日本財政の猶予期間はどれくらいか?
ギリシアの財政がほぼ破綻して、ギリシア国債が S&P によって BB+ というジャンク債に格下げされてから、「次はどこか?」という議論が盛んです。もちろん、次はポルトガル・スペインなんでしょうが、広く財政悪化が認識されている「日本の財政はどうか?」という視点もあります。ということで、先月4月に興味深いリポートが2本発表されましたので、遅ればせながらゴールデンウィークも明けたタイミングで取り上げておきたいと思います。以下の2本です。
- 「財政赤字の深刻度 - 将来は国債の国内消化も困難に」、みずほ日本経済インサイト、みずほ総研、2010年4月16日
- 「日本国債の国内消化構造はいつまで維持できるか」、経済レビュー、東京三菱UFJ銀行、2010年4月28日
いずれも、現在の民主党政権の総選挙時のマニフェストとその見直しを基に、こども手当、高校無償化、農家個別補償などの政策を実行するとして、国債の国内消化がいつまで可能かを試算しています。まず、みずほ総研の試算では、2025年度に国債残高が1502.9兆円に達し、その時点まで家計貯蓄率が3%を維持するとしても、家計貯蓄残高は1560兆円程度にしかならないため、そのあたりから国債の国内消化が困難になると結論しています。これは国債利子率が現状のまま推移すると仮定した場合の試算であり、1%ポイント上昇するごとに100兆円余り国債残高は膨張しますから、金利変動に極めて脆弱性を有するといえます。
下のグラフは東京三菱UFJ銀行のリポートから p.11 第19図と p.12 第20図を引用したものです。いくつか前提の置き方にもよりますが、フローとしての国債の国内消化比率が低下し、ストックとしての国債残高の海外保有比率が大きく上昇する結果となっています。なお、各ケースの前提については東京三菱UFJ銀行のリポートの p.11 に詳しく報告されています。
さらに、5月4日付けの Financial Times でも、Japan's Debt と題して、バークレイズ・キャピタルの見通しを引いて、"By 2017 or thereabouts, on Barclays Capital projections, the private sector's cash surplus - currently financing the public cash deficit - will be almost gone." と、2017年前後には国債の国内消化が困難になると報じ、結論として、"It is time for Japan, just like Greece, to get real." と、今や増税などに現実的に向かい合うべきであると締めくくっています。
4月26日付けのこのブログのエントリーでギリシアの財政危機に関する新しいペーパーを紹介した折にも9番目のポイントとして書きましたが、国債の国内消化が出来なければ海外にファイナンスを頼ることとなり、フローでは借換債や償還とネットアウトした国債発行額が国内貯蓄額を上回れば、貯蓄投資バランスの恒等式から経常収支は赤字になります。1980年代前半のレーガン政権下の米国に特徴的だった「双子の赤字」に陥ることとなります。もちろん、フローの経常収支が赤字を続ければ、ストックの反応として、それまでに累積された対外資産が減少して行って対外債務を抱え込む可能性もあります。
従来から繰り返している通り、私の考える経済政策の最重要課題は、決して憲法第25条的な意味でなく、先進国の一員たる日本の国民として誇りある生活を送るにふさわしい所得を得るために、働く意思ある国民すべてが能力に従って雇用の機会を与えられることであって、財政赤字には能天気な態度を取り続けているんですが、その財政に能天気な姿勢もあと7-15年ほどの余裕しかないのかもしれません。
最後に、今夜のエントリーはギリシアに始まって、ギリシアに終わるんですが、ギリシアの財政危機をユーロの通貨危機に直結させないために、ギリシアのユーロ離脱がアジェンダに上る可能性を示唆したリポートが三井住友銀行から出ていると聞きました。私はまだ見たことがないんですが、これはギリシアに「死ね」と言っているのに等しい気がしないでもありません。少し前、米国にバッド・バンクを設立して不良債権を移管する構想がありましたが、ユーロ圏ではバッド・カントリーを切り離したりするんでしょうか?
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