総選挙結果の経済的インプリケーションについて考える
昨日、総選挙がありました。結果はあらゆるメディアで報じられていますので、マイナーなこのブログでは詳しく取り上げませんが、1993年以来の政権交代です。1993年の総選挙の折、私は在チリ大使館勤務から一時帰国して京都の両親の実家に世話になりつつ、選挙結果をテレビで見ていた記憶があります。その後、チリに戻りましたので1993年の冷夏長雨や景気の底割れ、翌年のタイ米輸入などは地球の反対側から間接的な情報しか得られませんでした。ということで、今回の選挙結果で民主党が政権与党となり、大量に配布されたマニフェストや8月29日付けのエントリーで全文を引用したニューヨーク・タイムズへの鳩山代表の投稿を含む各種の報道に接する限りの私の感想について、何らかの経済的インプリケーションに限って、今夜のエントリーで3点ほど取り上げたいと思います。
まず、第1に、民主党の経済政策は需要面が中心で供給面には重きを置いていないように見受けられることです。もっと言えば、今年度や来年度くらいを視野に入れた短期的なインパクトはプラス、さ来年度以降くらいの中長期的なインパクトはマイナスとなる可能性を指摘できます。新しい子ども手当などの家計の所得補償や農家への所得補償など、需要面が民主党の経済政策の中心をなしているように私には見受けられ、その意味で、時期的な問題はあるものの、これらの政策が発動されれば、私が想定している W 字型の景気パスにおける今年年末から来年年始あたりの2番底を回避できる可能性を指摘しておきたいと思います。逆に、その先の中長期を考えれば、子ども手当や農家への所得補償は労働意欲を低下させる可能性がありますし、財源として公共投資を削減すると仮定すれば生産性向上率は低下する可能性もあります。また、製造業への派遣労働を禁止すれば景気循環を平準化する効果がある一方で、現在は景気拡大期ですから、この景気拡大を抑制する効果もあり得ます。
第2に、しばしば指摘された財源について、短期的には財源の心配は少ないが、逆に、中長期的な財源に不安が残ると私は受け止めています。子ども手当などの数兆円、国家予算の1割くらいの規模であれば、この1-2年の間、公共投資の削減を含めたムダな歳出のカットなどで十分対応できると私は考えています。従って、今春の国債増発による金利上昇のような現象が政権交代に伴って起こることはないだろうと受け止めています。しかし、国民がより重視している年金や医療などの社会保障については、全体の予算はもうひと桁大きく、さらに、中長期的な対応が必要となる分野ですから、財源抜きに取り進めることはムリがあります。もちろん、ムダな歳出の削減で充当できる額ではありません。この子ども手当などの所得補償と社会保障の両方の財源について、ある程度は、期間の長短や額の大小を含めて、区別して考える必要があります。この短期かつ数兆円規模と中長期かつ数十兆円規模の財源問題を混同して論ずることは混乱を招くだけだと私は考えていますが、世間一般ではほとんど理解されていないように感じています。
第3に、具体的にどのようなインプリケーションを持つか現時点で不明ながら、外交だけでなく経済的にも対米経済関係よりも対アジアが重視される可能性があります。特に、8月29日付けのエントリーで全文を引用したニューヨーク・タイムズへの鳩山代表の投稿を読む限りでは、欧米流の市場重視の資本主義から、より共同体的なアジア的ともいえる経済を模索しているように受け取れなくもありません。私は明らかに市場を重視するエコノミストですから、市場経済を否定するのであれば違和感を覚えなくもないんですが、決して社会主義とかに進むんでもないんでしょうから、経済関係の重点を変更するのであれば、これはこれでひとつの見識です。
最後に、本日、経済産業省から7月の鉱工業生産指数が発表されました。上のグラフはその推移です。月次の季節調整済みの生産、出荷、在庫のそれぞれの指数です。生産指数は2月を底に5か月連続の上昇となりました。この先1-2か月、秋口くらいまで上昇を続けるものと私は予測しています。もちろん、7-9月期のGDP成長率もプラスと見通しています。
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