« 労働市場における賃金と雇用の因果関係 | トップページ | IMFの世界経済見通しにおけるデカップリング論の採用 »

2007年4月11日 (水)

フィリップス曲線に関する考察

今日は朝からが広がり、夕方からが降り出しました。私には何の関係もないことなんですが、中国の温家宝首相が来日するので、霞ヶ関周辺の官庁街は総理大臣官邸に近いこともあり、警察官がいっぱいで警戒厳重でした。

昨夜のエントリーでは、現時点での日本の労働市場においては、人手不足から賃金が上昇するようなフィリップス曲線の理論に従った因果関係ではなく、賃金の方が先決的に決まってしまい、賃金が安いから企業が雇用を増加させている、という因果関係になっている可能性を指摘しましたので、今夜は、それでは、フィリップス曲線はどうなってしまったのかについて考えたいと思います。もっとも、私の基本的な考えはすでに昨年12月14日のエントリーで表明してあって、期待により拡大(augment)されたフィリップス曲線が、余りに常識外れて左方、あるいは、下方にシフトしている可能性が強いと考えています。もっと言えば、現在の日本における失業率水準は左方・下方にシフトしたフィリップス曲線が相当程度フラットである部分に止まったままであるため、賃金上昇に結びついていないと考えているわけです。
ここで、昨年のノーベル経済学賞を受賞したフェルプス教授が論証した垂直のフィリップス曲線が思い出されます。フィリップス曲線というのは、失業率と賃金上昇率のカーテシアン座標において、両者にトレードオフの関係があるので傾きがになると言うものなんですが、長期においては失業率と賃金上昇率のトレードオフが成立しないとして、自然失業率の水準でフィリップス曲線が垂直になることを論証した功績により、フェルプス教授は昨年のノーベル経済学賞を受賞しています。なお、垂直のフィリップス曲線を最初に主張したのは昨年亡くなったフリードマン教授と言われています。標準的なマクロ経済学のテキストである中谷巌「入門マクロ経済学」やマンキュー「マクロ経済学」なんかでも、この垂直のフィリップス曲線が紹介されています。
垂直のフィリップス曲線という場合、長期とは何かを考える必要があります。もちろん、特定の年限があって、それを超えると長期で、それより短いのが短期というわけではありません。通常、経済学では価格が一定の下で数量により調整される期間が短期であり、逆に、価格が伸縮的で数量に影響を及ぼさないのが長期であると考えられています。その中間で、価格も数量も動くのが中期というわけなんですが、論者によっては長期に至るまでのすべての期間を短期と呼ぶ場合もあります。なお、価格による調整を重視するのが古典派的な考え方で、価格による調整よりも数量調整の方がスピードが速いと考えるのがケインズ学派の考え方とみなされています。
長期のフィリップス曲線が垂直であるということは、短期のフィリップス曲線が負の傾きを有していても、実現された賃金上昇率が期待にビルトインされるに従ってシフトし、結局は、自然失業率に戻ると考えられるからです。これは生産関数に関する一定の仮定を置けば、総需要・総供給曲線のフレームワークにおいて、どちらも伸び率で表示した産出と物価のカーテシアン座標における長期の総供給曲線が垂直であるというのと同値です。
フリードマン教授なんかは、そもそも、失業と賃金上昇の間のトレードオフに対して否定的だったんですが、負の傾きを有する短期のフィリップス曲線がシフトするために長期のフィリップス曲線が垂直になると理解されるのであれば、長らくデフレが続いた日本において、短期のフィリップス曲線が左方・下方にシフトしてしまい、未だに賃金が上昇する失業率に達していない、と結論することは可能だと私は考えています。

|

« 労働市場における賃金と雇用の因果関係 | トップページ | IMFの世界経済見通しにおけるデカップリング論の採用 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/20840/8602929

この記事へのトラックバック一覧です: フィリップス曲線に関する考察:

« 労働市場における賃金と雇用の因果関係 | トップページ | IMFの世界経済見通しにおけるデカップリング論の採用 »