« 濱中外野手のトレードに思う | トップページ | プラスに転じた消費者物価上昇率をどう評価するか? »

2007年11月29日 (木)

需給ギャップと一般物価水準のパズル

今日も、朝からが広がり、気温は上がりませんでした。昨日の天気予報では雨が降るとのことだったんですが、結局、雨は降りませんでした。

GDPギャップの推移

昨夜に続いて、少し旧聞に属する話題なんですが、今週26日に内閣府が需給ギャップの推計を発表しています。グラフは上の通りです。また、日経新聞でも簡単な記事が報道されていました。いつもの NIKKEI.NET のサイトから引用すると以下の通りです。

内閣府は26日、日本経済の需要と供給の差を示す「需給ギャップ」の最新の試算値を公表した。2007年7-9月期はプラス0.4%となり、4-6月期と比べ0.3ポイントプラス幅が拡大した。実質経済成長率が年率2.6%と高くなったためだ。
需給ギャップは物価の背景を探る指標の1つ。実際の需要に相当する国内総生産(GDP)が、労働力や生産設備を平均的に使って達成できる潜在GDP(供給)を上回るとプラス(需要超過)となり、物価が上がりやすい状態を示す。
需給ギャップのプラスは4四半期連続。07年4-6月期はプラス0.1%となり、9月の前回公表値から0.1ポイント下方修正。1-3月期はプラス0.8%と前回公表値と変わらなかった。

最近の経済動向に関するパズルのひとつに、需給ギャップがプラスに転じているにもかかわらず、一般物価が上昇しないことが上げられます。もちろん、2-3四半期くらいのラグはあると考えられますし、一般物価水準の需給ギャップへの感応度が下がって来ているとの研究結果もありますから、需給ギャップがプラスに転じたからといって、すぐに大幅な一般物価の上昇が見られるとは誰も思っていないんですが、それにしても、物価が上がらないと感じているエコノミストは多いんだろうと思います。私もそうです。
上のグラフには注釈があって、本年度平成19年度の「財政経済白書」の付注1-2に従って需給ギャップを算出しているようです。要するに、ソロー残渣を取り除いた上で、コブ・ダグラス型の生産関数を当てはめて、潜在的な資本と労働の寄与によるGDPを弾き出して、それと実現されたGDPとの差を取っているようです。資本分配率を0.33で置くなど、少し荒っぽい気がしないでもないんですが、標準的な生産関数アプローチだと考えられます。また、内閣府だけでなく、私の知り合いのシンクタンクのエコノミストなんかの推計によっても需給ギャップはプラスに転じているようですし、日銀もプラスの需給ギャップをサポートしているようです。
需給ギャップと一般物価水準の関係は、私は以下のように整理しています。第1に、フィリップス曲線です。賃金上昇率と失業率の関係が明らかになります。必ずしも因果関係と捉えられないとの意見もありますが、一般的には、失業率から賃金へというように波及すると考えるのが自然だと思います。第2に、マークアップです。賃金上昇を製品価格に転嫁することで、この2つで失業率と一般物価水準の関係が明らかになります。第3に、オークン係数です。こちらは失業率とGDPの関係です。この3つを結びつけるとGDPと一般物価水準の関係が導出されます。ついでに、私の研究成果を自慢しておくと、ジャカルタにいた時に、この3つを組み合わせて状態空間モデルを組んで、需給ギャップをカルマン・フィルターで解いたことがあります。 "Estimation of Output Gap in Southeast Asian Countries: A State Space Model Approach,” TSQ Discussion Paper Series 2002/2003-No.2, May 2002 というディスカッション・ペーパーに取りまとめてあります。一応、リンクを張っておきましたが、よほどのことがない限り、ダウンロードして読むのはオススメしません。もちろん、私のオリジナルの考えに基づくものではなく、長らくニューヨーク連銀やシカゴ連銀などのエコノミストだった Oberlin 大学のカットナー教授の Kuttner, Kenneth N. (1994) “Estimating Potential Output as a Latent Variables,” Journal of Business and Economic Statistics 12(3), July 1994, pp.361-368 というペーパーをマネしたものです。RePEc にリンクを張ってあります。何ら、ご参考まで。
これを基にして、どうして需給ギャップに応じて物価が上昇しないのかというと、上のパラグラフに対応した3つの論点と、ついでに、もう一つ加えて、4つの考え方があり得ると私は考えています。第1に、フィリップス曲線です。失業率と賃金上昇率の間の安定的な関係が損なわれている可能性があります。デフレ後の日本ではフィリップス曲線は崩壊したというエコノミストもいたりします。第2に、都合により前のパラグラフとは順番を入れ替えて、オークン係数です。もともと、日本はオークン係数が米国ほど安定的ではないといわれていますが、オークン係数という失業率とGDPをつなぐ経験的 (empirical) な関係が希薄になっている可能性があります。第3に、マークアップ率の変化です。単純に賃金上昇を製品価格に転嫁する関係がマークアップなんですが、そもそも、中小企業をはじめとして賃金上昇が見られないんですから、これは関係が薄い可能性が高いと私は考えています。もっとも、需要が弱くて製品価格が上げられず、賃上げも望めないという逆の方向で因果関係が作用している可能性は否定しません。以上3点の論点に加えて、最後に、そもそも、需給ギャップの計測が間違っていて、現時点でも需給ギャップはマイナスのままだとする説もあり得ます。でも、明日発表される消費者物価指数あたりから、物価はプラスの水面上に出て来るんではないかと私は考えていますので、需給ギャップがいまだにマイナスであるとする説はサポート出来ないような気がしないでもありません。せいぜい、まだ需給ギャップのプラス幅が小さいので、ラグを伴ってこれから一般物価が上昇すると考えるのが妥当だという気がします。

多くのエコノミストがパズルであると感じている需給ギャップと一般物価水準の関係について、明日発表の消費者物価指数、特に、コアCPIがどのようになるか、また、先行きの物価の動向などに注目が集まっています。

|

« 濱中外野手のトレードに思う | トップページ | プラスに転じた消費者物価上昇率をどう評価するか? »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/20840/9175088

この記事へのトラックバック一覧です: 需給ギャップと一般物価水準のパズル:

« 濱中外野手のトレードに思う | トップページ | プラスに転じた消費者物価上昇率をどう評価するか? »