新型インフルエンザの経済的な影響をどう見るか?
すでにメディアで広く報道されている通り、メキシコや米国を中心に豚インフルエンザというか、新型インフルエンザがパンデミックに近づきつつあり、世界保健機構 (WHO) では警戒レベルを6に引き上げることを検討しているようです。当然ながら、エコノミストとして気がかりなのは経済活動への影響です。
まず、国内企業の新型インフルエンザへの対応状況なんですが、三井住友海上グループのインターリスク総研が国内全上場企業3,873社に対し、「新型インフルエンザ対策の実態調査」をこの1-2月に実施し、3月に回答状況を取りまとめています。上場企業ということで大規模な会社だけを対象にしている上に、620社(回答率16.0%)と十分な回答結果を得られているわけではなく、すでに過去の数字となっている可能性が高いんですが、簡単に紹介すると、「対策を実施している」が30.0%、「計画を策定中である」が25.3%と合わせて過半に達していおり、意識の高さがうかがえる一方で、「対応の予定はない」が32.4%と約 1/3 に上っています。対策実施企業は2008年6月に実施した同様の調査結果である9.8%と比較し20%ポイント以上増加しています。もちろん、この比率はここ1-2週間でさらに上がっているものと考えられます。しかし、対応予定がない企業の過半である52.7%は「引き起こす事態があまりにも重大なもので、企業の対応能力を超えるから」を理由に回答しており、この状況は変わっていない気もしないでもありません。
次に、今日のエントリーの表題にダイレクトに答えるものとして、三菱UFJ証券の景気循環研究所が4月28日に「新型インフルエンザの感染拡大が経済に与える影響 - 09年4-6月期の実質GDPを0.4%程度押し下げ」と題するリポートを発表しています。結果は以下の表の通りなんですが、一番上の行にあるように、2003年のSARSの際の例を参考に海外旅行と医療と輸出について、いくつかの前提を置くと、最後の行のように今年4-6月期の実質GDPを▲0.4%押し下げる経済的な効果があると試算されています。
海外旅行 5月以降▲90%減少 | 医療費 5月以降+7.1%増加 | 輸出 5月以降▲2.7%減少 |
4-6月期消費を▲0.4%押下げ | 4-6月期消費を+0.2%押上げ | 4-6月期輸出を▲1.8%押下げ |
4-6月期消費を▲0.2%押下げ | ||
4-6月期GDPを▲0.4%押下げ |
私自身の根拠のない直感として、5月以降の海外旅行が▲90%減少するのは少し過大な前提ではないかと考えないでもありません。SARSの際の例はリポートにもあるように▲53.6%でしたし、4-6月期の海外旅行はビジネスを別にして観光ということになればゴールデンウィークに集中しており、予定通りに出発した人が多いんではないかと思います。さらに、海外旅行の減少分は国内旅行の増加である程度はカバー出来る部分があるようにも思えるからです。もっとも、先月4月21日付けのエントリーで取り上げたように、私も長崎県における定額給付金の経済効果を試算してみましたが、こういった試算は前提の置き方で大きく結果が左右されるのは言うまでもありません。
しかし、いずれにせよ、輸出も含めて▲0.5%未満とはいえ、経済的に無視できないマイナスの影響があることは確かです。どうして無視できないかというと、従来からこのブログでも主張している通り、4-6月期のGDP成長率は一時的ながらプラスに転ずる可能性があると私なんかは考えているからです。場合によっては、新型インフルエンザの影響を考慮しない実力ベースでプラスであったろうと考えられるにもかかわらず、新型インフルエンザの影響で結果としてマイナス成長となれば、企業や消費者のマインドにも悪影響を及ぼすことにもつながりかねません。まだ、1-3月期のGDP統計の1次QEが5月20日に発表される前の段階ながら、エコノミストとしては足元の景気が気にかかるところです。
まったくどうでもいいことながら、メキシコで広く使われているのはスペイン語です。私も在チリ大使館で外交官をしていた経験がありますからスペイン語は理解して、テレビなどでメキシコ人の政府高官らがインフルエンザのことを grippe と言っているのを見かけたりします。女性名詞です。私の知る範囲ではフランス語とドイツ語も同じく grippe です。どうして英語だけ influenza と称するのかがとっても不思議に感じたりしないでもありません。
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