消費者物価(CPI)下方改定の影響
今日の朝日新聞夕刊に「脱デフレ宣言、先送り」とのタイトルで、以下のような記事が出ていました。出典は朝日新聞のサイトです。
内閣府は、15日公表の9月の月例経済報告で、デフレから抜け出したとの認識を示さない方針を固めた。「デフレ脱却」宣言は10月以降に先送りする。閣内には、小泉政権での最後となる月例経済報告で、経済政策の成果として「デフレ脱却を宣言すべきだ」との意見もあったが、米国経済の先行き懸念が強まる中で、日本経済に悪影響が及ぶ可能性も考慮し、宣言を次期政権の判断に委ねることにした。
内閣府は、デフレから脱却したかどうかを判断するため、消費者物価指数などの経済指標をもとに検討してきた。7月の月例経済報告では「物価は持続的に下落する状況ではない」と判断し、同報告から約5年ぶりに「デフレ」の文字を削除し、デフレ脱却宣言に向けた地ならしをしていた。
しかし、8月に消費者物価指数の基準改定があり、それまで前年同月比0.5%以上の伸びを示していた「生鮮食品を除く総合指数」の伸びが、6、7月とも同0.2%にまで縮小。今後の経済情勢によっては、再び物価下落に転じる恐れも出てきた。
小泉首相は8月、デフレ脱却宣言について「政治判断は一切しないようにと言い渡してある」と述べるなど、任期中の宣言にこだわらない姿勢を見せ、内閣府の判断を尊重する意向を示していた。
私は今年の2月2日の時点で「デフレが終わってバブルが生じている?」と題したエントリーをこのブログに投稿し、定義の問題であるとしつつ、デフレを政府と同じように「持続的な物価の下落」と考えるのであれば、2月2日の時点ではデフレが続いていて、まだ、バブルにはなっていないとの判断を示しましたが、8月末に発表された消費者物価指数(CPI)の改定後の新基準による統計を見ると、半年余りたった現時点でもデフレが続いており、今回の政府の判断は正しいと考えています。今回のCPI下方改定により、デフレ脱却宣言は先送りすべきでしょう。後戻りしないレベルの物価上昇とはいえないと考えるからです。
左のグラフは単位なんかを示していなくて、やや不親切なんですが、改定前の旧基準と改定後の新基準によるCPI前年同月比上昇率で示したインフレ率の推移です。縦軸がインフレ率で単位はパーセントです。横軸は今年に入ってからの各月となっています。もちろん、実線が改定前の旧基準で破線が改定後の新基準です。最近月で0.5%ポイント、1月では0.6%ポイントもの開きがあります。改定後の新基準でCPIの前年同月比のインフレ率がゼロを超えたのは5月以降となります。これでは、今の9月の現時点でデフレ脱却と宣言するのはリスクがあるといわざるをえません。
CPIの下方改定で影響を受けたのは政府のデフレ脱却宣言だけでなく、日銀の追加利上げも年内は難しくなったとの観測がもっぱらです。日銀の金融政策決定会合が昨日から開催されていたんですが、今日の午後に福井総裁が記者会見し、年内利上げを示唆するような発言もなかったように聞いています。もっとも、福井総裁の発言については、記者会見の場でしゃべった内容ではなく、日銀のホームページにアップロードされたのが参照すべきテキストとなるようですので、現段階では、それは確認のしようがありません。月曜日にじっくりと拝見することになります。でも、常識的には、追加利上げもCPIの下方改定とともに年内から来年1-3月期に先送りされたと考えられます。
日銀ではCPIなんかの物価指数のラスパイレス指数のバイアスを過小評価していたようです。このテの物価指数を算定する場合には品質を考慮するヘドニック・アプローチが取り入れられているので、そちらを過大評価し、ラスパイレスによるバイアスを過小評価していたんでしょう。ありえることではありますが、結果論としても、マチガイはマチガイです。
CPIの下方改定の影響について、政府のデフレ脱却宣言と日銀の追加利上げ、今日の経済評論の日記はこの2題でした。
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