弾力性ペシミズムは過去の遺物か?
今日は朝からいいお天気で、気温もかなり上がりました。ここ2-3日花冷えだったんですが、春が戻って来たような気がします。
今日の日経新聞の夕刊で、世界経済の不均衡是正に為替相場の変動が有効であるとのレポートを国際通貨基金(IMF)が取りまとめた、との記事が掲載されていました。IMFの「世界経済見通し」の第3-5章が公表され、その第3章が "Exchange Rates and the Adjustment of External Imbalances" と題されていて、この章の主張となっています。なお、第1-2章は4月11日に発表されるようです。少し長くなりますが、IMFのサイトにある1ページ半ほどのサマリーで Key Points とされている3点を引用すると以下の通りです。
- Changes in real exchange rates can play a helpful role alongside the rebalancing of demand in the adjustment of global imbalances. A real depreciation of the U.S. dollar and real appreciations of the currencies of countries with current account surpluses could facilitate the narrowing of imbalances by reducing the output costs that may otherwise occur during the adjustment period because of demand shifts.
- The U.S. trade balance may be more responsive to real exchange rate movements than often assumed in the literature.
- The responsiveness of trade to changes in the real exchange rate is greater the more flexible the economy.
昨年の米国の経常収支赤字はGDP比で6.5%くらいだったと記憶しているんですが、IMF「世界経済見通し」第3章では、10%足らずであっても米ドルの実質レートが減価すれば、GDPで1%の貿易収支赤字の縮小につながると指摘しています。過去40年以上にわたる期間で42の経常収支の転換エピソード、すなわち、経常収支が赤字から黒字に、あるいは、黒字から赤字に転換した42のエピソードを分析した結果だそうです。このために、来週4月13日に米国のワシントンで開催される主要7カ国財務大臣・中央銀行総裁会議(G7)でも、不均衡対策として為替の役割を話し合う可能性が高まったようなことを、日経新聞の夕刊では書いていたりしました。
引用した最初のポイントにもある通り、為替レート単独と言うよりも、需要のリバランスと同列で実質為替レートの効果を指摘していますし、そんなに偏った表現ではないんですが、2番目のポイントにあるように、米国貿易収支の実質為替レートの変動に対する感応度は多くの文献で報告されているものより大きい可能性を指摘するのであれば、もう少し実証研究結果が欲しい気がしないでもありません。過去の文献で為替レートの効果を過小評価する原因として、産業別の反応の違いを考慮しない集計バイアスや輸入品が米国の中間財輸出に依存しているとする垂直統合バイアスの2点を指摘していますが、理論的には成立しえても、実証的に支持されるとは限りません。
と言うのは、1985年のプラザ合意の後の急速なドル高是正局面で、大幅なドル安・円高が進んだにもかかわらず、米国の経常収支不均衡は縮小せず、弾力性ペシミズムが蔓延したころに、私はこのテの分析を担当していたもんですから、実体験として、為替レートによる経常収支不均衡是正の効果について、私個人としてはとっても懐疑的だからです。さらに、どうでもいいことですが、少し前までIMFの調査局長をしていたハーバード大学のロゴフ教授は、1980年代前半に為替レートはランダムウォークする、とのとっても有名な論文を書いていて、長らくエコノミスト業界のスタンダードだったりしたんですから、今ごろになってIMFが為替レートによる対外不均衡の是正を持ち出したりすると、戸惑う人がいそうな気がします。
いずれにせよ、ドル安待望論がIMFエコノミストの正直な意見なのか、IMFのバックに控える米国のホンネなのか、現時点では何とも言えませんが、私自身は安直ながらも、現在の水準の為替レートはそれなりに日本のデフレ脱却には好ましいのではないかと考えていますので、我が業界の潮流を見守りたいと思います。
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