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2010年3月16日 (火)

立処真『流転の舞』(日本文学館) を読む

立処真『流転の舞』(日本文学館)

立処真さんの『流転の舞』(日本文学館) を読みました。どうして読んだかというと、作者本人からメールで「読んで感想を聞かせてくれ」という連絡が届いたからです。私が在チリ大使館で外交官をしていた時に、同じコルフ・クラブの会員として、何度かゴルフをごいっしょさせていただいたこともあります。私はよく知らなかったんですが、どうも、臨済宗の信者のような気がします。というのは、ペンネームの由来は「立処皆真」ではないかと想像しているからです。臨済義玄禅師の言葉で、「随処に主となれば、立処皆真なり」というのがあります。周囲の人や物事の動きに振り回されないで、逆に、それらを意のままに駆使する主体性があれば、真に生き甲斐のある人生を送ることが出来る、という意味です。これを理解してペンネームにしているのであれば、それなりに教養ある臨済宗の信徒ということになります。どうでもいいことですが、私は浄土真宗=一向門徒ですから、時折、「横超」という号を使うことがあります。「南無阿弥陀仏」の念仏を唱えれば、すべてを横ざまに飛び越えて極楽浄土に成仏するという含意です。
前置きはこれくらいにして、なかなか面白くてスラスラと読める娯楽作品だったと思います。スラスラ読める一因は文字が大きいことです。ストーリーは太平洋戦争末期のフィリピン戦線を生き残った玉置という男の一代記です。作品の時代背景などを含めて考えれば、若い人にはオススメしませんが、これだけ高齢化が進んで、それなりに市場を拡大しているわけですから、時間に余裕ある高齢者向けの大衆娯楽作品のジャンルはもっと重視されていいと私は考えています。こういったジャンルには「時代小説」と呼ばれるものが現時点では主流なんですが、江戸時代の武士を主として描いた小説ばかりではなく、『流転の舞』などのように戦争や戦後直後の日本を舞台にする小説も大いに活躍する時代となりつつあります。そういう意味で、まさに、高齢読者にピッタリの作品といえます。
知り合いの作品ですので欠点をあげつらうことは控えて、今後の改善点としていくつか考えます。第1に、タイトルをもう少し考えるべきです。『流転の舞』とするのであれば、日本の舞かせめてフィリピンのダンスがどこかに入っていて欲しかった気がします。第2に、登場人物のキャラをもう少し工夫すれば、さらに作品の印象が強くなります。「水戸黄門」でも、悪代官がいるからこそ善玉の黄門さまが光るわけですし、脇に控える助さん格さんも魅力あるキャラといえますが、この作品は玉置1人がすべてを背負っています。悪役キャラや補助キャラがいれば、より魅力的な作品になりそうな気がしてなりません。第3に、エピソードが細切れでつながりがない気がします。つながりがなくても読めてしまうところは流石なんですが、特に、後になるに従ってストーリーが雑になるような気がしてなりません。全体としてまとまりのない読後感を持ってしまいます。

最後に、繰返しになるかもしれませんが、私が日々接している大学生のような若い世代ではなく、比較的ご高齢で時間的な余裕のある方に大いに読んでいただきたい作品です。

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