アーチャー The Prodigal Daughter を読む
アーチャーの The Prodigal Daughter を読みました。Pan Books のペーパーバックを長崎市立図書館で借りました。上の画像は著者であるアーチャーのホームページから引用しています。日本の邦訳は『ロスノフスキー家の娘』として新潮文庫から出版されています。もちろん、原題は『聖書』の「放蕩息子の帰還」を下敷きにしていることは言うまでもありません。タイトルを上げただけでも分かるように、『ケインとアベル』の続編でアベル・ロスノフスキーの娘フロレンティナを主人公にしています。フロレンティナが幼稚園に上がるあたりから、ケイン家の長男であるリチャードと結婚して、さらに、政界に入って米国大統領に就任するまでの60年近くを扱う長編です。でも、私は英語版のすべてを読んだわけではなく、日本語版の印象的なところを拾い読みしただけだったりします。なお、邦訳が文庫で出版されてから数えても25年以上たっていますので、ネタバレについてはご容赦ください。
大雑把に、いくつかの部分に物語は分かれ、フロレンティナが幼稚園から大学に入るまで、大学時代からリチャードと結婚してビジネスで活躍するころ、政界に入り下院議員から上院議員そして民主党の大統領予備選から副大統領になり、最後は現職大統領の死により大統領に就任する宣誓をし、リチャードの死後フロレンティナを支え続けて来た幼馴染みのエドワード・ウィンチェスターとの結婚を宣言するところで終わります。このうち、私はフロレンティナが大学に入るまでの物語を特に気に入っています。この部分では、ミス・トレッドゴールドというとっても魅力的なフロレンティナの家庭教師 governess が主人公とすら言えます。
ミス・トレッドゴールドは英国人で聖職者を父に持ち、その父から "I was born to be a teacher and the Lord's plan took us all in its compass so perhaps I might teach someone who does have a destiny." と言われたことがあると雇い主のアベルに打ち明けると、アベルは最後の部分を受けて "Let us hope so." と応じます。特に、私が気に入っているのはこの場面で、フロレンティナが幼稚園のころ、大事にしていて FDR と名付けたテディベアのぬいぐるみ、もちろん、当時のローズベルト米国大統領にちなんで名付けられたこのぬいぐるみを、エドワード・ウィンチェスターが手をもぎ取って青いインクをかけた事件の夜、ミス・トレッドゴールドとアベルの間で交わされる会話です。繰返しになりますが、フロレンティナがアベルの仇敵であるウィリアム・ケインの息子であるリチャードと結婚し、リチャードの死後に結婚を宣言するのが、このエドワード・ウィンチェスターです。少し脱線すると、フロレンティナとエドワードの米国大統領夫妻は、同じアーチャーの続編『大統領に知らせますか?』 Shall We Tell the President? にもチラリと登場します。
私自身は何かになるために生れついたとも思いませんし、運命の誰かや何かに出会うとも考えていませんが、逆に、仏教徒的にすべては縁によって決定されるとまでは達観していません。でも、人々は神や仏が予定された範囲にあるという記述は、孫悟空がきんと雲に乗って遠くまで飛んで来たつもりでも、それでも、お釈迦さまの掌の範囲内であった、とされる『西遊記』の記述と通ずるところがあって、非常に興味深いものがあります。
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