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2008年7月24日 (木)

アジア開発銀行 (ADB) の "Asia Economic Monitor 2008"

今日も、朝から少し雲が多かったものの、いいお天気で気温も上がりました。やっぱり、毎日蒸し暑い日本の夏が続いています。

今日、財務省から6月の貿易統計が発表されました。メディアの報道では今年上半期の数字が取り上げられていたんですが、6月の単月で見ると、輸出が7兆1596億円で55ヵ月振りの減少、輸入が7兆210億円で9ヵ月連続の増加となり、貿易収支は1386億円とほぼゼロになりました。商品市況の高騰と世界経済の減速の結果だというほかありません。特に、6月については欧州向けの輸出が2ケタ減少となったのを見ると、いよいよか、という気もしないでもありません。貿易収支の結果は市場のコンセンサスを大きく下回りましたが、東証の日経平均株価は3日連騰となりました。株価は統計指標だけで動いているものではないことを実感します。でも、今夜のエントリーではこの貿易統計はこれ以上は取り上げません。

ということで、一昨日、アジア開発銀行 (ADB) から "Asia Economic Monitor 2008" が発表されました。昨夜のエントリーでもチラッと書きましたが、寡聞にして私には聞き慣れないリポートでした。半年に1回、ASEAN10カ国、中国、香港、韓国、台湾を対象にしたリポートのようです。ADB はフィリピンのマニラに本部があるんですが、このリポートはシンガポールで発表されています。詳しいことは私にはわかりません。まず、ADB のサイトから記者発表の最初の2パラを引用すると以下の通りです。

Economic growth in emerging East Asia will moderate to 7.6% in 2008 and 2009 from 9.0% in 2007 as the region weathers a global economic slowdown, sharp rise in food and energy prices and volatility reigns in financial markets, says a new report by the Asian Development Bank (ADB).
The region's slowing yet solid growth outlook remains vulnerable to a higher-than-expected spike in inflation, protracted slowdown in the US and any further tremors in global financial markets, says the July issue of Asia Economic Monitor (AEM).

成長率の総括表はリポートの33ページにありますが、引用の通り、対象地域全体で2007年の9.0%成長に比べて、2008年と2009年はともに7.6%とやや減速する見通しとなっています。他方、インフレ率は同じく対象地域全体で2007年の3.9%から2008年に6.3%に上昇した後、2009年には4.6%と少し落着きを取り戻す形になっています。インフレの総括表はリポートの36ページにあります。見通しのリスクとしては、インフレ、米国経済の減速、金融不安の3点を上げています。
政策課題としては、何といってもインフレ抑制が大きな眼目で、今月7月2日にこのブログで取り上げた国際通貨基金 (IMF) のリポートと同じように、インフレ抑制のための金融引締めを上げていますが、同時に、通貨制度の柔軟性が低くて米ドルへのペッグやカレンシーボード制を取っているアジア新興国では金利引上げによる資本流入から通貨が増価圧力にさらされるため、複雑な政策遂行になることに注意を呼びかけています。財政政策については、貧困層に対する配慮から注意深い制度設計を求めつつも、人為的な固定価格制度や補助金については問題を先送りするだけであると指摘しています。総合的に、所得の流出を伴う交易条件の悪化に対しては、為替制度やその他の硬直的な制度を見直し、構造改革を進める必要性を明らかにし、これらの構造改革がアジア新興国の投資環境を改善することも忘れるべきではないとしています。金融市場の関係では国際機関らしく外貨準備への注意も盛り込まれています。

Change in Inflation and Output Growth

後半の48ページからは "Special Section" と題して、いくつか興味深い分析を提示しています。上のグラフはこのセクションの最初に置かれているもので、2007年と今回のリポートの見通しの2008年の各国の経済パフォーマンスの変化を示しています。紺色で下に向かっている矢印が成長率で、赤で上に向かっているのがインフレ率です。ベトナムのインフレ率のみ右軸になっています。「スタグフレーション」という用語はマイナス成長で2桁インフレくらいの印象でしょうから、このリポートでも「スタグフレーション」とは表現していませんが、インフレと成長の減速というベクトルの異なる対応が必要です。ADB も IMF と同じで、まず物価安定とインフレ抑制を前面に打ち出している印象があります。特に、このブログでは引用しませんでしたが、52ページの表で、アジア新興国においては先進国である EU や米国などよりも食料とエネルギーの消費者物価に占めるウェイトが高いことが示されています。

Inflation Expectations

次に、興味深かったのはインフレ期待について、ADB がかなり重視していることです。上の表の通り、かなり各国でインフレ期待が上昇して来ていることが読み取れると思います。特に、現在のインフレは食料とエネルギーの寄与の高い1次インフレなんですが、これに対して金融政策当局が明瞭はシグナルを発信しなければインフレ期待がさらに上昇し、国内賃金の上昇からホームメードの2次インフレに悪化する危険を指摘しています。金利引上げによる通貨の増価も輸入物価の安定につながるとし、読みようによっては為替の増価容認という気もしないでもありません。最後に、食料とエネルギーの価格高騰は世界的な現象であるとし、食糧安全保障の観点からも、地域的あるいは世界的な政策協調の強化を要請しています。

それにしても、数年前の日本経済のデフレは同じベクトルの政策遂行でしたし、その際に、インフレ期待に関する適切な金融政策が取られたかどうかには、少なくとも私は疑問が残ると考えていますが、ベクトルの方向が異なる政策が必要とされ、さらに、インフレ期待に踏み込んだ議論をこのリポートは展開しているんですから、アジア新興国のこれからの政策運営を注目したいと思います。なお、いつもは国際機関のリポートは英語でそのまま書いていたんですが、やや読みにくくて評判が悪け、かつ、私の方でもかえってメンドウだったりしますので、今夜のエントリーは最初の引用以外は出来る限り日本語で書いてみました。

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