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2006年5月26日 (金)

ライブドア事件に見る囚人のジレンマ

今日の午後からライブドア前取締役の宮内被告らの初公判が東京地裁で始まりました。
朝日新聞の報道によれば、以下の通りです。

ライブドア(LD)グループの証券取引法違反事件で、同法違反の罪に問われているLD前取締役の宮内亮治被告(38)ら元グループ幹部4人と、共犯として在宅起訴された公認会計士2人の初公判が26日午後、東京地裁で始まった。
宮内前取締役は罪状認否で、「おおむねその通りで間違いありません」とLDの粉飾決算など起訴事実を認めた。他の被告と分離され、公判前整理手続きが始まっているLD前社長の堀江貴文被告(33)は既に全面否認の姿勢を表明している。検察側は冒頭陳述で、宮内被告らと堀江前社長の共謀関係など事件の構図を明らかにするものとみられる。
初公判が開かれたのは宮内前取締役のほか、LD前代表取締役の熊谷史人(28)、関連会社「ライブドアマーケティング」(LDM)前社長でLD前取締役の岡本文人(38)、金融子会社「ライブドアファイナンス」前社長の中村長也(38)、LDの監査担当だった公認会計士・久野太辰(41)、同・小林元(51)の各被告。両罰規定で法人としてのLD、LDMも起訴されている。
熊谷前代表取締役は、粉飾決算の手口のうち、子会社への架空売り上げ計上は認める見通しだが、自社株をめぐる取引の違法性については否認するとみられる。
起訴状によると、宮内前取締役らは、LDの04年9月期の連結決算で約53億4700万円の粉飾をしたなどとされる。

引用した記事にもありますが、宮内被告らが起訴事実を全面的に認めているのに対して、ライブドア前社長の堀江被告は全面否認を通しているようです。エコノミスト的にいって囚人のジレンマの観点から、このようなライブドア事件をどのように解釈すべきか、私は関心があります。
一応、おさらいですが、囚人のジレンマとは、囚人が2人いて、隔離されて尋問を受けている場合、ケース1として、両方ともが黙秘・否認すれば両者とも軽い刑で済むんですが、ケース2として、片方が自供して、残る方が黙秘・否認すれば、自供した囚人がもっとも軽い刑で済む一方で、黙秘・否認した囚人にもっとも重い刑が科せられ、最後のケース3として、囚人両者が自供すれば中くらいの刑が科せられる、というものです。とてもメンドウなので、囚人Aと囚人Bと呼ぶことにして、実際の刑期を仮置きして利得行列を示すと以下のようになります。

利得行列囚人B否認囚人B自供
囚人A否認(2年、2年)(10年、1年)
囚人A自供(1年、10年)(5年、5年)

刑期は適当なんですが、この利得行列では、ケース1として、囚人が両方とも黙秘・否認であれば2年、ケース2として、片方だけが自供すれば、自供した方が1年で黙秘・否認した方が10年、ケース3として、両方とも自供すれば5年としてあります。
もちろん、ライブドア事件の場合、囚人、というか、被告は2人ではありませんが、自供する被告と黙秘・否認する被告に分かれていますので、厳密には違うんですが、2人の場合と同じように類推することは可能です。通常のゲーム論では選択が1回限りの場合と有限回でその回数を囚人が知っている場合は、どちらも相棒を裏切って自供することがナッシュ均衡になることが知られています。無限回の場合は数学的にはフォーク定理により両者とも黙秘・否認することがナッシュ均衡となりえるんですが、現実にはありえませんし、有限回でその回数を囚人が知らない場合は少し違ったりするんですが、まあ、通常の場合は、両者とも自供することがナッシュ均衡であると考えられます。蛇足ながら、ナッシュ均衡の「ナッシュ」は1994年度のノーベル経済学賞を受賞したジョン・ナッシュ教授に由来しています。映画の「ビューティフル・マインド」のあのナッシュ教授です。
しかるに、今回のライブドア事件では堀江被告以外の宮内被告らはゲーム理論の教えるところに従って、確かに、自供し、宮内被告なんかは堀江被告の公判で検察側の証人として立つとさえ報道されていますが、堀江被告は頑強に否認を続けています。すでに、宮内被告らの相棒が自供したことを知っていて、完全情報に近い状態にあるにもかかわらず、堀江被告が否認を続けているのは、ゲーム論が厳密な数学的証明を経ているだけに、私にとっては大きなです。

いくつか解釈が考えられますが、もっとも簡単な解釈は、堀江被告が認識している利得行列に従えば黙秘・否認の戦略が堀江被告にとって利得が大きく、堀江被告にはナッシュ均衡に見える、というものです。初歩的なゲーム論で論ずる場合、利得行列はあたかも既知であるような扱いを受ける時もありますが、実は、囚人各人にとっては、ある意味で、主観的かつ確率的な期待値であるに過ぎません。ですから、堀江被告が認識する利得行列の期待値は黙秘・被告がナッシュ均衡に見えるようなものなのかもしれません。そうである場合、客観的にはともかく、堀江被告の主観的には正しい戦略を取っていることになります。その意味で、堀江被告は完全に合理的です。
同様に、囚人のジレンマでは囚人Aと囚人Bと呼ばれているように、2者は完全代替で利得行列は対称なんですが、ライブドア事件ではそうではありません。堀江被告はライブドア唯一の代表取締役でしたが、その他の取締役は代表権がないことに示されるように、囚人2者はウェイトが異なり、それゆえに、利得行列が対称ではなくなっている可能性が十分あります。そこに第1の点と同じように堀江被告の期待が加われば、対称でない利得行列においては堀江被告が否認することがナッシュ均衡である可能性もあります。
別の解釈は、ライブドア事件の各被告の置かれている立場が囚人のジレンマでなくなっている、ということです。早い段階で堀江被告以外の宮内被告らが自供してしまったため、それをサンクコストとして捉えた上で、この状況を所与として堀江被告が戦略的に否認を続けていると解釈することもできます。日本には米国的な司法取引はありませんが、情状酌量という幾分か似た慣行があり、これを否定・軽視するとあくまで否認を続ける戦略にも合理性が認められるような気がします。
さらに別の解釈は、堀江被告が戦略的な思考をしていない場合です。要するに、自分の信ずる道を行っている場合です。この場合は戦略に客観的な合理性は認められませんが、堀江被告の効用関数に対しては合理的である可能性が高いです。
最後の破滅的な解釈は、ホントに堀江被告が何も知らされておらず、宮内被告らに騙されていた場合です。さすがに、これは可能性がとても小さいと思います。でも、取締役が株主を裏切るのがコーポレートガバナンスのそもそもの出発点ですし、その意味からして、代表権のない取締役が代表取締役を裏切るのも十分可能性があると思います。

私の勝手な解釈ですが、ライブドア事件を世間の見方ではなく、ゲーム論の観点からじっと注目している数学オタクがいそうな気がしてなりません。

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