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2008年9月16日 (火)

米国の金融危機をどう考えるか?

第3波の米国金融機関の経営危機がリーマン・ブラザーズ証券とメリル・リンチ証券、AIG で生じて、結局、リーマン・ブラザーズ証券は連邦破産法第11条を申請し、メリル・リンチ証券はバンカメに救済合併されるに至りました。市場は売り一色で、昨日の NY 市場のダウ平均株価は▲504.48ポイント、▲4.4%の下落となり、東証の日経平均株価も前週末比▲605円4銭 (▲4.95%) 安の1万1609円72銭まで下落しました。日本についていえば、ほぼ2005年の郵政選挙前の水準に戻ったといえます。景気後退が拡大する懸念から原油はバレル100ドルを大きく割り込み、為替では米ドルが売られています。当然、予想された展開なんですが、今夜のエントリーでは少し論点を整理しておきたいと思います。
まず、かなり以前の2006年2月6日付けのエントリーで黒木亮『巨大投資銀行』を取り上げた際に強調したんですが、本来、投資銀行 (investment bank) と商業銀行 (marchant bank) ではリスクの取り方が違います。投資銀行は組成した金融商品を投資家である顧客に売却し、リスクは投資銀行ではなく顧客の投資家が負うのに対して、商業銀行は顧客から預金という形で資金を預かり、それを商業銀行のリスクで投資します。実は、この観点をアマゾンのレビューに投稿した直後に黒木さんご本人と話をする機会があり、実際の投資銀行業務では自己売買も多くて、リスクに関する私の批判は当たらないと指摘されたこともあったりしました。それはともかく、商業銀行には投資銀行にない特徴がもうひとつあります。ペイオフによる上限はあるとはいえ、商業銀行の顧客は基本的にノーリスクの預金を決済資金として使っているということです。ですから、投資銀行が破綻しても直ちにシステミックリスクを生ずることはありませんが、大手の商業銀行が破綻すると決済不能が連鎖することにより、システミックリスクの可能性が大いに生じます。細かい点を付け加えると、ペイオフ上限まではノーリスクと見なされている預金も決済対象でなくても保護する必要が生じます。
ですから、政府と中央銀行の金融当局からすれば、システミックリスクを回避する観点から、投資銀行が破綻した場合に、その投資銀行が販売したり保証したりした金融商品がどの程度まで決済不能が波及するか、商業銀行の場合は規模はともあれ決済が不能に陥ることは明白ですから、いずれにせよ、決済が出来なくなる規模の広がりを注視することになります。今回のリーマン・ブラザーズ証券の場合はデリバティブ取引の金融商品などの決済がアブナイと言われていますが、投資家が損失をこうむって終わりなのか、連鎖的に決済不能状態が市中銀行や事業会社などに広がるのかが焦点だと私は考えています。その意味で、比較的大規模な商業銀行に経営破綻が拡大するかどうかが注目点とも言えます。もちろん、システミックリスクのような大規模な危機は頻繁には生じませんから、金融機関の経営悪化による株価の下落、事業会社に対する資金供給が円滑に進まないことによる景気の悪化なども重要であることは言うまでもありません。
3月に米国第5位の投資銀行であるベア・スターンズ証券が事実上の破綻をした時、NY 連銀による300億ドルのノンリコースの特別融資枠を設定した上で、俗な言葉を使えば、お土産を付けた上で、JP モルガン・チェース銀行による救済が実現したんですが、今回、メリル・リンチ証券はバンカメに救済合併されたものの、リーマン・ブラザーズ証券は連邦破産法11条の適用を申請し、いずれも、ベア・スターンズ証券の時のように公的資金は投入されませんでした。現時点で、いろんな内部情報に接する機会がないこともあり、この違いがどこにあるのかが私には理解できません。第5位のベア・スターンズ証券が公的資金で救済されるのであれば、その上位行であるメリル・リンチ証券やリーマン・ブラザーズ証券も公的資金で救済されると考える向きも少なくなかったと私は想像しています。もちろん、メリル・リンチ証券については、救済する方のバンカメが公的資金は不要と考えたのかもしれませんし、各投資銀行によって資産構成に違いがあることから、ベア・スターンズ証券はシステミックリスクの危険があった一方で、リーマン・ブラザーズ証券は顧客の自己責任で済ませられる可能性が大きかったのかもしれません。言うまでもなく、金融機関のモラルハザードを助長しないという観点も含まれていたことと想像されます。さらに、ひょっとしたら、米国の大統領選挙が2ヶ月後に近付いているのも何らかの関係があるのかもしれません。いずれにせよ、今回の両社については "too big to fail" が適用されなかったわけで、何らかの意味で "big" ではないとの判断が下されたといえます。

商品価格の下落は原油などに資金を投入している金融機関からすれば経営危機の引き金ともなりかねず、ひょっとしたら、第4波の金融機関の経営危機が生ずる可能性を否定できない中で、9月9日のエントリーで取り上げた GSE に対する救済策や今回のような、individual かつ passive な救済策を各個撃破的に経営危機のつど策定するのではなく、9月9日のエントリーの結論の繰返しになりますが、商業銀行や保険会社も対象に含めた comprehensive かつ proactive な救済策スキームが模索されるべき時期が近付いていると私は考えています。

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