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2010年10月20日 (水)

国連地球生きもの会議で発表された『生態系と生物多様性の経済学』とは何か?

COP 10 Nagoya logo

今週から名古屋で国連生物多様性条約第10回締約国会議、通称、国連地球生きもの会議 (COP10) が開催されています。先週開催されていたカルタヘナ議定書第5回締約国会議 (COP-MOP5) に続く一連の会議ともいえます。今年は特に国連の定めた国際生物多様性年 (International Year of Biodiversity) であり、大きな注目を集めています。
エコノミストである私は生態系や生物多様性に関する自然科学的な知見には何の専門性もなく、部外者でしかないんですが、「生態系と生物多様性の経済学」を考えることは可能です。実際に、2008年5月に開催された前回の COP9 ボンにおいて The Economics of Ecosystem and Biodiversity の中間報告が示され、メディアでは全く注目されないながら、本日の午後、今回の COP10 名古屋のサイド・イベントで "Mainstreaming the Economics of Nature: a synthesis of the approach, conclusions and recommendations of TEEB" と副題のついた最終報告が明らかにされました。なお、最後の "TEEB" とはズバリ The Economics of Ecosystem and Biodiversity のことです。2006年に発表されたスターン卿による The Economics of Climate Change に合わせて命名されていることは明らかでしょう。なお、中間報告については日本語訳も日本生態系協会と住友グループにより作成されていて、『生態系と生物多様性の経済学』として入手可能です。
専門外ですので自信がなく、ややズレた意見かもしれませんが、私が「生態系と生物多様性の経済学」に関してもっとも重要なポイントと考えているのが、割引率の倫理性と生態系が破壊され生物多様性が失われた際のコストの計測です。前者は将来世代をどう考えるか次第で単純なんですが、後者は大きく分けて、機会費用 opportunity cost、取引費用 transaction cost、管理費用 management cost の3つの計測方法があり、私は機会費用を用いて十分慎重にカウントすべきであると考えています。なぜなら、生物多様性を考慮する際の観点として不可逆性は避けて通れず、すなわち、特定の生物種は長い進化の過程を経て地球に出現したものであり、生物種が一度絶滅してしまうと地球環境に関する諸条件を元に戻しても復活する保証は何らありませんから、無条件の青天井ではないものの、かなり大きなコストをかけても生物種の絶滅は回避すべきと私は考えているからです。これは割引率を小さく、コストを大きく見込むバイアスを有していることは自覚しています。要するに、現在の科学の水準を前提にすると、何らかの生物種が絶滅すると将来に何が起こるか分からないので慎重に対応すべきである、という意見です。
次に、やや私の専門分野に近づいて、地球温暖化防止のための二酸化炭素排出規制と同じように、生態系と生物多様性の保護に関する問題でも先進国と途上国の対立が発生します。別の観点から、経済発展や経済的な豊かさと生態系や生物多様性の保護を含む環境とのトレードオフを考える必要があります。中間報告では、生態系と生物多様性の保護及び国連ミレニアム開発目標とのトレードオフについても考慮されていました。経済的な豊かさと生物多様性との関係を考える基礎的な概念として用いることが出来るツールのひとつは環境クズネッツ曲線です。しかし、残念ながら、私の最近の研究成果 "Estimation of Environmental Kuznets Curve for Various Indicators: Evidence from Cross-Section Data Analysis" に従えば、パラメーターの統計的有意性はそれほど高くないものの、生物多様性は購買力平価で計測した1人当たりGDPで代理される経済的な豊かさの単調減少関数でした。すなわち、経済発展に従って1人当たりGDPが増加すればするほど生物多様性はダメージを受ける可能性が示唆されています。私が書いたペーパーですから、決して影響力の大きな研究成果でありませんが、生物多様性に関しては逆U字型の環境クズネッツ曲線は成り立たない可能性が高く、生態系と生物多様性を維持するためには何らかの意図的な努力が必要であると受け止めるべきです。
最後に、生態系と生物多様性の維持を担うべき主体について経済学的に考えると、これらを公共財と受け止めれば政府の役割ですが、ビジネス・チャンスであれば企業や民間経済主体も含めて考えるべきです。日本人はどうしても政府への依存が強いんですが、例えば、という例を上げると、この『生態系と生物多様性の経済学』の研究プロジェクトの責任者であるスクデフ博士はドイツ銀行取締役で、同行グローバルマーケットセンター・ムンバイの代表だったりしますし、今年の7月に公表された TEEB for Business というリポートの Executive Summary の p.11 Table 2: Emerging markets for biodiversity and ecosystem services では認証農作物 Certified agricultural products などの2020年と2050年の市場規模が推計されていたりします。生態系と生物多様性の保護は決して政府だけに任せる問題ではなく、官民そろって取り組むべき課題であることを認識すべきです。

地球環境に関する重要かつ影響力ある会議が日本で開催されていますので、専門外ながら大胆にも、生態系や生物多様性についてエコノミストの立場から何点か考えてみました。繰返しになりますが、専門外ですので何か誤解や間違いがあるかもしれません。ご容赦ください。

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