大きく改善した日銀短観6月調査の結果から先行きを考える
本日、6月調査の日銀短観が発表されました。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは前回3月調査から15ポイント改善して+1となりました。今年度の設備投資計画も+4.4%増と大きく上方修正されました。まず、いつもの日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
日銀6月短観、景況感2年ぶりプラス 大企業製造業5期連続改善
日銀が1日発表した6月の企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業でプラス1と、3月の前回調査(マイナス14)から15ポイント改善した。5期連続の改善で、リーマン・ショック前の2008年6月以来、2年ぶりにプラスになった。10年度の大企業の設備投資計画は製造業、非製造業ともに3年ぶりのプラスに転じた。ただ3カ月先の景況感の見通しは改善幅が今回の改善局面で最も小さく、先行きに不透明感も残る。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いた値。回答の基準日は6月10日で日経平均株価が9542円、円相場は1ドル=90円93銭だった。基準日までに7-8割が回答しており、その後の円高・株安の進行は反映されていない可能性がある。
業種別の業況判断DIをみると、機械関連や自動車など大企業製造業の主要業種が軒並み改善した。主要業種すべてが上向くのは1994年8月以来、約16年ぶり。自動車が前回から20ポイント改善してプラス18だったほか、繊維やはん用機械などの改善が目立った。新興国経済の力強い回復を背景に、輸出関連を中心に企業活動が活発になっていることを裏付けた。
大企業非製造業の業況判断DIは9ポイント改善してマイナス5。5期連続で改善し、08年9月以来の高い水準になった。小売りと卸売りがともに改善したほか、これまで低迷が続いていた宿泊・飲食サービスは21ポイントの大幅な改善になった。
一方、業況判断DIの3カ月先の見通しをみると、大企業製造業はプラス3で、足元から2ポイントの改善にとどまる。
10年度の設備投資計画は大企業の製造業が前年度比3.8%増、非製造業が4.6%増だった。前回の調査ではマイナスを見込んでいたが、プラス予想に転じた。
背景には企業収益の回復がある。経常利益は大企業の製造業で前年度比43.8%増、非製造業で8.7%増を見込む。設備の過剰感も薄らいだ。「過剰」から「不足」を引いた設備判断DIは大企業の製造業で前回よりも8ポイント低いプラス17、製造業では3ポイント低いプラス3だった。
雇用の過剰感も和らぎつつある。「過剰」から「不足」を引いた雇用人員判断DIは大企業製造業で前回よりも7ポイント低いプラス10。ただ11年度の企業全体の新卒採用計画は10年度比で5.5%減の見通しで、本格回復に至っていない。
続いて、業況判断DIの推移は規模別及び製造業・非製造業別に以下の通りです。1990年以降のグラフと最近の表を掲げておきます。グラフの影をつけた部分は景気後退期です。表の計数の完全性は無保証ですので、正確な計数を必要とされる向きは日銀のサイトから引用下さい。
業況判断DI | 2009/12 | 2010/3 | 2010/6 | 2010/9 (先行き) |
全産業 | ▲31 | ▲24 | ▲15 | ▲16 |
大企業製造業 | ▲24 | ▲14 | +1 | +3 |
中堅企業製造業 | ▲30 | ▲19 | ▲6 | ▲8 |
中小企業製造業 | ▲40 | ▲30 | ▲18 | ▲19 |
大企業非製造業 | ▲22 | ▲14 | ▲5 | ▲4 |
中堅企業非製造業 | ▲29 | ▲21 | ▲13 | ▲14 |
中小企業非製造業 | ▲35 | ▲31 | ▲26 | ▲29 |
昨夜のエントリーとほぼ同じ表現ですが、輸出にけん引された生産の増加で始まった昨年1-3月期からの大企業製造業の景気回復が、ようやく1年余りを経過して非製造業や中堅・中小企業にも波及した姿が確認できた短観でした。ただし、今次景気回復局面では前期から急回復を示す最後の日銀短観となる可能性も十分あります。景気回復初期のV字回復の時期を終えて成長率水準へ回帰するとともに、政策効果の剥落、世界景気の鈍化などから生産や輸出が踊り場的な局面を迎えつつありますので、結果的には、前回3月調査とまったく同じ傾向なんですが、中堅・中小企業では先行きに悲観的な見方をしており、大企業でも先行きさらに大きくマインドが改善することはないと私は受け止めています。
数学的に表現すると、1次微分も2次微分も正だった景気回復初期を終え、1次微分は正だが2次微分は負の時期に入るといえます。同時に、景気回復のすそ野が広がり、設備投資や雇用といった要素需要が増加を始める時期とも言えます。ということで、上のグラフはその要素需要に関する短観結果を取りまとめています。一番上のパネルから順に、大企業全企業の設備投資計画、設備判断DI、雇用判断DIです。設備と雇用の判断DIは数字がプラスで大きいほど過剰感が強いことを示しており、どちらも順調に過剰感が払拭されつつあります。設備投資計画はこの6月調査からプラスに転じました。まだ水準的に低いものの、2007年度に近い推移を示すものと私は期待しています。
もちろん、先行きリスクにも目を配ることが必要です。取りあえず、今日の段階では上のグラフの為替相場と中国経済の下振れの可能性を指摘しておきたいと思います。今日発表された短観では大企業製造業における本年度2010年度の事業計画の前提となっている為替レートの平均は1ドル90.18円でした。しかし、現時点ですでに為替は90円を割り込んでおり、世界経済の鈍化とともに輸出にマイナスの影響を及ぼすことが懸念されます。中国経済についてはバブルのクラッシュや政策対応によるオーバーキルの可能性があることは6月21日のエントリーで指摘した通りです。
最後に、長崎短観は上のグラフの通りです。全規模全産業の全国短観と長崎短観をプロットしてあります。全国に比べて振幅が少なくて、世界から隔離されたような景気動向が特徴です。
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