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2007年6月13日 (水)

米国のマイナスの貯蓄率は維持可能か?

今日も朝からいいお天気でした。昨日と同じように、気温も上がりました。昨日今日のお天気からは梅雨入りが近いような気配は感じられませんでしたが、明日からは下り坂らしいです。

米国経済シリーズの第3回目です。昨夜は米国経済の供給サイドの構造改革が必要になる可能性を指摘しましたが、今夜は需要サイドを考えてみたいと思います。というのは、2005年年央から米国の貯蓄率がマイナスを続けているからです。家計にたとえれば、収入以上に支出して、貯蓄を減らしているか、借金を続けている状態です。日本でも米国でも政府はそのような状態にあり、国内外から借金しまくって国債を発行しているのはめずらしくないんですが、国全体として、家計や企業も含めて消費が所得を上回っている状態が継続しているのは歴史上でもめずらしいと思います。このため、過剰消費を指摘する向きも多く、逆に、今後の個人消費の失速を見通しているエコノミストもいます。
そもそもエコノミストの常識を超えて、あり得ない出来事のように見受けられますので、現在のマイナスの貯蓄率の計算方法を見直すエコノミストもいたりします。商務省では "Survey of Current Business" の今年2007年2月号において "Alternative Measures of Personal Saving" と題して、経済分析局のエコノミストが論文を発表し、キャピタルゲインを所得に算入したり、あるいは、耐久消費財を投資と扱えば貯蓄率はプラスになるとか、また、NY連銀では "Current Issues in Economics and Finance" の5月号で "How Worrisome Is a Negative Saving Rate?" と題して、リサーチ担当の副総裁の論文を発表し、企業の内部留保を考慮すれば貯蓄率はプラスであるとか、いろいろと計算方法を見直したりしています。取りあえず、ご興味ある向きのために、以下の通り、商務省とNY連銀の論文にリンクを張っておきます。単純な再計算ですから、微分方程式なんかは出て来ませんが、当然ながら、英語ですのでご注意下さい。

でも、上のどちらの論文を拝見しても、1980-85年以降の貯蓄率のグラフが各種掲載されているんですが、ここ20年余りで大きく右肩下がりが続くグラフになっており、少々、どんな計算方法を取っても、早晩、貯蓄率はマイナスに突っ込むんではないかと予想するのが自然そうな気がします。要するに、少々計算方法を変更したところで、米国経済が長年に渡って過剰消費の傾向を強めていることについては変わりないように見受けられます。
さらに、最近、知り合いの米国経済に強いエコノミストから聞いたんですが、日米の制度的な違いもあり得ます。それは医療費です。日本では医療費は本人負担が3割で、残りは政府支出に計上されますが、米国では日本ほどは公的な健康保険制度は整備されておらず、ベビーブーマーの高齢化に伴って医療費負担が増加するので、よりいっそう消費が過剰になるように見える、と言うことらしいです。しかし、これは別の私の知り合いのエコノミストが昨年発表した「貯蓄率ゼロ経済」と同じインプリケーションを持っているわけで、高齢化に従って貯蓄率が下がると何が起こるのかはしっかりと考えておく必要があります。
ですから、貯蓄率について考える場合、将来への備えの面がありますので、所得だけでなく資産との関係も見ておく必要があります。実は、NY連銀の論文によれば、ここ数年の株高の影響で米国の家計は資産を増加させています。具体的な統計を上げると、2006年末の個人純資産の可処分所得比は5.7倍あり、ITバブル崩壊直後の2002年9月の4.7倍から増加しています。ですから、将来に備えた資産蓄積の状況から見ると、将来の消費が現在の過剰消費の反動で大きく落ち込むことはない、との見方をしているようです。私はこの見方には少し疑問を持っていたりします。貯蓄率がマイナスなのに資産形成が進んでいるのは明らかに矛盾しているからです。NY連銀の論文では、この貯蓄率と資産形成の関係が weak connection と表現されていたりします。

しかし、いずれにせよ、世界中でいずこも同じ高齢化に起因する必然的かつ傾向的な貯蓄率の低下である側面もあり、短期的な過剰消費の反動を警戒するだけではなく、中長期的に貯蓄率が低下すれば何が起こるのか、米国経済の現状を他山の石として、日本経済に重ね合わせて、しっかり考えるべきであると思います。

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