今年1-3月期GDP速報 (1次QE) をどう見るか?
本日、内閣府から1-3月期のGDP速報が発表されました。エコノミストの業界で1次QEと呼ばれている重要な経済指標です。昨夜のエントリーでシンクタンクなどの予想を取り上げた際に指摘した通り、過去最大のマイナス成長を記録しました。まず、いつもの通り、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインなどに関する記事を引用すると以下の通りです。
内閣府が20日発表した1-3月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質で前期比4.0%減、年率換算で15.2%減となった。減少率は戦後最大を記録。初めて4四半期連続のマイナス成長となった。昨年秋以降の世界的な金融危機の影響による輸出の落ち込みが拡大したのに加え、設備投資や個人消費などの内需も減少幅を広げた。
同時に発表した2008年度のGDPは実質が3.5%減、名目が3.7%減でいずれも戦後最大の減少率を記録。実質は01年度以来7年ぶり、名目は02年度以来6年ぶりにマイナス成長へ転じた。
過去のデータの季節調整などを修正した結果、昨年10-12月期の実質GDPは前期比年率14.4%減へ2.3ポイント下方修正した。その時点で、第一次石油危機の1974年1-3月期の年率13.1%減を超える減少率を記録していたことになった。1-3月期は2四半期連続で「戦後最大」の落ち込みを更新。昨秋以降の日本経済の急落ぶりを改めて浮き彫りした。
まったくどうでもいいことですが、今朝がたに1次QEが発表されるまで、1974年1-3月期の前期比年率▲13.1%、前期比▲3.4%が戦後最大のマイナス成長とされていたんですが、発表後には、昨年2008年10-12月期の統計が改定されて、この期が前期比年率▲14.4%、前期比▲3.8%と石油危機後の1974年1-3月期を上回るマイナス成長だったことが判明しました。記事ではその点を訂正していたりします。次に、いつものGDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者所得を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは名目ですし、GDPデフレータだけは伝統に従って原系列の前年同期比となっています。アスタリスクを付した民間在庫と外需は前期比伸び率に対する寄与度表示となっています。なお、計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は保証しません。正確な計数は最初にお示しした内閣府のリンクからお願いします。
需要項目 | 2008/ 1-3 | 2008/ 4-6 | 2008/ 7-9 | 2008/ 10-12 | 2009/ 1-3 |
国内総生産GDP | +0.8 | ▲0.9 | ▲0.6 | ▲3.8 | ▲4.0 |
民間消費 | +1.4 | ▲1.0 | +0.1 | ▲0.8 | ▲1.1 |
民間住宅 | +4.8 | ▲2.0 | +3.1 | +5.5 | ▲5.4 |
民間設備 | +1.7 | ▲2.9 | ▲4.4 | ▲6.7 | ▲10.4 |
民間在庫 * | ▲0.1 | ▲0.2 | ▲0.0 | +0.5 | ▲0.3 |
公的需要 | ▲1.3 | ▲0.7 | ▲0.0 | +1.3 | +0.2 |
外需 * | +0.0 | +0.5 | ▲0.1 | ▲3.2 | ▲1.4 |
輸出 | +2.4 | ▲0.8 | +1.0 | ▲14.7 | ▲26.0 |
輸入 | +2.4 | ▲4.2 | +1.5 | +3.1 | ▲15.0 |
国内総所得GDI | +0.8 | ▲2.2 | ▲1.6 | ▲1.4 | ▲1.9 |
名目GDP | +1.3 | ▲2.1 | ▲1.5 | ▲1.6 | ▲2.9 |
雇用者所得 | +0.4 | ▲1.3 | ▲0.2 | +0.5 | +0.0 |
GDPデフレータ | ▲1.3 | ▲1.5 | ▲1.5 | +0.7 | +1.1 |
次に、少し長い期間を取ったGDP前期比成長率のグラフと、最近時点での需要項目別に寄与度分解したグラフは以下の通りです。上のパネルはGDPの前期比成長率、左軸の単位は言うまでもなくパーセントで、影を付けた部分は景気後退期です。下のパネルは、そのGDP前期比成長率に対する寄与度で、単位は同じくパーセントです。
今日発表された今年1-3月期には、下のパネルの寄与度で見て、公的需要を除くすべての需要項目がマイナスとなりました。「総崩れ」と称されるのももっともです。特に大きいのは外需と設備投資で、消費もマイナス幅を広げています。全体としてのGDP前期比成長率▲4.0%は市場の事前コンセンサスを少し上回ったくらいで、この結果、東証の日経平均株価は上げたりしましたが、需要項目別に見ていい内容とは私にはとても思えません。逆説的ですが、第1に、在庫調整がまだ進んでいないように見られ、それが成長率を若干なりとも押し上げているように感じています。昨年10-12月期の寄与度である+0.5%の逆で、1-3月期には寄与度で▲0.5%くらいの在庫調整があってしかるべきなんですが、▲0.3%にとどまりました。これは4-6月期にさらなる調整を要する可能性があります。この点に気付いているエコノミストは多くないように私は感じています。第2に、雇用の悪化に伴う所得面からの消費押下げ圧力が強まっているように見えます。特に、夏季賞与と関係して、私は4-6月期と7-9月期はともにプラス成長の可能性があると考えているんですが、後者の7-9月期は輸出が伸びなければ少し怪しいかもしれません。第3に、設備投資については、先週、機械受注を取り上げた金曜日のエントリーで書いた通りで、生産の下げ幅が大きい分、資本ストック調整はもう少し時間がかかる可能性があります。
この1次QEを受けて、私の景気パスに関する基本的なシナリオは変わりないんですが、改めて書くと、4-6月期と7-9月期はプラス成長に回帰し、その後、今年の年末か来年の年始に再びマイナス成長を記録してから、来年年央には本格的な景気回復期を迎える、というものです。事後的には、今年1-3月期が景気の谷だったと判定される確率が高いように受け止めています。もっとも、4-6月期のプラス成長が小さく、7-9月期には早くもマイナス成長に戻るようだと、今年の10-12月期か来年前半が谷と判定される可能性も残されています。昨年2008年10-12月期と今年2009年1-3月の大幅なマイナス成長は生産と在庫の調整速度が速かっただけであるとの持論と合わせて、私の考えを大学の紀要あたりで取りまとめようかと考えないでもありません。もっとも、大学の紀要が時論を掲載してくれるのかどうかは私は知りません。
最後に感想を2点あげると、第1に、経常収支の報道で年度の数字が大きくクローズアップされたんですが、さすがに、今回の1次QEでは2008年度の▲3.5%のマイナス成長を大きく報道するメディアは少なく、逆に、足元の4-6月期はプラス成長となる可能性を示唆する記事が多く、キチンとした取材がなされていることを実感しました。第2に、本格的な景気回復は来年年央からとなると、それでなくても厳しい学生諸君の就職戦線は来年からさ来年にかけてさらに3年連続で悪化する可能性が高くなったような気がしないでもありません。1990年代半ばのバブル崩壊後の氷河期や超氷河期で大量のフリーターを生み出した経験に基づき、何とか就職状況の改善を願って止みません。
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