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2010年3月 1日 (月)

伊坂幸太郎『フィッシュストーリー』(新潮文庫)を読む

伊坂幸太郎『フィッシュストーリー』(新潮文庫)

伊坂幸太郎さんの『フィッシュストーリー』 (新潮文庫) を読みました。知っている人は知っていると思いますが、短編として収められている表題作の「フィッシュストーリー」は、映画「アヒルと鴨のコインロッカー」を手がけた中村義洋監督により昨年2009年に同名の映画「フィッシュストーリー」として公開されています。英語の "Fish Story" とは、釣り上げた魚はその後も生きていて成長を続けるとも言われ、日本語で言えば「与太話」のたぐいになるのかもしれませんが、ここでも小さな原因から大きく地球の破滅を回避するまで発展させています。作者については売れっ子中の売れっ子作家ですから私なんかが追加で説明する必要もないと思います。私のこのブログでも、順不同で思いつくままに、『ゴールデンスランバー』、『重力ピエロ』、『死神の精度』、『終末のフール』、『あるキング』、『SOSの猿』などを取り上げています。何か抜けているかもしれません。ただし、映画化された作品もいっぱいあるんですが、映画は見たことがありません。
この作者にしてはめずらしく、『フィッシュストーリー』は一貫していない中編4編を収めています。私が今までに伊坂作品の短中編集を読んだのは、順不同で『死神の精度』、『終末のフール』、『チルドレン』なんですが、『死神の精度』は死神である千葉を主人公にしていますし、『終末のフール』は「8年後に小惑星が地球に衝突して人類が滅ぶ」ことが発表されてから5年後、すなわち、3年後に地球が終末を迎えるという設定で仙台郊外のマンションに住む住民を主人公にしています。『チルドレン』は陣内を軸にした物語です。でも、この『フィッシュストーリー』に収められた短中編4編は以下の通りなんですが、「一貫した何か」は少なくとも表面的にはないように見受けられます。悪く言えば寄集めとも言えますが、そこは売れっ子作家のことですから上手にまとめてあります。

  • 動物園のエンジン
  • サクリファイス
  • フィッシュストーリー
  • ポテチ

一貫していないものの、やや中途半端ながら、「サクリファイス」と「ポテチ」には泥棒兼探偵の黒澤が登場します。伊坂作品ではおなじみのキャラだと思います。表題作で映画化もされた「フィッシュストーリー」は、基本的には、正義の味方として育てられた瀬川の物語なんですが、日本の売れないパンクバンドが解散前の最後のレコーディングで演奏したという曲の1分ほどの空白が時空を超えて奇跡を起こし地球を救うというものです。「ポテチ」は『重力ピエロ』や先日取り上げた東野圭吾さんの『カッコウの卵は誰ものの』のように、血のつながりや親子関係を描いた作品です。「動物園のエンジン」も何とも言えないストーリー展開となっています。ミステリとは認めない人がいるかもしれませんが、私には立派な謎解きでした。

一貫した何かがないという意味で、独立したように見える4編の中編から成る作品ですから、適当に時間が空いているときに読む向きにも適していますし、伊坂作品のいつものキャラである黒澤をはじめ、『重力ピエロ』の兄弟にチラリと触れる部分もあり、いつもの通り、伊坂作品として何らかのリンクが保たれています。多くの人にオススメします。

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