2024年3月 2日 (土)

今週の読書は話題の『技術革新と不平等の1000年史』ほか計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、ダロン・アセモグル & サイモン・ジョンソン『技術革新と不平等の1000年史』上下(早川書房)では、技術革新に基づく生産性向上が必ずしも生活の改善にはつながらず不平等が拡大する歴史をひも解いています。水野敬三[編著]『地域活性化の経済分析』(中央経済社)は、限られたリソースをどのように地域活性化に活用するかをゲーム論などを用いて分析しています。太田愛『未明の砦』(角川書店)は、巨大自動車メーカーの非正規工員4人が労働組合を結成して待遇改善を求める姿とを共謀罪を適用して取り締まろうとする権力や企業サイドの対決を描き出しています。宮部みゆき『ぼんぼん彩句』(角川書店)は、短い17文字の俳句に詠まれた背景を小説にする俳句文学を目指す短編小説集です。天祢涼『あの子の殺人計画』(文春文庫)は、児童虐待などの社会的な背景ある殺人事件を取り上げた社会派ミステリです。町田尚子『どすこいみいちゃんパンやさん』(ほるぷ出版)は、大きなミケネコのみいちゃんがパンを作ってお店を開店する絵本です。
ということで、今年の新刊書読書は先週までの1~月に46冊、3月第1週の今日ポストする7冊を合わせて53冊となります。順次、Facebookなどでシェアする予定です。また、ついでながら、天祢涼『あの子の殺人計画』(文春文庫)のシリーズ前作『希望が死んだ夜に』も読みましたが、新刊書ではないので本日のブログには取り上げずに、Facebookですでにシェアしてあります。

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まず、ダロン・アセモグル & サイモン・ジョンソン『技術革新と不平等の1000年史』上下(早川書房)を読みました。著者は、ともに米国のエコノミストです。アセモグル教授はそのうちにノーベル経済学賞を取るんではないか、とウワサされていますし、ジョンソン教授は国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストも務めています。英語の原題は Power and Progress であり、2023年の出版です。ということで、実に巧みに邦訳タイトルがつけられています。まあ、Progress が技術革新に当たっていて、Power の方が権力者による不平等の基礎、ということになるんだろうと思います。ものすごく浩瀚な資料を引いていて、さすがに、私も所属している経済学の業界でも優秀な知性を誇る2人の著者の水準の高さが伺えます。ただ、いろいろと傍証を引きつつも、結論は極めてシンプルです。すなわち、経済が発展成長する素である技術革新、イノベーションは生産性を向上させ、もちろん、生産高を増大させることは当然で、これを著者たちは「生産性バンドワゴン」と読んでいますが、こういった生産性向上が自動的に国民生活を豊かにするわけではなく、その利益を受けるのはエリート層であって、決して平等に分かち与えられるわけではない、ということです。特に、現在のような民主主義体制になる前の権威主義的なシステムの下では、生産性の向上により労働が楽になったり、短くなったりするとは限らず、逆に、労働がより強度高く収奪されてきた例がいくつか上げられています。例えば、中世欧州では農業技術の改良によって飛躍的な増産がもたらされましたが、人工の大きな部分を占める農民には何の利益もなく、むしろ農作業の強度が増していたりしましたし、人新世の画期となる英国の産業革命の後でも、技術進歩の成果を享受したのはほんの一握りの人々であり、工場法が成立するまでの約100年間、大多数の国民には労働時間の延長、仕事の上での自律性の低下、児童労働の拡大、それどころか、実質所得の停滞や減少すら経験させられていました。こういった歴史的事実を詳細に調べ上げた後、当然、著者2人は現時点でのシンギュラリティ目前の人工知能(AI)に目を向けます。すなわち、ビジネスにおいては、AIを活用して大量のデータを収集・利用して売上拡大や収益強化を図る一方で、政府もまた同じ手法で市民の監視を強化しようとしていたりするわけです。国民すべてに利益が及ぶように、テクノロジーを正しく用いて、社会的な不平等の進行を正すには、ガルブレイス的な対抗勢力が必須なのですが、組織率の長期的低下に現れているように労働組合は弱体化し、市民運動も盛り上がっていません。先進国ですら民主主義は形骸化し、国民の声が政治や経済に反映されることが少なくなっていると感じている人は多いのではないでしょうか。それでは、こういったテクノロジーの方向に対処する方法がないのか、という技術悲観論、大昔のラッダイト運動のようなテクノ・ペシミズムに著者たちは立っていません。かといって、技術楽観論=テクノ・オプティミズムでもありません。日本の電機業界が典型だったのですが、生産性の向上が達成されると雇用者を削減する方向ばかりでしたが、逆に労働者を増やす方向に転換すべきであると本書では主張しています。その典型例を教育に求めています。もちろん、エコノミストらしく税制についても自動化を進めつつ労働者を増やすようなシステム目指して分析しています。アセモグル教授は、かつて『自由の命運』で「狭い回廊」という概念を導き出していましたし、この著作でもご同様な困難がつきまとう気がしますが、企業に対する適切な規制や税制をはじめとする政策的な誘導、そして、何よりも、そういった技術を自動化とそれに基づく労働者の削減に向けるのではなく、テクノロジーを雇用拡大の方向に結びつける政策を支持するような民主主義に期待したいと思うのは私もまったく同じです。

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次に、水野敬三[編著]『地域活性化の経済分析』(中央経済社)を読みました。編者は、関西学院大学の研究者であり、本書は関西学院大学産研叢書のシリーズとして発行されています。地域経済の観点から、本書では限られた財政資源、人的資源、観光向けの社会的あるいは自然資源などのリソースを活用し、どういったシステム設計が可能なのか、についてゲーム論などを援用しつつ分析を進めています。まず、本書は2部構成であり、前半は地域経済の活性化、後半は地域サービズの活性化、をそれぞれテーマとしています。前半では、地方のインフラを始めとする社会資本整備について、いわゆるPPP(Public Private Partnershipp)を活かした社会資本整備について、地方政府に任せ切るのではなく中央政府の仲介機能を活用する、などの政策提言を行っています。また、公企業の役割については、民業圧迫を批判されることもありますから、民業補完と民業配慮について民業と官業=公企業の2企業の複占を考え、シュタッケルベルク的な反応とクールノー的な反応から分析を進め、短期では民業補完と民業配慮のどちらも社会厚生を上昇させる一方で、長期には公企業の民業配慮は社会厚生を悪化させる可能性があると結論しています。前半の部の最後には、雇用と就業のミスマッチについて、山形県庄内地方のケースを分析しています。後半のサービス経済の分析の部では、観光資源管理について富山県の立山黒部アルペンルート、また、兵庫県の城崎温泉に関して理論モデルによる分析、すなわち、コモンプール財の外部性を回避する方法につきゲーム論で分析しています。観光客の移動経路については、山形県酒田市のアンケート調査データなどを基に、ネットワーク分析を試みています。また、地域サービスとの関連が私には十分理解できなかったのですが、季節性インフルエンザのワクチン接種に関する公費助成の効率的な水準に関してゲーム理論からの分析を試みています。最後の章では結婚支援サービスの効果に関して理論分析を試みています。基本的に、ほぼほぼすべてマイクロな経済分析であり、ゲーム論を援用した分析も少なくありません。ですから、実証分析ではなく理論モデルの分析が主になっています。ただ、城崎温泉などをはじめとして、実際の地方経済分析の現場に即した理論モデル構築がなされている一方で、理論モデルそのものも明らかに地域経済分析のフレームワークを超えて一般性あるものではないかと私は受け止めています。私自身は東京で官庁エコノミストとして定年まで長らく働いていましたので、地域経済の現実はそれほど身近に接してきたわけではありませんし、本書のようなマイクロな理論モデル分析ではなく、マクロの実証分析を主たる活動分野としてきましたが、唯一の査読論文は長崎大学に出向していた際の長崎経済分析でしたし、関西に引越してからの我と我が身を振り返って、もう少し地域経済についても考えるべきではないか、と感じています。

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次に、太田愛『未明の砦』(角川書店)を読みました。著者は、シナリオライターが本業かもしれませんが、いくつか秀逸なミステリも書いていたりする脚本家・作家です。私は、探偵事務所の鑓水などが主人公となっている『犯罪者』、『幻夏』、『天上の葦』の社会派の三部作を読んだ記憶があります。本書と同じで、いずれも角川書店からの出版です。ということで、本書も社会派色が強くなっています。主人公は、日本を代表する大手自動車メーカーで働く非正規工員4人、すなわち、矢上達也、脇隼人、秋山宏典、泉原順平です。本書冒頭のプロローグでは、この4人が日本で初めて共謀罪で逮捕されようとしているシーンから始まります。本編では、この主人公4人が会社の正規社員である組長に誘われて、千葉県笛ヶ浜で夏休みを過ごすところから時系列的なストーリーが始まります。4人が労働組合を結成して巨大資本の自動車メーカーに対抗しようとし、御用組合に加入している正社員から差別され、様々な不利益をこうむります。かなりの長編ですので、この巨大資本の自動車メーカーの工場労働者とともに、経営トップも登場します。会社名と経営トップの名前が共通していますから、明らかにトヨタを意識したネーミングだと考えるべきです。もちろん、この自動車メーカーを巡って、与党政治家、キャリア官僚、そして、所轄の公安警察官、さらに、「週刊真実」なるネーミングで、いかにも「週刊文春」を想像させるような週刊誌のジャーナリストも登場します。作者の視点はあくまでも非正規労働者や彼らを支援する労働組合ユニオンの関係者に優しく、経営者、キャリア官僚、与党政治家などには批判的なまなざしが向けられます。過去に私が読んでいる同じ作者の小説に比べて、それほどスリリングな場面が多いわけではなく、自動車工場における労働の実態がかなり誇張され、ここまで死者が出るのも異常だろうと思わないでもありませんが、日本経済のもっとも基礎的、エッセンシャルな部分を構成する人々についてはよく描写されている気がしました。巨大資本には対抗するすべがなく、単に企業の言い分を受け入れるだけの存在から、自覚的で社会や、その前に自分の境遇をよくしようと考える方向に変わっていく様子が実に感動的に、決して現実的とは思えませんが、とっても感動的に描写されていました。その昔であれば、抑圧されたプロレタリアートが蜂起して革命を起こす、ということになるのかもしれませんが、今ではその選択肢は極めて限定的な気もします。最後に2点指摘しておきたいと思います。第1に、与党政治家が登場するのですから、野党政治家の活躍も何とか盛り込めなかったものか、という気がします。主人公の4人をサポートするのが労働組合関係者だけ、というのは、小説として少し視野が狭い気がしてなりません。もう少しジャーナリストのご活躍もあってよかったのでは、という気もします。あまりにもサポートが少なすぎる印象があります。ただし、労働関係の場合、私のような大学教員はそれほど出る幕はないかもしれません。他方で、ミャンマーのクーデタなどは大学教員もしゃしゃり出たりします。同僚教員の推測によれば、私はミャンマー軍政政府のブラックリストに入っている可能性が高いそうです。第2に、本書は小説であり、しかも、第1の点で指摘したように、救いの道が労働組合に限定されていますから、市民運動とのバランスを取るためにも、エリカ・チェノウェス『市民的抵抗』(白水社)をオススメします。チェノウェス教授は、非暴力の自覚的な市民抵抗者が人口の3.5%まで増加すれば社会は変わる、という研究成果を実証的に示した米国ハーバード大学の研究者です。昨年2023年10月末に、私はFacebookでこの本のブックレビューをポストしています。

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次に、宮部みゆき『ぼんぼん彩句』(角川書店)を読みました。著者は、日本でも有数の販売を誇っているであろう小説家であり、本書は俳句小説と銘打った新しい試みだそうです。短編集であり、俳句の17文字をタイトルに取って、以下の12編が収録されています。なお、短編タイトルの後のカッコ内の人名、というか、俳号はタイトルの俳句の作者となっています。好きな作者の作品ですし、かなりていねいに読んだので長くなります。まず、「枯れ向日葵呼んで振り向く奴がいる」(よし子)では、婚約解消した女性が主人公となります。婚約解消した相手の男性は二股をかけていて、もう1人の女性が妊娠したため婚約を解消したところです。バス代1800円の「長旅」をして市民公園に着き、そこにある熱帯植物園には向日葵がいっぱいでした。続いて、「鋏利し庭の鶏頭刎ね尽くす」(薄露)では、離婚する女性が主人公となります。主人公の女性は司法書士の高給取りですが、男性の方は15才の時に交通事故死したみっちゃんが忘れられず、妹をはじめとして家族ぐるみで思い出を共有しています。男性は、そのみっちゃんが描いた未完成の鶏頭の絵を形見のように、今もって大事にしていますが、実はみっちゃんが鶏頭を描いたのは別の理由からでした。続いて、「プレゼントコートマフラームートンブーツ」(若好)では、ハンドメイドを趣味とする男性が小学生の息子とともに、土地の神様が宿る大きな銀杏に住むリスを題材にクリスマスプレゼントの作成を始めます。そこに、男性に騙されたらしい女性がやって来ます。続いて、「散ることは実るためなり桃の花」(客過)では、すでに結婚した娘を持つ女性が主人公です。その娘の結婚相手が、司法試験に挑戦しながら働きもせず、善良を信じ過ぎる娘を騙しているようにしか見えず、他の女性との浮気すら許容しています。続いて、「異国より訪れし婿墓洗う」(衿香)では、やや近未来的でSFのような設定です。再生細胞が広範に医療に利用されるようになり、寿命が100歳を軽く超えるようになった日本で、主人公の女性の娘は国際結婚をして外国ぐらしをしていましたが、お盆の亡夫の墓参りに帰国します。続いて、「月隠るついさっきまで人だった」(独言)では、のんびりした姉としっかりものの5歳違いの妹の姉妹が主人公です。姉に彼氏ができたのですが、トンデモなタイプの男性で、祖母の葬式の名古屋まで追いかけて、ナイフを振り回したりします。続いて、「窓際のゴーヤカーテン実は二つ」(今望)では、アラフォーで子供のいない夫婦が主人公です。南西向きの部屋が暑いのでゴーヤをカーテン代わりに植えたところ、真冬になっても実がなったままで枯れそうにもありません。不妊治療に奇跡をもたらすゴーヤの実に使えるのではないかと夫がいいだしたりします。続いて、「山降りる旅駅ごとに花ひらき」(灰酒)では、家族の中の「黒い羊」のようなパッとしない次女、しかも、母親似の美貌の長女と次女に挟まれて、父親似の次女が主人公です。祖父の遺言状の確認のために温泉宿に一族が集まり、遺言状ではまたまたパッとしない腕時計を譲られますが、その宿の女将から重大な祖父の秘密を知らされます。続いて、「薄闇や苔むす墓石に蜥蜴の子」(石杖)では、小学生が主人公で、引越し先の裏山を探検しているとトカゲが走り去り、追いかけるうちにキラリと光る虫眼鏡を発見して、交番に届けたところ大騒動になります。というのも、虫眼鏡には5年前に行方不明になった小学生の名があったからです。虫眼鏡が発見された近くからとんでもないものが発見されます。続いて、「薔薇落つる丑三つの刻誰ぞいぬ」(蒼心)では、女子大生が主人公で、彼氏になってから豹変した男性とその取巻きから無理矢理に心霊スポットの廃墟の元病院に連れて行かれてしまいます。そこで出会ったのは人ならぬ存在だったりします。続いて、「冬晴れの遠出の先の野辺送り」(青賀)では、かなわぬ恋に敗れて26歳で自殺した男性の妹が主人公です。昔ながらの徒歩の野辺送りではローカル線に沿ったルートが設定されましたが、列車は停まってしまいます。県庁所在都市の名門校の女子高生と話しているうちに、主人公は亡き兄について、いろいろと感情を高ぶらせます。続いて、「同じ飯同じ菜を食ふ春日和」(平和)では、夫婦と女の子の家族3人が主人公です。父親の方の郷里に法事や何やで帰省するたびに訪れる展望台での会話で構成されているのですが、ざっと考えても十数年にわたっての会話です。展望台からは Remember 3.11 の文字が見えます。と長々とあらすじを展開しましたが、人ならぬ存在が登場する「薔薇落つる丑三つの刻誰ぞいぬ」がもっともよかったと感じています。12の短編の前半は、あるいは、後半のいくつかの短編も、やや常軌を逸した男性が登場し、どこまで現実的なお話なのかと疑問に思わなくもないのですが、まあ、そこは小説なのだと割り切って考えるべきなのかもしれません。

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次に、天祢涼『あの子の殺人計画』(文春文庫)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、本書は、同じ作者の『希望が死んだ夜に』に続く社会派ミステリ仲田蛍シリーズの第2弾となります。前作と同じで神奈川県警真壁刑事といっしょに捜査に加わります。何の捜査かというと、風俗産業のオーナーの殺人事件です。前作と同じように川崎市の登戸付近の事件です。容疑者は、かつて殺害されたオーナーの経営する風俗店で働いていた女性なのですが、その小学生の娘が殺害当日の母親のアリバイを詳細に記憶しています。深夜でテレビがついていて、真夜中で日付が変わったシーンなどを克明に証言して、警察でも全面的ではないとしても証拠能力があると認定されます。その容疑者は今では風俗店ではなく、ファミレスで働くシングルマザーであり、容疑者の娘がきさらという名です。家庭ではシングルマザーの母親がこの小学生の娘を虐待、というか、ネグレクトしつつ虐待していて、食事を十分に与えなかったり、母親の気分次第で風呂場で水攻めにしたりします。もちろん、家庭での洗濯や入浴が行き届かないわけですので、小学校でもいじめにあっています。しかし、きさらは少なくとも母親から虐待されているという自覚はなく、一種のマインドコントロールの状態にあって、風呂場での水攻めがしつけであると思い込まされています。小学校では、同じクラスの翔太だけが味方になってくれていますが、きさらは少なくとも家庭での虐待については自覚しません。そこに、仲田が登場して謎解きをするのですが、ある意味で、本格的なミステリなのですが、時間のミスリードがあり、同様に、ノックスの十戒のひとつである双子のケースに近いミスリードもあったりしますから、ホンの少しだけ反則気味であると感じるミステリファンがいる可能性はあります。でも、なかなか見事なプロットだと思います。社会派のミステリファンを自負するのであれば、特に前作の『希望が死んだ夜に』を読んだファンであれば、ぜひとも抑えておきたいオススメ作品です。ただ、読者によっては、前作の方がクオリティ高いと支持する人がいそうな気もします。私もその1人です。

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最後に、町田尚子『どすこいみいちゃんパンやさん』(ほるぷ出版)を読みました。著者は、イラストレータ・絵本作家です。本書は単独での執筆ですが、私が読んだ範囲でも『なまえのないねこ』(小峰書店)なんかのように、原作者とともにイラストを担当したりしている作品も少なくないと思います。ということで、とても久しぶりの絵本の読書感想文です。私も周辺ではこの絵本の評価は高くて、それなりにはやっているようです。従って、出版社も力を入れているのか、特設サイトが開設されたりしています。「どすこいちゃん」の写真募集と称して、いわゆるデブ猫の写真を募集していたりします。なお、この絵本は4-5歳からが対象となっています。私も読んでみて、主人公のどすこいみいちゃんが、朝早くから起き出して、お相撲体型を利用して、というか、何というか、力仕事でパンを作るという労働を賛美する趣きがある一方で、それ以外はさほどの社会性があるわけでもなく、ましてや、何らかの人生の深い教訓を示唆しているわけでもなく、その上、表紙画像に見られるように、いかつくて、それほど愛嬌があるわけでもない表情のデブ猫が主人公ですので、絵本としてはいかがなものか、と私自身は考えないでもないのですが、繰り返しで、なぜか、私の周囲ではなかなか評判がいいようです。

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2024年3月 1日 (金)

改善が遅れる雇用統計と消費者マインドの改善示す消費者態度指数

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率など、1月の雇用統計が公表されています。失業率は前月から▲0.1%ポイント改善して2.4%を記録した一方で、有効求人倍率は前月と同じ1.27倍となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月の有効求人倍率、横ばいの1.27倍 失業率は2.4%
厚生労働省が1日に発表した1月の有効求人倍率(季節調整値)は1.27倍で前月から横ばいだった。新型コロナウイルスの5類移行後初の年始は人の流れが活発で、生活関連サービス業・娯楽業で求人増につながった。堅調だった宿泊業・飲食サービス業では求人が減った。
総務省が同日発表した1月の完全失業率は2.4%だった。23年12月は2.5%だった。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。1月の有効求職者数は前月と比べて0.1%減少し、3カ月ぶりの減少となった。有効求人数は0.2%増で11カ月ぶりに増えた。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月比で3.0%減少した。原材料や光熱費が上がった影響で、製造業は11.6%減、宿泊・飲食サービス業も8.8%減となった。生活関連サービス・娯楽業は理容・美容などの利用が増えて5.7%増加した。
完全失業者数は163万人で前年同月比で0.6%減った。就業者数は6714万人で0.4%伸び、18カ月連続の増加となった。男性は3682万人と4万人減少し、女性は3032万人と29万人増えた。仕事に就かず職探しもしていない非労働人口は4109万人で、52万人減った。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から▲0.1%ポイント改善の2.4%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、前月から横ばいの1.27倍と見込まれていました。実績は予想と同じでジャストミートしています。いずれにせよ、人口減少局面ということもあって、雇用は底堅い印象ながら、1月統計に現れた雇用の改善が鈍い、と私は評価しています。季節調整済みのマクロの統計で見て、一昨年2022年年末12月から直近の1月統計までの1年余りの期間で、人口減少局面に入って久しい中で労働力人口は+35万人増加し、非労働力人口は▲73万人減少しています。就業者+36万人増、雇用者+53万人増の一方で、完全失業者は▲4万人減となっており、就業率は着実に上昇しています。ただ、就業率上昇の評価は難しいところで、働きたい人が着実に就労しているという側面だけではなく、物価上昇などで生活が苦しいために働かざるを得ない、というケースもありえます。加えて、就業者の内訳として雇用形態を見ると、正規が+36万人増の一方で、非正規が+39万人増ですら、国際労働機構(ILO)のいうところも decent work だけが増えているわけではありません。先進各国がこのまま景気後退に陥らないソフトランディングのパスに乗っているにもかかわらず、我が国の雇用の改善が緩やかな印象を持つのは私だけではないと思います。加えて、量的な雇用ではなく賃金動向も重要な課題です。

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最後に、本日、内閣府から2月の消費者態度指数が公表されています。前月から+1.1ポイント上昇し39.1を記録しています。グラフは上の通りです。統計作成官庁である内閣府による消費者マインドの基調判断は「改善している」で、前月からの据置きです。消費者態度指数を構成する4項目のコンポーネントを少し詳しく見ると、「雇用環境」が+1.4ポイント上昇し44.3、「暮らし向き」が+1.1ポイント上昇し37.6、「収入の増え方」も+1.1ポイント上昇し40.8、「耐久消費財の買い時判断」が+0.7ポイント上昇し33.5となっています。

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2024年2月29日 (木)

1月鉱工業生産指数(IIP)は大きく落ち込み、商業販売統計も伸びが鈍化

本日、経済産業省から1月の鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、それぞれ公表されています。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲7.5%の減産でした。また、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+5.3%増の13兆8190億円を示した一方で、季節調整済み指数は前月から+1.0%の増加を記録しています。まず、日経新聞のサイトなどから各統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、1月7.5%低下 ダイハツの工場停止響く
経済産業省が29日に発表した1月の鉱工業生産指数(2020年=100、季節調整済み)速報値は97.6となり、前月比で7.5%低下した。品質不正による自動車メーカーの工場停止が影響し、低下幅は新型コロナウイルスの感染が広がった20年5月以来の大きさとなった。
生産は全15業種のうち14業種で下がった。QUICKがまとめた民間エコノミスト予測の中央値は前月比7.6%のマイナスだった。
生産の基調判断は「一進一退」から「一進一退ながら弱含み」と引き下げた。基調判断を変えたのは23年7月以来となる。2、3月は改善を見込むものの、1月のマイナス幅を取り戻すにはいたらないと判断した。
業種別でマイナス幅が大きいのは自動車工業で17.8%だった。国内の乗用車メーカー8社が28日にまとめた1月の国内生産は前年同月比6%減の54万8000台となった。22年12月以来13カ月ぶりに前年同月で減少に転じた。1月の鉱工業生産指数もこうした動きを反映した。
ダイハツ工業では23年12月に認証試験での不正を公表し、2月12日に京都工場で生産を再開させるまで、国内すべての完成車工場で生産を停止していた。
自動車の品質不正を巡っては、豊田自動織機でエンジンの認証手続きに関する問題も表面化している。1月29日に一部の工場で稼働を停止し、2月半ばから徐々に再開している。
医療業界向けの分析機器が低迷した汎用・業務用機械工業では前月比12.6%下がった。電気・情報通信機械工業も8.3%落ち込んだ。海外向けリチウムイオン蓄電池の需要が低迷した。上昇は1業種のみで、自動車を除く輸送機械工業が2.1%上昇した。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数をみると2月は前月比4.8%の上昇を見込む。企業の予想値は上振れしやすく、例年の傾向をふまえた補正値は0.8%のプラスだ。3月の予測指数は2.0%の上昇を見込む。
小売業販売額1月は前年比2.3%増、食料・化粧品伸びる=経産省
経済産業省が29日に発表した1月の商業動態統計速報によると、小売業販売額(全店ベース)は前年比2.3%増と23カ月連続でプラスだった。価格上昇を背景に飲食料品や医薬品・化粧品の販売が好調だった。出荷停止の影響で自動車販売はマイナスだった。ロイターの事前予測調査では2.3%の増加が予想されていた。
業種別で寄与度の最も大きかったのは飲食料品と医薬品・化粧品。価格上昇の影響や、家庭用品・日用品の販売が伸びた。
業種別の前年比は無店舗小売りが7.1%増、医薬品・化粧品が5.4%増、百貨店などの各種商品小売りが3.5%増だった。
一方、織物・衣服は8.3%減、自動車小売りは3.5%減だった。暖冬の影響で冬物衣料が不調だった。自動車は一部メーカー生産停止の影響で17カ月ぶりに減少した。
業態別の前年比は、ドラッグストア7.4%増、 百貨店5.9%増、 スーパー2.4%増、コンビニエンスストア1.6%増。
一方、家電大型専門店は5.8%減、ホームセンター0.4%減。昨年1月にウィンドウズ8.1のサポート終了に伴うパソコンの買い替え需要が発生した反動などが響いた。

長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で▲7.6%でしたので、実績の前月比▲7.5%の減産は、ほぼほぼコンセンサス通りと受け止めています。ただ、大きな減産であることは確かであり、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」から「一進一退ながら弱含み」と前月から半ノッチ引き下げています。また、先行きの生産については、製造工業生産予測指数を見ると、引用した記事にもある通り、足下の2月は補正なしで+4.8%の増産、上方バイアスを除去した補正後でも+0.8%の増産となっていますが、他方で3月は補正前で2.0%の増産ですので、1月の大きな減産は2-3月では取り戻せないという気がします。経済産業省の解説サイトによれば、1月統計での生産は、自動車工業の前月比▲17.8%、寄与度▲2.48%をはじめ、汎用・業務用機械工業でも▲12.6%の減産、寄与度▲1.01%、電気・情報通信機械工業でも前月比▲8.3%の減産、寄与度は▲0.72%など、我が国のリーディング産業が軒並み減産を示しています。引用した記事にもあるように、自動車工業についてはダイハツの品質不正による工場閉鎖の影響が大きいと私も考えていますが、今年の中華圏の春節は2月であるにもかかわらず、1月生産がここまで落ち込んでいるのは欧米先進国や中国への輸出の影響をうかがわせます。2-3月にもいわゆる挽回生産ノペントアップ需要が十分ではないようですし、生産の先行きはやや不安です。唯一のポジな要素は円安かもしれません。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。見れば明らかな通り、小売業販売は堅調な動きを続けています。季節調整済み指数の後方3か月移動平均により、経済産業省のリポートでかなり機械的に判断している小売業販売額の基調判断は、直近の1月統計までの3か月後方移動平均の前月比が▲0.2%の低下となって、先月までの「上昇傾向」から「一進一退」に明確に1ノッチ引き下げています。ただ、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、1月統計ではヘッドライン上昇率も生鮮食品を除くコア上昇率も、前年同月比で+2%ほどのインフレを記録していますが、小売業販売額の1月統計の+2.3%の前年同月比での増加は、何とかギリギリでインフレ率を超えている印象で、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性が十分あります。ただ、こういった小売販売額がホントに国内需要に支えられているかどうかは疑問があります。すなわち、現在の高インフレは国内では消費の停滞をもたらす可能性が高く、したがって、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられている可能性が否定できません。したがって、国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性が否定できません。私の直感ながら、例えば、引用した記事にもあるように、ドラッグストアや百貨店の販売額の増加率がスーパーやコンビニエンスストアを上回っているのは、インバウンドの影響をうかがわせると私は考えています。

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2024年2月28日 (水)

リクルートによる1月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

明後日3月1日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる11月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの募集時平均時給の方は、前年同月比で見て、昨年2023年10月には+2.3%増となった後、11月12月も+2%台を記録しています。そして、今年2024年1月には+3.3%増となりました。昨日公表された消費者物価指数(CPI)上昇率が1月統計で+2%でしたから、これくらいでようやく物価上昇率に追いついて、実質賃金がプラスに転じたのではないか、と想像されます。時給の水準そのものは、一昨年2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、かなり堅調な動きを示しています。他方、派遣スタッフ募集時平均時給の方も昨年2023年10~11月には+2%を上回る増加を示しましたが、12月には+1.1%増に鈍化し、本日公表の2024年1月になってようやく+3.0%を記録しています。
三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、1月には前年同月より3.3%、前年同月よりも+38円増加の1,180円を記録しています。職種別では、「フード系」(+47円、+4.3%)、「販売・サービス系」(+46円、+4.2%)、「営業系」(+40円、+3.4%)、「専門職系」(+42円、+3.2%)、「製造・物流・清掃系」(+32円、+2.8%)、「事務系」(+32円、+2.6%)と、すべての職種で上昇を示しています。加えて、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏で前年同月比プラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、1月には前年同月より+3.0%、+48円増加の1,650円になりました。職種別では、「製造・物流・清掃系」(+40円、+2.9%)、「IT・技術系」(+44円、+2.0%)、「オフィスワーク系」(+28円、+1.8%)、「医療介護・教育系」(+25円、+1.7%)、「営業・販売・サービス系」(+20円、+1.3%)で上昇を示した一方で、「クリエイティブ系」(▲26円、▲1.4%)だけは減少を示しています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。

アルバイト・パートや派遣スタッフなどの非正規雇用は、従来から、低賃金労働とともに「雇用の調整弁」のような不安定な役回りを演じてきましたが、ジワジワと募集時平均時給の伸びが縮小しています。我が国景気も回復・拡大局面の後半に差しかかり、あるいは、景気後退局面に近づき、雇用の今後の動向が気がかりになり始めるタイミングかもしれません。

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2024年2月27日 (火)

ほぼ2年ぶりの+2%まで縮小した1月の消費者物価指数(CPI)上昇率をどう見るか?

本日、総務省統計局から1月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+2.0%を記録しています。前年比プラスの上昇は27か月連続ですが、先月11月統計の+2.5%のインフレ率からは上昇幅が縮小しています。日銀のインフレ目標である+2%とピッタリでした。ただ、ヘッドライン上昇率は+2.2%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+3.5%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月の消費者物価2.0%上昇 伸び1年10カ月ぶり低水準
総務省が27日発表した1月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が106.4となり、前年同月比で2.0%上昇した。伸びは3カ月連続で縮小した。上昇率は22年3月の0.8%以来、1年10カ月ぶりの低水準だった。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は1.8%の上昇だった。23年12月は2.3%上昇だった。プラスは2年5カ月連続となる。
生鮮食品を除く食料や宿泊料は伸びを縮めたものの、依然として高い上昇率が続く。外国パック旅行費もプラスに寄与した。電気代や都市ガス代、固定電話の通信料は指数を下げる方向に働いた。
生鮮食品を除く総合指数の上昇率は日銀の物価安定目標である2%と同じだった。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は3.5%上がった。生鮮食品を含む総合指数は2.2%上昇した。
総務省によると政府の電気・ガス料金の抑制策がなければ、生鮮食品を除いた総合指数の上昇率は2.6%だった。政策効果で物価の伸びを0.5ポイント程度抑えた。
品目別にみると電気代は前年同月比21.0%、都市ガス代は22.8%それぞれ下がった。政府の料金抑制策で前年同月と比べてマイナスでの推移が続く。都市ガス代の下げ幅は比較可能な1971年1月以降で最大だった。
観光需要の回復が続く宿泊料は26.9%上昇した。前年の23年1月から政府の観光振興策「全国旅行支援」の割引額が縮小し、価格が上昇していた。この反動で23年12月の59.0%プラスから伸びを縮めた。
光回線を使う「IP網」への移行で固定電話の通信料も12.0%下がった。
全体をモノとサービスに分けると、サービスは2.2%伸びた。サービスの伸びは23年7月以降、7カ月連続で2%以上で推移する。
外国パック旅行費は62.9%上昇した。新型コロナウイルス禍の影響で21年1月以降は価格の収集を一時的に取りやめていたため、総務省は「20年1月との比較になっている」と説明した。この項目を除くと生鮮食品を除く総合指数は1.9%の上昇だった。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2%を下回るとの予想でしたので、実績の+2.0%の上昇率はやや上振れた印象ながら、サプライズはありませんでした。品目別に消費者物価指数(CPI)を少し詳しく見ると、まず、エネルギー価格については、昨年2023年2月統計から前年同月比マイナスに転じていて、本日発表された1月統計では前年同月比で▲12.1%に達し、ヘッドライン上昇率に対する寄与度も▲1.07%の大きさを示しています。先月の2023年12月統計ではこの寄与度が▲1.02%ありましたので、1月統計でコアCPI上昇率が先月統計から▲0.3%ポイント縮小した背景のひとつは、こういったエネルギー価格の動向にあります。特に、そのエネルギー価格の中でもマイナス寄与が大きいのが電気代です。エネルギーのウェイト712の中で電気代は341と半分近くを占め、1月統計では▲21.0%下落し、寄与度は▲0.90%の大きさを示しています。都市ガス代も▲22.8%下落していて、寄与度が▲0.30%となっています。統計局の試算によれば、政府による「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の影響を寄与度でみると、▲0.48%に達しており、うち、電気代が▲0.40%に上ります。他方で、政府のガソリン補助金が縮減された影響で、ガソリン価格は昨年2023年7月統計から上昇に転じ、直近の1月統計では+4.7%となっています。中東の地政学的なリスクも高まっています。すなわち、ガザ地区でのイスラエル軍の虐殺行為、親イラン武装組織フーシによる商船の襲撃なども、今後、どのように推移するかについても予断を許しませんし、食料とともにエネルギーがふたたびインフレの主役となる可能性も否定できません。なお、食料について細かい内訳をヘッドライン上昇率に対する寄与度で見ると、コアCPI上昇率の外数ながら、生鮮野菜が+0.11%、生鮮果物が+0.10%の寄与を示しています。鶏卵の前年同月比上昇率も+18.3%と、まだまだ高い伸び率が続いています。コアCPIのカテゴリーの中でヘッドライン上昇率に対する寄与度を見ると、調理カレーなどの調理食品が+0.24%、アイスクリームなどの菓子類が+0.24%、フライドチキンなどの外食が+0.16%、鶏卵などの乳卵類が+0.15%、などなどとなっています。サービスでは、引用した記事にあるように、宿泊料が前年同月比で+26.9%上昇し、寄与度も+0.23%に達しています。もっとも、サービス価格については、上昇の勢いが鈍っている、という見方がある一方で、日経新聞の記事などでは、飲食店、金融機関、病院・診療所については、新型コロナウイルス禍前と比べてサービスの内容が悪化していて、実態的には「ステルス値上げ」が起きている、といった指摘もあったりします。

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2024年2月26日 (月)

2月27日はポケモンデー

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明日2月27日は2024 ポケモンデーです。去年はわずか15秒ながら公式動画があったのですが、今年はないようです(涙)。

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1月の企業向けサービス価格指数(SPPI)は6か月連続で+2%台の上昇が続く

本日、日銀から昨年1月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月から▲0.3%ポイント上昇率が縮小して+2.1%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについても前月から伸びが縮小して+2.1%の上昇を示しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、1月2.1%上昇 伸びは鈍化
日銀が26日発表した1月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は109.8と、前年同月比2.1%上昇した。伸び率は23年12月より0.3ポイント縮小し4カ月ぶりに鈍化したが、6カ月連続で2%台で推移する。ソフトウエア開発や廃棄物処理などの幅広い分野で人件費を価格に反映する動きがみられた。
企業向けサービス価格指数は企業間で取引されるサービスの価格変動を表す。モノの価格の動きを示す企業物価指数とともに消費者物価指数(CPI)の先行指標とされる。調査対象となる146品目のうち、価格が前年同月比で上昇したのは108品目、下落は22品目だった。
内訳をみると、宿泊サービスが前年同月比で27.0%上昇した。23年1月に政府の観光促進策「全国旅行支援」の割引が縮小して値上げした反動で23年12月(56.6%上昇)より伸び率が縮小したが、インバウンド(訪日外国人)の需要回復が下支えしたことで高い伸びが続いた。
情報通信は前年同月比2.2%上昇した。ソフトウエア開発や情報処理・提供サービスで賃上げやサーバーの管理費の値上げが寄与した。廃棄物処理も2.1%上昇した。燃料費や人件費の上昇を転嫁する動きが影響した。
外航貨物輸送も14.9%上昇した。円相場が24年1月(平均)では1ドル=146円台と、23年1月(1ドル=130円台)より円安が進んだことで円ベースの価格が上昇した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。ただし、指数の基準年が異なっており、国内企業物価指数は2020年基準、企業向けサービス価格指数は2015年です。なお、影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速は終了し、2022年12月から指数水準として120前後でほぼほぼ横ばいとなっています。他方、その名の通りのサービスの企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準としてまだ上昇を続けているのが見て取れます。上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドライン指数の前年同月比上昇率は、今年2023年8月から+2%台まで加速し、本日公表された1月統計では+2.1%に達しています。6か月連続で+2%台の伸びを続けています。ただし、+2%前後の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性が高いながら、日銀の物価目標、これは生鮮食品を除く消費者物価上昇率ですが、物価目標の+2%近傍であることも確かです。加えて、下のパネルにプロットしたうち、モノの物価である企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価のグラフを見ても理解できるように、インフレ率は高いながら、物価上昇がさらに加速する局面ではないんではないか、と私は考えています。繰り返しになりますが、ヘッドラインSPPI上昇率にせよ、国際運輸を除いたコアSPPIにせよ、日銀の物価目標とほぼマッチする+2%程度となっている点は忘れるべきではありません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて1月統計のヘッドライン上昇率+2.1%への寄与度で見ると、宿泊サービスや土木建築サービスや労働者派遣サービスなどの諸サービスが+0.84%ともっとも大きな寄与を示しています。ヘッドライン上昇率+2.4%の半分近くを占めています。ただし、先月の2023年12月統計からは寄与度として▲0.19%ポイント縮小しています。引用した記事にもある通り、全国旅行支援が終了した一方でインバウンドの寄与もあり、宿泊サービスは前年同月比で2023年12月+56.6%の上昇から、2024年1月は+27.0%に上昇率は縮小しましたが、依然として大きな上昇となっています。ほかに、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.48%、加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている石油価格の影響が大きい外航貨物輸送や道路貨物輸送や道路旅客輸送などの運輸・郵便が+0.39%のプラス寄与となっています。運輸・郵便については、引用した記事にもあるように、円安の影響も見逃せません。リース・レンタルについても+0.19%と寄与が大きくなっています。

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2024年2月25日 (日)

スギ花粉は本格的に飛散

昨日2月24日付けで、ウェザーニュースから「全国の飛散状況 2024年春」が明らかにされています下の画像はウェザーニュースのサイトから引用しています。

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はい、もうどうしようもありません。
今年は例年になく目の調子が悪いようで、この花粉シーズンに処方してもらう目薬をすでに5ml入り3本も使い切っています。

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2024年2月24日 (土)

今週の読書は経済書3冊ほか計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、楡井誠『マクロ経済動学』(有斐閣)は景気循環の原因を外生的なショックではなく、設備投資、物価、資産価格に求め、冪乗則を援用してマクロ経済の動学を解明しようと試みている学術書です。野崎道哉『マクロ経済学と地域経済分析』(三恵社)は、ポストケインジアンのモデルに産業連関表を組み合わせたモデルを用いたり、地域産業連関表を用いた分析を試みています。田代歩『消費税改革の評価』(関西学院大学出版会)は、著者の博士号請求論文を基に、消費税と世代間不平等などを分析しています。吉田修一『永遠と横道世之介』上下(毎日新聞出版)は横道世之介シリーズ三部作の完結編であり、39歳になった世之介の日常生活を描き出しています。小林泰三ほか『日本ホラー小説大賞《短編賞》集成1』(角川ホラー文庫)と吉岡暁ほか『日本ホラー小説大賞《短編賞》集成2』(角川ホラー文庫)では、角川書店が主催する日本ホラー小説大賞という新人文学賞の短編賞を集成したアンソロジーです。なお、飯田朔『「おりる」思想』 (集英社新書)も読んだのですが、余りにも出来が悪くて論評するに値しないと考え、取り上げませんでした。
ということで、今年の新刊書読書は1月に21冊、2月第3週までに18冊の後、今週ポストする7冊を合わせて46冊となります。順次、Facebookなどでシェアする予定です。

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まず、楡井誠『マクロ経済動学』(有斐閣)を読みました。著者は、東京大学の経済学者です。本書では、景気循環の原因を外生的なショック、例えば、戦争とか一次産品価格の上昇とか、海外要因や政策要因などを想定するのではなく、マクロ経済の内生的な同調行動を引き起こす冪乗則 power law を想定してマイクロな経済に基礎を置きつつ、マクロ経済の動学的な運動を解明しようと試みています。なお、出版社からしても明らかに学術書、そして、私の目から見てもかなり高度な学術書です。学部生には読みこなすには大きなムリがありますし、博士前期課程、というか、修士課程の大学院生でもややムリがあり、博士後期課程の院生でなければ十分な理解が得られない可能性があります。ハッキリいって、私も十分に理解できたかどうか自信はありません。ということで、本書は2部構成であり、序章と前半の3章で景気循環理論と対応する経済モデルを解説しています。本書が寄って立つのは、実物的景気循環モデル(RBC)に物価の粘着性を加えて、貨幣と実物の二分法の課程を緩めたニューケインジアン・モデルであり、景気変動の原因としては3つの震源、と本書では表現していますが、要するに経済変動、すなわち、設備投資、物価、資産価格を想定してます。繰り返しになりますが、海外要因や政策要因ではありません。そして、私が往々にして軽視する点のひとつですが、マクロ経済のミクロ的な基礎づけを考え、ミクロの経済行動が冪乗則によってマクロ的な期待値を集計できないようなエキゾチックな波動を考えています。本書では「波動」という言葉を使っていませんが、おそらく、波動なんだろうと私は受け止めています。後半では、景気変動の3つの「震源」、すなわち、設備投資、物価振動、資産価格についてモデルの拡張を含めて論じています。繰り返しになりますが、とても難解な学術書であり、私自身が十分に理解しているかどうか自信がないながら、3点だけ指摘しておきたいと思います。第1に、合理性についてややアドホックな前提が置かれている気がします。限定合理性を仮定するのか、それとも、消費CAPMのような超合理性を考えるのか、モデルによりやや一貫しないような気がしました。第2に、個別企業の価格付け行動に基づく相対価格の変化が基本的に考えられているようですが、デノミネーションのような貨幣単位の変更といった極端な例を持ち出すのではなく、一般物価水準がマクロ経済に及ぼす影響については、もう少し分析があってもいいのではないか、という気がします。第3に、資産価格については合理的・非合理的を問わず、バブルについての分析が欠けている気がします。バブルによるブームの発生とバブル崩壊による、あるいは、バブル崩壊後の金融危機による景気後退については、もう少し踏み込んだ分析ができないものか、という気がします。ただ、いずれにせよ、トップクラスの経済学の学術書です。おそらく、一般的なビジネスパーソンでは読みこなすのは難しい気がいますが、大学院生にはチャレンジしてほしいと思います。

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次に、野崎道哉『マクロ経済学と地域経済分析』(三恵社)を読みました。著者は、岐阜協立大学の研究者です。出版社は、私の知る限りで自費出版などで有名な会社なのですが、本書が自費出版であるかどうかは言及がなかったと思います。本書は2部構成なのですが、前半と後半はほとんど関連性なく別物と考えたほうがよさそうです。中身は完全な学術書です。一般的なビジネスパーソンには向かないと思いますし、エコノミストでも専門分野が違えば理解がはかどらない可能性があります。ということで、前半部ではマクロ経済分析に関してケインズ型のモデルを考え、理論的な分析を試みています。最初の第1章でケインジアン・モデルについて考え、特に乗数分析についての理論を考察しています。具体的には、ケインズやカレツキの乗数分析をレオンティエフ的な産業連関表に統合した宮澤先生のモデルを用いて、東日本大震災後の宿泊などのリゾート産業における消費減少のインパクトを計測しようと試みています。続いて、第2章で2国間の国際貿易を明示的に取り込んだ理論モデルを基に、動学方程式モデルを用いたシミュレーション分析を実施しています。第3章で急にポストケインジアン・モデルを用いだインフレ目標政策の分析をしています。均衡の安定性が論じられています。第4章では、開放経済体系におけるインフレ目標政策を用いた分析により、積極財政政策と金融政策ルールとしてのインフレ目標が両立することが示されています。第5章では、ポストケインジアンのニューコンセンサス・マクロ経済学(NCM)と呼ばれるISSUE曲線はあるが、LM曲線を必要としない経済学を用いた分析を行っています。特に、バーナンキ教授等が行ったファイナンシャル・アクセラレーター・モデルの含意については、ポストケインジアン飲み方から批判的な検討が加えられています。後半部では産業連関表の作成や利用が中心となります。特に、大垣市の産業連関表の作成にページが割かれています。本書のタイトルの後半部分といえます。ただ、私はこの後半についてはなかなか理解がはかどりませんでした。また、第7章の表7.1と表7.2が10ページ超に渡って、老眼に私には苦しい大きさの数字で延々とデータ試算結果が示されています。これは、紙の印刷物でお示しいただくよりも表計算ファイルのフォーマットでダウンロードできる方が有益ではないか、という気がしました。実は、私も役所の研究所でAPECの貿易自由化政策の推計のために "Protection Data Calculation for Quantitative Analysis of MAPA" という論文を書いて関税率データを計算したことがあります。私の場合は、Excelファイルでダウンロードできるように、すでに25年以上の前の研究成果ながら、今でも国立国会図書館のサイトに収録されています。ご参考まで。

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次に、田代歩『消費税改革の評価』(関西学院大学出版会)を読みました。著者は、札幌学院大学の研究者であり、本書は関西学院大学に提出した博士論文を基にしています。タイトル通りに消費税に関する経済分析なのですが、序章と終章を除いて4章構成であり、世代間の受益と負担の公平性、所得階級別の軽減税率の効果負担の分析、同じく、年齢階級別の軽減税率の効果負担の分析、そして、年齢階級別の限界的税制改革のシミュレーション分析を主たるテーマにしています。博士論文ですので、極めて詳細なデータの出典やモデル構築時の詳細情報が含まれていて、とても参考になります。私自身は大学院教育を受けておらず、もちろん、博士号も取得していないので、こういった大学院生の博士論文を指導する機会はないものと考えますが、何人か博士論文審査の副査を務めた経験もあり、単なる経済学的な興味だけではなく、教育的な経験にもなるのではないか、と考えて読んでみました。まず、博士論文ですから非常に手堅く異論の出ない通説に寄って立った論文だという印象を受けました。例えば、財政に関して世代間の受益と負担の公平性に関しては世代重複(OLG)モデルを用いて分析し、通例、若年者が負担超過で高齢者が受益超過となります。ある意味で、シルバー民主主義の結果なのですが、どうして若年世代、あるいは、極端な場合には、まだ生まれていなくて、これから生まれる将来世代の負担が超過となるかといえば、財政赤字がリカード的に将来返済されると考えるからです。従って、本書のコンテクストでいえば、消費税率が低くて財政赤字が積み上がるような税率であれば、将来負担が大きくなって若年世代や将来世代の負担が、高齢世代よりも大きくなるわけです。逆にいえば、消費税率を高率にして財政赤字が積み上がらない、あるいは、財政赤字が解消されるような税率にすれば世代間の不公平は軽減ないし解消されます。本書では、この世代間不平等を解消する消費税率を24%程度と試算しています。既存研究からしてもいい線だと思います。ただ、ここは経済学の規範性を無視した議論であって、消費税率が24%とかきりよく25%となれば、マクロ経済がどうなるか、といった議論はなされていません。まあ、世代間不公平・不平等を解消するのと景気を維持するのとの間で、どちらにプライオリティを置くかの議論は別なわけです。あと、経済学ですので、評価関数によって差が生じます。すなわち、本書でも、低所得者層に配慮するロールズ的な厚生関数を前提にするのか、そういった違いを考慮せず同じウェイトで考えるベンサム的な厚生関数なのか、で政策評価が異なる例がいくつか示されています。そもそも、アローの不可能性定理によって推移律が成り立たないことから社会的な厚生関数を考えることがどこまで意味あるかは疑問なのですが、本書のような純粋に学術的、あるいは、教育的な経済学を考える場合には意味あるといえます。ちなみに、軽く想像される通り、低所得者層に配慮するロールズ的な厚生関数を前提とすれば、2019年10月から日本でも導入された軽減税率は意味がある、という結論となります。最後に、本書で興味深い点のひとつは、シミュレーションを多用している点です。基礎的で手堅いモデル設定に対して、シミュレーションを用いるのは、これからさらに注目されるかもしれません。

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次に、吉田修一『永遠と横道世之介』上下(毎日新聞出版)を読みました。著者は、日本でももっとも売れていて有名な小説家の1人ではないかと思います。本書は横道世之介シリーズ第3作であり、完結と銘打たれています。一応おさらいですが、シリーズ最初の『横道世之介』では、世之介が長崎から大学進学のために上京した1987年にスタートし、ほぼほぼ大学1年生の時の12か月をカバーしています。本書でも登場する社長令嬢で言葉遣いまでフツーと違う与謝野祥子との恋が私には印象的でした。最後に、16年後の現在である2003年から周囲の人々が世之介を振り返る構成となっています。私は小説を読んだのはもちろん、映画も見ました。2作目の『続 横道世之介』あるいは文庫化されて改題された『おかえり 横道世之介』では大学を卒業したものの、バブル最末期の売り手市場に乗り遅れて、パチプロ、というか、フリーターをしている24才の世之介の1993年4月からの12か月を対象としています。世之介は小岩出身のシングルマザーの日吉桜子と付き合って、世之介が知らないうちに勝手に投稿された写真コンテストで作品が「全量」と評価されて、プロカメラマンに成長していきます。そして、この続編でも27年後の2020年の東京オリンピック・パラリンピックのトピックが最後に挿入されています。今週読んだ第3作では世之介は38才から39才のやっぱり12か月です。もちろん、カメラマンの活動を続ける一方で、「ドーミー吉祥寺の南」なる下宿を所有するあけみと暮らしています。あけみは事実婚のパートナーで、芸者をしていたあけみの祖母が残した下宿を切り盛りしています。学生下宿というわけでもなく、世之介よりさらに年長の勤め人男性、書店員の女性、もちろん学生もいます。そこにさらに知り合いの中学教師の倅で、引きこもり男子高校生まで加わります。その9月から翌年の8月までの12か月が対象です。先輩カメラマンが壁に突き当たって活動を事実上停止したり、後輩カメラマンが子供を授かって結婚したり、緩いながらもいろいろな出来事があります。でも、世之介がいつも考えているのは事実婚のパートナーあけみではなく、付き合った時点で余命宣告されていた最愛の二千花であり、世之介は二千花と過ごした日々を何度も何度も回想します。そして、この作品でも15年後が挿入されています。表紙画像に見られるように、「横道世之介」シリーズ堂々の完結編とうたわれています。三部作の完結のようです。ただ、私は最初の『横道世之介』も読み終えた段階では、これで続編はないものと思っていました。今度こそホントに終わるのでしょうか。もう、世之介はアラフォーに達していますので、決して青春物語ではありませんし、初編と続編のように世之介は成長を見せるわけでもありません。でも、ほのぼのといい物語です。多くの読者にオススメします。

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次に、小林泰三ほか『日本ホラー小説大賞《短編賞》集成1』吉岡暁ほか『日本ホラー小説大賞《短編賞》集成2』(角川ホラー文庫)を読みました。著者は、ホラー小説家がズラリと名を並べています。まずおさらいで、私が調べたところ、現時点では「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」という文学賞があるのですが、これは「横溝正史ミステリ大賞(第38回まで)」と「日本ホラー小説大賞(第25回まで)」を2019年に統合したもので、角川書店の新人文学賞となっています。2019年が第29回ですから、回数は前者の「横溝正史ミステリ大賞」を引き継いでいます。そして、後者の「日本ホラー小説大賞」には、大賞、読者賞、優秀賞といった各賞のほかに、創設された1994年から2011年までは、大賞のほかに長編賞と短編賞に分かれていました。その短編賞を集成したのがこの2冊です。11編の短編が受賞順に収録されています。ただ、1年で2作の受賞作があったり、あるいは逆に受賞作がなかったり、はたまた、受賞したものの、この2冊には収録されていない短編があったりします。私が調べた範囲では、2001年吉永達彦「古川」と2010年伴名練「少女禁区」は収録されていません。理由は不明です。以下、ものすごく長くなりますが、収録順にあらすじです。なお、タイトルの後のカッコ内は受賞年です。まず、『日本ホラー小説大賞《短編賞》集成1』から、小林泰三「玩具修理者」(1995年)では、子守していたときに弟を死なせてしまった姉が、何でもおもちゃを修理してくれる玩具修理者のところに死体を持込みます。回想する形の会話でストーリーが進みますが、ラストが秀逸です。沙藤一樹「D-ブリッジ・テープ」(1997年)では、横浜ベイブリッジにゴミとともに捨てられた少年の死体が、今はもう見ない60分テープとともに発見されます。そのテープに収録されていた質疑応答のような会話でストーリーが進みます。節ごとにこの会話と聞いている人たちの感想が交互に盛り込まれています。グロいです。残酷です。希望や救済といったものが微塵も見られません。かなりの読解力を必要とします。朱川湊人「白い部屋で月の歌を」(2003年)では、除霊のアシスタントを務める少年のジュンが主人公で、様々な霊魂を自分の体内に受け入れています。除霊している中で、ジュンは男に刺され魂が抜けた女子に恋してしまい、霊魂を閉じ込める白い部屋から月を眺めたりするわけです。しかし、ジュンの庇護者であり金儲け主義の霊媒師はこの恋を許してくれません。最初が幻想的で、ラストはジュン正体が明らかになってとってもびっくりします。森山東「お見世出し」(2004年)のタイトルは花街で修業を積んできた少女が舞妓としてデビューするための儀式を指します。主人公である綾乃のお見世出しの日は、お盆前の8月8日に決められて、33年前に自殺した幸恵という少女の霊を呼び出していっしょにお見世出しをすることになってしまいます。あせごのまん「余は如何にして服部ヒロシとなりしか」(2005年)では、主人公の鍵和田は同級生の服部の姉に連れられて、古い家屋を訪れたところ、文化祭のセットで作ったはりぼての風呂があり、お湯も張らずにいっしょにお風呂に入ったりします。なんとも、不条理、シュールで不可解なホラー小説であり、それはそれで背筋が寒くなります。タイトルの由来は読んでみてのお楽しみです。次に、『日本ホラー小説大賞《短編賞》集成2』から、吉岡暁「サンマイ崩れ」(2006年)のタイトルの「サイマイ」とは、三昧から派生していて方言でお墓のことです。舞台は和歌山県であり、熊野本宮に近い山村が大水害で多くの死傷者を出したと聞き、主人公の男性は精神科の病院を抜け出し、奇妙な消防団員2人と老人といっしょに熊野古道を進み、崖崩れで崩壊した隣村の墓地にたどりつきます。ラストに驚愕します。曽根圭介「鼻」(2007年)では、ややSF的に舞台は鼻の形で人々が二分され、「ブタ」と呼ばれる人たちが「テング」を呼ばれる人たちを差別して、その昔の「民族浄化」のような形で殺戮すらしていたりします。平文の医師が主人公の部分とゴシックの刑事が主人公の部分が交互に現れ、差別に批判的な医師は被差別者を救うために違法な手術をすることを決意する一方で、刑事は少女の行方不明事件の捜査中に、かつて自分が通り魔として傷つけた男に出会ったりします。雀野日名子「トンコ」(2008年)のタイトルであるトンコは、主人公ともいえるメスの子豚の愛称です。高速道路でトラックが横転事故を起こし、搬送中のブタの一部が行方不明になり、そのうちの1匹がトンコなわけです。トンコは山を下って用水路で犬をまいて、海にまで達するうちにいろいろなものに遭遇するわけです。田辺青蛙「生き屏風」(2008年)では、酒屋の主人の死んだ奥さんがあの世から帰ってきて屏風に取り憑いてしまいます。主人は仕方ないので、戻ってきてしまった奥さんの退屈を紛らすため、県境で魔や疫病の侵入から集落を守ってる妖鬼を選んで、酒屋に連れてきて話し相手をさせます。その妖鬼の親の鬼やいろんな話がそもそもホラーなのですが、最後に、屏風の奥さんが海に流して欲しいといい出してちょっとびっくりのラストになります。朱雀門出「寅淡語怪録」(2009年)では、夫婦で町会館の清掃奉仕に来た中年男性の主人公が、その町会館から地域の怪異話を収録している「寅淡語怪録」を持ち帰ります。読み進むうちに、収録されていた怪談の中に現れるぼうがんこぞうを100均ショップで見かけたり、勝負がつかないので組手を解くと3人いたという3人相撲などの怪談と同じ怪異を体験してしまいます。さらに、図書館の書庫に所蔵されている同様の100巻を借り出して、妻とともに怪異のあった場所を訪れたりします。最後に、国広正人「穴らしきものに入る」(2011年)では、主人公の男性は、洗車をしていた際に水道のホースに入って自動車の運転席側から助手席側に移動してしまい、それ以降、いろんな穴を通り抜けることを試みます。難易度でABCにランク付けしたりして一種の冒険を楽しんでいますが、電気の壁コンセントに入ったところで万事休してしまいます。ということで、何といっても新人文学賞ながら「日本ホラー小説大賞」の短編賞を受賞した短編のアンソロジーです。とてもレベルの高いホラー短編が集められています。私の趣味に基づけば、表紙デザインは今年2024年1月早々にレビューした「現代ホラー小説傑作集」の『影牢』や『七つのカップ』に比べてチト落ちるような気がしますが、デザインだけの問題で中身は充実しています。

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2024年2月23日 (金)

いよいよオープン戦が始まる

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阪  神012000010 491
読  売70000020x 9113

2月も下旬に入って、オープン戦が開幕です。
私は午後から外出して、試合は見ていないのですが、初回から伊藤将司投手が7点取られてしまったようです。この時期ですので勝負は度外視で、佐藤輝選手とミエセス選手のホームランでも楽しみましょう。

今季は連覇目指して、
がんばれタイガース!

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