森絵都『風に舞いあがるビニールシート』を読み終える
先日来読み始めていた森絵都『風に舞いあがるビニールシート』(文藝春秋社)を読み終えました。短編6話からなる短編集で、本のタイトルと同じ「風に舞いあがるビニールシート」は6番目のお話です。児童文学出身の作家さんらしく、読後感がとっても明るくて、元気の出るお話が多かったような気がします。でも、私にはベタベタし過ぎて感情移入が難しいのもいくつかありました。
なお、気をつけて書いていますが、今夜のブログはネタバレがありますのでご注意下さい。
6話すべてのタイトルを列挙すると、「器を探して」、「犬の散歩」、「守護神」、「鐘の音」、「ジェネレーションX」、「風に舞いあがるビニールシート」となります。私の知り合いの少し前まで文学少女だった女性の受売りなんですが、昨年、森絵都さんは「いつかパラソルの下で」で直木賞の候補に取り上げられて落選して、軽いだけじゃ直木賞は取れないという反省を踏まえて、直木賞を受賞するにはそれなりの対策が必要であると気付いたので、村山由佳さんが従軍慰安婦問題を絡めた「星々の舟」で受賞した例とかを参考にしたらしく、しっかり国際問題や社会問題を扱った短編を書いたのだそうです。ここまで受売りなんですが、確かに、捨て犬の処分を扱った「犬の散歩」とか、あるいは、表題作は国連難民高等弁務官事務所やアフガニスタンなどの難民キャンプとかを扱っています。でも、この表題作はベタベタの恋愛小説であることは間違いなく、私はこの表題作が短編の中では一番嫌いです。でも、これを表題作にするのが、私の知り合いの元文学少女のいう直木賞対策なのかもしれません。それから、次に嫌いなのは「犬の散歩」でビビを義理の父母に引き取ってもらう、やっぱり、ベタベタした感情的な筆致です。どうしても、社会問題を取り入れる時にベタベタした感情移入を必要とさせるような物語にするのは、この作者さんのクセかもしれません。でも、私と年齢層が違ったり、性別が違ったりすると、もちろん、文学に対する感受性も違ってくるので、もっと別の感想があるんでしょうが、ごく平均的な中年のサラリーマン男性であれば、恋愛小説や感動を無理に高めようとするようなベタベタした小説は好きになれない人が多いような気もしないでもありません。
むしろ、私が評価するのはペダンティックに構えたものです。「器を探して」の美濃黒の製法とか、「守護神」の伊勢物語や徒然草の解釈とか、「鐘の音」の不空羂索観音と准胝観音の違いとか、やや押付けがましいながらもサラッと専門家が解説するようなパートを含み、それが割合とお話の重要で不可欠な部分を構成しているような物語が私は好きです。セコいんですが、直木賞を取るような小説を読んで、さらにその上に、知らなかった知識も得て、とてもオトク感があるからです。
それから、6つの物語すべてが10年とか25年とかの昔を振り返りながら進行していくので、もう少していねいに書いて欲しいという気もします。少し文章が荒い気がして、いつのことをいつの時点で書いているのか、分かりづらい部分も散見されます。これは、私がかなりのスピードで読み飛ばして本筋だけを追うような読み方になっているせいかもしれません。しっかりと、ゆっくりと、ていねいに感情移入して読む向きにはこれでいいのかもしれません。要するに、ていねいに書くか、ていねいに読むか、どちらかが必要なのであって、私は余りていねいには読まないので、ていねいに書いて欲しいと思うだけかもしれません。
いずれにせよ、総合点で4ツ星くらいで、6話の短編がすべての人の同じようにオススメできるわけではありませんが、逆に、6つのうちどれかを好きになれるような気もします。ヘンな話ですが、最近はやっている「泣きたい時に読む本」の資格も、一部の物語は備えているような気がしないでもありません。直木賞受賞作という話題性を重視するのであれば、読んでおいてソンはありませんし、私のように、仕事に必要な経済書を読むことが多いため、食事の時の箸休めのような感覚で読むのもいいんではないかと思います。
伊藤たかみ「八月の路上に捨てる」は来月8月10日発売の文藝春秋で選評とともに読みたいと思います。それから、近く、読書感想文の日記のカテゴリーを設けたいと考えています。
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