国際通貨基金 (IMF) の "World Economic Outlook"
今日は、朝から雨が降りました。気温は上がらず、真冬並みの寒さでした。雨は明日の朝まで降り続くとの天気予報です。でも、幸いなことに、昨日に比べて花粉は激減しました。
昨夜取り上げた IMF の "Global Financial Stability Report (GFSR)" に続いて、今夜は同じく IMF の "World Economic Outlook (WEO)" を簡取り上げたいと思います。サマリーのグラフは上の通りです。IMF のサイトから3つ引用しました。なお、上の方の "Slowe growth as fallout deepens" と題されたグラフをクリックすると別窓で "Table 1.1 Overview of the World Economic Projections" の詳細な表がご覧いただけます。真ん中のグラフは潜在成長率を下回る先進国、逆に、一番下のグラフは最近の平均成長率を上回る新興国の見通しとなっています。昨夜取り上げた "Global Financial Stability Report" と同じで15ページほどの日本語サマリーもアップしてあります。まず、昨夜と同じように"Financial Times" の記事を最初の3パラだけ引用すると以下の通りです。
The International Monetary Fund on Wednesday forecast that the US economy would slip into a "mild recession" this year and warned that there was a chance that the global economy could follow suit.
However, the IMF said emerging and developing economies would maintain robust growth rates, diverging from the rest of the global economy.
"The global expansion is losing speed in the face of a major financial crisis," the fund said in its latest World Economic Outlook report.
引用した記事にもある通り、リポートでは米国経済は緩やかな景気後退に入り、2008年の世界経済成長率は3.7%に鈍化すると見込んでいます。すなわち、2008年1月時点で改定されたの見通しに比べて1.5%ポイントの下方修正で、2007年の成長率を1.25%ポイント下回る数字でとなっています。さらに、来年2009年の経済成長率も同じような水準にとどまるものと見込まれていて、先進国・地域の成長率は総じて潜在成長率を大幅に下回ると予想されています。特に注目されている。米国経済は2008年に緩やかな景気後退に陥り0.5%成長を記録した後、金融機関におけるバランスシートの改善が進むにつれ、2009年から徐々に回復に向かうというものの、2009年の成長率も0.6%にとどまるとの見通しとなっています。2008年1月時点からの成長率の下方修正幅は2008年で▲1.0%ポイント、2009年で▲1.2%ポイントです。我が日本に目を転ずると、昨年2007年の2.1%成長から今年2008年は1.4%、来年2009年は1.5%と下方改定幅も2008年▲0.1%ポイント、2009年▲0.2%ポイントに踏み止まっていると表現して差し支えないと思います。他方、新興国・地域及び途上国の経済成長はわずかに鈍化するものの、2008年と2009年両年とも引き続き底堅い成長が見込まれています。なお、ついでながら、いつもナナメに読む私の見方からして、従来のデカップリング論はどうなったのかと見ていると、第1章に "Can Emerging and Developing Economies Decouple?" と題する節を設けていて、結論として、 "The combination of strong internal growth dynamics, a rising share of the global economy, and more-resilient policy frameworks seems to have helped reduce the dependence of emerging and developing economies on the advanced economy business cycle - but spillovers have not been eliminated." となっています。やや後退した印象を受けますが、先日4月2日付けのエントリーで紹介したアジア開発銀行の "Asian Development Outlook (ADO) 2008" の結論である "Evidence suggesting that Asia has 'uncoupled' from the global economy is scant." に比べると、IMF は引き続きデカップリング論を堅持しているようにも読めたりします。
ただし、予測にリスクはつきもので、短期的には下振れリスクが大きい状況にあり、リポートでは2008年と2009年の世界経済成長率が3%以下に落ち込む、すなわち、世界的な不況が起こる可能性が25%の確率である、と明記しています。その最大のリスクは、金融市場の状況の展開にかかっており、とりわけ、米国のサブプライム・ローンなどを原資産とする仕組み債の損失が膨れ上がることによって、金融システム全体としてバランスシートが毀損し、現下の信用拡大ペースの低下が本格的な信用収縮に発展するリスクを指摘しています。金融的なショックと内需が特に住宅市場を通じて影響し合うリスクが米国で特に大きく、西欧や他の先進国においても米国ほどではないにせよ、一定のリスクが存在すると主張しています。
こういった世界経済の現状認識に対して、IMF の政策提言は具体性を欠くとの指摘もありましょうが、まず、グローバル化が大きく進展する今日の世界においては、国境を越えて互いに及ぼし合う影響を十分踏まえて、各国が力を合わせてこうした課題に取り組むことが不可欠との基本認識の下で、先進国・地域においては、インフレ・リスクやより長期的な問題も考慮しつつ、金融市場の混乱に対処するとともに、経済成長の下振れリスクに対して適切な対策を講じることが喫緊の課題である、とし、さらに、多くの新興国・地域及び途上国にとっては、現在の力強い経済成長がインフレ圧力の増大や経済の脆弱性につながるのを回避することが引き続き課題となる、と指摘しています。この上で、米国については、連邦準備理事会(FED)が最近大幅な利下げに踏み切り、今後も経済がある程度安定するまでは金融緩和バイアスを維持するとしていますが、GDP ギャップの拡大と労働市場の悪化のリスクが高まっていることを踏まえればインフレに対するリスクには "should be blunted" 、としています。我が日本については、金融政策に関しては、"In light of the prevailing headwinds to growth, monetary policy should maintain its accommodative stance and could be eased further in the face of a serious downturn." との判断を示しています。我が家で購読している朝日新聞なんかでは「白川日銀、タカ派の気配 利上げ志向強まる?」と題する記事を見かけたりする日銀の白川総裁には耳が痛いかもしれません。さらに、財政政策の発動については、公的純債務残高は引き続き高い水準にあり、景気悪化という状況の下で自動安定化機能の発揮は許容すべきかもしれないが、財政政策による内需下支え効果は小さく、"there is limited room for fiscal policy to provide a cushion in the event of a stronger-than-anticipated downturn in growth." と従来の主張に沿った政策提言となっています。財務省の財政タカ派には好都合な主張だという気がしないでもありません。要するに、世界のエコノミストの常識になっているように、マクロ経済政策は財政ではなく金融で対応しなさいというわけです。ある意味で当然です。欧州については、現状のインフレ率は高過ぎるものの、景気見通しは悪化しており、2009年中にはインフレ率は2%未満にまで低下する公算が強く、欧州中央銀行 (ECB) は金融政策スタンスを一定の限度で緩和方向にシフトさせる余地がある、と日本に対するのと同じような主張です。日本よりも糊シロが大きいんですから、これまた当然です。最後に、新興国・地域及び途上国については、先進国・地域の景気減速や増大する金融市場の混乱に起因する経済成長の下振れリスクを警戒しつつ、インフレを抑制することが求められており、一部の国々ではインフレ抑制のためにさらなる金融引締めが必要になるかもしれない、と指摘してインフレ重視の政策運営を求めています。
第1章の世界経済や第2章の国や地域別の分析に加えて、今回の金融混乱においては、中央銀行が金融政策を決定するうえで資産価格の状況をどの程度考慮すべきかというかねてからの議論を再燃させたとして、第3章では "Chapter 3. The Changing Housing Cycle and the Implications for Monetary Policy" と題して、住宅市場のサイクルと金融政策の関係について検討を加えています。リポートでは、米国、デンマーク、オーストラリア、スウェーデン、オランダを特記して、高度に発達した住宅ローン市場を有し、より大きな金融乗数が認められる国・地域においては、特に、金融政策を決定する上で住宅価格の動向をより重視すべきである、との判断を示しています。もっとも、この結論は "a recommendation that monetary policy should target house prices" に extend されないとしつつも、住宅価格が急激な動きを見せた場合や住宅評価が通常の範囲を超えた場合には安定化政策を採用することはリスク管理型金融政策の枠内での対応が可能かもしれない、と示唆しています。なお、第4章の "Chapter 4. Climate Change and the Global Economy" については、私の詳しくない分野なので割愛します。それから、第5章の "Chapter 5. Globalization, Commodity Prices, and Developing Countries" もそこまで目が至りませんでしたので、今夜のところは省略します。たぶん、永遠に省略しそうな気がしないでもありません。
昨夜の "Global Financial Stability Report (GFSR)" と同じ IMF のリポートなんですが、やや専門分野に近い気がして、図表もいっぱい借用して、長々と引用も含めて、2夜続きで IMF のリポートを取り上げてみました。今週は月曜日から今夜まで経済評論の日記ばかりでしたし、今夜は特に長かった気がしますので、明日や明日以降の週末は軽い話題で済ませたいと思わないでもありません。
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