日銀金融政策決定会合の結果を考える
昨日から開催されていた日銀の金融政策決定会合において、景気判断が「改善の動きが弱まっている」と下方修正されるとともに追加緩和策が決定され、「包括的な金融緩和政策」の実施についてが発表されました。まず、白川総裁会見前の第1報の記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
日銀追加緩和、実質ゼロ金利に 資産買入基金5兆円
政策金利0.0-0.1%に下げ 円高阻止狙う
日銀は5日に開いた金融政策決定会合で、政策金利を現状の0.1%から0-0.1%に引き下げ、4年3カ月ぶりに事実上のゼロ金利政策を導入する追加金融緩和策を決めた。国債やコマーシャルペーパー(CP)、社債、上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT)などの多様な資産を5兆円規模で購入する「資産買入基金」も新たに創設するなど「包括的な金融緩和政策」を打ち出した。世界経済の減速や長引く円高で景気の下振れリスクが高まったと判断。物価の安定が展望できる情勢になるまで実質ゼロ金利を継続する方針も明確に示した。
日銀の白川方明総裁が5日午後3時半をめどに記者会見を開き、今回の追加緩和策について詳しい決定理由などを説明する。
日銀は当初、期間3-6カ月の資金を金融機関に低利融資する「固定金利オペ(公開市場操作)」の拡充を軸に検討してきた。ただ日銀内では「円高阻止やデフレ脱却への強い姿勢を市場に示すため、もっと思い切った措置を講じるべきだ」との意見が強まり、より強力な緩和手段を導入する必要があるとの判断に傾いた。
今回決めた5兆円の購入資産については、買い取り開始から1年後をメドに、国債と国庫短期証券が合計3.5兆円程度、CPと資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)、社債は合計1兆円程度になるように買い取りを進める。創設する基金の規模は、今回購入を決めた5兆円に、固定金利オペの融資枠である30兆円を加えた35兆円程度に設定する方向で検討する。
米連邦準備理事会(FRB)は11月2-3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、国債買い増しを軸とする追加緩和に動くとの観測が強く、一段と円高・ドル安が進みかねないとの観測も日銀に判断を急がせた。資金供給手段の拡充で広い意味での「量的緩和」を進めれば、「日銀はFRBよりも金融緩和に消極的だ」との見方が薄れ、円高傾向に歯止めがかかりやすくなると判断した。
日銀は思い切った追加緩和を決断した背景として、7月に示した景気見通しよりも「成長率は下振れて推移する可能性が高い」と指摘。「米国経済を中心とする不確実性の強い状況が続くもとで、景気の下振れリスクにはなお注意が必要」との判断を示した。
第1報の記事にも明らかですが、日銀の発表文書から今回の追加緩和策のポイントを上げると以下の3点となります。
- 金利誘導目標の変更
無担保コールレートを0-0.1%に。 - 「中長期的な物価安定の理解」に基づく時間軸の明確化
物価安定=デフレ脱却まで実質ゼロ金利政策を継続。 - 資産買入等の基金の創設
国債、CP、社債、指数連動型上場投資信託 (ETF)、不動産投資信託 (J-REIT)など多様な金融資産の買入のためにバランスシート上に基金を創設。
市場の反応は以下の通りです。日経新聞のマネー欄から引用したグラフです。上のパネルは日経平均株価、下は円ドル相場です。いずれも今日の日中の取引をプロットしてあります。
株価は9500円台を回復し、円ドル相場も円安に振れています。もっとも、為替相場はすぐに戻ってしまいました。本日開催されていた景気討論会などでも、「円高が不安材料」との意見が大勢だったようですから、一時的ながら市場には評価されたのであろうと私は受け止めています。ただし、為替については来月の FOMC で決定されるであろう米国の緩和策との見合いで、現時点で評価を下すのは難しい気もします。ひょっとしたら、欧州も含めて世界中で近隣窮乏化策の域に入っているのかもしれません。
金利については米国連邦準備制度理事会 (FED) と歩調を合わせて実質ゼロ金利に引き下げ、さらに買取基金をバランスシートに乗せるということですが、そうであるなら、バランスシートの規模が問題となります。上のグラフは2008年以降の日米中央銀行のバランスシートですが、2008年9月のリーマン・ブラザーズ証券の破綻から米国が猛烈な勢いでバランスシートを拡大している一方で、我が国ではほとんどバランスシートは手つかずです。このあたりを指して「日銀は金融緩和に消極的」とみなされる場合もあります。100兆円を超える現状にネットで5兆円の金融資産買入のための基金を上乗せしても、ほぼバランスシートを2倍にした FED とは規模が違います。福井総裁の時代には当座預金残高を30-35兆円膨らませた実績もあります。要するに、5兆円ぽっちの今回の追加緩和策は規模として十分かどうか疑問が残ります。国債買取については、いわゆる日銀券ルールの外数として処理されるようですから、今後、さらに増加させる余地があるのかもしれませんが、もしそうだとすれば、政策を小出しにしている印象が残ります。
加えて、時間軸については、すでに前の福井総裁の時に「早過ぎる引締め転換」を経験した上に、今回、ただし書きがあり、「金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検」ということになっています。しかし、デフレ解消プロセスを考えると物価上昇に先行して資産価格の上昇が実現しますので、これを「金融面での不均衡の蓄積」と捉えると、時間軸コミットメントは実は全くの無効、と私は受け止めています。おそらく、今回もデフレ脱却の前に資産価格の上昇に伴って「早過ぎる引締め転換」がなされる可能性が極めて強いこと、しかも、日銀はそれを明白に意図していることを指摘しておきたいと思います。
最後に、実質ゼロ金利ということですが、米国にならって政策金利が0-0.1%のレンジになりました。米国ではMMFが決済に用いられる比率が無視できないことから、ファンド・マネージャーの手数料分はプラス金利にする必要があり、ホントのゼロ金利が不可能なんですが、日本ではMMFが決済に用いられる比率が無視できますから、ホントのゼロ金利にすることも可能です。単純に米国にならったのか、米国のMMFについて日銀が不勉強なのか、それとも、米国のMMFについて日本の金融界が不勉強であると高をくくったのか、真意は測りかねます。
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