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2008年10月 7日 (火)

米欧における金融危機の日本経済への影響をどう考えるか?

実は、このブログでもチラリと書きましたが、先週の金曜日に長崎ローカルのテレビ局から取材があり、「米国の金融危機の日本経済・長崎経済への影響」ということで少しお話したんですが、その後、米国では下院で金融救済法案が可決され、大統領の署名を経て即日成立したり、米国だけでなく、このブログでも欧州への金融危機の拡大をかねてより指摘して来たところ、その通りに、欧州で金融危機に関する首脳会議が開かれて決裂したりと、週末に大きな動きがありましたので、再取材がありました。それから、偶然なんでしょうが、同じく長崎ローカルの新聞からもまったく同じテーマでインタビューを受けました。テレビは明日の夕方の報道番組で放送する予定だそうで、新聞も明日の紙面に私のコメントが掲載されるかもしれません。どうでもいいことですが、テレビに話を戻すと、金曜日はいい加減な格好でしたので、授業のある今日、ちゃんとした服装で再び取材に応じられたので助かった気がします。

ということで、改めて、取材に答えたことを中心に、米欧での金融危機の日本経済・長崎経済に対する影響について取り上げたいと思います。まず、この影響のチャンネルについては3つあると私は考えています。第1に輸出から来るマイナスの影響です。これには2点あり、米欧の通貨建ての証券がリスクが高いと判断されることから売られて、円が独歩高の様相を呈している為替の影響と、当然ながら、米欧の景気の悪化による需要面の影響です。昨年まで続いていた日本の景気拡大局面では輸出に依存する部分が大きかっただけに、輸出が減速すれば影響は大きいと考えざるを得ません。長崎の場合は、造船業や半導体への影響が懸念されます。特に、造船業については資源高で需要が喚起されていた面がありますから、米欧経済の悪化とともに原油価格などが大幅に下落しており、影響は国内産業の中でも大きいと見られます。もともとが韓国などと比べて十分な国際競争力があるとは必ずしもいえない産業だけに、現時点で受注残高があっても将来に向けて業況が悪化することは避けられそうもありません。半導体産業の場合は国際競争力がまだ造船よりも高いと見られる上に、資源価格の下落から恩恵を受ける方の産業ですから、造船よりは影響度合いは少なくて済みそうな気もします。最後に、長崎の主要産業のひとつである観光については、国内景気の冷込みによる国内観光客への影響と、円高が海外からの観光客に及ぼす影響ともにネガティブと考えざるを得ません。
第2のルートは金融機関が米欧の金融危機に巻き込まれる金融のルートです。10月1日に発表された日銀短観などを見ても、日本国内における貸渋りがすでに発生している可能性が示唆されていると私は考えていますので、全国レベルではまだ始まったばかりの状態かもしれませんが、もしも、長崎に貸出し先として限界産業が多く存在するのであれば、これも一定の影響は避けられません。しかし、長崎は別にして、このルートからの影響は日本国内一般にそれほど大きくないだろうと考えられます。第3のチャンネルは資源高の終焉による物価の沈静化で、これだけが国内景気に対してプラスの効果を有します。遅くとも来年に入れば、生鮮食品を除くコア消費者物価は日銀の「物価安定の理解」の上限である2%を下回ようになると私は考えています。価格面からは消費を押し上げる要因ですが、国内需要が冷え込んでいる中で、景気拡大期にも期待できなかった所得の増加は望めませんから、どこまで消費を下支えするかは不透明といわざるを得ません。
日本経済や長崎経済に対する影響を離れて、米欧での金融危機について、米国と欧州に分けて概観すると、まず、米国では、従来の主張の繰返しになりますが、金融救済法において、いわゆる銀行の健全性の指標となる自己資本比率で考えて、分母の総資産のうち不良債権部分を政府が買い上げることは盛り込まれましたが、分子の資本注入のスキームが欠如しているのは質的な面で市場には不満が残るかもしれません。さらに、仲介機関である金融機関の救済が主眼ですから、根本原因であるサブプライム住宅ローンへの対策が欠けています。米国の景気は何らかの資産価格上昇に基づく個人消費が起点となりますから、住宅資産の価格下落を止めて、価格上昇に転ずるような政策も模索されるべきです。
欧州については、今回の金融危機で気になる点が3点あります。第1に、ユーロ圏だけの話で英国なんかは別ですが、ユーロ圏では金融機関の資金繰りのための流動性供給は欧州中央銀行 (ECB) が実施しているのに対して、銀行の健全性を確保するプルーデンス政策は各国の財政当局が担当しています。この流動性供給とプルーデンス政策の政策主体のズレが各国の思惑の違いにつながって、先の首脳会議の決裂をもたらした面があるような気がします。第2に、これもかねてから指摘して来た通り、大陸欧州では日本でいうところの証券会社、米国でいうところの投資銀行と、決済を行う市中銀行がいっしょになった、場合によっては保険会社までが兼営されているユニバーサルバンキング制を採っています。米国の金融危機で真っ先に破たんしたのは投資銀行や保険会社でしたから、おそらく、社内的にチャイニーズ・ウォールのようなものはあるんでしょうが、日本のような銀行と証券会社とを分離しているシステムに比べて、ユニバーサルバンキングの下では決済が滞る可能性がやや高いような気がしてなりませんから、少し心配です。第3に、一般に欧州ではディスクロージャーが進んでいません。米国で義務付けられているような四半期ごとの決算発表をしていない会社も多く、ディスクローズしたらアッとびっくりの大赤字、なんて事態が生じる可能性も米国などに比べて高いことも考えられます。

取りあえず、米欧の金融危機については輸出のチャンネルを通じて、日本の国内景気をさらに下押しする圧力を強める影響がもっとも大きく、金融ルートのネガティブな効果や物価の安定のプラスの影響はそれほど大きくないと私は考えていますが、今日発表された景気ウォッチャー調査に見られるように、マーケットの混乱による消費者マインドの悪化の影響も決して無視できないような気がします。

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