今日は日銀短観に見る景気後退局面
昨夜に続いて、景気後退局面をタイトルにしていますが、今日は9月調査の日銀短観が発表されました。まず、ヘッドラインの統計に関して、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
日銀が1日朝発表した9月調査の企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は大企業製造業でマイナス3となり、前回6月調査に比べ8ポイント悪化した。マイナスに転じるのは2003年6月調査(マイナス5)以来ほぼ5年ぶり。世界的に景気減速懸念が強まったうえ、米金融不安を背景にした株安・円高も企業の景況感を下押しした。3カ月後の先行きはマイナス4と悪化を見込んでいる。
DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値。9月26日にまとめた日経QUICKニュース社の調査では、大企業製造業DIの市場予想平均はマイナス2だった。
大企業製造業を業種別にみると、特に一般機械や精密機械の悪化が目立った。北米での販売不振が響き、自動車も3四半期連続で悪化した。業種別の先行きでは造船・重機等や金属製品など8業種で悪化した。
日銀短観の業況判断 DI が6月調査時点からかなり悪化し、ヘッドラインとなっている大企業製造業でマイナスに突っ込むことは事前に予想されていましたが、中身も予想以上に弱くなっています。大企業製造業を産業別で見ると、前回6月調査比で業況判断 DI が上昇している業種は鉄鋼、紙・パルプ、石油・石炭製品、窯業・土石製品の素材型産業であり、一般機械が▲20ポイント、精密機械で▲16ポイント、電機機械も▲12ポイント、自動車では▲10ポイントなど、加工組立型の主力輸出産業が軒並み大きく2桁のマイナスを記録しました。さらに、設備投資計画については GDP とベースを合わせたソフトウェアを含み土地を含まない計画で、大企業製造業が6月調査時点から▲1.1%ポイントの下方修正となり、全規模全産業でも▲0.7%ポイントの下方修正となっています。2008年度の計画自体は、全規模全産業で2007年度から+2.8%増となっているものの、設備投資計画が年度真ん中の9月時点で下方修正されるのは典型的な景気後退局面の特徴と言えます。雇用判断 DI についても、過剰から不足を引いた DI がまだマイナス圏内にあって、やや不足感が残っているものの、急激にゼロに向かっているような気がします。特に、前回の6月調査では先行きの9月時点で不足感が強まるとの結果だっただけに、これが逆転して不足感が緩和されているんですから、現時点から先行きの12月では不足感が強まるとの今回の調査結果にも少し疑問が生じます。先行きの見通しと実現値が乖離しているわけですから、今後、労働需給が急速に緩和する可能性を排除できません。最後に規模別に見ると、中堅・中小企業で資金繰りが悪化しており、これに従って景況感が悪化しているのが見て取れます。
上のグラフは日銀短観の業況判断 DI の推移を示したものです。2段重ねのグラフになっているうち、上の段が製造業、下の段は非製造業です。製造業・非製造業とも赤の折れ線が大企業、青が中堅企業、緑が中小企業です。影を付けた部分は景気後退期で、直近は私の判断で昨年10-12月期がピークであったと考えて影を付けています。12月の値は9月調査の先行き予想を取っています。上のグラフに現れる景気後退期は古い順から、1985年のプラザ合意からの急激な為替調整に伴う、1980年代後半のいわゆる円高不況期、1990年代前半のバブル崩壊後の景気後退期、1990年代後半の消費税率引上げや山一証券の破綻などを契機とした金融不安を背景とする景気後退期、今世紀初頭のいわゆる IT バブル崩壊後の景気後退期、そして最後に現在の5回の景気後退期が観察されます。
この5つの景気後退期の日銀短観における業況判断 DI のグラフのシェイプを見ると、大雑把に、製造業の方が景気に敏感な DI のシェイプを示しており、特に、1980年代後半の円高不況期と今世紀初頭の IT バブル崩壊後の景気後退期には製造業の落ち方が非製造業よりもスティープになっているのが見て取れます。そして、現在の景気後退局面に目を向けると、ほぼフラットなシェイプで推移した円高不況期の非製造業ほどではありませんが、製造業・非製造業とも傾きがそんなにスティープでないとともに、DI のレベルとしても、特に大企業では大きなマイナスに突っ込んでいるわけではないことが観察されます。もちろん、DI ですから、レベルに着目した議論は適当でない可能性も十分ありますが、昨夜のエントリーで言及した景気後退を判断する2つの要素である深さと期間に着目すれば、傾きがやや緩やかでレベルがまだ高いことは、どちらがどちらというわけではないものの、現在の景気後退の深さがそんなでもなくて浅いながら、期間が長い可能性を示唆していると受け取れなくもないと私は考えています。要するに、私の持論である「現在の景気後退局面は浅くて長い」をサポートしているように見えなくもありません。もっとも、この日銀短観の結果を自説に適合するように、DI のレベルというやや信頼性に欠ける指標でもって計測しているという批判が当たっている可能性は排除できません。特に、今世紀初頭の前回の景気後退局面では全規模全産業の業況判断 DI で見て、ピークからボトムまで▲27ポイントの悪化幅を記録していますが、今回は、この9月調査時点で直近のピークから▲22ポイント悪化しており、加えて、12月時点までの先行きで▲5ポイント悪化することが示されていることから、これを含めると今年中に前回の景気後退局面と同じ幅の悪化となる可能性があって、さらに、来年に入るとアッサリと前回の悪化幅を超えることも十分予想されます。従って、私の持説である「浅くて長い」は「長い」方が実現してしまえば「浅い」方は実現されなくなる可能性があるのか、と考えなくもありません。
今回の短観では、9月10日ころからのリーマン・ブラザース証券の破綻などの金融市場の混乱が生ずる前の段階での回収率が約6割であったとのことで、足下の景況感はさらに悪化している可能性が大きいことは、読みこなす上で注意が必要かもしれません。
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