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2006年7月27日 (木)

観光立国は何を目指すのか?

先日、メガバンクに勤務する知り合いから、地銀の担当者を招いて観光立国に関するセミナーを開催するから、資料にコメントを欲しいといわれてコメントし、今日も改めて意見交換をしてきました。しかし、この知り合いは私が観光立国にとてもネガティブなのを知らないらしく、今日は今日で、その人の上司がいたのでそれなりに評価しておきましたが、そもそも、私は観光立国の目標が間違っていると考えています。
まず、いただいた資料の冒頭で、日本人が外国を旅行する場合の人数国際旅行収支とその逆の日本に外国人が来る場合の人数や国際収支の統計が引用され、人数では3倍、金額では10倍近い差があるとなっています。要するに、日本人が外国に行く方が人数も観光に使う金額も大幅に多くて、日本に来る外国人の人数などが少ない訳です。しかし、これはしょうがないことです。一言でいえば、日本には観光については比較優位がないと考えられるからです。常識的な推論の結果だと思います。
よくいわれるように、為替相場は貿易財の相対価格で決まります。ですから、バラッサ・サムエルソン定理じゃないですが、日本は生産性上昇率が高いので、全体をバスケットとした場合よりも、貿易財だけをバスケットとする為替相場は円高になってしまいます。貿易財では国際競争力が十分にあるからです。逆にいえば、貿易財で決まる為替相場を基準にすれば、非貿易財の国際競争力はありません。当然です。そして、観光サービスは典型的な非貿易財です。貿易財でメチャメチャな貿易収支黒字を計上しているんですから、観光サービスでは赤字を計上するのは当たり前です。ですから、観光立国が目標とすべきであるのは国際旅行収支の均衡ではありません。そもそも、まっとうなエコノミストは、部門ごとに国際収支が均衡する必要があると考えません。
ですから、観光立国の政策は私から見れば単なる観光サービス産業の振興政策でしかありません。観光から利益を得る業界と、その業界を所管する官庁我田引水的に政策リソースを得るために打ち上げているだけで、私には特に政府をあげて推進すべき重要政策にはとても思えません。逆に、比較優位のない産業分野の振興なのですから、政策リソースを投入するのは慎重であるべきだとさえ思っています。
もちろん、メガバンクや某国策銀行なんかが地方に立地する観光地のうち、少し前までさびれていたところを、実にうまく再生させた例も知っていますが、それは、ある意味では当然のことで、どんな事業分野でも、うまく行くところはうまく行きますし、淘汰されて潰れるところは潰れます。成長分野で比較優位にある産業でも、すべての企業が順調に成長するわけではありません。有望分野の産業の中でも失敗する企業もありえます。私のような単純なエコノミストが比較優位がないと切って捨てるような観光サービス産業の中にも、成功して高収益を上げる企業もあります。産業としての国際的な比較優位と個別の企業の収益性は関係がありません
このような観点から、私は観光や歴史的な文化保存のための建築規制懐疑的に見ています。観光のために、あるいは、歴史的景観保存のために、例えば、建物の色や高さを国や自治体が規制すべきとは思いません。例えば、観光のために景観を保存するのが、その方が生産性や効用が高いのであれば、そのような街づくりが民間主体で行われるでしょうし、景観を無視して生産性の高い殺伐とした建物、例えば、容積率の高いオフィスやホテルの方が効用が高いのであれば、そのような街になって行くであろうと私は考えています。この自然な流れを民間経済主体よりも中央・地方の行政の方がよく理解しているとの証拠はどこにも見当たりません。さらにいえば、その自然な流れを無視して、行政が不自然な景観保存をするのは合理的ではありません。

要するに、観光立国でも何でもそうなんですが、政府や自治体に助けてもらわなければ失敗するような事業に政策リソースをつぎ込むのは意味がないと私は考えています。政策リソースを必要としない活動こそが重要なのであって、その意味で、ハーバード大学のバロー教授のいうように「政府は経済には何もするな」は個別の産業分野に政府が介入しようとする場合は、まったく正しいと思います。
もっとも、マクロ経済の安定化公共財の供給などとともに政府にしか出来ないことですので、別途、この分野は日を改めて考えたいと思います。

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