村上春樹新訳になるフィッツジェラルド『冬の夢』(中央公論社)を読む
村上春樹さんの新訳で出版されたフィッツジェラルド『冬の夢』(中央公論社)を読みました。(1)「冬の夢」、(2)「メイデー」、(3)「罪の赦し」、(4)「リッツくらい大きなダイアモンド」、(5)「ベイビー・パーティー」、の5作品が収められた短編集です。もっとも、(2)「メイデー」などはかなり長くて、中編といってもおかしくないくらいです。なお、(1)「冬の夢」、(3)「罪の赦し」、(5)「ベイビー・パーティー」については光文社から、(2)「メイデー」、(4)「リッツくらい大きなダイアモンド」も岩波文庫から既訳が出ていますから、本邦初公開はありません。まあ、フィッツジェラルドの短編なんですから当然でしょう。それに、すでに翻訳が出版されているとはいっても、村上春樹さんが新訳を出すといえば、私のように、もう一度読みたいと読書意欲をそそられる読者も少なくないと思います。もっとも、私独自の分類ながら、この本は本来であれば文句なく「買う本」に当たるんですが、なぜか、図書館で借りられたので、「借りて読む本」になってしまいました。我が家の子供達が高校生くらいになると買い与えるかもしれません。
繰返しになりますが、短編5編が収められています。しかし、圧倒的に表題作の「冬の夢」がいいです。訳者である村上さんのご指摘をまつまでもなく、ジュディに対するデクスターの恋心は『グレート・ギャッツビー』におけるギャッツビーのデイジーへの想いに相当します。ただし、ジュディ・ジョーンズはデイジーと違って、やや魔性の小悪魔的な要素を持ち合わせています。デクスター・グリーンはギャッツビーのように殺されたりはしません。しかし、いずれもはかない恋の物語です。
最後の解説にあるように、この『冬の夢』は『グレート・ギャッツビー』以前の短編集という位置づけで翻訳されています。当然、『グレート・ギャッツビー』以降の短編集も準備されているようですから、今から楽しみです。
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