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2010年5月15日 (土)

日本財政はどこまで赤字を続けるか、続けられるか?

昨日、米国の首都ワシントンに本部を置く国際通貨基金 (IMF) から World Economic and Financial Surveys: Fiscal Monitor - Navigating the Fiscal Challenges Ahead と題した見かけないリポートが発表されました。日本のメディアでも取り上げていますので、まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

日本の政府債務、2015年にGDP比2.5倍 IMF見通し
国際通貨基金(IMF)は14日、世界各国の財政見通しを発表した。ギリシャを含む欧州、日本、米国など先進29カ国の国内総生産(GDP)比でみた政府の債務は国と地方を合わせ2010年の97.8%から15年には110.2%になると予測。日本は同250%まで上昇すると推計した。一方、高成長が続く新興国は11年から低下に転じ、15年に34.2%となる。財政面でも先進国と新興国の差が広がる。
IMFは4月に公表した世界経済見通しに基づき、国・地方の債務などを統合した財政状況を各国別に算出した。スペインやポルトガルが最近追加した財政再建策は反映していない。
世界合計の10年の財政赤字はGDP比で前年比0.7ポイント改善し6.0%の見通し。一方で「世界経済見通しの上方修正にもかかわらず、前回(昨年11月)予測よりも財政改善は小幅」とした。
日本の財政赤字は10年が9.8%、15年が7.3%と予測。日本はギリシャ、アイルランド、スペイン、英国、米国の5カ国とともに、債務残高が積み上がり政策経費を税収で賄えない比率も高いと分析した。
IMFは歳入増加策として、日本は消費税率を5%引き上げ、米国は州ごとの売上税とは別に税率10%の連邦レベルの付加価値税を創設するなどの案を示した。

まず、リポートの p.85 Statistical Table 6. General Government Gross Debt (In percent of GDP) からデータを拾って G5 諸国の一般政府のグロスの債務残高をプロットしたのが以下のグラフです。予測の最終年である2015年だけデータをラベルしてあります。

G5諸国における一般政府グロス債務残高

新しいペーパーとして、私が先に紹介した「ギリシアにおける財政危機に関するノート: 日本への教訓」(長崎大学経済学部『研究年報』、2010年6月に収録予定) でも強調しておいたんですが、ストックたる政府政務残高はフローの政府バランスの内生変数として決まります。そのプライマリー・バランスをリポートの p.81 Statistical Table 2. General Government Primary Balance (In percent of GDP) からデータを拾って G5 諸国についてプロットしたのが以下のグラフです。ここでも、予測の最終年である2015年だけデータをラベルしてあります。

G5諸国における一般政府プライマリ・バランス

なお、このリポートではプライマリー・バランスについて循環的な要因を除き、いわば構造的な要因だけを取り出した推計も行っていますが、言ってみれば、タテから見ても、ヨコから見ても、ナナメから見ても、ストックでもフローでも構造要因でも、何から何まで日本の財政赤字は先進国中最大といえます。危機感をあおるエコノミストであれば、「いつ、日本国債がデフォルトしても不思議ではない」くらいの発言をするかもしれません。しかし、これまた、「ギリシアにおける財政危機に関するノート: 日本への教訓」(長崎大学経済学部『研究年報』、2010年6月に収録予定) に書いたことですが、国債が取引される金融市場はかなり調整スピードが速いとは言うものの、日本国債 (JGB) の取引は幸田真音さんの『日本国債』の世界のように sudden death するのではなく、マーケットから警告が発せられる一定の期間があると私は考えています。もっとも、その警告期間がどれくらいの長さになるかは予断を持つべきではありません。可及的速やかに中長期の財政運営に関する指針が策定されることを市場は待っているのかもしれません。

このブログで何度も繰り返して来た通り、私は雇用に経済政策上の最大の重点を置くべきであり、働く意欲のある国民に対して、憲法第25条的な意味ではなく、先進国らしい豊かな生活を送るに足る所得を得ることが出来るような decent な職を提供できれば、経済政策の大部分の目標が達成できると考えて来ました。その分、という言い方もヘンかもしれませんが、財政赤字に能天気な態度を取り続けて来ました。この先、5-10年くらいで年貢を納める時期が来ているのかもしれません。

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