生産性を引き上げることは可能か?
いろんなエコノミストと意見交換する中で、今の安倍内閣を高く評価する点として、イノベーションなんかによる高成長志向と増税ではなく歳出削減を重視した財政再建の2点をあげる人が多いと感じています。しかし、ちょっとだけ違和感を感じたことがあったんですが、成長率を高めることと潜在成長率・生産性を高めることの区別が、立派なエコノミストの間でも混同されているような気がします。
成長率を高めるのは、端的にいうと、需要を高めることで達成可能です。日本以外の先進各国では金融政策が需要の調整に割り当てられていると私は考えています。しかし、潜在成長率ないし生産性、ここではいわゆる全要素生産性(TFP)を考えていますが、これを引き上げるのは政策課題としては、相当に難しいことです。
成長率を高める経済政策はかなりの程度に解明されているといえます。例えば、超初級のマクロ経済学の教科書を見ても、金利を引き下げるとか、財政支出を増やすとかの政策手段がいっぱい書いてあったりします。でも、政策科学としての経済学の立場から、全要素生産性を引き上げる経済政策が解明されれば、ノーベル経済学賞が10個くらいもらえそうな気がします。エコノミストから見て超難題といえます。もちろん、政策的に全要素生産性を引き上げることに明確に成功した国はありません。何となく成功した国はあるかもしれません。
でも一方で、エコノミストの中には、この議論と混同して、生産性が残差で決まるといい放つ人もいたりします。これはこれで間違っていると私は考えています。確かに、全要素生産性はソロー残差と呼ばれたりしていますし、単純に計測しようとすれば、コブ・ダグラス型の生産関数を所得分配でカリブレートして、その残差で計測したりするんですが、計測が残差であることと、実際にどう決まるかが残差であることは、まったく別のことです。とても大きな根拠があるわけではありませんが、生産性にも何らかの決定要因があると想定した上で、現時点では科学としての経済学がそれを解明していないだけである、と考えた方が私はより合理的だと思います。少なくとも、計測と同じように、生産性は残差で決定されるわけではないと思います。
今夜は、何となくお天気もさえなかったので、考えがまとまりません。生産性・潜在成長率と経済成長率が違う概念であること、生産性を計測する場合と違って、何らかの生産性決定要因があるんではないかと考えられること、この2点についてのメモでした。
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