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2008年10月12日 (日)

金融危機に関する極端な論調への批判

激動の1週間を終えて、昨日今日とゆったり休んで、この金融危機の報道なんかに接していると、非常に極端な論調がまかり通っているような印象があります。少し前までは、米国の進んだ金融技術を賛美して、高レバレッジの資金運用を行い、CEO のみならずヒラのトレーダーに至るまで高給をもらっている投資銀行のビジネス・モデルを賞賛する意見は激しく後景に退き、今では逆に、投機的な資金運用を行ったあげくに、世界を金融危機に陥れたと非難する意見が大きく前景に出て来ているような気がします。メディアの論調の中で、米国の破綻した金融機関の投資活動なんかをギャンブルに例えている極端な意見も見かけましたが、ギャンブルに勝っている時はウハウハで、負ければ石持って追われるといったところで、小学生のころに読んだ芥川龍之介「杜子春」を思い出してしまいました。
しかし、翻って考えると、我が国の金融機関も5-6年前までのデフレ期には投資先がなく、「貯蓄から投資へ」の流れから外れて、銀行預金に固執していた国民から大量の預金を受け入れた資金を、時あたかも、小渕内閣から森内閣のころの積極財政政策の裏側で大量に発行されるようになった国債で運用していて、ローリスク・ローリターンが明らかなこのビジネス・モデルがどの程度評価されるのかは議論の分かれるところだと思います。このビジネス・モデルだと going concern を全うすることは可能なのかもしれませんが、金融機関としての社会的使命ともいうべき資金の潤滑な流れを仲介していると言えるのかどうか、大いに疑問が残ります。ギャンブル性まで指摘されかねない投機的なハイリスク・ハイリターンの資金運用と、せっせと安全資産の国債で運用するローリスク・ローリターンの両極端の金融機関のビジネス・モデルの間で、何らかの新しい運用モデルを今一度考え直すいい機会だという気もします。
さらに、金融機関の救済については少し否定的な意見が強まっている懸念があります。その根拠とされているのは高給であったり、税金投入に対する否定的な見方だったりします。もちろん、救済の範囲が広すぎればモラルハザードを助長しますが、狭ければシステミックリスクの危険が高まります。結果論なんでしょうが、リーマン・ブラザーズ証券は救済すべきではなかったのかとの意見が根強くあることも事実です。実は、私もリーマン・ブラザーズ証券は救済すべきだったと考えているひとりです。3月半ばに米国第5位のベア・スターンズ証券を救済したんですから、4位のリーマン・ブラザーズ証券を破綻するに任せた米国財務省の判断は、私にとっては理解に苦しみます。ファニーメイやフレディマックの GSE の救済に続いて、9月半ばに、メリル・リンチ証券は民間ベースで救済合併にこぎつけましたし、AIG には連邦準備制度理事会がつなぎ資金を融資しましたが、リーマン・ブラザーズ証券だけは救済されずに連邦破産法第11条の申請に至りました。もちろん、経営陣や株主の責任を問いつつ、救済することも水面下では視野に入っていたんでしょうが、ポールソン財務長官の記者会見ではそういった見方は否定されたように私は感じています。この方向性が、そのまま米国下院での金融救済法案の否決につながったんですから、救済されていれば金融市場はここまで崩壊の体を示すことはなかったように思わないでもありません。全く反対の実例は日本で見出すことが出来ます。2003年のりそな銀行の救済です。当時、私はジャカルタにいて肌で雰囲気を感じることは出来ませんでしたが、国民世論も当時の竹中金融担当大臣をはじめとする政界でもハードランディング志向が強かったのに対して、結局、りそな銀行を救済することにより、もちろん、その他の要因も大いに作用したのは事実ととしても、日本は息の長い景気拡大局面を続ける一助とすることが出来ました。まだ反対意見は残されているのかもしれませんが、少なくとも、5年の期間を経て、りそな銀行救済の判断は正しかったと考えるエコノミストが多数を占めると私は思います。

金融機関のビジネス・モデルも、救済範囲も、どちらもキーワードはトレードオフです。ひょっとしたら、私たちは歴史の転換点を目撃しているのかもしれませんが、決して、ポジショントークに満ちた一部の識者の両極端の議論に流されることなく、次の時代を見据えた冷静な議論が必要だという気がします。

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