IMFの世界経済見通しと日本政府のデフレ脱却宣言
今日の夕刊各紙で国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しの記事が出ていました。いつも朝日新聞を引用しているので、今夜は少し趣向を変えて、日経新聞から引用します。出展は日経新聞のサイトです。
【ワシントン=小竹洋之】国際通貨基金(IMF)は13日、年2回の世界経済見通しを発表した。日本の2006年の実質経済成長率を2.7%と予測し、4月時点の見通しを0.1ポイント下方修正した。「日本のデフレが再発するリスクは無視できない」とし、日銀の利上げは緩やかなペースにとどめるべきだとの判断を示した。
日本経済については「デフレからの脱却を裏付ける証拠が増えている」と強調した。07年の成長率は2.1%に低下するが、基本的には景気の底堅い回復が続くとの見通しを示した。
ただ、世界経済の失速といった不測の事態が引き金となり、日本がデフレに後戻りする可能性は排除できないとも指摘。金融政策の正常化に動く日銀に理解を示しながらも「デフレ再発とインフレ加速のリスクを慎重に見極め、漸進的に利上げすべきだ」としている。
米国の成長率は06年の3.4%から、07年には2.9%に減速すると予測した。住宅投資や個人消費の低迷が続き、景気が予想以上に冷え込むリスクが残るとの懸念を表明した。
今年と来年の各国・地域別の成長率見通しなんかは、英語ですが、IMFのWorld Economic Outlook 2006のサイトにあります。HTMLでは出ていなくて、PDFで置いているようです。
私がジャカルタにいた時は、現地の政府エコノミストはIMFのこの世界経済見通しをもっとも信頼しており、私が計量モデルをシミュレーションして、インドネシアの経済見通しを作成する際なんかには、米国や日本をはじめとする世界経済の見通しの外生変数はここから取っていたりしました。もちろん、日本でもそれなりに参考にはされているんですが、日本では政府が4月から始まる財政年度で成長率や物価などの見通しを作成しており、民間シンクタンクなんかでもこれに合わせているため、暦年で見通しを作成しているIMFとカレンダー上の整合性が少し崩れている場合があります。
引用した日経新聞の記事にもあるように、日本、米国、欧州(ユーロ圏)とも、今年よりも来年に経済が減速するものの、大きな景気後退には陥らない、とのメインシナリオになっています。もちろん、米国の住宅動向や原油価格などのリスクファクターは依然としてあり、楽観は禁物でしょう。さらに、日本については世界経済の減速からデフレに逆戻りするリスクを排除できない、との厳しい見方をしているようです。
確かに、このところ、需要面では家計消費で弱い数字が出ましたし、供給面からも機械受注統計が大幅に下落したりしています。波及するラグを考慮するとまだ早いと思うんですが、日銀が量的緩和を解除し、オーバーナイトコールを25ベーシス引き上げた金融政策変更の効果がこれから出て来るでしょうから、今年後半から来年前半にかけて、日本経済はゆっくりと下降線をたどることになりそうです。
少し前の9月8日のエントリーで、消費者物価の下方改定からデフレ脱却宣言が先送りされたことを紹介しましたが、私は現時点ではGDPのデフレギャップは解消されており、日本経済はデフレから脱却しつつあると考えています。ただし、注意が必要なのは、IMF世界経済見通しも指摘しているように、デフレに後戻りするリスクがある限り、政府としてはデフレ脱却宣言が出来ないということです。とても単純な例えなんですが、水面下で溺れている人がいて、一瞬だけ顔を水面上に出したとしても、それだけで溺れていない状態になったとはいえないわけです。一瞬だけ水面上に顔を出して息をついたとしても溺れている状態に変わりはないわけで、しっかりと救命具か何かにつかまって、溺れている状態を脱しないことには安心できないわけです。日本経済もそれに似た状態で、水面上で一息ついたとしても溺れている状態に変わりはないんですから、もっとしっかりとデフレを脱却して、デフレに後戻りするリスクを払拭しないと、政府はデフレ脱却宣言が出来ないと考えられます。
このため、先週、日銀で開催された金融政策決定会合の後の福井総裁の記者会見でも、何度も、金利引上げはゆっくりと進めるとの発言がありましたし、今回のIMFの世界経済見通しでも同じことが指摘されています。このあたりは政府と日銀とIMFとでコンセンサスが出来上がっているような気がします。もっとも、基本的な文言は同じでも、深いところの理解まで含めてコンセンサスがあるかどうかは不明です。もちろん、これからの経済情勢の変化にもよります。
この11月にいざなぎ景気を超えて景気拡大期間を更新したとしても、政府と日銀による経済政策の舵取りが難しい局面に差しかかって来ている気がします。
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