日本企業の社会的な役割とは何か?
昨日、民間調査機関である帝国データバンクと東京商工リサーチから相次いで10月の企業倒産の統計が発表されました。どちらも、同じ傾向を示しているんですが、今夜のエントリーでは帝国データバンクの倒産集計からデータを取りたいと思います。どうしてかというと、家族を残して来た青山の自宅から赤坂図書館に自転車で行く時に、青山通りに面した帝国データバンクの本社の前を通るので、何となく親しみがあるからです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
民間調査会社の帝国データバンクが11日発表した10月の全国企業倒産集計によると、倒産件数は前年同月比13.7%増の1231件となった。比較可能な2005年4月以降では最多。建設・不動産業で相次いだ大型倒産で取引先などの連鎖倒産が発生したうえ、金融不安で銀行の融資態度が厳しくなったことで資金繰りに行き詰まった中小・零細企業の倒産が増えた。
負債総額は9790億1500万円で同約2.2倍。世界的な金融危機を背景に、大和生命保険や不動産投資信託のニューシティ・レジデンス投資法人などが倒産したため。
業種別でみると、建設業が324件で4.9%増えた。景気低迷や円高で苦しむ製造業は30.4%増の176件。小売業は6.0%増の231件、サービス業は18.0%増の203件だった。上場企業の倒産は8件だった。
ということで、記事にもあるように、基準変更のあった2005年4月以降の倒産件数と負債総額の推移をグラフで示すと以下の通りです。青の折れ線が倒産件数の推移で、右目盛の単位は件数です。赤の棒グラフが負債総額で、左目盛りの単位は10億円です。ただし、棒グラフの負債総額については、最新から2番目の今年9月の負債総額は表示し切れていません。すなわち、9月には日本法人のリーマン・ブラザーズ証券が戦後2番目の負債3兆4314億円で破綻したこともあり、実は、負債総額は5兆3198億円に上ります。グラフの左目盛りの上限は1兆円で切ってありますので、表示し切れていません。悪しからず。
倒産件数は一貫して増加傾向にあるものの、負債総額は今年の年央から1兆円近い月が多くなり、経済への影響も大きくなっています。特に、10月の特徴として、主因別の内訳を見ると、8月に続いて、いわゆる「不況型の倒産」が80%を超えていることが上げられます。すなわち、原材料価格が高止まりしている状況にあって、内外ともに景気後退が加速して不況色を強め、内需の停滞に加えて外需の減速も加わり、企業の収益環境が大きく悪化しているところに、金融危機の深刻化から金融機関の厳しい融資姿勢が続き、資金調達環境がさらに悪化しているため、倒産が増加しているという構図です。
日本では、英米流のコーポレート・ガバナンスに代わって、企業の社会的責任 (CSR) という概念が普及していますが、私から見て日本企業の最大の社会貢献は従業員への OJT ではなかろうかと考えています。大学教員として恥ずかしながら、義務教育を終えて高校・大学の3-7年間で教えることと、期間が大きく違うながらも、就職してから約40年で身に付けるものを比較して、日本はこの学校と企業の教育訓練に果たす役割の差がもっとも大きい国のひとつではないかと思います。イメージ的に考えるだけなんですが、米国では、MBA とまで言わないとしても、大学でかなりのハードな勉強が待ち受けている一方で、転職が多いものですから、企業内の OJT よりも職場の外における能力開発の方に重点があるような気がしないでもありません。日本企業は会社の外で得た能力を基に所得を得る場としてだけではなく、従業員の能力や生産性を高める場でもあるような気がします。つまり、日本では高校や大学での勉強に比較して、圧倒的に就職してから学ぶ部分の方が大きいと私は考えています。もっとも、学校レベルで教える汎用的な教育と異なり、企業では個別企業特有の教育訓練を実施するんでしょうから、企業が倒産したりして転職を余儀なくされると、かなりの分がムダになる可能性を秘めているという意味で、企業が本来の going-concern としてのみ果たし得る役割かもしれません。
米国の自動車産業はビッグスリー救済法案を協議するとも報じられていますし、今年から来年にかけては企業の生き残りをかけた体力勝負の場面が来そうな気がします。やや無責任な表現に聞こえるかもしれませんが、雇用を維持し従業員の教育訓練に大きな役割を果たしている企業が生き残ることを望みたいと思います。
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