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2006年12月14日 (木)

どうして賃金は上がらないのか?

昨年の今ごろは、私は今年2006年は景気拡大が続く中で、人手不足から賃金が上昇して、単位労働コストも上がり、デフレ脱却が可能となると考えていました。今でも日銀はフォワードルッキングに、1年前の私と同じことを考えているような気がします。ちょうど1年前の昨年2005年12月15日付けのエントリーにもそのようなことを書きました。当時の日本経団連の奥田会長も賃金引上げを容認する発言をしたりしていました。でも、今から考えると、日本経団連会長として、というよりも、絶好調の業績を続けるトヨタ会長としての発言だったのかもしれません。
しかし、今年に入っても一向に賃金は上がらず、単位労働コストマイナスを続けています。所得が増えませんから、景気拡大期間がいざなぎ景気を越えたと考えられるにもかかわらず、実感がないと報道されるのも無理はありません。株価も東証の日経平均で見る限り、昨年末から現時点までほとんど上昇していません。為替も少し円高が進みましたが、依然として、ボックス圏にあるようです。
その他の指標はともかく、賃金がなぜ上がらないかというと、いろんなエコノミストと意見交換してきて、2つの説がありました。ひとつは日本経済にまだまだスラックがあるというものです。要するに、インフレを加速しない失業率であるNAIRUは、みんなが考えているような4%近傍ではなく、もっと低いというものです。現状の4%を少し超えたくらいの失業率はフィリップス曲線のフラットな部分にまだあり、もっと失業率が下がらないと賃金上昇は起こらないとする考え方です。少しきつい前提を置けば、日本の潜在成長率は政府や日銀の2%弱よりも、もっと高いといっているのと同じです。
もうひとつの考え方は、賃金の決定構造が大きく変わったとするものです。私は何人かのエコノミストから経済分析のニューズレターを受け取っていますが、今朝は、「インフレは来ない?」と題して、失業率などの労働指標と賃金の関係は崩壊した、とするレポートがありました。サービス経済化の進展などの産業構造の変化や高齢化により、賃金の下押し圧力が大きいというものです。経済の国際化が進展した結果、労働者よりも株主をより重視するガバナンスの変化も一因です。また、別のエコノミストから、基本賃金よりもボーナスなどの業績連動部分の比率が高まったが、企業の業績は大幅に改善しているにもかかわらず、そんなにボーナスを大幅に引き上げるわけにもいかず、いわば、激変緩和措置として賃金が企業業績と比較して上がりにくくなっているとの説もありました。フィリップス曲線の崩壊を原因とする説ともいえます。
結論をいうと、私は前者の意見に近いです。ただし、現在の失業率がフィリップス曲線のフラットな部分にあるというのは同意するんですが、その原因はスラックがあるというより、期待により拡大(augment)されたフィリップス曲線が、余りに常識外れて左方、あるいは、下方にシフトしている可能性が高いと考えています。要するに、デフレ期待がまだまだ根強く残っているといえます。
私のを含めて3つの説に対して、経済政策の処方箋は違ってきます。第1のスラック説に対しては、政策的に需要を喚起する必要が浮かび上がります。世界的なスタンダードからすれば、金融政策の活用になります。第2の賃金構造説を採れば、フィリップス曲線が崩壊しているのですから、政策的な対応は難しい可能性が高いと思います。第3の私の説ですと、やっぱり、第1の説と同じように金融政策の出番なんですが、期待に働きかける必要がありますから、その対応は第1の説とかなり違ってくると考えられます。また、まったく別の処方箋として、賃金に頼らずに所得を引き上げる方法を考え、金融資産市場などを整備して投資により所得を増やそうとする解決策も成り立ちますが、今夜のテーマからすれば、これは別の独立したテーマです。金融資産の保有状況からして、格差拡大につながる恐れも大きいです。

長くなってしまいましたが、現在の景気拡大を長続きさせるためにも、より力強く実感あるものとするためにも、賃金の上昇が十分条件になると私は考えています。

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