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2007年4月27日 (金)

サンチャゴに雨が降る

昨日今日と、水曜日までのぐずついた天候と打ってかわっていいお天気になり、気温もグングン上がりました。半袖を着て出歩いている人もいるような気がします。

先日、ストラウドのバーティミアスのシリーズ全3巻を読み終えたところなんですが、今日も、大石直紀さんの「サンチャゴに降る雨」(光文社)を読み終えました。表紙にはスペイン語があって、La lluvia que moja Santiago. というそうです。サンチャゴを濡らす雨、といったところでしょうか。読書のピッチが上がっているのかもしれません。少し古い小説で、2000年の暮れに出版されています。今では文庫本で出版されているようなんですが、私は図書館で単行本を借りて読みました。内容は想像されるように、チリのアジェンデ政権をクーデタで倒したピノチェット独裁政権にまつわるサスペンス小説なんですが、一応、アマゾンから要約を引用すると以下の通りです。

軍事政権下のチリで、安井豊は謎の美女ビオレタと出会う。軍事クーデターで両親を失った彼女は、反体制のシンボルとなり、大統領の命を狙っていた。しかし、暗殺阻止に動いた大統領側近は彼女の幼馴染だった!独裁と自由。南米の熱きパッション。相反する理念を求め、男と女が対峙するとき、新たな時代の幕が開く。現代史の裏面を抉るポリティカル・サスペンス。

なお、今夜のエントリーは海外生活の思い出の日記として取り上げていますので、この本の中身にはそんなには触れません。ですから、ネタバレはないと思います。

ピノチェット将軍は昨年死亡しました。昨年12月11日のこのブログのエントリーでも取り上げたところです。1973年のクーデタ前後を題材にした有名な小説には深田祐介さんの「革命商人」があります。すでに絶版になって久しいと思いますが、私がサンチャゴに赴任する折には必読の書として読んだ記憶があります。さらに、深田祐介さんは「神鷲商人」と書いて、ガルーダ商人と読む小説も書いていて、インドネシア建国の父であるスカルノ元大統領のデビ夫人を主人公にしていたりします。ジャカルタ駐在中に私も読みました。
チリのピノチェット将軍は、およそ、20世紀の政治家ワースト10を選出すれば、ヒトラーにはかなわないかもしれませんが、スターリンやフランコなんかとともに、かなり上位に名前を連ねることが確実な人物です。特に、左翼系の人からは蛇蝎のごとくに嫌われていると言えます。史上初めて選挙で選ばれた社会主義者のアジェンデ大統領をクーデタで倒した後、軍事独裁政権下のチリ大統領に就任し、ある種の恐怖政治を実行したと考えられています。反対派への弾圧は凄まじかったと言われており、私も大使館の外交官として、民政移管された直後の1990年代最初の3年間をサンチャゴで過ごしましたので、そのようなお話は山ほど聞きました。
「サンチャゴに降る雨」はピノチェット将軍のクーデタの際に、ラジオで放送された「サンチャゴに雨が降っています」との暗号をモチーフにしています。もちろん、チリからフランスに亡命したソト監督による映画「サンチャゴに雨が降る」も、知ってる人は知っていると思います。1960年代にチリ人民連合のテーマソングであった Venceremos (ベンセレーモス)という題名の歌もあります。スペイン語で「我々は勝利する」と言う意味です。サンチャゴにいた時に数回聞いたことがあるんですが、日本では聞いたことがありません。でも、そんなところに行く日本人はめずらしいと言われました。でも、日本人が決して乗らないサンチャゴの乗合バスも私はしょっちゅう乗っていましたし、サンチャゴで私は日本人が考え付かないような行動を取っていた可能性はあります。
それにしても、アジアの途上国や中南米では国家元首が反対派に交代した瞬間に、国外に亡命したり、国内に留まれば処刑されないまでもにつながれたりと、平和裏に政権交代が行われるのは稀になっているような気がします。民主主義がまだ根付いていない証拠なのかもしれません。そういったバックグラウンドがあるので、私がチリにいた時、当時の大統領は民政移管後で初代のエイルウィン元大統領でしたが、しきりと国民和解を主張していたのを思い出します。アジェンデ政権を支持した左翼系とピノチェット将軍を支持した右翼系の反目は大きいものがありました。いろんな文献を見ても、軍事政権がアジェンデ派を過酷に弾圧したことは明らかで、クーデタには米国のCIAやITTが加担していたと言う説もまことしやかに流布されたりしています。私なんかはピノチェット将軍に批判的で、アジェンデ派に同情的だったりしますが、それでも、ピノチェット将軍がチリで天寿を全うしたのは、チリの民主主義の成熟度を示すものであると、私は高く評価しています。別の話ですが、アジェンデ元大統領はクーデタで倒されたことにより、チリ国内の左派の中では神にも等しい地位を得たと言う人もいたりします。
しかし、南米では1982年のメキシコに端を発する累積債務危機のために、失われた10年を過ごした後、1990年代から経済が持ち直したんですが、今世紀に入ってからは、ボリビアやベネズエラなんかで反米左派の大統領が誕生するなど、40年前のチリの政治状況を彷彿とさせるものがあると指摘する意見もあったりします。チリでは親米左派ながら、前のロゴス前大統領とともに現在のバチェレ大統領も社会党出身です。民政移管後の初代のエイルウィン元大統領や、その次のフレイ元大統領がキリスト教民主党の出身だったのに比べて、ジリジリと左派色が強まっているのかもしれません。私は左右どちらでもいいんですが、健全な民主主義が南米に根付くことを願っています。

アジアについては、中国やインド、あるいは、ASEAN諸国を先頭に経済発展が目ざましいのに対して、中南米についても、これから発展する可能性が十分ある地域だと私は考えています。私には親しみもあります。その上で、これはアジアにもラテンアメリカにも共通して言えることなんですが、健全な市場経済の発展を支えるのは、強権的な独裁ではなく、健全な市民によって担われる民主主義であることを、もう一度、認識し直す必要があるような気がします。
ゴールデンウィークを前に、ここ数日と違って、少し重たいエントリーでした。

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