今日も、梅雨の中休みで、朝からいいお天気でした。昨日は午後から気温が上がったんですが、今日は朝から蒸し暑かったような気がします。
今週になって、国際決済銀行 (BIS) と国際通貨基金 (IMF) から国際的な商品市況の高騰に関するリポートが出ました。もっとも、BIS の方は年次報告ですので包括的なリポートなんですが、石油や食料価格についての分析も豊富に含まれているといったところで、IMF の方はモロに正面から取り組んでいる印象があります。まず、BIS と IMF のリポートへのリンクを張っておきます。リポートの PDF ファイルへのリンクもこちらに示されています。もちろん、すべて英語のサイトですので念のため。

アルファベット順に従ったというわけでもないんですが、まず、国際決済銀行 (BIS) の年次報告の第2章 "The global economy" を取り上げると、先進国の今年の経済見通しは上のグラフの通りです。米国や世界経済全体とともに、新興諸国の成長率も2008年には下がる見通しとなっています。ヘッドラインのインフレはかなり急激に上昇するものの、食料とエネルギーを除けば、まずまず安定圏内で推移するように見えます。ヘッドラインのインフレの上昇もあって、実質金利はかなり下がり、特に、米国ではマイナスに突入する可能性が示唆されています。
BIS リポートはインフレの分析について、興味深い見方を示しています。まず、かつては、食料やエネルギーの供給ショックが短期間で終わっていたことから、ヘッドラインのインフレはむしろコアインフレに遅れるケースが目立ったんですが、現在の商品市況の高騰はこの関係を弱めており、コアインフレの予測パフォーマンスは悪化していることが12ヶ月の外挿シミュレーションの RMSE で示されています。加盟各国の中央銀行に対して、コアインフレとともにヘッドラインのインフレを警戒するように示唆しているように私には読めました。しかし、日本だけは予測誤差が小さいままで例外的な存在としていますが、これは、日本のコアインフレがエネルギーを含んでいるためであると結論しています。当然です。

続いて、商品価格から輸入物価、そして、輸入物価から国内のコアインフレに対するパススルーが1970-80年代と1990年以降に期間を分割して計測されています。上の表の通りです。商品価格から輸入物価へのパススルーは統計的に有意ですが、パススルーの比率は大きくなく、特に、最近時点になって低下しています。さらに、輸入物価からコアインフレへのパススルーは1980-70年代では統計的に有意だったものが、1990年以降では統計的な有意性を失っていますし、係数も小さくなっていることが読み取れます。これについて、BIS のリポートでは、海外の輸出業者の方で輸出先の国内通貨建てで価格を固定したり、あるいは、利益を圧縮したりする動きが見られることに加えて、生産性の上昇などを要因として上げています。これは私には興味深い分析だったと思います。

次に、国際通貨基金 (IMF) から "Food and Fuel Prices - Recent Developments, Macroeconomic Impact, and Policy Responses" というタイトルで、正面から最近の商品価格高騰に取り組んだリポートが公表されています。かつて、私がこのブログで主張した「広義エンゲル係数」に沿って、食料・飲料・燃料が家計支出に占める比率の地図を公表してくれています。上の図の通りです。 IMF に私のブログを見てくれているエコノミストがいるのかもしれません。冗談は別にして、IMF らしく、外貨準備への影響を分析したりしている一方で、いくつか、マクロ経済政策の方向性を示す分析もあります。基本的には商品市況の動向を受け入れるというラインではないかと私は考えています。やや恣意的になるかもしれませんが、財政政策と金融政策について結論めいた部分をリポートから引用すると以下の通りです。かなり長くて申し訳ありません。
The Nature and Cost of Fiscal Responses to Higher Food and Fuel Prices
Increasing world prices for fuel and food products present a difficult policy challenge for governments. Passing these price increases on to consumers results in a decrease in real incomes for households, especially poor households. On the other hand, passing through the higher prices encourages producers to increase supply and consumers to decrease demand, thus either reducing the adverse impact on the current account balance of net importing countries or increasing the gains to net exporting countries. Without the increases in supply and reductions in demand engendered by full pass-through of world prices, the upward pressure on world prices will be exacerbated.
Monetary and Exchange Rate Policy
In many, but far from all, countries, monetary policy has responded to the risks of rising inflation. The main concern is that the first-round effects of higher food and fuel prices on inflation should not be allowed to spill over to higher prices of other goods and services (second-round effects). Such risks are particularly elevated for countries where domestic demand has been growing strongly because of loose financial policies. In light of this, recent actions to tighten monetary policy in several countries which already had elevated levels of inflation before the recent acceleration of international food and fuel prices (e.g., Ghana, Egypt, Pakistan, and Sri Lanka) represent attempts to bolster the credibility of the monetary authorities and prevent higher inflation from becoming entrenched. In several cases, monetary policy should be tightened further.
赤の大きなフォントにしたところがポイントだと私は考えています。なお、国際商品市況の価格をパススルーなんて、日本なんかでは当たり前ではないかと考えられるんですが、財政政策の引用には前段があり、アジアの新興国なんかが当てはまっていて、エネルギーや食料に補助金を出している国が少なくありません。そういった補助金で財政的に国内価格を操作するんではなく、国際商品市況で決まった価格を
full pass-through して、
価格上昇を受け入れることが、ひいては、国内供給の増加や需要の低減につながる、との見解です。もちろん、最初に書いている通り、
a difficult policy challenge であることは IMF も認識しているようです。金融政策については単純明快で、要するに
引締め策が必要との立場のようです。
このブログでも書きましたが、国際商品市況が先行き経済動向の重要な部分を占めるようになり、経済見通しはエコノミストよりも商品アナリストに聞くような経済状況になっています。私も不慣れな分野ながら、もう少し勉強したいと思います。
最近のコメント