実は、米国の金融安定化策の評価はすでに2月12日のエントリーで取り上げており、繰返しになりますが、おさらいしておくと、第1に官民によるバッドバンク、第2に TARP II に基づく銀行検査と予備的な資本注入、第3に FED からのターム物を担保とする貸出しの1兆ドルへの拡大、第4に住宅ローンの借り手救済、と要約しました。同時に、大手銀行が公的介入の強化を忌避する観点から政府の資本注入を回避するために、大規模なリストラを行ったり市場における資本調達を強引に進めたりすると、逆に、銀行のバランスシートの急激な縮小や貸渋り・貸しはがしの強化につながりかねないとの危惧があることや、TARP を超える資金手当が示されなかったため、財政資金の限界がマーケットから見透かされて、バッドバンクの今後の進捗に疑問符を付け、官民ではなく民間資金だけでバッドバンクを立ち上げることになる可能性も指摘しておきました。
取りあえず、政策の順番としては、stress tests で検査の結果を見て、資本注入をするなり、不良債権をバッドバンクに移すなりするんですから、この順番でいいような気もしますが、規模の点でかなり不足しているような気がします。特に、上のパラの4点の金融安定化策のうちのバッドバンクと資本注入では、次の3点を考慮しつつ進めることが重要だと私は考えています。第1に財政資金投入に対する国民の反発、第2に stress tests の結果、銀行経営の実態が想像以上に悪化していることが明らかになり金融危機を増幅させる可能性、第3に財政資金の余裕です。第1と第2については現時点では何とも言えませんが、第3の財政資金不足はやや心配です。というのは、今日の日経新聞によれば、 stress tests は大手19行くらいが対象と報道されていて、TARP II の残りは3500億ドルですから、すべてを資本注入に注ぎ込むとしても1行当たり200億ドル足らずとなり、バッドバンクを含めると TARP II だけでは財政資金が大幅に不足します。もしも、大手銀行の方で政府からの資本注入を忌避するのであれば、財政資金をバッドバンクに注ぎ込んで、stress tests の結果として自己資本比率の分母の方から資本注入するのではなく、分子の方の不良債権の減額に傾く可能性もなしとしません。でも、自己資本比率は大雑把に10%ですから、分母の資本に注入する金額の10倍の資金がなければ分子の不良債権を買い上げることによって同じ自己資本比率は達成できず、資金効率が悪いことも事実です。
それから、これは私の英語力の限界かもしれませんが、昨日のオバマ大統領のスピーチではやっぱりウォール・ストリート=金融よりもメイン・ストリート=製造業に経済政策の重点が置かれていたように感じました。オバマ政権の最優先の政策目標は雇用であり、金融安定化はそれ自体としては後景に退いているような印象も感じてしまいました。オバマ大統領とガイトナー財務長官の間に温度差がある可能性も否定できません。雇用に寄与するとの観点から金融機関の貸渋りや貸しはがしを防止するのであれば、日本ほどの政策ツールは米国にはないものの、金融安定化よりももっと直接的な資金供給策が模索される可能性もあります。可能性はとても低いと思いますが、そんなことをすれば、さらに大きな金融市場の混乱を招く結果になりそうな気がします。
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