている一方で、「2024年度は、世間の賃上げムードの高まりを受け、利益を圧縮してでもベアを実施したが、2025年度は、中国での日本車販売の不振から受注が減少する見通しであることから、ベアは見送る方針(福島[輸送用機械])。」といった真逆な見方まで、幅広く明らかにされています。まあ、当然かも知れません。こういった動きを受けて、ロイターの報道では、「25年度賃上げ率『具体的な検討進めている企業も』=日銀支店長会議」といったタイトルの記事があったりします。

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2025年1月 8日 (水)

2か月ぶりの低下となった2024年12月の消費者態度指数

本日、内閣府から昨年2024年12月の消費者態度指数が公表されています。12月統計では、前月から+0.2ポイント上昇して36.4を記録しています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです

消費者態度指数、12月は0.2ポイント低下 2カ月ぶりマイナス
内閣府が8日に発表した12月消費動向調査によると、消費者態度指数(2人以上の世帯・季節調整値)は、前月から0.2ポイント低下の36.2と、2カ月ぶりのマイナスとなった。
同指数を構成する4つの指標のうち、耐久消費財の買い時判断が0.5ポイント、暮らし向きが0.2ポイント悪化したことが響いた。収入の増え方は前月比横ばい、雇用環境は0.2ポイント改善した。
<冬物野菜高騰、物価見通しに影響か>
暮らし向き指標の悪化について内閣府では「物価上昇が影響した可能性がある」(幹部)とみている。
内閣府は消費者態度指数の基調判断を7カ月連続で「改善に足踏みがみられる」に据え置いた。
1年後の物価が上昇するとの回答比率は前月比0.5ポイント上昇して93.7%だった。
1年後物価が5%以上上昇するとの回答比率が前月の47.5%から48.4%に拡大し、1年2カ月ぶりの水準となった。内閣府は「冬物野菜の価格高騰を反映した可能性がある」と説明した。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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消費者態度指数を構成する4項目の指標について前月差で詳しく見ると、「雇用環境」が+0.2ポイント上昇し41.2、「収入の増え方」は前月から横ばいで40.2となった一方で、ほかの項目は軒並み低下を示し、「耐久消費財の買い時判断」が▲0.5ポイント低下し29.4、「暮らし向き」も▲0.2ポイント低下し34.1となりました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「改善に足踏みがみられる」で据え置いています。7か月連続の据え置きです。私は従来から主張しているように、あるいは、引用した記事にもあるように、いくぶんなりとも、消費者マインドは物価上昇=インフレに連動している部分があります。1970年代前半の狂乱物価の時期は異常な例としても、デフレ前であれば、インフレになれば価格が引き上げられる前に購入するという消費者行動だったのですが、デフレを経て、物価上昇により消費者が買い控えをする行動が目につきます。こういった消費者行動の経済分析が必要だという気がしています。というか、私も研究をしているわけですので、少し考えたいと思います。
また、インフレに伴って注目を集めている1年後の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答が11月統計の47.5%から本日公表の12月統計では48.4%に上昇する一方で、2%以上5%未満物価が上がるとの回答は34.1%から33.7%に低下し、物価上昇を見込む割合は93.7%と前月11月統計から+0.5%ポイント上昇し高い水準が続いています。

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2025年1月 7日 (火)

ユーラシア・グループによる2025年のトップリスクやいかに?

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日本時間の昨日1月6日、イアン・ブレマー率いるユーラシア・グループから今年2025年のトップリスク10項目が明らかにされています。今どきのことですから、詳細な内容のpdfの全文リポートもアップされています。日本語版もあります。
もうすぐ、1月20日には米国でトランプ大統領が就任し、欧州でも世界経済フォーラムが主催するダボス会議が開催され、その少し前には「グローバルリスク報告書」 Global Risks Report 2025 が明らかにされることとなろうかと思います。上のリポート表紙画像に10項目が明らかに読み取れるでしょうし、リスク管理や安全保障など専門外のエコノミストとして、10項目を羅列するだけですので、悪しからず。

  1. The G-Zero wins
  2. Rule of Don
  3. US-China breakdown
  4. Trumponomics
  5. Russia still rogue
  6. Iran on the ropes
  7. Beggar thy world
  8. AI unbound
  9. Ungoverned spaces
  10. Mexican standof

私にはそれほどのリスク理解力はありませんが、4番目のトランポノミクスの関税が日本経済のみならず世界経済に及ぼす影響が気がかりではあります。はい、特段の根拠はありませんが、今年はヤバそうな気がしています。私だけでしょうか?

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2025年1月 6日 (月)

年末年始休みに読んだ学術論文

先週土曜日1月4日の読書感想文のブログでは小説ばかり3冊ほど取り上げましたが、もちろん、この年末年始休みには、私も大学教授ですので、いくつか学術論文も読んでいます。4本ほど取り上げたいと思います。まず、私が読んだ順で各論文の引用情報は以下の通りです。

次に、英文ながら、一気にAbstractを引用して並べると以下の通りです。

Skill Depreciation during Unemployment: Evidence from Panel Data
We examine the depreciation of skills among unemployed German workers using a panel of skill measures linked to administrative data. Both the reemployment hazard and reemployment earnings steadily decline with unemployment duration. Indicators of depression and loneliness also rise substantially. However, we find no decline in a wide range of cognitive and non-cognitive skills while workers remain unemployed. We find the same pattern in a panel of American workers. The results imply that skill depreciation in general human capital is unlikely to be a major explanation for observed duration dependence in reemployment outcomes.
Babies and the Macroeconomy
Fertility levels have greatly decreased in virtually every nation in the world, but the timing of the decline has differed even among developed countries. In Europe, Asia, and North America, total fertility rates of some nations dipped below the magic replacement figure of 2.1 as early as the 1970s. But in other nations, fertility rates remained substantial until the 1990s but plummeted subsequently. This paper addresses why some countries in Europe and Asia with moderate fertility levels in 1980s, have become the "lowest-low" nations today (total fertility rates of less than 1.3), whereas those that decreased earlier have not. Also addressed is why the crossover point for the two groups of nations was around the 1980s and 1990s. An important factor that distinguishes the two groups is their economic growth in the 1960s and 1970s. Countries with "lowest low" fertility rates today experienced rapid growth in GNP per capita after a long period of stagnation or decline. They were catapulted into modernity, but the beliefs, values, and traditions of their citizens changed more slowly. Thus, swift economic change may lead to both generational and gendered conflicts that result in a rapid decrease in the total fertility rate.
Worker Earnings, Service Quality, and Firm Profitability: Evidence from Nursing Homes and Minimum Wage Reforms
This paper examines whether higher earnings for frontline workers affects the quality of employees' output. I leverage increases in the statutory minimum wage, combined with worker, consumer, and firm outcomes in the nursing home sector. I find that higher minimum wages increase income and retention among low-wage employees and improve consumer outcomes, measured by fewer inspection violations; lower rates of adverse, preventable health conditions; and lower resident mortality. Firms maintain profitability by attracting consumers with a greater ability to pay and increasing prices for these individuals.
Exemption and work environment
The Labor Standards Act of Japan requires employers to compensate employees based on hours worked, but exemptions apply to specific occupations with agreements between employers and employees. We assess the impact of being exempted on hours worked, earnings, and the physical and mental health conditions of employees. We find that, on average, exempt workers work longer hours and earn more than nonexempt workers, without hurting their health status. We also find, however, that being exempted exacerbates health status when it is applied to employees who do not have discretion in how and when they work.

まず、最初の論文 "Skill Depreciation during Unemployment: Evidence from Panel Data" では、失業に伴う不利益をパネルデータ分析により明らかにしようと試みています。私の従来からの見方と違っているのは、失業期間中も認知的及び非認知的スキルの低下は見られない、という結論です。ただし、再雇用されないリスクと再雇用後の所得、さらに、うつ病と孤独指標は失業期間の長期化とともに悪化を示しています。私は雇用者が失業するとスキルの低下を招くので失業を避けるべきだと主張してきましたが、本論文ではドイツの例ながら私の見方を一部否定する結論が出ています。
2番目の論文 "Babies and the Macroeconomy" は、一昨年のノーベル経済学賞を受賞したゴルディン教授による出生率低下に関する分析です。急速な経済成長を経験した国のグループで出生率が低くなっている事実につき分析し、急激な成長や経済の変化が世代間や性別に応じた対立を引き起こし、出生率の急速な低下を招いた可能性を指摘しています。3番目の論文 "Worker Earnings, Service Quality, and Firm Profitability: Evidence from Nursing Homes and Minimum Wage Reforms" は、最前線で働くエッセンシャルワーカーなどの労働者の収入が法定最低賃金の上昇により引き上げられると、低賃金労働者の収入と定着率が向上し、健康状態の悪化を予防するなど、消費者としての成果を改善するとの分析結果を示しています。
最後の論文 "Exemption and work environment" は、日本人の研究者による日本の裁量労働制、すなわち、労働基準法の適用除外に関して、それが労働時間、収入、心身の健康に及ぼす影響を分析しています。(1) 目標や締切といった基本的業務内容の決定方法、(2) 業務内容や量の決定方法、(3) 進捗報告の頻度、(4) 業務実施方法や時間配分の決定方法、(5) 作業開始および終了時間の決定方法、の5つの基準として、自己決定の割合、すなわち、裁量が高い労働者に裁量労働制が適用されていると、適用されていない労働者に比べて週当たり労働時間が2時間長くなる一方で、年間ベースで収入が+7.8%高くなる、との結果を得ています。健康状態の悪化や仕事に対する満足度の低下も見られていません。ただし、5つの基準で見て、低い裁量しか持たない労働者には長時間労働が健康に悪影響を与え、加えて、仕事に対する満足度も低下することが明らかにされています。まあ、労働基準法の定期用除外になって裁量労働制が適用されると、労働時間が増加するのは確実だと私も思います。最後の論文から、その労働時間の分布のグラフ Figure 1 Distributions of weekly hours worked by discretionary work-hour system status を引用すると以下の通りです。ピンクの部分が労働基準法の適用除外=裁量労働制の適用された労働者の労働時間であり、緑色の部分はそうでない労働者の労働時間です。

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2025年1月 5日 (日)

県立図書館はプライオリティが低いのか?

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今日は、朝から県立図書館に行って本を借りてきました。
県立図書館は県立美術館と並んでいるのですが、何と申しましょうかで、ものすごく不便な立地です。「文化ゾーン」だか、何だかと称して、図書館と美術館のほかに、びわこ文化公園、さらに、アイススケートリンク、大学もいくつかあって、私の勤務する立命館大学のほかにも、滋賀医大と龍谷大学があったりします。
繰り返しますが、東京に長らく住んでいた身としては、ものすごく不便な立地です。麻生の有栖川宮記念公園にある都立図書館とか、千代田区に移管される前には都立図書館だった日比谷図書館なんぞと比べると、やたらとアクセスが悪いと思います。岡崎の平安神宮の前にある京都府立図書館と比べても歴然たる差があります。一応、路線バスがなくはないのでしょうが、たぶん、1時間に1本とか、せいぜい2本くらいで、JR琵琶湖線の駅からは300円を下らない額の料金設定ではないかと思います。ですから、家族連れでの利用者の大部分は自動車で来ているのだろうと私は想像しています。私のような低所得者で自動車を持たなければ、縁の薄い施設になってしまいかねない気がします。東京や京都と比べて、それほど地価が高いというわけでもないでしょうし、もっと条件のいい土地があるような気もしますが、図書館をはじめとする文化ゾーンにある施設のプライオリティが低いのではないか、と危惧しています。私の勤務校も行政サイドからはそれほど重要だとは考えられていない、のかも知れません。

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