村上春樹さんの「アフターダーク」を読みノーベル文学賞を期待する
今日も、朝からまずまずいいお天気でしたが、昼前から雲が広がり、気温は上がりませんでした。今日の東京の最高気温は10度に届かなかったと天気予報で言っていました。人がいなかったせいか、3連休明けの役所のオフィスは寒かったです。それから、今日は我が家の子供達の通う小学校の2学期の終業式でしたので、子供達が持ち帰った通知簿を拝見しました。仏教国の日本ではみんな出勤ですが、今日はクリスマス当日ですから欧米などの海外市場は軒並み休場です。
このブログの12月3日付けのエントリーで紹介しましたが、村上春樹さんの「アフターダーク」が "New York Times" の 100 Notable Books of the Year - 2007 に選ばれました。ということで、遅ればせながら読んでみました。 "New York Times" では "A tale of two sisters, one awake all night, one asleep for months." と紹介されています。アマゾンではごく短く「真夜中から空が白むまでのあいだ、どこかでひっそりと深淵が口を開ける。『風の歌を聴け』から25年、さらに新しい小説世界に向かう村上春樹。」 と紹介されています。上の写真に見える本の帯にある通りです。ついでながら、装丁は和田誠さんです。いつもの通り、今夜のエントリーは読書感想文ですからネタバレがあるかもしれません。読み進む場合はご注意下さい。
2004年に書下ろしで発表された作品で、2002年に出版された「海辺のカフカ」の次に発表された村上作品です。なお、英語版は昨年の発売となっています。「海辺のカフカ」は2005年に英訳されて、英米でベストセラーになりましたが。「アフターダーク」も "New York Times" に取り上げられたりして、ベストセラー街道を走るのかもしれません。本文中にも出てきますが、本のタイトルから明らかなように、カーティス・フラーのクインテットによるジャズの名作「ファイブスポット・アフターダーク」がひとつのモチーフになっているようです。トロンボーンのカーティス・フラーとテナーサックスのベニー・ゴルソンを中心とする2管のクインテットの演奏になるブルース曲です。少なくとも私を含めたジャズファンの間では、モダンジャズ史上に残る超有名なアルバムに収められた超有名な曲と考えられているような気がします。
ごく短い時間帯に焦点を当てた小説です。真夜中前から翌日の早朝まで数時間の間の物語です。2ヶ月間眠り続ける姉の浅井エリと夜中ずっと起きている2歳違いの妹の浅井マリ、それに、高橋という大学生の男性が主要な登場人物です。エリと高橋は高校の同級生で、この3人とも20歳をはさんだ大学生くらいの年齢層という設定です。高橋はトロンボーンを演奏し、徹夜のジャムセッションに参加していますが、今夜で音楽は止めにして、この先は司法試験を目指すと言い、最後の方に明かされるんですが、マリは近々交換留学生のような形で半年ほど北京に行くことになっています。季節はクリスマス前の12月ころと示唆されています。章ごとに、あるいは、章の途中でも、時刻の経過を示す時計が置かれています。大雑把に、起きている妹のマリと寝ている姉のエリが章別に交互に取り上げられ、エリは延々と寝ているんですが、たまには起き出したり、テレビの向こう側に行ったりと、とっても幻想的なストーリー展開になっています。マリの方は高橋と話をしたり、ネコのいる公園に行ったり、あるいは、中国語が出来るのでラブホテルでの中国人売春婦のトラブルに巻き込まれたりと、現実的な活動をします。
アマゾンの紹介には「『風の歌を聴け』から25年」とありますが、私から見ればデビュー作までさかのぼらなくても、1992年出版の「ねじまき鳥クロニクル」から10年余りと言った方がいいような気がします。と言うのは、「ねじまき鳥クロニクル」は村上小説の大きなターニング・ポイントになった作品で、戦争という形を含めて暴力を大きく取り上げており、その後、小説ではないノンフィクションの作品では「アンダーグラウンド」や「約束された場所で」につながり、小説では「海辺のカフカ」や今夜取り上げた「アフターダーク」に発展しているからです。「アフターダーク」でも繁華街のラブホテルで中国人売春婦が客から暴力を受ける形で、その傾向は続いていますが、「海辺のカフカ」よりも「アフターダーク」では暴力の占める割合が大きく減じている印象があります。私には好ましい気がしないでもありません。短い時間帯を扱った小説ですから、少なくとも、誰かが死ぬことはありません。でも、夜の間だけの出来事しかなく、タイトル通りに、ダークな雰囲気を漂わせている小説です。
私も長らく村上作品を読み続けていて、「アフターダーク」のように大学生が主人公になった小説では、その昔は、自分が主人公になったような感情移入が可能だったんですが、今では、小学生の子供達が大学生だとしたら、と考えるようになってしまいました。私が大学生だったのは20年余りも昔ですが、子供達が大学生になるのは10年ほど先のことですから、子供達の方が大学生に近いと言えなくもありません。それはさて置き、遅ればせながら、この「アフターダーク」も「海辺のカフカ」とともに村上春樹を代表する作品と言え、オススメ度は満点です。
昨年2006年、村上春樹さんがカフカ賞を取った時には、ある英国のブックメーカーによって、ノーベル文学賞受賞候補として34倍のオッズが出され18番人気に位置しました。今年2007年には11倍のオッズ、6番人気だったそうです。日本から3人目のノーベル文学賞受賞が年々現実味を帯びて来ているように思います。私も何の力にもなれませんが、大いに応援したいと思います。
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