恩田陸『きのうの世界』(講談社)を読む
先月1月5日付けのエントリーで、第140回直木賞候補としてチラリと取り上げましたが、恩田陸さんの『きのうの世界』(講談社)を読みました。実は、直木賞を受賞した天童荒太さんの『悼む人』(文藝春秋)と山本兼一さんの『利休にたずねよ』(PHP研究所)はまだ読んでなかったりします。右に示した表紙もそうなんですが、実に幻想的なファンタジーでした。「塔と水路のある町」を舞台に、1年前に失踪して半年前に殺された市川吾郎という男性の謎を解き明かす形でストーリーは進みます。この男性が何でも目で見たものを画像的に正確かつ詳細に記憶できることがひとつのキーポイントになります。まあ、これくらいはネタバレではないと考えるべきです。読み始めればすぐに分かると思いますし、これすら分からないのであれば文学を鑑賞しようとする資質に欠けると受け止められかねません。それはともかく、ノッケから2人称で書き出された小説はめずらしいような気がします。しかも、「あなた」は読者ではなく、とある登場人物の系塁だったりします。しかし、その後はずっと3人称で書かれています。最後の最後で、市川吾郎の死の謎が作者自身によって解き明かされ、この「塔と水路のある町」の本当の秘密も明らかにされます。作者の恩田さん自身が「集大成」と言うだけあって、恩田ワールドをたっぷりと堪能できます。ただし、一部のサイトで書かれているようなミステリではありません。推理小説の要素は全くありませんから、間違った読み方をしないようにご注意です。
恩田さんの世界観を楽しむ本だという気がします。ですから、万人にオススメできる小説ではなく、評価も分かれるだろうことは私も理解します。特に、結末を難を付ける人がいるようにも聞き及びます。このエントリーを書き上げる直前に Amazon のサイトを見ると、13件のレビューがアップされていて、ものすごくバラついています。1ツ星こそいませんが、5ツ星3人、4ツ星2人、3ツ星と2ツ星が4人ずつです。見事にバラバラです。ということで、私の評価は4ツ星半くらいで、Amazon の平均と比較すれば高い方だという気がします。
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