2009年7-9月期GDPをどう見るか?
本日、内閣府から今年7-9月期のGDP統計、エコノミストの業界で1次QEと呼ばれている重要な指標が発表されました。事前の市場コンセンサスは前期比+0.7%、前期比年率+2.9%だったんですが、これを大幅に上回って、季節調整済みの前期比で+1.2%、前期比年率で+4.8%の成長率を記録しました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
内閣府が16日発表した7-9月期の国内総生産(GDP)の速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比1.2%増、年率換算では4.8%増となった。2四半期連続のプラス成長で、2年半ぶりの高い伸びを記録した。輸出や個人消費が伸び、設備投資も増加に転じた。ただ国内外の経済対策の効果が大きく、景気持ち直しの持続力には不安が残りそうだ。政府は物価の下落が続く「デフレ」を警戒しており、2009年度第2次補正予算案の具体化を急ぐ。
前期比年率の実質GDP成長率は1%程度といわれる日本の潜在成長率を超え、4-6月期の2.7%も上回った。日経グループのQUICKがまとめた民間予想の中心値(2.5%)よりも高かった。ただ実質GDPの水準自体は前年同期より4.5%低い。
一方、生活実感に近い名目GDPは0.3%減(前期比0.1%減)となった。6四半期連続のマイナスに終わった。
次に、いつものGDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者所得を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは伝統に従って原系列の前年同期比となっています。アスタリスクを付した民間在庫と外需は前期比伸び率に対する寄与度表示となっています。なお、計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は保証しません。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンクからお願いします。
需要項目 | 2008/ 7-9 | 2008/ 10-12 | 2009/ 1-3 | 2009/ 4-6 | 2009/ 7-9 |
国内総生産GDP | ▲1.7 | ▲3.0 | ▲3.2 | +0.7 | +1.2 |
民間消費 | +0.0 | ▲0.7 | ▲1.1 | +1.0 | +0.7 |
民間住宅 | +4.3 | +3.3 | ▲6.6 | ▲10.2 | ▲7.7 |
民間設備 | ▲5.8 | ▲7.0 | ▲8.2 | ▲4.2 | +1.6 |
民間在庫 * | ▲0.7 | +0.8 | ▲0.4 | ▲0.7 | +0.4 |
公的需要 | +0.0 | +1.5 | +0.7 | +1.2 | +0.1 |
外需 * | ▲0.2 | ▲2.7 | ▲0.9 | +1.5 | +0.4 |
輸出 | ▲1.9 | ▲13.5 | ▲21.6 | +6.4 | +6.4 |
輸入 | ▲1.0 | +1.5 | ▲14.0 | ▲4.2 | +3.4 |
国内総所得GDI | ▲2.8 | ▲1.1 | ▲1.7 | +0.5 | ▲0.0 |
名目GDP | ▲3.0 | ▲0.8 | ▲2.6 | ▲0.4 | ▲0.1 |
雇用者報酬 | ▲1.2 | +0.6 | ▲0.5 | ▲1.5 | +0.7 |
GDPデフレータ | ▲1.6 | +0.7 | +0.9 | +0.5 | +0.2 |
内需デフレータ | +1.4 | +0.3 | ▲1.1 | ▲1.8 | ▲2.6 |
また、グラフは下の通りです。上のパネルは、実質GDPをコンポーネント別に季節調整済み系列の前期比伸び率で寄与度表示したもので、左軸の単位はパーセントです。下のパネルはGDPとGDIとその差額たる交易利得をプロットしています。いずれも単位は兆円なんですが、折れ線グラフは左軸に対応し、薄緑の棒グラフで示した交易利得は右軸に対応します。
やや直感的な私独自の見方も含めて、今回の1次QEのポイントは以下の3点だと受け止めています。第1に、この7-9月が景気回復のある意味でピークだったということです。すなわち、逆に言えば、先行き回復は鈍化するだろうと私は見ています。政策効果は公的需要についてはこの7-9月でほぼ終わり、エコポイントなどの個人消費への効果も早ければ年内で終わると考えられます。輸出も円高のダメージがジワジワと出て来ると予想しています。来年前半はゼロ成長に近いんではないかと私は見ています。しかし、矛盾するように見えるかもしれませんが、第2に、足元で景気はかなり底堅いことです。鉱工業生産指数の予測指数などから見て、10-12月期も潜在成長率水準を超えるプラス成長が見込めます。消費が底堅く推移し、設備投資もプラスに転じたんですから、7-9月期の在庫の増加も決してネガティブに受け止める必要はありません。でも、この底堅い動きは年内いっぱいかもしれません。第3に、先行きを考える上での最大のポイントはデフレだということです。物価を指摘するエコノミストは多くないと思います。上の表の最後にGDPデフレータと内需デフレータがありますが、GDPデフレータがプラスになった唯一最大の理由は控除項目である輸入デフレータが大きく下がったからであり、国内需要デフレータは下げ足を強めています。先週の景気ウォッチャー調査でも明確にデフレの影響が出始めており、経済政策はそろそろ財政政策から金融政策にバトンタッチされるべきタイミングに差しかかっています。
最後に、それでもよく分からないのが政府の政策スタンスです。何らかの追加的な対策を策定するのか、それとも、「事業仕分け」などにより徹底的に財政の無駄を排除して、財政からの景気支持を排するのか、それとも、「事業仕分け」による財源を経済対策に向けるという意味で、この両者のコンビネーションを図るのか、政府から離れてかなりの時間がたったこともあって、私にはサッパリ分かりません。
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