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2007年10月31日 (水)

日銀「展望リポート」から次の利上げ時期を占う

今日も、朝から秋晴れのいいお天気でした。しかし、夕方からは雲が広がり、明日は雨が降るとの天気予報です。また、昨日に続いて気温は下げ足を強めているような感じがします。

日銀展望レポート

今日は、日銀の金融政策決定会合が開催され、政策金利である無担保オーバーナイトコール金利の誘導目標を現状の年0.5%前後に据え置くことを決めました。賛成8、反対1の多数決による決定でした。さらに、今夜のエントリーのタイトルにも使った「展望リポート」と略称される「経済・物価情勢の展望」の基本方針部分を発表しました。全文は明日の発表となります。経済見通しの要約は上の表の通りです。9人の審議委員による実質国内総生産 (GDP) 成長率の予想中央値は、2007年度については前回4月の2.1%から1.8%に下方修正したものの、2008年度は前回と同じ2.1%に据え置きました。生鮮食品を除く消費者物価については、今年度・来年度とも前回見通しよりも引き下げています。

日銀の金融政策決定会合に関して、NIKKEI.NET のニュースと日銀の発表文を以下の通り、リンクを張っておきます。

「展望リポート」の内容は、成長率についても消費者物価についても、足元の数字を少し下方修正するだけで、前回4月の見通しに概ね沿って推移しており、景気については、「海外経済や国際金融資本市場の動向など不確実な要因はあるものの、生産・所得・支出の好循環メカニズムが維持されるもとで、息の長い拡大を続けると予想される」とし、また、消費者物価についても、「目先はゼロ%近傍で推移する可能性が高いものの、より長い目でみると、プラス幅が次第に拡大する」と結論しています。要するに、見通しは下振れしているにもかかわらず、半年前から変更はないわけです。ある意味で、米国のサブプライム・ローン問題の発生を受けた後のリポートとしては強気とも考えられなくもありません。もっといえば、説明責任が果たされているかどうか、疑問視するエコノミストがいてもおかしくはないと私は思います。 なお、政策金利の引上げについては、超強気のエコノミストの中には、この「展望リポート」の発表に合わせて政策金利を引き上げるんではないか、と考えていた人もいるようですし、まだまだ、年内12月の金融政策決定会合で決めると考えているエコノミストのかなりいます。例えば、(財)経済企画協会が10月に発表したESP フォーキャスト調査によれば、半数のエコノミストが年内利上げを見込んでいましたし、今年12月に利上げと予想しているエコノミストは30人中で10人います。しかし、明らかに、経済見通しを下方修正する今日の金融政策決定会合で利上げをするハズはありませんし、原油価格も今後の方向は不透明です。 ESP フォーキャスト調査では超少数派なんですが、私は10月22日の G7 ステートメントを取り上げたエントリーでも書いたように、年度内3月までの利上げは難しいのではないかと考えています。第1の理由 は、欧米の金融機関の決算期末を迎える12月利上げが考えられないことです。30人のエコノミストのうち、10人までが12月利上げを見込んでいるのは私には大きな驚きなんですが、詳しくは10月22日のエントリーの通りです。日本の3月に当たる欧米金融機関の決算期末の直前に日銀が利上げすることは相当の覚悟が必要です。経済大国日本の金融政策の影響力の大きさを考慮すべきです。どこかの中堅以上の欧米金融機関が現在の金融市場の混乱の中で破綻を来たす可能性が決して低くない以上、日銀が金利を引き上げてそのリスクを高めるのは国際感覚の鋭いエコノミストであれば自明の理だと思います。誠に申し訳ないながら、12月利上げに vote したエコノミストの国際感覚を疑ってしまいます。第2の理由 は、今回の「展望リポート」で来年度の消費者物価見通しが4月の0.5%から0.4%に引き下げられたことです。注目しているエコノミストは少ないようですが、0.5%と0.4%ではかなり印象が違うと私は考えています。昨年3月に量的緩和政策を停止し金利に政策目標を移した際に、同時に発表された「物価安定の理解」では0-2%が物価の安定とされ、中央値は1%でした。来年度を通してこの中央値の半分に達しないというのが日銀審議委員の大勢の見通しであるとすれば、年度内に利上げを急ぐ理由はまったくありません。第3の理由 は、ねじれ国会で日銀総裁・副総裁の同意人事が年明けにも審議されることです。よほど特殊な経済情勢の変化がない限り、この国会同意人事が無事に決着するまでは、日銀は金融政策を変更するインセンティブを持たないような気がします。それでも利上げすれば、ある意味で、立派と言えるかもしれませんが、無茶はしないような気がしてなりません。第4の理由 は、米国の連邦準備制度理事会 (FED) が明確に利下げ局面に入っているからです。新しい日銀法により、日銀は政府からの独立性を強めましたが、現在の国際的な金融経済情勢の下で、政策的に FED の影響力から逃れるのは難しい気がします。日本時間の今夜、FED は連邦公開市場委員会 (FOMC) を開催し、25ベーシスの利下げを決定すると見込まれています。第5の理由 は、理由と言うほど大きなものではないんですが、福田内閣が掲げる格差対策との整合性です。日銀が利上げするとすれば、格差の下の方に位置する地方や中小企業などの限界的なグループを直撃する可能性があります。格差に配慮した予算案が編成され国会で審議されている時期に、金融政策が逆方向に向かいかねない印象を与えるのは少し疑問が残ります。もっとも、最後の5点目の格差問題は金融政策のターゲットにはなり得ないと私は考えていますので、ついでにチョロッと上げてみただけです。他方、逆方向のインフレ的なリスクも指摘しておかねばなりません。その最大のものはチラリと触れた原油価格の動向なんですが、私は WTI がバレル90ドルを超える水準は異常だと考えています。相場のことですから確定的なことは言えませんが、年末から来年にかけて原油価格は下がる可能性が十分にあると考えています。傍証でしかないんですが、今朝の Financial Times には "Oil retreats below $90 a barrel" と題した記事があって、ゴールドマン・サックスやリーマン・ブラザーズのインタビューに基づいて、原油価格が下がる可能性について報道されていたりしました。私も FT の原油価格見通しには理解を示す部分が大きいです。

最後に、実は、私も心境の変化があって、以前は中央銀行的な糊しろ論はバカげた理屈だと考えていたんですが、最近では、ある程度の金利の糊しろを確保することに理解を示すようになっています。官庁エコノミストを自称する者としてはめずらしいかもしれません。どうして理解を示すようになったかは、財政再建だって結局のところは同じことではないかと気付いたからです。ですから、長い目で見て利上げは必要になると考えてはいるんですが、上に掲げた4+1点の理由から、糊しろ論を肯定する私から見ても、年度内3月までに利上げを必要とする確率はとっても小さいと考えられます。少なくとも、日銀が説明責任を果たした上で利上げに踏み切ることは、ほとんど不可能のように見受けられます。

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