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2010年3月24日 (水)

輸出は順調に拡大、しかし先行きは不透明

本日、財務省から2月の貿易統計が発表されました。輸出は前年同月比で+45.3%増の5兆1287億円とほぼ市場の事前コンセンサスにミートしました。まず、電子版に新装なった日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の貿易統計、輸出額45%増 米向け自動車も好調
財務省が24日発表した2月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額は前年同月比45.3%増の5兆1287億円だった。3カ月連続で輸出額が前年を上回った。米欧、アジア向けともに増えたほか、中東欧・ロシア向けなども増加に転じた。北米でトヨタ自動車のリコール(回収・無償修理)問題が深刻化したが、対米輸出は好調で海外需要の順調な回復が続いている。
輸出額の前年同月比での伸び率は過去3番目の大きさになった。ただ金融危機の影響で前年に急落した反動が大きい。輸出額の水準自体はリーマン・ショック前の年平均と比べると、7割程度にとどまっている。
季節調整値で前月と比べると、2月は1.7%減と、1年ぶりのマイナスだった。大幅に伸びた1月の反動のほか、中国の春節(旧正月)の影響もあるとみられる。
一方、輸入額は前年同月比29.5%増の4兆4777億円と、2カ月連続で増えた。差し引きの貿易収支は6510億円と、11カ月連続で黒字になった。前年同月比では9倍に膨らんだ。
輸出額を地域別にみると、米国向けが前年同月比50.4%増と、2カ月連続で増えた。なかでも自動車輸出は2.3倍に急増した。自動車輸出は前月と単純に比べても金額ベースで19.9%増、台数でも18.6%増と好調で、トヨタのリコールによる日本車への悪影響は出ていない。
欧州連合(EU)向けは前年同月比19.7%増と、3カ月連続で増加。英国向け自動車やオランダ向け自動車部品が伸びた。アジア向けは55.7%増で、このうち中国は自動車や自動車部品、半導体などが好調で47.7%増になった。

次に、いつもの貿易統計の推移に関するグラフは以下の通りです。どちらも金額ベースで、上のパネルは季節調整をしていない原系列、下のパネルは季節調整済みの系列です。水色の折れ線が輸出、赤が輸入、緑色の棒グラフはその差額たる貿易収支です。左軸の単位はいずれも兆円です。

貿易統計の推移

下のパネルの季節調整済みの系列で見て、水色の折れ線の2月の輸出が前月比でマイナスを記録していますが、引用した日経新聞の記事にもあるように、1月の反動減や春節が2月であった影響と考えられます。特に、地域別の輸出数量指数をみると、アジア向けで最も大きなマイナスとなっていますから、後者の影響の方が強かったのかもしれません。いずれにせよ2月単月の動きですし、私は特に気にしていません。輸出は順調に拡大していると受け止めています。

輸出指数の推移

そうすると、問題はこの輸出拡大の持続性なんですが、私は年央近くまでは楽観しています。上のグラフは、上の方のパネルが金額ベースの輸出の前年同月比を数量と価格で寄与度分解したもの、下のパネルはいずれも前年同月比で輸出数量指数とOECD加盟国の先行指標です。後者は3か月ずらしてあります。おそらく、年央近くまで、先進国とアジアを中心とする新興国では順調な景気拡大が続くと見込まれ、我が国の輸出もこれに応じて増加を続けるのは明らかだと私は考えています。問題はそれ以降のお話で、私は年央以降の輸出動向は楽観できません。米国経済が減速するであろうことは、多くのエコノミストの間でコンセンサスがあるものと考えていますが、ここに来て、必ずしもギリシア問題だけが原因ではないんでしょうが、ユーロ圏諸国の減速も目立ちますし、中国やインドといったアジアを中心とする新興国では先進国とは逆にオーバーヒートによるインフレ懸念が出ています。
特に、中国については為替のペッグに多大なるコストを生じているように私には見えます。通貨切上げの防止については、我が国もブレトン・ウッズ体制末期の1970年前後に経験し、結局、石油ショックも相まって狂乱物価を招いた記憶がありますが、中国が約40年遅れで我が国の後を追いかけていることは明白であり、どのような経済政策をもって臨むのか、私は極めて大きな興味を持って注視しています。

もちろん、貿易動向には為替も大いに影響を及ぼします。昨年9月の民主党政権成立に際して、不用意かつ無責任な閣僚の発言から無用の円高を招き、その後、11月にはドバイ・ショックもありました。1年から1年半のラグを伴って、これらの為替動向が今年後半の輸出に影響を及ぼし始める可能性も否定できません。

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