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2008年10月20日 (月)

国際労働機関 (ILO) リポートに見る世界の格差問題

やや旧聞に属しますが、国際労働機関 (ILO) の研究部門である国際労働研究所が10月16日に「仕事の世界報告書2008年版」 "World of Work Report 2008" を発表しました。副題は「金融グローバル化の時代における大幅な所得不平等とその拡大」 "Global income inequality gap is vast and growing" です。リポートの preprint 版とともに、サマリーもネットから入手することが出来ます。さらに、ILO 駐日事務所から日本語による記者発表文も公表されています。リポートでは、日本を含む70以上の先進国・途上国の賃金と経済成長のデータを用い、所得不平等の最新の動向、そして金融グローバル化、働きがいのある人間らしい仕事 (decent work) の不足、所得再配分政策の役割縮小などといったその背景要因を分析していますが、まず、いつもの通り、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

国際労働機関(ILO)は16日、経済のグローバル化などの影響で1990年から2005年の間に世界のおよそ3分の2の国で所得格差が拡大したとする報告書を公表した。さらに現在の金融危機が多くの失業者を生み出すなど深刻な状況が予想されるため、各国が適切な対応を取る必要性を強調した。
報告書は低所得者の賃金が伸び悩んでいる一方、富裕層の金融所得が増えていると指摘。データが入手できた73カ国中51カ国で過去20年間に所得全体に占める賃金の比率が低下したという。最も下落したのは中南米・カリブ地域で、アジア・太平洋地域が続いた。

今夜のエントリーでは、6章構成のこのリポートのうち、第1章の概観部分と第2章の金融のグローバル化について取り上げたいと思います。第1章を少し詳しく見ると、まず、ここ数年の雇用情勢を概観して、フローとして、2000年以降の雇用の増加の過半はアジア太平洋地域で創出されていることや、ストックでも、雇用者に占める先進国の割合が15%程度に低下して来ていることが示されています。また、1990年以降の生産性の伸びでは中国が群を抜いていることも明らかにされています。下のグラフは2000-2007年における雇用者増加の内訳です。リポートの pp.4 Figure 1.1 を引用しています。

Share of employment growth by region, 2000-2007

その上で、旧ソ連・東欧などの一部の国を除いて、労働分配率がおおむね低下しているデータが示され、1990年代から2000年、さらに、2000年から2005年に不平等の度合いを表すジニ係数が上昇した国が多いと指摘しています。下のグラフは1990年代から2000年にかけてのジニ係数の推移について、先進国とアジア太平洋地域を並べてみました。上のグラフから日本はほぼ先進国の中ほどであることや、下のグラフから中国の不平等化が進んでいることが、明らかにされています。これはリポートの pp.11 Figure 1.6 からの引用です。

Gini index by region for 1990 and 2000

続いて、所得の10分位で占める第1分位と第10分位のシェアから、第10分位のシェアが上昇傾向にあるデータが示されています。さらに、最近時点までのエネルギーや食料などの商品価格の上昇が家計の購買力に及ぼす影響について、当然ながら、所得の低い階層ほど購買力へのマイナスの効果が生じていることをインドと米国の例を引きながら測定しています。加えて、不平等の影響として、健康面への悪影響、性別や民族による差別、汚職の広がりなどを上げて、所得の不平等を何らかの政策で是正する必要を結論して、第1章を締めくくっています。

第2章では金融のグローバル化が不平等に及ぼす影響について取り上げ、まず、金融のグローバル化そのものが不均一に進行している事実を指摘し、少なくとも資産の不平等を是正する方向には作用しなかったとして、以下のような資産の所得のジニ係数を並べた表を示しています。国目のアルファベット順ですから、少し一覧性がわるいんですが、少なくとも、フローの所得よりもストックの資産の方の不平等の度合いが大きいことが見て取れます。リポートの pp.44 Table 2.1 を引用しています。

Wealth inequality in selected countries

さらに、不均一に進んでいる金融のグローバル化の進展の程度と労働分配率を比較し、リポートの pp.52 Figure 2.7 から引用した下のグラフに示されている通り、金融のグローバル化が進んだ国ほど労働分配率が低くなる傾向を示しています。そして、第2章の最後では、やや唐突感があるんですが、これらの金融のグローバル化に伴う不平等の進行については、所得の再分配を活用すべきであることが結論されています。要するに、ものすごく斜め読みした私の感触では、金融のグローバル化が進行すれば所得や資産の不平等化が進むんですが、さすがの ILO も金融のグローバル化を止めるというわけではなく、その不平等化の悪影響を緩和するような所得再分配をオススメしているようです。

Financial globalization and the evolution of the wage share

このほか、リポートでは、第3章では騒動組織と不平等、第4章では雇用形態と所得不平等、第5章では税制と社会保障を通じた所得再分配、第6章では諸政策を結びつける課題として働きがいのある人間らしい仕事 (decent work) の達成、などを取り上げています。第3章では、多くの国で1989年から2005年にかけて労働組合の組織率が低下し、労働組合組織率とジニ係数の間には負の相関があること (pp.83 Figure 3.1)、第4章では明確な関係は見出せないものの、パートや非正規雇用が何らかの悪影響を所得分配に及ぼしていると見られること、第5章では社会保障制度や税制が所得再分配の強力なツールとなり、特に私が興味深かったのは、教育関係支出がGDPに占める割合は明確にジニ係数と逆相関していること (pp.132 Figure 5.3)、最後に、第6章では雇用を促進し、所得の不平等の改善のため、経済政策・労働政策・社会政策の諸政策を結びつける働きがいのある人間らしい仕事 (decent work) 課題を促進する必要があること、などが結論とされています。なお、PDF ファイルで200ページ近い英文リポートを大胆に斜め読みしていますので、正確性や完全性は保証しかねますから、出来るだけ、原典を参照するよう強くお勧めします。特に、私には decent work 課題は抽象度が高すぎてピンと来ません。

昨今の金融危機の拡大の中で、格差や不平等の問題は後景に退いた観があり、日経新聞のサイトで報じられていたように、本学でも学生の就職を心配する声の方が強いんですが、国際機関の英文リポートを取り上げるのはこのブログの特徴でもありますので、ものすごい斜め読みながら、初めて ILO のリポートを紹介してみました。

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