最低賃金だけが企業のコストか?
今日も朝からいいお天気で気温もグングン上がり、蒸し暑かったです。真夏の気候が続きます。
昨日から始まっていた厚生労働省の中央最低賃金審議会の小委員会で、今日になって、最低賃金の目安がようやく決まったようです。経営側は時給で2円とか渋いことを主張していたんですが、徹夜の審議で公益委員が押し切ったように報じられていました。いつもの朝日新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
07年度の最低賃金の引き上げ額を労使代表らが議論する厚生労働省の中央最低賃金審議会の小委員会は8日、全国平均で時給14円の引き上げ(現行時給平均673円)を目安にすると決めた。昨年度実績の5円を大幅に上回り、97年度実績以来10年ぶりの高水準。地域別の上げ幅は6-19円と大きくばらついた。10日の同審議会で正式決定する。
今後、各都道府県に設けられた審議会で、労使代表らが協議して実際の引き上げ額を決めるが、例年ほぼ目安通りとなっている。各地で10月中に順次、新しい最低賃金が適用される見通しだ。
目安は、都道府県をA-Dの4ランクに分けて提示される。東京など都市部が中心のAは19円、埼玉や京都などのBは14円、宮城や福岡などのCは9-10円、青森や沖縄などのDは6-7円。
雇用機会の多い都市部では賃金水準の実勢に合わせて大幅に引き上げる一方で、景気回復が遅れている地方では小幅にとどめることで労使が折り合った。だが、地方ほど最低賃金で働く労働者が多く、地域間の賃金格差拡大に批判が出そうだ。
今年度の最低賃金改定をめぐっては、政府と労使代表らでつくる「成長力底上げ戦略推進円卓会議」が先月、例年以上の引き上げを目指すよう、同審議会に求めていた。
賃金が上がりません。格差の一因と考える向きもあります。日銀なんかは景気の拡大が継続する中で、人手不足から賃金が上昇し、物価に波及するリスクを考えているようですが、実際には、グローバル化が進行する中で、技術が同じ、すなわち、経済学の用語で言えば、生産関数が同じであれば、中国なんかの賃金水準と競争しなければならないわけですから、賃金が上がりにくくなっているのは事実だろうと思います。専門的には、要素価格均等化定理、とか、エコノミストの名前で、ヘクシャー・オリーン定理といいます。同時に、資本財価格の上昇によるストルパー・サミュエルソン定理も働いている可能性があります。詳しい説明は割愛します。
景気の拡大に伴って、フリーターやアルバイトなんかの非正規社員の割合が減少して、正社員が相対的に増加している動きもあるんですが、企業から見た賃金コストの抑制のために非正規社員を増やしているのは言うまでもありません。しかし、労働者から見れば賃金は所得なわけで、所得が増えないと消費も盛り上がりません。さらに、コストと考えるにしても、単純な賃金だけでなく、より広い意味での雇い主負担を考えると、忘れていけないのは社会保障負担です。正社員がコストが高いのは賃金水準だけでなく、社会保障負担が大きいこともあります。企業からはこの主張が根強くあります。主として年金と医療です。フリーターの多くは企業負担の厚生年金ではなく、個人負担の国民年金ですから、企業が負担する必要がないのでコストが低く、同時に、国民年金の未納率を上昇させているひとつの要因と考えられます。いずれにせよ、最低賃金などの賃金だけでなく、より大きな視野で雇用問題を考える必要がありそうです。
まず、年金負担です。現在では年金は世代間の所得移転、特に、圧倒的に高齢者に有利な所得移転になっていますので、この給付水準を引き下げることが出来れば、その分だけ保険料を下げて正社員のコストを下げることが可能なように見えます。そうすれば、ある程度は非正規雇用が増加する傾向を止めることが出来るかもしれません。私の知り合いのネタなんですが、以下のようなものがあります。ご隠居さんが若いフリーターに対して「今の若い者は年金を未納して、将来どうするつもりか?」と文句を言うと、若者は「今は社会保障負担が18%の高率なんだから、払うだけの金もない。ご隠居さんはちゃんと払ったのかね?」と聞き返すと、ご隠居さんは「わしらのころは3%だったから、払うのに苦労はなかったさ」と答える、というものです。
学校を卒業して社会に出るころに就職の超氷河期なんかにブチ当たってしまい、正社員の募集からあぶれてフリーターにならざるを得なかった、いわば、恵まれない世代の若者は、今もって社会保障負担のカベに阻まれて、正社員に採用されることも、自分で国民年金の保険料を払うこともままならず、苦しい生活を続けている可能性があるんではないかと私は考えています。極端な例だと思うんですが、リタイアした豊かな年金世代が30代フリーターのパラサイトを許容するため、フリーターに就労意欲が出ないとの説もあります。私はこういった例が広範に観察できる事例だとは考えませんし、もちろん、肯定するものではありませんが、豊かな年金世代から30代フリーターに家庭内で所得を再分配するんではなく、社会的により厚生が高まる配分が出来るハズです。高齢者への年金給付を減らして、その分、正社員に必要な年金負担も減らして、企業が正社員を雇用するコストを下げることが可能ではないでしょうか。不労所得とも考えられ得る年金で30代フリーターをパラサイトさせるより、年金を減らして30代フリーターが正社員で働く方が、ズッと社会的厚生が高まるのは誰の目にも明らかです。
賃金に戻って、もちろん、最低賃金が上昇すれば、経済学的にはその水準に達しない限界生産性しか有しない未熟練労働者は失業に陥る可能性もありますが、他方で、最低賃金の上昇が貧困対策として有効である可能性を示唆する実証研究の成果も見られます。コトはそんなに単純ではありませんが、繰返しになりますが、賃金だけでなく、雇い主負担をトータルで考えると、社会保障負担の保険料の問題も含めて考える必要があります。賃金水準や年金保険料などの純粋におカネの問題だけでなく、身分保障や雇用の安定性も含めて、フリーターやアルバイトよりも正社員として働く方がいいであろうことは、かなり幅広いコンセンサスがあると私は考えています。最低賃金の水準を変更して直接的に所得を操作するだけでなく、社会保障の年金保険料の水準を引き下げて、より多くの正社員を雇えるようにすることも一案ではないでしょうか。
今日は最低賃金を取り上げながら、労働者のコストとして年金保険料まで考えが拡散してしまい、少し取りとめのないエントリーになりましたが、結局、私の従来の主張を繰り返してしまいました。労働者から見れば賃金が所得に直結するのに対して、企業や雇い主から見れば賃金と社会保障負担を併せたものがコストになります。高齢者への年金給付を減らして、その分、企業が正社員を雇用する場合のコストになる年金保険料も減らし、フリーターなどを正社員として雇用しやすくするのが、雇用環境の改善のために重要だと思います。
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