伊坂幸太郎『バイバイ、ブラックバード』(双葉社) を読む
伊坂幸太郎さんの『バイバイ、ブラックバード』 (双葉社) を読みました。ついでながら、上の画像にある通り、『「バイバイ、ブラックバード」をより楽しむために』(ポスタル・ノベル編) も併せて読みました。
まず、本体ともいうべき『バイバイ、ブラックバード』は6編の連作短編集から成っていますが、最初の5編は「郵便小説」という形で、1話について50人の当選者に郵送されたそうです。最後の第6話だけ書下ろしです。連作短編集という形だけに着目すると、伊坂作品としては『死神の精度』や『終末のフール』を思い浮かべる人も多いでしょう。また、双葉社といえば何といっても「クレヨンしんちゃん」ですが、私も愛読している「居眠り磐音 江戸双紙」なんかも出していたりします。『「バイバイ、ブラックバード」をより楽しむために』の方は解説編というか、作者のインタビューがあったり、また、この『バイバイ、ブラックバード』の基となった太宰の未完の遺作『グッド・バイ』が収められたりしています。以下、ネタバレがあるかもしれません。未読の方はご注意の上、自己責任で読み進むようお願いします。
繰返しになりますが、『バイバイ、ブラックバード』は太宰の『グッド・バイ』を下敷きにした複数の女性と別れる物語です。すなわち、主人公の星野君がとある不明の事情から180センチ180キロの巨体の繭美なる女性に捕まって、<あのバス>に乗せられる前に付き合いのあった5人の女性に別れを告げに行く、という内容です。最初の5編はこの5人の女性に対応します。最後の第6話は締めくくりです。4月25日付けのエントリーで取り上げた『オー! ファーザー』が4人の父親を持つ高校生を主人公にした四股のストーリーだったんですが、コチラの『バイバイ、ブラックバード』はその上を行く五股なわけです。各編の最初の節だけ星野君が付き合っていた女性の1人称で語られた後、その次からは3人称の語り口になります。5人は、出現順に、普通の女性、バツイチで男の子のいる銀行員、3姉妹の泥棒マンガ「キャッツアイ」に憧れて黒装束でロープを持ったりする女性、税理士事務所に勤めて数字に強く数字の語呂合わせの好きな女性、そして、最後の5人目は女優さんだったりします。
『「バイバイ、ブラックバード」をより楽しむために』を読めば分かるネタバレですが、星野君は<あのバス>に乗せられるものの、その行き先や実体は最後まで明らかになりません。というか、明らかになる前で小説が終わります。巨体で無神経で常識外れの規格外生物の繭美については、最初は読者の誰もが嫌悪感を持つと思いますが、読み進むに従って慣れるというか、少し繭美に対する見方が変化していくように感じました。そして、とっても興味深いラストを迎えます。
やや評価の難しい小説ではないかと思います。『オー! ファーザー』は文句なく第1期を締めくくるにふさわしい伊坂作品だといえますが、この『バイバイ、ブラックバード』は、ばらまかれた伏線が収束するわけではありませんし、明確なラストを迎えるわけでもありません。でも、第2期の作品である『あるキング』や『SOSの猿』よりも、第1期に近い雰囲気で楽しめる伊坂作品と評価できそうな気がします。
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