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2008年10月15日 (水)

金融危機における公的資金による資本注入の政治経済学

欧米で合わせて50兆円近い公的資金による資本注入が発表され、今月に入ってからの金融危機は取りあえず一段落したように見受けられます。「取りあえず一段落」というのは、これから先、年末から年始にかけて、今回の金融危機の影響が実体経済に波及して、すでに一部に貸渋りなども発生しているようですから、政府が事実上の景気後退を認めた我が日本は言うに及ばず、米欧でも景気後退をうかがわせる経済指標が次々と発表される可能性が大きく、控え目に言っても、一本調子で株価が上がる局面に入ったとは私にはとても思えないからです。
でも、一段落した現時点で、一段落させた公的資金による資本注入の政治経済学について少し考えておきたいと思います。まず、デメリットというか、反対意見が多い理由なんですが、すでに、このブログでも触れましたが、景気のいい時にボロ儲けをしていたくせに、景気が悪くなって破綻しかかったら公的資金で救済とはけしからん、という意見があります。経営が苦しくなって倒産しかかっても政府が助けてくれない中小企業は世の中にいっぱいあります。さらに、景気のいい時に、CEO や経営幹部はもとよりヒラのトレーダーまでかなり高額な給与を取っていたんですから、なおさら反発が強くなります。当然です。だからこそ、我が国の住専問題の時も大きな反対が巻き起こりましたし、米国下院も金融救済法案を一度は否決したわけです。
しかし他方で、システミックリスクはかなりのコストをかけても防止する必要があります。議会が国王の放漫な支出に対する徴税権を制約することを起源とするのに対して、金本位制を停止した管理通貨制の下では、中央銀行の本質的な存在価値のひとつはシステミックリスクを防止することも含まれていると私は考えています。日銀法第2条第2項の「資金決済の円滑の確保」と「信用秩序の維持」はそういう意味です。しかも、忘れてならないのは、公的資金を資本注入することにより、決して、税金を無駄にして欠損を出しているわけではないということです。今日の日経新聞のサイトにあった記事なんですが、日本はバブル崩壊後の金融危機を封じる過程で、総額46.6兆円の公的資金を投入した一方で、その後の経営改善や景気回復などにより約2.8兆円の利益が生じています。当然といえば当然なんですが、いわゆる leaning against the wind タイプの政策を取っているわけで、今のように株価が安い時に買って、経営が改善されて高くなってから売るんですから、利益が出るのは当たり前です。もちろん、そのまま倒産してしまう場合もあるでしょうが、日本では結果的に利益を生み出したことは先に引用した通り、歴史的な事実です。これは、オーバーシュートしそうになる為替に対する介入についても同じことが言えます。為替の円高が行き過ぎであれば、安いドルを買い支えて高い円を売り、逆に、円安の是正には高いドルを売って安い円を買うわけですから、安く買って高く売ることにより利益が出ます。もっとも、自国通貨の減価を防止する為替介入の後者の際は手持ちの外貨がショートすればアウトです。1997-98年のアジア通貨危機の際に見られた現象です。これを別とすれば、ある意味で、非常に単純な原理と言えます。しかも、米国財務省が当初考えていた不良債権の買取りよりも、資本注入の方が効率的なことも確かです。銀行の健全性を示す自己資本比率に即して言えば、国際決済銀行による、いわゆる BIS 規制では国際業務を行う銀行の自己資本比率を8%と決めていますから、分母の総資産に占める不良債権を買い取るよりも、分子の資本に公的資金を注入した方が額が少なくて済むのは明らかです。先週末の G7 をはじめとして、米国に対する風当たりが強かったのは、そもそも、サブプライム・ローンを原資産とする証券を売りさばいた証券会社が米国の会社だということもさることながら、米国財務省が不良債権買取りに固執して公的資金による資本注入を躊躇していたことが大きいと私は感じています。昨夜、紹介したクルーグマン教授のコラムでも、ためらいなく資本注入の実行を発表した英国のブラウン首相について、やや賞賛気味に取り上げていると紹介した通りです。

少なくとも、スパイラル的な金融危機やシステミックリスクは避けられたと私は感じていますが、それにしても、今年は3月半ばのベア・スターンズ証券の破綻の折にもシステミックリスクを感じてしまいましたし、さらに、最初に書いた通り、この先、景気悪化の指標が発表されるたびに株価はジリジリと値を下げる可能性もありますから、まだまだ本格的な景気回復は遠いと言わざるを得ないのかもしれません。

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