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2008年10月 3日 (金)

米国の金融救済法案をどう考えるか?

今週に入って、米国議会下院で緊急経済安定化法案が否決され、NY 市場でダウ平均株価が暴落して、一時、金融市場はパニックに近い状態になりました。その後、修正を加えた法案が上院で可決され、現在は下院に差し戻されたりしています。上院では共和党と民主党の大統領選挙候補者であるマケイン上院議員とオバマ上院議員が yea の投票をする場面が日本のニュースでも流れたりしました。今後の法案の行方は決して楽観できませんが、少し旧聞に属する話題ながら、米国の経済学者が9月24日付けで議会に金融救済法案を可決するように声明を送付したりしています。シカゴ大学のサイトでこの声明を見ることができます。また、"Wall Street Journal" のサイトで上院が修正して可決した法案の PDF ファイルもネットで見つけました。もちろん、英文で450ページ余りあります。ご興味ある方はどうぞ。
GSE であるファニーメイやフレディマックは別として、私は従来から、ベア・スターンズ証券、リーマン・ブラザーズ証券などの経営危機の際に specific な案件ごとに passive かつ individual に対応するには限界があり、何とか proactive かつ comprehensive なスキームを模索するべきであると主張して来て、今回の法案はそれなりに包括性を持ったものなんですが、私が少し疑問に感じているのは、proactive ではないということです。すなわち、政府による不良債権の買取りが法案のメインとなっていて、資本注入については割愛されました。一般的によく知られているように、銀行経営が危機に陥った際に健全性を確認するひとつの指標として自己資本比率が上げられます。分子が自己資本で分母が貸出しなどの総資産です。今回の法案では分母の総資産のうちの不良債権化している証券だけが対象で、しかも時価で買い取るスキームとなっています。分子の資本を注入するシステムが欠けています。大昔の1930年代の大恐慌期には資本注入のスキームが成立しましたが、今回も1980年代末に発生した S&L 危機の際にも資本注入の制度は見送られています。いつか指摘した通り、買い取るための資金が十分かどうかといった量の問題ではなく、proactive な措置を含めた資本注入のスキームが欠けているという質的な点が私には気がかりです。
もちろん、大恐慌期は例外中の例外で、S&L 危機の際と同様に今回も資本注入のスキームを盛り込むハードルが高いのは私も承知しています。米国下院議員の肩を持つわけではありませんが、国民の理解を得る上で次の2点が障害になっていることを指摘しておきたいと思います。第1に、何といっても大統領選挙が11月に控えています。日本と違って政府が経済に介入する風土が希薄な米国で、余りに介入の度合いを強めることに大統領選挙と同時に全員が改選を迎える下院議員が抵抗したことは理由がないことではありません。その点、上院議員は 1/3 改選にとどまりますから、比較的フリーハンドに近い投票行動をとることができるのかもしれません。第2に、国民の理解を得にくい条件として、米国の投資銀行の CEO などに止まらず、一般のディーラーなんかもびっくりするような高額の給与を得ていたことが上げられます。国民感情として、景気がいい時に大儲けしておきながら、景気が悪くなると税金で救済してもらう、というのには抵抗があるのももっともで、選挙の近い下院議員は敏感にこのような雰囲気を感じ取ったのかもしれません。

いずれにせよ、proactive かつ comprehensive なスキームで不良資産買取りとともに、健全行であっても政府の判断で資本注入できる法律が成立していながら、日本では不良資産の削減には10年かかりました。従来から私が指摘している通り、同じくサブプライム・ローンを震源地とする欧州での金融危機、さらには、原油などの商品価格下落による金融危機が今後も生じる可能性を排除できない中で、唯一残った世界のスーパーパワーとして米国の金融システム健全化の道のりは長いのかもしれません。

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