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2010年5月 4日 (火)

アローの不可能性定理とコーポレート・ガバナンス

先週の大学の講義では日本企業を取り上げ、さまざまな戦後日本企業の特徴を解説しました。その中で、日本企業の大きな特徴のひとつとして独特のコーポレート・ガバナンスが上げられます。特に、最近では企業の社会的責任 (CSR) と呼ばれる考え方です。私はこのステークホルダーを幅広く捉える考え方は社会的推移率を成り立たせにくくする傾向があり、結局、もっとも情報量の多い経営者に有利なガバナンス形態であろうと考えているんですが、今日は、ゴールデンウィークですることもなくヒマですので、少し、この社会的推移率に関してアローの不可能性定理を取り上げてみたいと思います。
まず、日本の経済学では不可能性定理と呼ばれているんですが、正しくは一般可能性定理 (General Possibility Theorem) です。この一般可能性定理や一般均衡に関する業績によりアロー教授は1972年にノーベル経済学賞を授賞されています。もっとも、経済学における不可能性定理といった方が、数学 (論理学) におけるゲーデルの不完全性定理、物理学 (量子力学) におけるハイゼンベルクの不確定性定理とともに、並びはいいような気がすることは確かです。それはともかく、不可能性定理では、3個人あるいは3グループ以上の構成員から成り立つ社会における3つの選択肢 x, y, z に関する社会的選好関数について、以下の3つの前提を置きます。

  • 完備性: x≥y か y≥x の少なくともいずれかが成り立ち、選好が不確定であることはない。
  • 反射性: x≥x が成り立ち、ある選択肢は少なくとも自分自身と同程度に選考される。
  • 推移性: x≥y かつ y≥z であれば x≥z が成り立ち、選好がループすることはない。

さらに、民主主義の原則に立って、以下の4条件を考えます。

  • 公理 U (非限定性、普遍性): 各社会構成員の選好は自由である。
  • 公理 P (パレート原則、全会一致制): 社会構成員すべてが一致した選好は社会的厚生関数の選好と一致する。
  • 公理 I (無関係対象からの独立性): ある選択肢間の選好関係は、それとは異なる別の選択肢間の選好関係に影響を与えない。
  • 公理 ND (非独裁性): 社会的選好関数の結果が特定の社会構成員の選好結果と一致してはならない。

この3前提、4条件を満たす社会的厚生関数は存在しないことを証明するのが不可能性定理です。私が京都大学で経済学を学んでいた当時は、4条件のうちの最後の公理 ND で表現される非独裁性が成り立たないことに主眼が置かれていたように思わないでもないんですが、現在では、3前提の最後の推移率が社会的には成り立たないとされています。この考えは我が国経済政策論の泰斗である熊谷教授のエッセイでも示されています。
社会的推移率が成り立たないとは、典型的にはコンドルセのパラドックスで示されている通りで、かつて2008年9月2日にこのブログでも取り上げた小島祥一教授の『なぜ日本の政治経済は混迷するのか』 (岩波書店) に詳しく解説されています。最も分かりやすい例はジャンケンです。グー、チョキ、パーの3つで強さがループしています。推移率は個人やグループでは成り立っても、社会的には成り立たずループしてしまうのが不可能性定理の含意です。ですから、企業が CSR で多くのステークホルダーを対象に何らかの利害関係を考えると、選好がループするため、もっとも情報量の多い取締役の選好に従った結果となる可能性が高く、株主をプリンシパルとし取締役をエージェントとする単純かつ一直線の英米型のコーポレート・ガバナンスの方が望ましいと私は考えています。
企業を離れて日本の政府制度について考えると、政官民でループする三すくみの関係が見られます。国民が憲法に定める間接民主制に基づいて政治家たる国会議員を選挙で選び、政が官である公務員をガバンスするというのが基本的な構造なんでしょうが、実は、官は許認可や規制・行政指導などで民をコントロールすることが出来ます。ただし、官をガバナンスする仕組みとして事業仕分けがいいのかどうかは議論が分かれるかもしれません。

授業ではループする三すくみの関係について、ポケモンのナエトル (草タイプ)、ポッチャマ (水タイプ)、ヒコザル (炎タイプ) で説明しようとしたんですが、これらのポケモンを知らない学生もいたりしました。今の大学生は「ハリー・ポッター」と「ポケモン」で育って来ていると私は考えていましたから、少し驚きでした。

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