昨夜のブログが余りにも超初級マクロ経済学的であったので、自分自身でフラストレーションを生じてしまいましたが、さりとて、夏休み前に長大なメモを新たに作成する気にもなれず、今夜のブログは少し前に書き始めたランダムウォークのメモを経済評論の日記としてパクります。検定のところなどは未完成ですので、これでもフラストレーションが溜まるかもしれませんが、夏休み前ということで、無理やりに、これで満足しておきます。実は、歳入歳出一体改革の関係で、政府財政の持続可能性に関する検定をサーベイしたメモは完成しているんですが、いかんせん、微分方程式をそのまま解いているわけですから、めちゃくちゃに数式が多くて、MSWordで書いたメモをhtmlに移植するのがとっても困難ですので、諦めてしまいました。どなたか、MSWordのdoc文書、特に数式エディタで書いた数式がいっぱいの文書をhtmlに簡単に変換できる方法があれば教えて下さい。なお、今夜のブログでは上付き文字と下付き文字のhtmlタグを確認したつもりなんですが、間違っていて読みづらいかもしれません。分散を表すσ2のみが上付き文字で、tやsなどの期を表すサッフィックスは下付き文字にしたつもりです。最初に、この点については間違っていたらお詫びしておきます。
なお、基本的に、以下では離散型のデータを前提とし、期間を示すサフィックスのtやsなどは自然数と前提しています。構成は、基礎的な確率過程に関する整理としてNID、iid、White Noise、定常性について概念整理し、その上で、ランダムウォークと同値であるマルチンゲールとランダムウォークについて概観してあります。現時点ではここまでしかメモを作成しておらず、無規則性や均一分散、和分の次数の測定などの各種検定のサーベイは未完成ですので、適当にごまかしてあります。
前置きが長くなりましたが、以下が本論です。
1. 基礎的な確率過程に関する整理
NIDとiidとWhite Noiseと定常性の関係はこの順で強い概念となっており、NID ⊂ iid ⊂ WN ⊂ 定常性 と表されます。なお、ランダムウォークにはiidしか使わないんですが、トリビア的な知識の供給の意味もあって、iid以外に関係する確率過程についてもついでに取り上げてあります。
(1) NID
Xt∼NID(μ, σ2)で示され、系列Xtが期待値μ、分散σ2を持って正規分布しており、互いに独立である場合normally and independently distributed (NID)です。
(a) E(Xt)=μ
(b) var(Xt)=σ2
(c) cov(Xt, Xs)=0 when t≠s
(d) Xt∼N(μ, σ2)
なお、(c)の条件はXtが独立であることの条件です。詳しくは後述します。
(2) iid
Xt∼iid(μ, σ2)で示され、系列Xtが期待値μ、分散σ2を持って、互いに独立である場合independently and identically distributed (iid)です。iidはNIDの(a)から(d)までの条件のうち、正規分布の条件(d)を除いた(a)から(c)までの条件に一致します。
(3) White Noise (WN)
Xt∼WN(μ, σ2)で示され、系列Xtが期待値μ、分散σ2を持って、自己相関がない場合White Noise (WN)です。WNの条件式はiidと同じですが、(c)の条件は独立ではなく、無相関であることの条件です。なお、独立であれば必ず無相関ですが、無相関のときは独立とは限りません、即ち、独立 ⊂ 無相関の関係となっています。これも詳しくは後述します。
(4) 定常性
(a) E(Xt)=μ
(b) var(Xt)=σ2
(c) cov(Xt, Xs)=γ|t-s| when t≠s
系列Xtが期待値μ、分散σ2を持って、共分散が期間|t-s|の関数である場合、定常です。共分散がゼロである必要はなく、期間の差のみの関数であればいいです。ここでの定常とは弱定常です。
なお、独立と無相関の関係については、共分散をそれぞれの標準偏差の積で除したものが相関係数ですから、無相関については上の共分散の定義でいいんでしょうが、独立について共分散ではなく、少し詳しく、というか、より正しく確率関数を使って書くと、p(x, y)=p(x)p(y)となるのが独立の定義です。即ち、同時確率分布はそれぞれの積に等しくなります。ですから、独立であれば条件付き確率はp(y|x)=p(x,y)/p(x)=p(y)となり、yの分布がxの値に依存することはありません。当然です。そして、まったくのついでのトリビアなんですが、微小領域dxdy内の点の密度はp(x, y)dxdyの大きさを表し、xとyが独立なら点の密度はp(x)p(y)dxdyに比例します。
ついでのトリビアを続けて行くとキリがないので、最初に申し上げたように、ランダムウォークではiidしか使いませんから、取りあえず、ここまでとします。
2. マルチンゲール
マルチンゲールとはフランス語です。負けるたびに掛け金を倍にしていくゲームです。ゲーム自体は何であっても構わないんですが、コイントスのようなものを想像すると便利です。負けるたびに掛け金を倍にしていくのがミソで、勝ったらおしまいです。
マルチンゲールは増大情報系(filtration)に対して定義されます。例えば、株価、あるいは、何らかの金融資産価格について考え、時点tにおける金融資産価格Xtに関する情報がその時点で与えられる情報セットItの中に含まれており、Itが与えられればXtを知ることが出来るとすれば、これは、XtはItに適合(adapted)していると呼ばれます。そして、金融資産価格Xtの情報Itは通常の場合は時間とともに情報量を失うことなく増加させていきます。即ち、I1 ⊂ I2 ⊂ I3 ⊂ … となりますから、Itは増大情報系です。
系列Xtが増大情報系Itに関してマルチンゲールであることの定義は以下の通りです。
(a) Xtの期待値は有限。即ち、E(|Xt|)<∞
(b) Itが与えられるとXtを知ることが出来る。別のいい方をすれば、XtはItに適合している。
(c) t時点における1期先のt+1期の期待値は今期の実績値である。即ち、E(Xt+1|It)=Xt
なお、少し説明を省略しますが、条件付き期待値は、予測誤差の二乗平均を最小にする最良の予測値であることから、マルチンゲールは一定の期待値を有することになります。即ち、E(Xt)=E(Xt+1)=E(Xt+2)=…=E(Xt+s)となり、別の表現をすれば、E(Xt-Xt+s)=0 when s=1, 2, 3,…となります。
もっといえば、Xtの変化に対する平均的な予測値がゼロとなります。ですから、Xtがマルチンゲールであれば、将来予測は不可能で無意味です。
もっといえば、上の(c)からE(Xt+1|It)= E(Xt+2|It)= E(Xt+3|It)=…=Xtとなりますから、t時点で、即ち、現時点でどんなに将来の予測をしても、将来の期待値は現時点の実現値であるXtと同じになります。
3. ランダムウォーク
ランダムウォークにはドリフトなしとドリフト付きの2種類あります。どちらも、X0を初期値とし、εt∼iid(0, σ2)とすると、以下のように定義されます。なお、ドリフト付きの方のμはドリフトです。
(a) ドリフトなしランダムウォーク
Xt= X0+ε1+ε2+ε3+…+εt-1+εt あるいは、
Xt= Xt-1+εt
(b) ドリフト付きランダムウォーク
Xt=μ+Xt-1+εt あるいは、
Xt=tμ+X0+ε1+ε2+ε3+…+εt-1+εt
あるいは、ドリフトなしのランダムウォークはドリフト付きのドリフトがゼロである特殊な場合とも考えられます。定義によりE(ε)=0ですから、以下の通り、ドリフトなしのランダムウォークはマルチンゲールと同値です。
E(Xt|It-1)=E(Xt-1|It-1)+E(εt|It-1)=Xt-1+0=Xt-1
そして、ランダムウォークの期待値、分散、共分散は以下の通りとなります。
(a) E(Xt)=X0 (ドリフトなしの場合)
E(Xt)=X0+tμ (ドリフト付きの場合)
(b) var(Xt)=tσ2
(c) cov(Xt, Xs)=(t-s)σ2 when t>s
以下に、ドリフトなしのランダムウォークの特徴を取りまとめておきます。
(1) ランダムウォークはマルチンゲールです。即ち、E(Xt+s|It)=Xtが成り立ちます。
(2) ランダムウォークのうち、対称ランダムウォークは再帰性を有します。例えば、コイントスのような2種類の結果しか出ないゲームを考えて、εが表なら1、裏なら-1とすれば、結果が2種類ですから、P(εi=1)=pとP(εi=-1)=1-pになりますが、ここでコイントスのように、p=1/2の時、これを対象ランダムウォークと呼びます。確率1/2の対称ランダムウォークであれば、結果が初期値に戻ってきます。これを再帰性と呼びます。ただし、結果が初期値に戻るまでの期間の期待値は無限大です。
(3) ショックは永続的です。初期値、あるいは、いずれかの期に何かのショックが生ずると、その効果は永遠に続き、消えることはありません。
(4) ランダムウォークは1階の階差を取ることにより定常過程となります。Xt-Xt-1=εt∼iid(0, σ2)ですから、当然です。別の言葉でいえば、ランダムウォークは和分の次数が1です。X∼I (1)と表記します。
(5) ランダムウォーク系列の変動は期間の経過ともに期間の平方根に比例して大きくなります。これは上で示したように、ランダムウォーク系列の分散がtσ2であることから明らかです。
4. 金融資産価格のランダムウォークモデル
それでは、株価のような金融資産価格がランダムウォークするかどうかを検定するにはどうすればいいのでしょうか。
それには、少なくとも、以下の3点を検定することが必要になります。
(1) 階差がランダムで規則性を持たない。
(2) 階差は均一分散を持つ。
(3) 系列は和分の次数が1である。
無規則性の検定はノンパラメトリック検定で、ドリフトがない場合は連検定、ある場合はランク検定などがあります。また、均一分散の検定のためはカイ二乗検定があり、和分の検定は拡張ディッキー・フラー検定などで行います。いずれも、エコノメに詳しい方であればご存じだと思います。
今夜のブログは元ネタがあったので、htmlのタグをいろいろと凝ったのにしてみました。
今夜もコメント歓迎です。
最近のコメント