天野節子『氷の華』と『目線』 (幻冬舎文庫) を読む
天野節子さんの『氷の華』と『目線』を読みました。いずれも幻冬舎文庫で、いずれ長編本格ミステリです。『氷の華』は最初から犯人が明示されていて、犯行に至る動機も明らかで、警察がいかに真相に迫るかが読ませどころですが、『目線』は動機も含めて犯人を推理する一般的な構成になっています。ただし、『目線』では作者は意図的に重要事項を読者に気づかせないように工夫しているように見受けられます。いずれもテレビでドラマ化され、または、される予定で、この作者には固定的なファンがいそうな気がします。『氷の華』は2年前の2008年9月にテレビ朝日開局50周年ドラマとして米倉涼子さん主演で2回シリーズで放送され、『目線』は今年の12月にフジテレビで仲間由紀恵さん主演でフジテレビ金曜プレステージ特別企画として放送予定です。ということで、ここ以下はネタバレがあるかもしれません。未読の方が読み進む場合は自己責任でお願いします。
まず、繰返しになりますが、同じ作者のミステリ作品で、ともに上流階級の家庭を舞台にして、女性が犯人である長編の本格推理小説なんですが、かなり大きな違いを意図的に盛り込んでいます。『氷の華』では恭子の動機や犯行を最初から綿密に記述している一方で、『目線』ではドラマ主演の仲間由紀恵さんの役である三女のあかりが犯人なんですが、あかりが車いす生活であることすら、最終段階まで意図的に読者には気づかれないようにしていると私は受け止めています。『氷の華』の犯人である恭子は、計画的で意志が明確で実行力もある強い性格の人間であり、犯罪に手を染めなければ別の方面で成功していた可能性がうかがわれます。最初の殺人では裁判で無罪になったりしています。もっとも、第2の殺人に依存した無罪ではありますが、一時不再理ですから無罪は無罪です。しかし、『目線』の犯人であるあかりはそうではありません。アリバイ工作のトリックはかなりズサンで、途中から犯人は読者にもバレバレになります。どちらの小説でも殺人をおかす犯人の動機はそれほど強くなく、この点については、特に『目線』では作者自身にも自覚があるのか、刑事達にそのような発言をさせています。しかし、両作品でもっとも大きな差は犯人のキャラの書き分けではないかと私は考えています。『氷の華』の恭子はキャラが立ち過ぎるほど立っていて、そのように明確に書かれている一方で、『目線』のあかりは可能な範囲で目立つことなく記述され、特に、同年代の二女の貴和子とのキャラの書き分けが十分かどうか、私は疑問です。意図的にキャラをそのように設定して明瞭に書き分けることを避けて物語を進めたのか、作者の力量不足で書き分けられなかったのか、私には不明です。次回作で判断したいと思います。重ねて書きますと、特に、車いすを最後の最後まで引っ張るのは無意味な気がします。ドラマでは明らかに最初からあかりが車いすを使うのは視聴者に丸分かりでしょう。ドラマを制作したフジテレビのサイトにある写真では、犯人のあかり役である仲間由紀恵さんは常に車いすに乗っています。
『氷の華』にはかなり高い点を差し上げられる一方で、『目線』には物足りないものを感じました。アマゾンのレビューもややそんな感じです。これがそのまま売上げに反映しているような気がしないでもありません。
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