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2010年10月25日 (月)

環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定 (TPP) について考える

本題の TPP に入る前に、本日、財務省から9月の貿易統計が発表されました。ヘッドラインとなる輸出額は5兆8429億円、輸入額は5兆459億円、差引き貿易黒字は7970億円でした。貿易黒字は18か月連続、輸出の前年同月比プラスは10か月連続なんですが、同時に、7か月連続で前年同月比伸び率は低下しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

輸出額、9月は14%増 アジア向け減速
財務省が25日発表した9月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額は前年同月比14.4%増の5兆8429億円と、10カ月連続で前年同月比プラスになった。ただ円高や高成長を続けてきたアジア経済の成長鈍化を背景に、伸び率は7カ月連続で縮小した。同時に発表した2010年度上半期(4-9月)の貿易収支は3兆4152億円の黒字で、3期連続の黒字になった。
9月の輸入額は9.9%増の5兆459億円。輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は7970億円で、18カ月連続の黒字になった。為替レートは対ドルで1ドル=84円66銭と前年同月比で9%の円高水準だった。
地域別の輸出額をみると、アジア向けは前年同月比14.3%増で、8月の18.0%増から伸び率が縮小した。中国向けが化学製品や金属加工機械を中心に8月の18.5%から10.3%増に鈍化したことが影響した。ただ財務省は尖閣諸島沖での漁船衝突事件に伴う日中関係の悪化の影響は「輸出入ともみられない」と説明している。
米国向けは前年同月比10.4%増で、建設用機械や原動機が伸びた。欧州連合(EU)向けは船舶や自動車部品が増えて11.2%増だった。
10年度上半期の輸出は前年同期比25.0%増の34兆980億円、輸入は20.8%増の30兆6828億円だった。アジア向けの貿易黒字は40.6%増の5兆2267億円。輸出の増加で、比較できる1979年度以降では最大になった。

次に、いつもの貿易統計のグラフは以下の通りです。上のパネルが季節調整する前の原系列、下のパネルが季節調整済みの系列です。いずれも、水色の折れ線グラフが輸出、赤が輸入、緑色の棒グラフがその差額の貿易収支です。上のパネルの原系列のグラフでも輸出の伸びが鈍化してきたことが読み取れるようになっていますし、下のパネルの季節調整済みの系列に着目すると、輸出入ともハッキリと前月比でマイナスをつけているのが明らかになるとともに、輸出よりも輸入の傾きの方が大きいのは、新興国を含む世界経済の鈍化よりも我が日本経済の鈍化の方が急ピッチで進んでいる可能性を示唆していると受け止めています。

貿易統計の推移

さらに、輸出のみに着目したのが下のグラフです。一番上のパネルでは輸出金額指数の前年同月比を価格指数と数量指数に寄与度分解してあり、真ん中のパネルでは輸出数量指数の前年同月比と OECD 先行指標の前年同月比を3か月ズラしたものを並べてあります。一番下のグラフでは同じく輸出数量指数の前年同月比と鉱工業生産指数のこれまた前年同月比を並べてあります。一番上のパネルのグラフから、輸出金額の伸びの鈍化は圧倒的に輸出数量に起因することが読み取れますし、真ん中のパネルから輸出数量の伸びの鈍化は世界経済の鈍化に起因し、さらに、輸出の鈍化は生産の鈍化に帰結することが見て取れます。

輸出数量の推移

長くなりましたが、貿易統計の概観を終えて、本題に入り、環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定 (Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement, TPP) について簡単に取り上げたいと思います。私が見た範囲の最近のメディアでは、先週10月22日の民主党の会議で TPP の経済効果に関する資料が配布され、経済産業省は10兆円、内閣府は3兆円と試算した、といった記事が日経新聞のサイトで報じられていたりしました。もちろん、政府でも10月8日に開催された第2回新成長戦略実現会議で取り上げられています。

アジア太平洋における自由貿易協定の枠組

ということで、上の地図は今年横浜で開催される APEC 総会にちなんで、関連するデータや情報などを集めた経済産業省のサイトから引用していますが、構想段階のものも含めたアジア太平洋地域における自由貿易協定の枠組みです。これに見るように、TPP はブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポール4国をメンバーに2006年に発効しています。地図では見にくいんですが、オーストラリア、ペルー、米国の3国が加盟を表明してラウンドに参加しており、ベトナムがオブザーバーとなっていたりします。マレーシアもラウンドには参加していないものの、加盟を表明しており、カナダも検討中と伝えられています。特に、昨年11月に米国のオバマ大統領が参加を表明しラウンドに加わってから大いに注目を集めました。米国の加盟表明に加えて、多くのエコノミストが関心を持った理由は、他に2つあると私は考えています。すなわち、第1に、例外品目がなく100%関税撤廃を実現する質の高い自由貿易協定であり、しかも、サービス貿易、政府調達、知的財産権を本協定に含み、さらに、労働と環境も補完協定と覚書に持つ包括的な自由貿易協定である点です。繰返しになりますが、自由貿易協定として、例外品目がなく100%関税撤廃という意味で質が高く、貿易に関連するさまざまな分野を含むという意味で包括的であるといえます。この特徴から、一部に「21世紀型の自由貿易協定」と呼ぶ向きもあります。ただし、私が調べた範囲で投資の自由化に関する規定を欠いているような気がします。第2に、「戦略的」と名付けられている通り、APEC のモデル協定として APEC 諸国の加盟を念頭にしており、APEC が自由貿易協定に発展する可能性がある点です。APEC 加盟国として、日本が TPP に加わるのか孤立するのか、どちらが望ましいのかを考えるべきです。

どんなに保守的な試算をしても、貿易を自由化し、関税を引き下げることにより、いわゆる自由貿易に近づけることは国民経済の観点からプラスの経済効果を有します。問題は抵抗勢力が強いことで、日本国内では農業セクターということになります。経済政策の中で圧倒的なエコノミストの合意がありながら実現されていないのは自由貿易なんですが、この TPP への参加はどうなりますことやら。

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