国際エネルギー機関 (IEA) のリポートから環境問題に関する経済学的視点を考える
昨日、国際エネルギー機関 (IEA) から2つのリポートが発表されています。第1に、CO2 Emissions from Fuel Combustion 2009 - Highlights、第2に、World Energy Outlook 2009 - Climate Change Excerpt です。後者は11月10日に発表される予定の World Energy Outlook 2009 の excerpt、すなわち、抜粋としてプレリリースされています。従って、今夜は前者のリポートについて取り上げたいと思います。もちろん、今どきのことですから pdf のリポートも公表されています。まず、今回のリポートでもっとも注目されたのが、2007年の統計によれば二酸化炭素の排出量で中国が米国を上回ったことです。正確には燃料から排出する二酸化炭素です。朝日新聞のサイトから関連する記事を引用すると以下の通りです。
地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)排出量で、中国が07年に米国を抜いて世界一になったことが、国際エネルギー機関(IEA)が6日発表した統計でわかった。中国は今後も経済成長に伴って排出が増える見通し。13年以降の国際枠組み(ポスト京都議定書)の国際交渉で、先進国は中国に削減を求める圧力を強めそうだ。
07年の世界の排出量は290億トン(前年比3%増)。中国は60億トンと前年より8%増え、米国の58億トン(同1%増)を抜いてトップになったことが確定した。日本は12億トン(同2%増)で、国別ではロシア、インドに次いで5位だった。
中国の00年の排出量は31億トンで米国の半分だったが、右肩上がりの経済成長に伴って急増。IEAの試算では、積極的な温暖化対策を取らなければ、20年に世界の排出量に占める中国の割合は28%となり、米国の16%を大きく上回る。
また、中国が20年に向けて省エネなどの努力を進めたとしても、排出量が多い石炭火力発電所の発電量は07年と比べて約5割増え、事務所などからの排出量は4割増えると試算され、2位の米国の排出量との差はいっそう大きくなるとみられている。
ということで、リポートの p.11 にある Figure 7. Top 10 emitting countries in 2007 のグラフを2007年だけでなく2005年と2006年も入れて拡充し、2007年の排出量でソートしたグラフを書いてみました。以下の通りです。横軸はエネルギーを元にした二酸化炭素排出量で単位は10億トンです。
上のグラフから一目瞭然なんですが、米国と中国の二酸化炭素排出量が他国と比較して際立って多くなっています。特に中国に着目して経済学的な視点から考えると以下の3点が浮かび上がります。第1に、経済規模です。人口とともに経済の規模が大きいことが上げられます。経済活動が盛んであれば二酸化炭素排出量も多くなります。もっとも、9月21日のエントリーで世銀の「世界開発報告 2010」を取り上げた際に触れた環境クズネッツ曲線が成り立っていれば、いずれかの時点で反転する可能性があります。第2に、産業構造と技術です。中国はすでに粗鋼生産高が世界一ですから、こういったエネルギー集約型の産業構造であれば二酸化炭素排出量は多くなります。しかしながら、世界の分業構造の中でどこかの国が担わなければならない役割なのかもしれません。第3に、やや視点を変えて、市場の失敗が生じている可能性が高いことです。エネルギーの消費から生み出される費用と便益が市場の価格に正しく反映されておらず、価格が低過ぎる可能性が高いと受け止めるべきです。そうだと仮定すれば何らかの政府介入が必要になります。炭素税の導入もひとつの選択肢です。
私の個人的な関心事項を考え合わせて、少し環境クズネッツ曲線について考えると、9月21日付けのエントリーで「世界開発報告 2010」から引用したグラフは時系列的なグラフだったんですが、上のコンセプト図に見る通り、時系列的な分析の他に、クロスセクションの分析とパネルデータ分析があります。私もデータを集め始めていますので、そのうちに何らかの研究成果を得たいと考えています。
最後に、ついでながら、本日午後、内閣府から8月の景気動向指数が発表されました。上のグラフの通りです。7月は少し天候不順もありましたが、まだまだ水準は低いながらも、年央における我が国の景気は順調に回復軌道にあるように見受けられます。その後の景気見通しは日を改めて考えます。
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